
銃器の世界では常に進化が続いていますが、中でも特に注目を集めているのが.500ブッシュワッカー(.500 Bushwhacker)という拳銃用弾薬です。
「世界最強の拳銃弾」と称されるこの弾薬は、従来の常識を覆す圧倒的な威力を誇り、アフリカの大型獣狩猟用ライフルに匹敵する性能を持つと言われています。
2021年にオレゴン州ハルジーのTII Armoryによって開発されて以来、その破壊力と精密な設計は、多くの愛好家や専門家の間で話題となっています。
この記事では、.500ブッシュワッカーがなぜ「世界最強」と呼ばれるのか、開発背景、仕様、どのような用途で使われるのかを詳しく解説します。
.500ブッシュワッカーとは?世界最強の拳銃弾
.500ブッシュワッカーは、これまでの「世界最強」と謳われた.500 S&Wマグナムをさらに凌駕する威力を持つ、極めて強力な拳銃弾です。
その設計思想は、地球上で最も危険な動物(デンジャラスゲーム※)を狩猟できる拳銃弾の実現にありました。

狩猟における「デンジャラス・ゲーム(Dangerous game)」とは、「人間にとって危険性の高い野生動物」を指します。
これは単なる大きさや強さではなく、「攻撃性・防御力・反撃能力」などを備え、人間を死傷させる可能性がある動物に分類されます。
.500ブッシュワッカーは、マグナムリサーチ社(Magnum Research)のBFR(ビッグ・フレーム・リボルバー)の潜在能力を最大限に引き出すという設計思想のもとに誕生しました。

当時、BFRはすでに.500 S&Wマグナムのような強力な弾薬に対応していましたが、その約76mm(3インチ)もの長いシリンダー長が十分に活かされていませんでした。
そこで、TII Armory社のジェームズ&キース・トウ兄弟は、.500 S&Wマグナムと同じリム径と作動圧力を保ちながら、薬莢(ケース)をシリンダーいっぱいに延長するという方法を選択しました。
発生する最大腔圧が.500 S&W弾と同レベルのため、シリンダーの全長が十分であれば、通常の.500 S&W弾を使用する銃の強度で発射可能です。(S&W 500リボルバーに.500 Bushwhackerを直接装填することは不可能)
マグナムリサーチ社のBFRは、アメリカ製の超大口径シングルアクション・リボルバーです。
名前の通り「大型フレーム」を使用し、.45-70 ガバメントや.500 S&W マグナムなどを発射可能な点が最大の特徴です。
BFRは「世界最強のリボルバー」とも称されることがあり、その圧倒的な威力と存在感が特徴です。
初期の製造では、.375ルガーの薬莢をベースとし、ファイアフォーミング※で成形後、底部にリムをねじ込むという手法がとられていました。
現在では、オーストラリアのバートラム・ブレット社が専用の.500ブッシュワッカー用薬莢を製造しており、安定した供給が可能となっています。

ファイアフォーミング(fire-forming)とは、異なる形状の薬莢を銃で発射することによって、薬室の形に正確に成形する工程を指します。
たとえば、風船をコップの中で膨らませると、風船はコップの内側にぴったりと張り付いてコップの形になります。
これと同様に、改造された薬莢を軽装弾で発射することで、薬莢がガス圧によって膨張し、その銃の薬室にぴったり合った形に変形・固定される仕組みです。
これは以下のような場合に用いられます。
ファイアフォーミング後の薬莢は、再装填して同じ銃で使用できるようになります。
ライフルに匹敵する威力
弾薬のサイズ
.500ブッシュワッカーの基本的な寸法は以下の通りです。
圧倒的な弾道性能
.500ブッシュワッカーは、燃焼速度が遅い特殊な装薬を使用しています。
これにより、弾頭が銃身内を進む間、ガス圧が持続的に供給され、圧力のピークを維持しながら最大限の加速力を得られる設計です。
10インチバレルのBFRリボルバーから発射した場合の初速とエネルギーは以下の通りです。
弾頭重量 (gr) | 初速 (フィート/秒) | マズルエナジー (ft-lbf) |
---|---|---|
275グレイン | 2,600 fps | 4,100 ft-lbf以上 |
310グレイン | 2,550 fps | 4,476 ft-lbf |
400グレイン | 2,250〜2,315 fps | 4,496〜4,905 ft-lbf |
410グレイン | 2,350〜2,411 fps | 5,027〜5,155 ft-lbf |
520グレイン | 2,050〜2,083 fps | 4,852 ft-lbf |
620グレイン | 1,820〜1,895 fps | 4,560 ft-lbf |
注目すべきは、14インチバレルでの発射時に一部の装弾で秒速3,000フィート(約914m/s)を超えることも報告されており、これは拳銃弾薬としては異例の速度です。
驚異の貫通力と終末効果
その高い初速と重い弾頭の組み合わせにより、.500ブッシュワッカーは極めて高い貫通力を誇ります。
テスト結果は以下の通りです。
これらの数値は、一般的な拳銃弾薬の性能をはるかに超え、ライフル弾並みのパフォーマンスを示しています。
これにより、ターゲットに対して極めて破壊的なターミナル・バリスティクス※を発揮します。
終末効果(ターミナル・バリスティクス)とは、弾丸が目標に命中した後に発揮される破壊力や貫通力、内部損傷の程度を評価する概念です。
弾丸が目標内部でどのように変形・破砕し、どれだけの損傷やストッピングパワー(対象を無力化する力)を与えるかを指します。
これは狩猟や軍用・法執行機関において、相手の無力化能力や致死性の評価において重要な指標とされています。
反動制御と安全性:必須のマズルブレーキ

