今回は長距離射撃で使用される弾薬である、
- .338ラプアマグナム
- .338ノルママグナム
- .300ノルママグナム
- .300ウィンチェスターマグナム
・・・の違いについて解説します。
.300ウィンチェスターマグナム(1963年~)
.300ウィンチェスターマグナム(.300WM / 7.62x67mmB / 7.62x66mmBR)は1963年に開発されたベルテッドケースのマグナムカートリッジです。
弾頭重量は150~220グレインが多く利用され、1000ヤードを超える長距離射撃に適した弾道性能を持つことから、標的射撃、狩猟、法執行機関、ミリタリーなどで幅広く利用されています。
ウィンチェスター社は1958年に.264ウィンチェスターマグナム、.338ウィンチェスターマグナム、.458ウィンチェスターマグナムを発売し、.338ウィンチェスターマグナムや.458ウィンチェスターマグナムはグリズリーなどのビッグゲームハンティング用として普及しました。
そして.338ウィンチェスターマグナムをベースにショルダーを前方に移動させケース長を3.5mm延長、.30口径にネックダウンした.300ウィンチェスターマグナムが完成しました。
弾速やマズルエナジーは.338ウィンチェスターマグナムを超える傾向があります。
.300ウィンチェスターマグナムのケース容量は6.08 cm3、.338ウィンチェスターマグナムのケース容量は5.6 cm3となっており、.300ウィンチェスターマグナムがより多くの装薬を使用可能です。
ただし、現在では.300ウィンチェスターマグナムのケースは厚みのある「ヘビーケース」と厚みの薄い「ライトケース」が流通しており、それぞれケース容量が異なるため、弾薬を自作(リローディング)する際はロードデータに注意する必用があります。
因みに.338ウィンチェスターマグナムと.300ウィンチェスターマグナムは.375H&Hマグナムのヘッドを流用しています。
.300ウィンチェスターマグナムはボルトアクションライフルのウィンチェスターM70で使用することを目的に開発され、M70は現在でも生産されるロングセラーとなっています。
また、2001年に登場したアキュラシーインターナショナル社とレミントン社によるMk13や、2010年に登場したM2010エンハンスドスナイパーライフル(ESR)でも.300ウィンチェスターマグナム(MK241 MOD1)が使用されており、米軍で採用されています。
しかし、米軍においてはMK13やM2010は.338ノルママグナムや.300ノルママグナムを使用するバレットMRAD MK22に置き換わる見通しとなっています。
.300ウィンチェスターマグナムの弾道データ
1500ヤードゼロ
弾頭重量178 gr
ELD Match
BC 0.275(G7)
距離 (ヤード) | 弾速 (fps) | エナジー (ft-lbf) | 落下量 (インチ) |
---|---|---|---|
0 | 2960 | 3463 | 0 |
200 | 2627 | 2727 | 121.4 |
400 | 2314 | 2117 | 223.9 |
600 | 2023 | 1617 | 300.2 |
800 | 1752 | 1213 | 342.4 |
1000 | 1501 | 891 | 338.8 |
1200 | 1269 | 637 | 272.8 |
1400 | 1090 | 469 | 119.3 |
1600 | 1011 | 404 | -150.2 |
1800 | 955 | 360 | -555.9 |
2000 | 906 | 324 | -1114.7 |
.338ラプアマグナム(1989年~)
.338ラプアマグナム(8.6x70mm)は米海兵隊向けに1982年から開発を始め、.416Rigbyのケースを.338口径にネックダウンした長距離射撃用の弾薬です。
弾頭重量250グレインの弾頭を使用することを前提に開発され、現在では200~300グレインの弾頭が広く利用されています。
開発の背景については関連記事の「.338ラプアマグナムとはどんな弾ですか?」をご覧ください。
新規のライフル弾の誕生は狩猟用として開発されたものや、射撃競技用のワイルドキャットカートリッジ(量産されていないカスタムカートリッジ)から発展し軍用として利用されることがありますが、.338ラプアマグナムは開発当初から軍用目的に開発された背景があります。
.338ラプアマグナムは有効射程距離1500mを超える長距離射撃を目的に設計されており、7.62x51mmNATOと.50BMG(12.7x99mmNATO)の間を埋める存在となっています。
.338ラプアマグナム VS .300ウィンチェスターマグナム
これは.338ラプアマグナムと.300ウィンチェスターマグナムの弾道(1500ヤードゼロ)を比較しています。
弾頭重量300グレインの.338ラプアマグナムは銃口初速2800 fps(マズルエナジー5222 ft-lbf)で発射され、弾頭重量180グレインの.300ウィンチェスターマグナムは2950 fps(3478 ft-lbf)で発射されています。
