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銃声を抑えるサプレッサー(サイレンサー)の構造と仕組み

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Glock 20 Osprey45 Photo via SilencerCo

サプレッサーはどのような構造で銃声を抑えているのでしょうか?

今回はサプレッサーの歴史と構造について解説します。

サプレッサーの歴史

歴史上初の実用的なマシンガンを発明したハイラム・マキシムは有名です。

しかし、ハイラム・マキシムの息子であるハイラム・パーシー・マキシムが初の実用的サプレッサーを発明したことは、あまり知られていないかもしれません。

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Photo via US916885A

ハイラム・パーシー・マキシムは1902年頃からサプレッサーを販売し、1909年にサプレッサーの特許を取得。

この技術を利用してエンジンに使用するマフラーも開発しています。

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Photo via pinimg.com

当時は「サプレッサー(減音器)」ではなく「サイレンサー(消音器)」として発売されています。

厳密には減音であってサイレント(無音/静音)ではないため「サプレッサー」の方が正確な表現ではありますが、「サイレンサー」の方がインパクトがあり、広告効果が高いかもしれません。

後の時代も「サイレンサー」という名称は一般的となり、アメリカの法律でも「サイレンサー」が表記されるほどでした。

アメリカでは1934年にサプレッサーが規制されるまで自由に売買可能であり、当時の価格で5~9.5ドルで販売されていました。

サプレッサーの構造

減音の原理

パーシー・マキシムが開発した「サイレンサー」は複数の丸い部屋が並ぶ構造で、この中で発射ガスが渦を巻いて滞留することでガスを封じ込め、音を発生させないという宣伝文句でした。

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Photo via accurateshooter.com

パーシー・マキシムの発明は確かに減音効果があり、現代のサプレッサーも内部で複数の仕切りを設けることでガスの排出を遅らせる構造です。

なぜガスの排出を遅らせる必要があるのか?

これは風船をイメージするとわかりやすいでしょう。

風船に針を刺すと中の空気が一気に拡散され大きな音が発生しますが、ゆっくり空気を出しながらしぼませると静かです。

銃声も同様に、高速かつ高圧なガスが空気を振動させて大きくなるため、高圧ガスがサプレッサー外部へ噴出する速度を遅くすれば、銃声を軽減することが可能になります。

銃口を離れた弾の背後でガスがサプレッサー内を充満、滞留し、速度を落としてサプレッサーの先端からガスが排出されます。

サプレッサー内に滞留したガスのエネルギーは熱に変換され、サプレッサー全体が高温に加熱されます。

また、サプレッサーを使用しても音速を超える弾速ではソニックブーム(衝撃波による大音響)が発生するため、亜音速弾(サブソニック弾)をサプレッサーと併用するとさらに減音効果が高まります。

この動画ではサプレッサーの外装をアクリルカバーに交換することで、発射時における内部の様子を撮影しています。

本来であれば大量のガスを銃口から放出するものの、サプレッサーによってガスの多くを内部に留めています。

エクスパンションチャンバーとバッフル

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Photo via gundigest.com

サプレッサーには様々な種類が存在し、その構造は様々です。

しかし多くのサプレッサーは銃口付近に大きな空洞(エクスパンションチャンバー)を設けて大量のガスを溜めるスペースを確保し、先端側に複数のバッフル(隔壁)を設けてガスが外へ逃げるのを防ぐ構造が多く見られます。

バッフルの数が増えるほど減音効果が高くなりますが、反対にサプレッサーの全長が長くなるため使用目的に合わせて調整する必要があります。

またサプレッサー内に滞留するガスの容量には限界があり、セミオートでゆっくり射撃する場合よりも、フルオートで射撃する方が貯められるガス容量の限界を超えるため、フルオートでは減音効果が低下し大きな銃声を発生させやすくなります。

メンテナンス性

「吸音材を入れた方が減音効果が高いのでは?」と疑問を持たれるかもしれません。

しかし銃は装薬の燃焼によりカーボンが残留します。

発射を繰り返すと次第にサプレッサー内がカーボンで埋まり、容量が小さくなります。

ガスが滞留するための容量が小さくなれば減音効果も小さくなるため、簡単に分解清掃が可能な構造である必要があります。

吸音材を入れるとメンテナンス性が悪化するため実用的とはいえません。

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ドライサプレッサーとウェットサプレッサー

通常のサプレッサーを「ドライサプレッサー」と呼び、サプレッサー内に水を入れた状態は「ウェットサプレッサー」と呼ばれます。

サプレッサー内に水を入れると減音効果が高まり、約10デシベルの低下が見られる場合もあります。

しかし水は外部に漏れやすく、熱によって短時間で蒸発するため持続的な効果は得られません。

そこで潤滑油などが利用されることがあります。

ただしこれにはサプレッサー内が高圧になるという大きな問題があるため、ライフル弾など高圧な弾薬ではウェットサプレッサーは利用できません。

あくまでピストル弾などの低圧な弾薬に限られます。

サプレッサーの例

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ウェルロッドに備わったサプレッサーの内部構造
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PBサイレンとピストルに備わったサプレッサーの内部構造
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VSSライフルに備わったサプレッサーの内部構造

サプレッサー装着によるその他の効果

サプレッサーを使用すると命中精度や弾速などに影響することがあります。

弾道の変化

サプレッサーなどの重量物を銃口に装着すると弾道が変化します。

特にライフルなど精密射撃を行う場合は着弾点が下がる様子が顕著になるため、サプレッサー装着後にゼロインを行う必要があります。

また銃口部が重くなるため発射時の振動が軽減され、命中精度が向上する傾向があります。

銃身の振動については記事「フリーフローティングバレルの命中精度が高い理由とは?」をご覧ください。

弾速向上

サプレッサーを装着すると弾速が向上します。

その結果命中率が向上する場合があります。

詳しくは記事「サプレッサーを使用すると弾速が変わる?」をご覧ください。

マズルフラッシュ抑制

サプレッサーを装着するとマズルフラッシュ(発射炎)を抑制する効果があります。

音だけでなく、視覚的にも目立ちにくくなるため軍用として有用です。

汚れによる作動不良のリスク

銃口から抜けるガスの量が少なくなるため、反対にレシーバー側へガスが噴出しやすくなり、レシーバー内が汚れやすくなります。

レシーバー内にカーボンが蓄積するとガンオイルや水分が混ざることで粘性を持ち、ボルト等の動きを妨げて作動不良が起こりやすくなります。

しかし汚れの程度はサプレッサーの容量や性能によっても異なります。

関連記事「サプレッサーはどれぐらい減音が期待できる?銃声の大きさとは?」もご覧ください。