弾は装薬の燃焼によって発生した高温高圧のガスに押されて加速し発射されます。
ガスは銃口から前方に噴出され、弾頭の移動とガス圧が銃を後退させる「反動」を発生させます。
しかし、銃口にマズルブレーキ(銃口制退器)を装着するとガスの一部が横方向(または斜め後方)へ噴出され、前方へ噴出されるガスの量が減少することで反動を軽減します。
マズルブレーキは反動抑制に効果的ですが、命中精度に悪影響があるのかないのか、気になる方も多いのではないでしょうか。
結論を述べると、マズルブレーキが命中精度に悪影響を及ぼす可能性があります。
ただ、マズルブレーキによっては影響がある場合とない場合があり、必ず悪影響があるものとはいえません。
そこで今回はマズルブレーキによる影響について解説します。
バレル(銃身)に与える影響
重力によるバレルの湾曲問題
マズルブレーキやサプレッサーなどの重量物を銃口に装着すると、わずかですがバレルが重力によってしなり、湾曲します。
そのため銃口付近の重さが変わると着弾地点(POI / ポイント・オブ・インパクト)が変化します。
つまり、狙点(狙った場所)より下へ着弾します。
しかし、着弾が狙点からずれていても、発射する度に同じ場所に命中する場合はサイトを調整(ゼロイン)すれば解決するため問題ありません。
・・・とはいえ、他にも問題があります。
バレルの振動変化による問題
弾頭がバレル内を通過するとバレルには振動が発生します。
振動が発生すると銃口の位置が変化するため、発射毎に異なる場所に命中し、着弾に一貫性がなくなります。
マズルブレーキやサプレッサー等のマズルデバイスを銃口に装着すると、バレルの振動が変化し、命中精度に良い影響、または悪い影響を及ぼす可能性があります。
良い影響とは、銃口に重量物が乗ることで銃口の振動が軽減され、命中精度が向上します。
一方、悪い影響とは、銃口に重量物が乗ることで銃口の振動が大きくなり、命中精度が悪化します。
矛盾するような現象ですが、マズルデバイスを装着する銃の状態によって結果が異なります。
つまり、振動によって銃口の動きが大きいバレルにマズルデバイスを装着すると銃口の振動が軽減され命中精度が向上しますが、逆に元々銃口の振動が少ないバレルにマズルデバイスを装着した結果、以前より振動が大きくなる場合があります。
バレルの振動については、記事「フリーフローティングバレルの命中精度が高い理由とは?」も併せてご覧ください。
マズルブレーキ内のガスの流れによる影響
この動画はマズルブレーキを装着したバレルから弾が発射される様子を表したものです。
バレルの先にマズルブレーキが装着されており、ガスを横方向に噴出させることで前方に噴出するガスの量を減少させて反動を軽減しています。
撃発により装薬が燃焼し、発射ガスの圧力によって弾が押されてバレル内を通過します。
このとき、一部の発射ガスは弾とライフリングの溝の隙間を抜け、弾より先行して噴出されます。
弾が銃口を抜けてライフリングから離れると、ほんのわずかなガスの流れによって弾は簡単に影響を受けます。
弱風でも着弾場所が変化するように、空中の弾は少しの力で上下左右に動きやすい状態です。
そのため、銃口付近(マズルクラウン)の形状に問題があったり、マズルブレーキの内部形状によってガスの乱流が発生すると、命中精度に影響します。
これは銃やマズルデバイスによって状態が異なるため、改善が必要な場合は個別に対処する必要があります。
反動を軽減
前述しましたが、マズルブレーキは反動を抑制します。
弾を撃ち出すと、弾と同時に装薬の燃焼による高温高圧のガスが噴出され、大きな反動が発生し銃が後方へ押されます。
いわゆる、ニュートン力学の「作用・反作用の法則」です。
反動は発射ガスによる影響が大きく、ガスの噴射方向を前方ではなく横方向にすれば30~50%の反動を軽減することが可能となり、銃口の跳ね上がり(マズルジャンプ)や反動を抑えて次弾発射までの時間を短縮したり、射手の負担を軽減します。
これが軍用スナイパーライフルでマズルブレーキが多用される一番の理由です。
しかし、マズルブレーキを利用するうえで大きな問題となるのが銃声問題です。
マズルブレーキの欠点:銃声が大きい
ハンティング・ライフルにマズルブレーキが装着されない理由のひとつが銃声の大きさです。
銃声は発射ガスによる空気の振動と音速を超える弾により発生したソニックブームが原因です。
通常、銃声は発射ガスの進行方向、つまり前方に向かって広がりますが、マズルブレーキを装着すると横や後方に銃声が広がりやすくなります。
特にハンティングで使用されるライフルにはマグナムカートリッジを使用するモデルが多く、マズルブレーキを使用すると射手の耳が受けるダメージが大きくなる傾向があります。
離陸中の旅客機の音圧レベルは約150デシベルといわれますが、銃声はピストルで160デシベル前後、ライフルでは170デシベル前後、マグナムカートリッジを使用するライフルでは180デシベルに達する場合があります。
ハンティングでは獲物の音や仲間の声を聴き逃さないためにイヤーマフや耳栓を使用しないハンターも多く、マズルブレーキを装着したライフルでマグナムカートリッジを発射すれば、聴力障害を負うなどの身体的影響を受けるリスクが高くなります。
さらにハンティングに仲間やガイドが同行していれば周囲への影響は必至で、アフリカの一部地域ではマズルブレーキをハンティングで使用することを規制している国もあります。
仮にイヤーマフで耳を守っていても、マズルブレーキでマグナムカートリッジの銃声を受ければ、場合によってはイヤーマフの性能を超えてしまい耳にダメージを受けるリスクがあるため注意が必要です。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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