1500ヤードに到達するまでの飛翔時間は.338ラプアマグナムが約1.9秒、.300ウィンチェスターマグナムは約2秒です。
弾速が超音速から亜音速に移行すると不安定になり命中率が低下しますが、どちらの弾薬も1000ヤードを超えても超音速を維持しています。
.338ラプアマグナムは.300ウィンチェスターマグナムよりドロップが少なくフラットな弾道を維持し、弾頭重量も重いため風の影響を受け難く、長距離において高い命中率が期待できます。
.338ラプアマグナムの弾道データ
1500ヤードゼロ
弾頭重量250 gr
Norma Match King
BC 0.294 (G7)
距離 (ヤード) | 弾速 (fps) | エナジー (ft-lbf) | 落下量 (インチ) |
---|---|---|---|
0 | 2920 | 4733 | 0 |
200 | 2610 | 3781 | 116.7 |
400 | 2318 | 2983 | 214.3 |
600 | 2045 | 2320 | 285.8 |
800 | 1789 | 1777 | 323.9 |
1000 | 1551 | 1336 | 318.2 |
1200 | 1330 | 982 | 254.1 |
1400 | 1132 | 711 | 110.5 |
1600 | 1039 | 600 | -140.3 |
1800 | 979 | 532 | -520.2 |
2000 | 932 | 482 | -1045.5 |
.338ノルママグナム(2009年~)
.338ラプアマグナムは長距離射撃において優秀な性能を持ち合わせていますが、それでも性能に満足していないシューターがいました。
テキサス州でスポーツシューティングを楽しむジミースローン(Jimmie Sloan)は、より空気抵抗による減速が少ない弾頭(BC/弾道係数の大きな弾頭)を必要とし、.338ラプアマグナムを使用するライフルで弾頭重量300グレインの弾頭(シエラマッチキング HPBT)を使用したいと考えます。
しかし、.338ラプアマグナムのケースに300グレインのシエラマッチキングを使用すると弾薬の全長が長過ぎるため、既存のマガジン、薬室、アクション(機関部)で扱えるサイズを超えてしまいます。
また、かといってケースに弾頭を深く沈み込ませて全長を短くすると、ケース容量が小さくなる、発射時の抵抗が大きくなることで腔圧が高まり命中精度に悪影響がある、スロート(薬室の先端側)でエロージョン(焼損)が大きくなるといった問題があります。
そこでジミースローンはケース長を短縮しつつショルダー幅を大きく広げた.338ノルママグナムの原型を設計し問題を解決しました。
(※現在では300グレイン弾頭に対応した.338ラプアマグナムのライフルを販売するメーカーも存在しています)
そして2010年、スウェーデンのノルマ社がこの弾薬に注目し設計を買収、現在の.338ノルママグナムが量産されることとなります。
.338ノルママグナムは.338ラプアマグナムよりケース容量が6.5%少なくなっているものの、ほぼ同等のマズルエナジーを維持しています。
300グレインという重い弾頭を使用するため長距離においても貫通力が高く、風の影響も受け難いため高い命中率を持ちます。
SOCOM(アメリカ特殊作戦軍)は.338ノルママグナムを使用するSIG MG338 GPMGをテストしており、7.62x51mmNATOと.50BMGの間を埋めるマシンガンとして部分的に現行のM240マシンガンと置き換える計画があります。
7.62x51mmNATOを使用するM240は有効射程距離800~1100mですが、.338ノルママグナムを使用するSIG MG338では2000mまで延長されます。
(追記:2022年4月、米陸軍はSIG社のXM5ライフルとXM250マシンガンの採用を発表しました。いずれも8.6x63mmの.338ノルママグナムより小口径である6.8x51mm / .277 SIG FURYを使用します)
また、SOCOMは.338ノルママグナムのバレットMRAD MK22を採用し、米陸軍や米海兵隊も採用する予定です。
.338ノルママグナムの弾道データ
1500ヤードゼロ
弾頭重量 300gr
BC 0.384 (G7)
距離 (ヤード) | 弾速 (fps) | エナジー (ft-lbf) | 落下量 (インチ) |
---|---|---|---|
0 | 2657 | 4702 | 0 |
200 | 2430 | 3932 | 115.7 |
400 | 2213 | 3262 | 209.2 |
600 | 2007 | 2684 | 274.2 |
800 | 1812 | 2187 | 304.6 |
1000 | 1627 | 1763 | 292.4 |
1200 | 1452 | 1405 | 227.4 |
1400 | 1287 | 1104 | 96.1 |
1600 | 1137 | 861 | -119.9 |
1800 | 1059 | 747 | -442.9 |
2000 | 1008 | 676 | -890.6 |
.300ノルママグナム(2012年~)
