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FBIが.40S&Wより9mmを選択した理由とは?

銃の画像
Photo via shootingtimes.com

FBI(連邦捜査局)は制式採用する弾薬を9mmから.40S&Wに変更していました。

しかし、再度.40S&Wから9mmに変更しました。

なぜ変更したのでしょうか?

今回はその理由について解説します。

マイアミ銃撃事件

1986年4月11日、フロリダ州マイアミでFBI捜査官と銀行強盗犯との間で銃撃戦が発生し、FBI捜査官二名と容疑者二名が死亡しました。

以前に「S&W 1076のトリガーシステムの長所短所とは?」の記事でも触れましたが、この事件を切っ掛けにFBIは9mmルガー(JHP)から10mmオートへ、そして.40S&Wへと弾薬を変更します。

Photo via FAPDF Forensic Analysis Of April 11 1986 FBI Firefight
Photo via FAPDF Forensic Analysis Of April 11 1986 FBI Firefight

事件当時、FBI捜査官と容疑者の間でカーチェイスとなり、容疑者の車が他の車と挟まれて動けなくなりました。

ルガーMini-14ライフルを手にした容疑者は車外へ出ようとしたものの、ドアが開かないため窓から飛び出します。

そこへFBI捜査官が30フィート(約9m)の距離から9mmルガー(ウィンチェスター・シルバーチップJHP)を発射し、容疑者に命中させました。

Photo via FAPDF Forensic Analysis Of April 11 1986 FBI Firefight
Photo via FAPDF Forensic Analysis Of April 11 1986 FBI Firefight

弾は容疑者の右腕を貫通し(骨には命中せず)、潰れて展開された弾頭が肺に進入して心臓の手前で停弾します。

ところが、被弾したにもかかわらず容疑者は右腕と肺にダメージを受けながらも銃撃を継続でき、このとき発砲したFBI捜査官を含む二名の捜査官を射殺しました。(この後、容疑者は別の捜査官に胸部を撃たれ死亡)

この事件がFBIに与えた衝撃は大きく、弾が命中しながらも容疑者の行動を止められなかった反省から10mmオートを採用します。

Photo via shootingtimes.com
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しかし、10mmオートを使用するとフレームは大型化し、発生するリコイルが大きいことや、リコイルが強いことによるパーツの消耗が激しいといった理由から、同口径でありながらよりコンパクトな設計の.40S&Wが採用に至ります。

再評価が検討された9mmルガー

FBIで弾薬のテストを行う部門「ディフェンシブ・システムズ・ユニット」はあらゆる弾薬のテストを継続していましたが、2007年から9mmルガーの再採用を検討し始めます。

ホローポイント弾の技術は年々向上しており、特に弾頭重量147グレインのスピアー・ゴールドドットG2は1986年当時の9mmルガー・ホローポイント弾と比較すると各段の進化が見られ、より効果が高いことが判明します。