強力であるからこそ、反動抑制は極めて重要です。
TII Armoryによる.500ブッシュワッカーのカスタムには、ライフルタイプの大型マズルブレーキ(Ti Pro Heavy)の装着が必須とされています。
マズルブレーキとは、銃口から発射ガスを側方や後方に逃がすことで、反動(リコイル)を軽減する装置です。
銃口に取り付けられ、発射時のガスの力を利用して銃本体が後ろに下がる動きを抑え、射撃時のブレを減らします。
その結果、命中精度の向上や連射時の制御性の向上に寄与しますが、騒音や側方へのガスの噴出が増えるため、周囲への影響が大きくなります。
このマズルブレーキは、発射ガスを横や後方に逃がすことで、以下の効果があります。
このブレーキの効果により、体感反動は.454カスール程度まで軽減され、軽量弾頭を使用すれば.44マグナム相当まで抑えることも可能です。
ただし、依然として反動は強力なため、射手が腕を突き出して肘をロックすると、激しいマズルジャンプにより手首を負傷するリスクがあります。
そのため、肘をロックせず、銃を跳ね上げさせるような射撃法が推奨されています。
また、.500ブッシュワッカーの薬莢には、弾頭を非常に強固に固定するクリンプ(かしめ)が施されています。
これは、発射時の強烈な反動により、未発射の弾頭が薬莢から抜け落ちてシリンダーの回転を妨げ、ジャムを起こすのを防ぐために必須な対策です。
他の強力な弾薬との比較
主要拳銃弾薬との比較

以下の表は、.500ブッシュワッカーが従来の主要拳銃弾薬と比べていかに強力であるかを示しています。
弾薬 | 弾頭重量 | 銃口初速 | マズルエナジー |
---|---|---|---|
.500 Bushwhacker | 275~620 gr | 1,895~2,600 fps | 4,100~5,669 ft-lbf |
.500 S&W | 350 gr | 1,912 fps | 2,842 ft-lbf |
.500 S&W | 440 gr | 1,625 fps | 2,580 ft-lbf |
.44マグナム | 240 gr | 1,475 fps | 1,160 ft-lbf |
この表からわかるように、.500ブッシュワッカーは、これまでの「最強」とされてきた.500 S&Wマグナムの約2倍の威力を発揮します。
大型獣猟用ライフル弾との比較
驚くべきは、アフリカの大型獣猟に用いられる強力なライフル弾にも匹敵するエネルギーを、拳銃というプラットフォームで実現している点です。
弾薬名 | 弾頭重量 | 初速 | マズルエナジー |
---|---|---|---|
.416リグビー | 400 gr | 2,400 fps | 約5,000 ft-lbf |
.470 Nitro Express | 500 gr | 2,100 fps | 約5,000 ft-lbf |
このように、.500ブッシュワッカーはライフルに迫る威力を持ちながら、携帯性に優れる特徴を持ちます。
対応銃器と互換性:BFRリボルバーのポテンシャル

.500ブッシュワッカーは、その設計思想の根幹であるマグナムリサーチBFR(ロングフレーム仕様)専用に開発されています。
BFRの長いシリンダー長を最大限に活用するための設計であり、現在、.500ブッシュワッカーを標準で発射できる市販の銃は存在しません。
ただし、.500ブッシュワッカーは、以下の.50口径系弾薬とも互換性があります。
この互換性により、射手は練習時には反動の少ない軽装弾を使用し、狩猟などの本番ではフルパワーの.500ブッシュワッカーを使用するといった運用が可能です。
マグナムリサーチBFRには様々な口径バリエーションが存在し、以下の弾薬を使用できます。
そして、これらに.500 Bushwhackerが追加された形です。
入手方法:TII Armoryでのカスタムコンバージョン
現状、.500ブッシュワッカーを使用可能な市販の銃は存在しません。
そのため、この弾薬を使用するには、既存のBFRリボルバー(.500 S&Wマグナム仕様)をTII Armoryへ送り、改造を施す必要があります。
この改造には以下の工程が含まれます。
.500ブッシュワッカーの弾薬と改造サービスは、現在TII Armoryのみで取り扱われており、弾薬は20発単位で販売されています。
銃と弾薬の価格
気になるお値段ですが、完成品を選ぶ場合3,800 ドル程度が参考価格です。
「新品+改造」を選ぶ場合は、約 3,470 ドル+その他費用で購入可能となっています。
内容 | 価格目安 (USD) |
---|---|
新品 BFR .500 S&W Magnum | 約 1,270~1,300ドル |
改造費用(.500 Bushwhacker 対応) | 約 2,199ドル |
合計(輸送・税別) | 約 3,470ドル |
完成品購入例(中古/ディーラー) | 約 3,800ドル |
市場において.500ブッシュワッカーは1発あたり約4.7〜5.3ドルと高価です。
TII Armoryで提供されている「20発バラエティパック」の価格は97.99ドル。
つまり、1発あたり約4.90ドルです。
弾薬 | 1箱価格 (概算) | 1発あたり価格目安 (USD) |
---|---|---|
.500 Bushwhacker | 92.99 ~ 104.99ドル | 約 4.65 ~ 5.25ドル |
.500 S&W マグナム | 50 ~ 110ドル | 約 2.55 ~ 5.50ドル |
市場平均 (.500 S&W) | ‒ | 約 1.63ドル |
まとめ
.500ブッシュワッカーは、2021年にTII Armoryが開発した「世界最強の拳銃弾」です。
従来の.500 S&Wマグナムの約2倍の威力を持ち、アフリカの危険動物猟用ライフルに匹敵する性能を拳銃で実現しました。
※以下の記事では、.500ブッシュワッカーとその他の弾薬を比較解説しています。