この記事では銃弾の貫通力と二次被害について、EFMJとホローポイント弾の比較を解説します。
ジャケッテッド・ホローポイント弾(JHP)とは?
エクスパンディング・フルメタルジャケット弾(EFMJ)とは?
対人用にはどちらが有効なのか?
それぞれの特徴を理解すると、どのような用途で使い分けると良いかが分かります。
ジャケッテッド・ホローポイント弾(JHP)とは?
ホローポイント弾とは、その名のとおり、弾の先端(ポイント)に穴(ホロー)が設けられています。
そしてジャケット(被甲)で覆われているホローポイント弾は「ジャケッテッド・ホローポイント(JHP)」と呼ばれます。
この穴は流体(細胞組織や血液など水分)に命中することで展開され、流体中を進みながら先端から外側へ裂けます。
弾の直径が拡張することによって人体内に永久空洞を形成し、神経や臓器にダメージを与える設計です。
しかし、ホローポイント弾は流体の圧力によって穴が広がる設計のため、仮にこの穴が異物で詰まってしまうと、うまく展開/拡張できなくなることがあります。
銃撃戦の際、命中時に衣服の繊維が穴に詰まったり、自動車のフロントガラスを撃ってガラス片が穴に詰まるとホローポイント弾(HP)は先端が展開されないため、フルメタルジャケット弾(FMJ)のように貫通力が増加します。
このとき、人体に着弾しても運動エネルギーは体内で消費されないため、対象に与えられるダメージが通常より減少し、貫通した弾は流れ弾となって第三者に危険が及ぶリスクがあります。
エクスパンディング・フルメタルジャケット弾(EFMJ)とは?
ホローポイント弾特有の問題を解消すべく誕生したのが、エクスパンディング・フルメタルジャケット(EFMJ)と呼ばれる弾です。
EFMJは、CSP(キャプティブ・ソフトポイント/Captive Soft Point)とも呼ばれますが、名称はEFMJの方が一般的でしょう。
フェデラル社が製造する「ガードドッグ(番犬)」ブランドの弾薬は、弾全体がジャケットで覆われているフルメタルジャケットでありながら、命中すると拡張されるEFMJです。
EFMJはホローポイント弾のように流体により先端の穴が展開されることはなく、弾の先端に穴は存在しません。
しかし、どんな物体に命中しても高確率で拡張(エクスパンディング)する特徴があります。
フェデラル社のガードドッグは、ジャケットの内側に6本のスリットがあり、命中時にジャケットが裂けるよう設計されています。
このスリットは外から見えないので、EFMJの外観は一般的なフラットノーズ・フルメタルジャケット弾とよく似ています。
また、内部コアは先端部分にポリマーが充填されており、後部は鉛で構成されています。
ポリマーを使用する理由はポリマーが鉛より変形しやすいためで、着弾時に後部の鉛が先端のポリマーを押し潰してポリマーが周囲に広がります。
この画像では、着弾後の弾の底に大きな穴が確認できます。
この穴は、着弾の衝撃によって鉛のコアが前方へ移動したことでジャケットだけが後部に残された結果です。
仮にもっと速い弾速で命中した場合には、ジャケットの潰れ方がより大きくなるため、このような穴は形成されないことがあります。
ガードドッグ(EFMJ)は対象を選ぶことなく着弾時に拡張されるため、衣服やガラスなど障害物に命中してもほとんど同じ性能を維持します。
フェデラル社が行ったテストでは、このような装置が使用されました。
これは住宅の壁に使用される石膏ボードを重ね、壁1枚につき石膏ボード2枚を使用するという想定です。
壁の先には人体を模したバリスティックゼラチンを設置し、ホローポイント弾とガードドッグ(EFMJ)の貫通力を調べました。
結果、通常のホローポイント弾では壁4枚(石膏ボード8枚)を貫通後にバリスティックゼラチンを12インチ(約30cm)貫通しました。
一方、ガードドッグ(EFMJ)は、壁2枚貫通後に6インチ貫通、壁3枚ではバリスティックゼラチンに貫通はみられなかったとのことです。
このように、EFMJは流体以外の障害物に命中しても拡張される特徴から、貫通力を抑えて流れ弾による二次被害を防ぐメリットがあります。
EFMJの背景と問題点
ガードドッグのコンセプトは、弾薬デザイナーのトム・ブルチンスキー(Tom Burczynski)によって1980年代に考案されました。
ブルチンスキーは、フェデラル・ハイドラショック、.40スーパーなどを開発した人物ですが、フェデラル社のEFMJは近年まで製品化されていませんでした。