2012年、ノルマ社は.338ノルママグナムを.30口径にネックダウンした.300ノルママグナムを発表しました。
弾頭重量は主に150~230グレインが使用されています。
.300ノルママグナムは.338ラプアマグナムよりマズルエナジーが小さいものの、弾道がフラットで低伸性が優れており、初速は.338ラプアマグナムと同等と言って良いレベルです。
距離が2000ヤードまで離れると減速により.338ラプアマグナムとのエナジーの差は同等まで近づきます。
.300ノルママグナムが優れているのは、「弾速の減速が少ない」「.338ノルママグナムより反動が軽い」という点です。
弾速は高速を維持するため着弾までの時間が短く、風の影響を受ける時間が短くなるため高い命中率が期待できます。
通常、長距離射撃では重量弾により風の影響を低く抑えることが可能ですが、軽量弾でも高速であれば風の影響が少なくなります。
また、弾道がフラットなため異なる距離のターゲットに命中させやすい利点があります。
.338ノルママグナムと比較すると1000ヤード超で300グレインという重量弾を衝突させるパンチ力はありませんが、対人用として優れた弾道性能を持ち合わせています。
.300ノルママグナムの弾道データ
1500ヤードゼロ
弾頭重量215 gr
Berger Hybrid
BC 0.354 (G7)
距離 (ヤード) | 弾速 (fps) | エナジー (ft-lbf) | 落下量 (インチ) |
---|---|---|---|
0 | 3000 | 4296 | 0 |
200 | 2737 | 3577 | 92.1 |
400 | 2487 | 2954 | 167.1 |
600 | 2250 | 2417 | 219.4 |
800 | 2025 | 1958 | 244.2 |
1000 | 1813 | 1569 | 234.9 |
1200 | 1613 | 1242 | 183.1 |
1400 | 1425 | 969 | 77.6 |
1600 | 1247 | 742 | -97.1 |
1800 | 1102 | 580 | -361.9 |
2000 | 1036 | 512 | -739.9 |
比較まとめ
弾薬 | 弾頭重量 | 銃口初速 | マズルエナジー | 使用銃例 | 有効射程距離 |
---|---|---|---|---|---|
.50 BMG | 661 gr | 2800 fps | 11489 ft-lbf | バレットM99 | 1800 m |
.338ラプア | 250 gr | 2920 fps | 4733 ft-lbf | AI AWM | 1700 m |
.338ノルマ | 300 gr | 2657 fps | 4702 ft-lbf | バレットMRAD SIG MG338 | 1500 m(ライフル) 2000 m(GPMG) |
.300ノルマ | 215 gr | 3000 fps | 4296 ft-lbf | バレットMRAD | 1500 m |
.300 WinMag | 178 gr | 2960 fps | 3463 ft-lbf | M2010 ESR | 1200 m |
.308 Win (7.62x51mm) | 168 gr | 2700 fps | 2719 ft-lbf | M24 SWS | 800 m |
今回ご紹介した弾薬はいずれも1000m超の長距離射撃に適しているといえます。
なかでも.338ラプアマグナムや.338ノルママグナムは大きなエナジーをターゲットに伝えるという意味で優れています。
.338ノルママグナムは300グレイン弾頭を使用するために開発された弾薬のため、250グレイン弾頭を使用する場合は.338ラプアマグナムとほとんど同等と言える弾道性能です。
.300ウィンチェスターマグナムと.300ノルママグナムは同じ.30口径でありながら、やはり.300ノルママグナムの方が長距離射撃に適しているといえる内容です。
ただし、.300ノルママグナムは比較的新しい弾薬のため、使用される銃の選択肢が少ないという欠点があり、バレット社やアキュラシーインターナショナル社などに限られており、今後の展開次第となります。
有効射程距離の差については弾薬だけではなく銃の構成によって異なるため一概に判断できません。
しかし有効射程距離を比較すると.338ラプアマグナムは長い傾向があるものの、重量が重くなる傾向があります。
.338ノルママグナム/.300ノルママグナムを使用するバレットMRAD MK22は重量7kgですが、.300ウィンチェスターマグナムを使用するM2010 ESRは重量5.5kgと比較的軽量です。
強力な弾薬を使用する場合、銃と弾薬の重量が重くなる傾向があるため、.338ノルママグナムを使用するマシンガンでは重量問題が大きな課題となり、重い真鍮製薬莢の代替となる軽量で信頼性の高いポリマーケースが必要とされています。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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