銃口に装着されるフラッシュハイダー、マズルブレーキ、コンペンセイターの違いについて解説します。
フラッシュハイダー(フラッシュサプレッサー)
フラッシュハイダーは日本語では「消炎制退器」や「消炎器」などと呼ばれます。
銃口から発せられるマズルフラッシュ(発射炎)を抑制するために使用され、マズルフラッシュを拡散させることで夜間射撃時の射手の視界を確保したり、敵から自分の位置を目立たせないようにする目的があります。
主にライフルやマシンガン等で使用されます。
マズルフラッシュは装薬の燃焼によって発生し、弾頭が銃口を離れると銃身内の未燃焼の装薬と高温ガスが外気に触れて燃焼、明るい発射炎が視認できます。
長銃身の銃では弾頭が銃口を離れる前に大部分の装薬が燃焼することでマズルフラッシュは小さい、またはほとんど視認できないレベルになりますが、近代の軍用ライフルは銃身長が短い傾向があり、フラッシュハイダーが必要とされます。
またマズルフラッシュの大きさは装薬の燃焼速度を変更することで調整が可能で、速燃性装薬は遅燃性装薬よりマズルフラッシュを減少させることが可能です。
例を挙げると銃身長16インチのM4カービンには従来より速燃性の弾薬(M855A1)を使用し、フラッシュハイダーと併用することでマズルフラッシュを効率よく軽減しています。
フラッシュハイダーには様々な形状が存在し、M4/M16で使用される鳥籠型のバードケージハイダーの他、前方に向かって放射状に広がるコーン型ハイダーも第二次世界大戦時から広く利用されています。
コーン型も同様にマズルフラッシュを前方に向かって拡散し、特に夜間の射手の視界を確保する利点があります。
マズルブレーキ / リコイルリデューサー / キックリデューサー
マズルブレーキはリコイル(反動)を抑えることを目的とし、日本語では「銃口制退器」と呼ばれます。
マズルブレーキの他には、リコイルリデューサー、キックリデューサーなどとも呼ばれますが、同じものを指します。
銃口から排出されるガス圧を利用し、弾道に対して直角的、または斜め後方へガスを排出することで銃が後退しようとする力を軽減することを目的としています。
一般的にライフルやショットガン等で多く利用されますが、ハンドガン用マズルブレーキも存在します。
斜め後方へ排出されるタイプのマズルブレーキは軍や警察においてチームメイトに対し高圧ガスや砂埃を吹き付けることになるため、アサルトライフルでの使用は希です。
しかしフラッシュハイダーの種類によってはマズルブレーキと同様の効果を持つものも存在します。
コンペンセイター / ポーテッドバレル
コンペンセイター
コンペンセイターは日本語ではマズルブレーキと同じく「銃口制退器」と呼ばれています。
マズルブレーキは銃が後退しようとする力を軽減する目的で使用されますが、コンペンセイターは銃口の跳ね上がり(マズルジャンプ)を軽減する目的で使用されます。
コンペンセイターは発射ガスを上方向へ排出することで銃に対し下向きの力を与え、マズルジャンプを軽減して速射性を高めます。
一般的に競技用ハンドガン(ピストルやリボルバー)で利用されることが多いですが、サブマシンガンやライフルでも利用されることがあります。
コンペンセイターは反動軽減が目的ではなくマズルジャンプを軽減するための装置ですが、反動軽減効果のあるコンペンセイターも存在します。
ポーテッドバレル
ポーテッドバレルはコンペンセイターの一種で、銃身の上に穴(ガスポート)を開けたものを指します。
コンペンセイターやポーテッドバレルはマズルジャンプ抑制に効果的な反面、マズルフラッシュにより視界が遮られたり、弾頭の削りカスや高圧ガスが射手に向かって吹き付けられやすくなります。
そのため銃を腰や胸の位置で射撃するのは推奨されません。
上の動画は、それぞれの発射ガスの流れを比較したイメージです。(数値は目安であり、実際にはポート形状や大きさなど様々な条件で異なります)
前方へ排出される発射ガスが少ないと、その分反動が軽減されます。
また「マグナポート」や「カッツコンペンセイター」と呼ばれるものは、コンペンセイターを指します。
マグナポートはマグナポート社の商標であり、カッツコンペンセイターは米海兵隊のリチャード・マルコム・カッツによって発明されたコンペンセイターで、目的や効果は同じです。
ポーテッドバレルによる効果と弾速の変化
以下のグラフはピストル(グロック19)をレストマシンに固定した状態で発射し、ポーテッドバレルと通常の銃身を使用した際のマズルジャンプの大きさを比較した結果を表しています。
アメリカの銃器専門誌「Gun Digest」によるこのテストでは、 フェデラル115グレインFMJ、ウィンチェスターNATO 124グレインFMJ、ウィンチェスター147グレインBEBが使用されました。
10フィート(約3m)離れたクロノグラフ(弾速計測器)に各10発ずつ発射し平均を比較したところ、ポーテッドバレルを使用すると平均31%のマズルジャンプ軽減効果が確認されました。
弾薬メーカー | 弾頭重量 | 弾頭 | マズルジャンプ | 弾速 |
---|---|---|---|---|
フェデラル | 115 gr | FMJ | -32% | -78 fps |
ウィンチェスター | 124 gr | FMJ | -30% | -55 fps |
ウィンチェスター | 147 gr | BEB | -30% | -53 fps |
また、ポーテッドバレルを使用すると弾頭を押すガス圧が低下するため弾速が減少し、Gun Digest誌によるテストでは53~78 fps(約16~24m/秒)の低下がみられました。
一方、グロック社によるテスト(使用弾薬不明)ではグロック19の初速は1150 fps、ポーテッドバレルが備わっているグロック19Cでは1120 fpsとなり、30 fps(約9m/秒)の減速がみられます。
弾速の減少量やマズルジャンプ軽減効果は弾薬の種類、ガスポートの数、ガスポートの大きさなどによっても異なります。
マズルデバイスの区別
フラッシュハイダー、マズルブレーキ、コンペンセイターはそれぞれ異なる目的から誕生した装置ですが、これらすべての効果を狙った形状の物もあり、区別し難い場合もあります。
例を挙げると、M4、M16A2、ステアーAUGなどで使用されるフラッシュハイダーがそれに該当します。
これらのフラッシュハイダーはマズルフラッシュを抑制しつつ反動を軽減し、マズルジャンプを抑制する働きをします。
また下向きのガス排出を行わないことで砂埃を立てにくくするメリットがあります。
こうした総合的な効果を持つフラッシュハイダーは近年一般化しており、現在も進化を続けています。
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