元々、EFMJはホローポイント弾の所持が禁止されているヨーロッパ諸国の市場をターゲットとした製品でしたが、やがてアメリカ市場でも注目されるようになります。
そして2000年頃になると、アメリカの公的機関や民間市場で流通量が増加し、制式採用する警察署も出てきました。
しかし、2005年にデトロイト市警がEFMJの信頼性に問題があるとして調査を開始し、当時業界やガンコミュニティーでは様々な議論が行われました。
切っ掛けとなった事件のひとつではデトロイト市警の警官と容疑者の間で銃撃戦となり、警官が撃ったEFMJが容疑者の防寒コートに3発命中するも、コートを貫通できなかったことが問題視されました。
EFMJ最大のメリットは流体に頼らない弾の拡張ですが、これが却って仇となったわけです。
通常、EFMJは4層のデニムやポリエステル生地を貫通後もバリスティックゼラチンを12インチ以上貫通できる能力があります。
FBIの指針をもとにディフェンスアモ(JHPやEFMJなど)は、FBI準拠のバリスティックゼラチンで12インチ以上、18インチ以下の貫通力が必要といわれていますが、ガードドッグはFBIの基準をおおむね満たす性能を持ち合わせています。
ただし、厚手のコートのような硬い障害物を貫通する際には、EFMJ特有のデメリットが現れやすいかもしれません。
フェデラル ガードドッグのバリスティックゼラチン貫通性能(Shooting Illustrated調べ)
弾薬 | 弾頭重量 (グレイン) | 銃身長 (インチ) | 平均初速 (フィート/秒) | ゼラチンのみ (インチ) | 4層生地 + ゼラチン (インチ) | 10ヤード 平均集弾 (インチ) |
---|---|---|---|---|---|---|
9mm | 105 gr | 3 | 1,103 | 12 | 16+ | 1.98 |
9mm | 105 gr | 5 | 1,307 | 13.75 | 15 | 0.92 |
.40S&W | 135 gr | 4 | 1,288 | 12.75 | 13 | 1.87 |
.45ACP | 165 gr | 5 | 1,117 | 13 | 13.75 | 1.02 |
.45ACP | 165 gr | 3 | 889 | 10 | 16+ | 1.67 |
ガードドッグに限らず、EFMJは一般的に「見た目の大きさの割に弾頭重量が軽い」という特徴があります。
原因はコアの先端にポリマーを使用しているからですが、これは重量バランスが不安定となりがちで、命中精度に悪影響を与えやすいデメリットがあります。
また、通常のFMJやJHPより軽量な弾頭を使用しているため、貫通力が低い、弾速が速い、リコイルがマイルドという傾向があります。
私もEFMJの射撃経験がありますが、リコイルが抑えられているため撃ちやすい反面、+Pでなければパンチ力に不安が感じられます。
特に、3インチといったショートバレルでは十分な弾速が得られず、コンパクトピストルでは性能が落ちます。
これはストッピングパワーが劣るだけではなく、軽量高速化によりガス圧不足からジャムのリスクが高まる恐れがあります。
このような理由から、EFMJを使用する場合は、フルサイズのピストルを使用した方が信頼性が高いといえます。
ただし実際には銃によって信頼性や弾薬の相性が異なるため、EFMJを選択する場合は問題なく作動するかあらかじめ実射テストが必須です。
まとめ
EFMJは一部の警察で採用される他、米陸軍も興味を示しテストされるなど、次第に注目されるようになりました。
ニュージャージー州では私有地やハンティングなどを除き、民間人によるホローポイント弾の所持が規制されているため、こうした地域でEFMJは歓迎される存在でもあります。
また、FBIの統計では警官が発砲した70~80%の弾は命中することなく流れ弾となっており、高確率で拡張するEFMJは公共に対して安全性が高いといえそうです。
しかし、貫通力についてどう考えるかはユーザーの判断が分かれるところでしょう。
流体に頼ることなく拡張されるが、障害物貫通後の貫通力に劣るEFMJを選ぶか?
または、貫通力はあるが、障害物貫通後の拡張確実性で劣り、流れ弾被害のリスクが高いホローポイント弾を選ぶか?
現状では従来型のジャケッテッド・ホローポイント弾(JHP)が官民問わずポピュラーであり、流通量も圧倒的ですが、住宅街でのホームディフェンス用途や、市街地で活動する公的機関では、EFMJも選択肢として有用でしょう。
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