現在の水準に照らし合わせると、30年前の9mmルガーJHPは現在のホローポイント弾の最低レベルの性能しかないことが分かってきました。

FBIは「貫通力」と「弾速(軽量で高速)」を重要視しており、人体内を12~18インチ(30~45cm)貫通する能力を求めています。

.40S&Wと9mmルガーを比較した場合、9mmルガーはこの点で優位にあります。

また、手の小さい捜査官には.40S&Wのピストルはトリガー・リーチが長く操作し辛いと不評であったこともあり、次第に9mmルガーが注目を浴びました。

調査して判明したこと

2014年7月25日、FBIは9mmルガー弾を使用するピストルを採用することを事前公示し、以下の調査結果が明らかとなります。

  • 拳銃弾のストッピングパワーについてはFBI内部でも様々な意見があり、長年議論されてきたことだが、FBIはその議論の根底にあるものが「myth(根拠のない話)」と断定。どの口径が最も優れるのかは「可能性」でしか議論されておらず、ハンドガンのストッピングパワーも根拠が無い。
  • 弾薬で重要視されるのは貫通力で、12~18インチの貫通力が必要であり、2007年以降の法執行機関向け弾薬は飛躍的に性能が向上している。
  • 9mmルガー、.40S&W、.45ACPを同じ条件で比較した場合、9mmが最も優れる結果となった。
  • 銃撃事件で法執行機関のオフィサーが発砲した70~80%の弾はターゲットに命中していない。
  • 9mmルガーは、マガジン装弾数が多く、リコイルが小さい、弾薬コストが安い、パーツの消耗が少ないため銃の維持費が安い、作動時の信頼性が高い。
  • スピードシューティング時の命中率が9mmの方が.40S&Wより優れる。
  • 法執行機関向け弾薬の9mm~.45ACPによる銃創を確認した結果、殆ど違いが見られない。
  • 法執行機関向け9mmルガー弾は、他の弾薬と比較しても性能に遜色がない。

まとめ

ロサンゼルス警察は.40S&Wのグロックから9mmルガーのS&W M&Pに変更し、ニューヨーク市警も使用弾薬を9mmルガーに変更しました。

2015年10月にFBIが次期採用ピストルを選定することを発表し、8,500万ドル(約97億円)の契約となることを明かしています。

米陸軍では拳銃弾の大口径化の動きがありますが、法執行機関は9mmルガーを採用する傾向にあるようです。

FBIの決断をみると、今回の決定は9mmルガーが人体に対して効果があると結論付けたのではなく、むしろ「9mm~.45ACPはどれも殆ど違わないが、それならばコンパクトな9mmルガーが良い」と判断したと見た方が良いかもしれません。

単純にストッピングパワーを求めるならデザートイーグル.50AEでも採用すれば解決することですが、求められているのは総合的なバランスです。

  • 9mmルガーは装弾数が多く、リコイルが小さいため速射性に優れる。
  • リコイルが小さければ、速射時の命中率が高くなる。
  • 9mmルガーは他の弾薬より薬室装填がスムーズでジャムが少ない。
  • 弾薬コストとピストルの維持費も9mmルガーの方が優れ、フレームの大きさを抑えられるため手が小さくても扱える。
  • 近年のピストルはモジュラー化されバックストラップ交換可能とはいえ、.40S&Wを使用するピストルは手の小さな射手には指がトリガーに届かないなど問題がある。

このような点から、9mmルガーと.40S&Wが弾道学的に殆ど同等であれば、9mmルガーを選択するのは当然かもしれません。

これまで何度か当サイトでも触れましたが、人体に対する弾の効果は条件次第で様々です。

.45ACPを複数発受けても生き残る場合もあれば、.22LR一発で絶命することもあります。

問題は当たり所(ショットプレイスメント)次第であり、脳や脊髄といった神経系を破壊するか、動脈を切断し失血しなければ、ターゲットに反撃の機会を与えやすくなります。

当たり所によって効果が異なるなら、できるだけ多くの弾を撃ち込めて命中率の高い9mmルガーは、総合的に優れているといえるでしょう。

2016年6月30日追記FBIは9mm口径のグロック17とグロック19の採用を決定しました。

.40S&Wは廃れている?

皆さんからいただいた、「銃の疑問」に回答します。

40S&W弾の現在の使用状況についての質問です。少し前、アメリカの法執行機関では9mm弾の威力不足を理由に40S&W弾を使用していましたが、現在は、9mm弾が主流になって、40S&W弾は廃れてしまったのでしょうか?

9mmに移行する法執行機関が増えており、.40S&Wは徐々に減少しています。

装弾数、反動、速射時の命中率、コストなど、全ての面で9mmの方が優れており、肝心のストッピングパワーも銃創学的観点から殆ど差がないため、.40S&Wを採用する理由がなくなっています。

しかし、アメリカの法執行機関においては、条件次第で法執行機関が示す「携帯許可銃リスト」のなかから各個人が好みの銃を選択して携帯されることもあり、.40S&Wがリストに載っているところもあります。

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