リボルバーのシリンダー(回転弾倉)には各薬室に溝が彫られているものがあります。
これは「カウンターボアード・シリンダー」と呼ばれていますが、これが何のために存在するのかを解説します。
カウンターボアードとは?
.357マグナム、.38スペシャル、.22LRなど、リボルバーで使用される弾薬は「リムドカートリッジ」が使用されています。
リムドカートリッジとは、リム(薬莢後部の周囲)の直径がケースボディの直径より大きい弾薬です。
一方、9mmや.40S&Wといったピストル用の弾薬の多くは「リムレスカートリッジ」や「セミリムドカートリッジ」が使用されており、リムの直径とケースボディの直径が同じか、またはほとんど差がない直径となっています。
リムドカートリッジを通常のシリンダーに装填すると、リムの側面が露出しているのがわかります。
一方、リムが接触する部分に溝を設けているシリンダーにリムドカートリッジを装填すると、リムの側面が隠れます。
このような溝が備わっているシリンダーを「カウンターボアードシリンダー」や「リセスドシリンダー」と呼びます。
(※単純に「CB」や「P&R」と省略されて呼ばれることもありますが、P&Rは後述します)
カウンターボアードシリンダーは通常のシリンダーよりリムの厚み分だけ全長が長いため、シリンダー重量が重くなっています。
カウンターボアードの存在理由
暴発防止
カウンターボアードシリンダーは暴発防止の安全対策として施されました。
現代のリボルバーはフレームにファイアリングピン(撃針)が備わっているモデルが多いのですが、かつてリボルバーはハンマー側にファイアリングピンが備わっているモデルが一般的でした。
このようなリボルバーでハンマーが落ちてレスト状態にあるとき、ファイアリングピンはフレームのファイアリングピンホールを貫通し、露出した状態になります。
現代のリボルバーは安全対策が向上しファイアリングピンが露出し続けることはありませんが、ファイアリングピンが露出していると、リムを叩いて撃発するリムファイアカートリッジを使用したとき、シリンダーが回転するとファイアリングピンとリムが接触し暴発する恐れがあります。
そのためカウンターボアードシリンダーによってリムを隠すことで暴発を防ぐ効果があります。
ガス漏れ事故に対応
カウンターボアードシリンダーが存在するもうひとつの理由は、高圧ガスに耐えるための対策です。
一般的に弾薬はブラスケース(真鍮製薬莢)が多く使用されていますが、1856年から1940年頃までリムファイアカートリッジではカッパーケース(銅製薬莢)が使用されていました。
銅の薬莢はガス圧の耐久性が低く、ケースに穴が生じて高圧ガスが噴出する恐れがあるため安全対策としてカウンターボアードシリンダーが必要とされました。
また、.357マグナムリボルバーも同様に、メーカーは高圧なマグナムカートリッジに耐えるためにもカウンターボアードシリンダーが必要と考えました。
ケースヘッド(薬莢後部)の強度が弱い場合はケースボディの後部に穴が空き、高圧ガスが噴出する事故の恐れがあります。
そこで.357マグナムリボルバーでは主にS&W社で多く採用され、コルト社も初期のモデルやオプションとしてカウンターボアードシリンダーを採用するようになりました。
しかし、実際にはカウンターボアードシリンダーを使用しなくても.357マグナムカートリッジは高圧に耐えることが可能で、過剰な対策だったと言えます。
現代のセンターファイアカートリッジでは不要?
時代と共に独立したファイアリングピンやトランスファーバーといった安全性向上により、切削に手間がかかるカウンターボアードシリンダーは製造コストに影響したり、射撃後のクリーニングが面倒といったデメリットが大きくなったことから、S&W社は1982年を最後にカウンターボアードシリンダーの製造を終了しています。
リムファイアカートリッジを使用するモデルでは現在でも広く利用されていますが、センターファイアカートリッジのモデルには実用上必要のない仕様です。
カウンターボアードシリンダーは通常のシリンダーより重いため、日常的に携帯する場合はデメリットになりやすいと言えます。
しかし、カウンターボアードシリンダーはスピードローダー使用時にマグウェルのような効果があり、装填しやすいという意見もあります。
また、2016年にキンバー社から発表された.357マグナムリボルバーのキンバーK6sではカウンターボアードシリンダーを採用しています。
カウンターボアードシリンダーは後部がフレームと接するため、シリンダーが前後に動く「あそび」が少なく、長期の使用でもシリンダーギャップのタイトさを維持しやすいというメリットがあります。
P&Rとは?
カウンターボアの有無は銃の時代を知る目安になり、売買の際には必ずチェックされる箇所です。
現代のリボルバーは銃身の固定方法としてフレームに銃身をねじ込んだり、銃身を二重構造にしてナットで絞めるといった構造が採用されていますが、昔は銃身とフレームの間にピンを挿して固定していた時代があります。
銃身をピンで固定し、カウンターボア(リセス)が備わっているモデルは「P&R(Pinned and Recessed)」と呼ばれ、当時のポピュラーなスタイルのためP&Rに拘るコレクターも存在します。
最後までお読みいただきありがとうございます。
もしご質問やご意見がありましたら、お気軽にX(旧ツイッター)やYoutubeチャンネルでお知らせください。