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低危険拳銃のメリットとは?

銃を構える警察官

皆さんからいただいた、「銃の疑問」に回答します。

韓国で「低危険拳銃」が導入予定のようですが、これはどういったものなのでしょうか?
また、ビーンバッグやテーザーと比べ、どのようなメリットがありますか?

低危険拳銃のメリットとは?

報道されている「低危険拳銃」とは、いわゆる「低致死性銃(レスリーサルガン)」のカテゴリーに分類される、実弾より殺傷力が低い弾薬が使用される銃です。

韓国では警察官の44%(全国で約22,000丁)が銃を装備しており、今回の「低危険拳銃」は2024年の予算に組み込まれ、これにより警察官の100%が銃を装備することを目標としています。

採用される銃の詳細については不明ですが、使用弾薬は.38スペシャルでプラスチックの弾頭を使用し、足に命中しても骨に到達しない威力で、約35J(ジュール)のマズルエナジーになります。

開発時に豚の足や骨に対して試射し、筋肉に対して5~6cmの貫通力を持ちながら骨を貫通させない威力を目指した結果、約35J程度のマズルエナジーが適当であると判断されました。

通常の.38スペシャルはブランドや弾頭重量等によってマズルエナジーが異なりますが、おおむね400J前後であるため、通常弾の約1/10のマズルエナジーといえます。

軽量弾頭のため反動が少なく、速射時でも高い命中率が期待できます。

S&T Motiv製スマートガン

低危険拳銃画像
スマートガン Photo via S&T Motiv

報道では採用予定の銃として「スマートガン」が取り上げられており、これは韓国のS&Tモーティブ(旧デーウー)が2017~2020年に開発したデータレコード機能付きスマートリボルバーです。

グリップ内にデータレコーダーが搭載されており、GPSにより発射の位置を記録したり、発射時の銃の角度や残弾などを記録します。

欧米においては、低致死性のプラスチック弾は警察機構において歴史が長いですが、現在ではその致死性の高さから限定的な使用に限られています。特に1970年代のイギリスではプラスチック弾による死者が多く、暴徒鎮圧用としてはリスクが高いものでした。

拳銃に使用される口径の大きさ(約9mm)ではプラスチック弾頭であっても近距離では貫通力が高く、命中箇所によっては死に至ります。

アメリカの法執行機関では、ショットガンから発射され貫通力のない「ビーンバッグ」や、スポンジ弾頭の38mmグレネードランチャーなどが暴徒鎮圧用として採用されており、これらは対象に打撃を与えるのみで、プラスチック弾やゴム弾よりも低致死性です。

テーザーは、電極を飛ばして電圧により対象の筋肉を収縮させて無力化する銃ですが、成功率が40~90%といわれており、必ずしも信頼性が高くないため、通常の銃も併用されるのが一般的です。

本来、低致死性を重視するのであれば、ビーンバッグや38mmスポンジ弾などが推奨されますが、これらはショットガンやグレネードランチャーから発射されるため、日常携帯には不向きです。

採用理由と問題点

韓国警察はすべての警察官に一定の制圧力を持たせたいと考えており、携帯しやすいリボルバーでプラスチック弾を採用することは苦肉の策といえます。

しかし「低危険銃」とはいえ、胸部や腹部に命中すると致命傷となる臓器に到達する威力を持つため、韓国警察では大腿部に命中させることを想定しています。

この想定されるシナリオはアメリカのように犯人が銃を所持している前提の環境では通用しませんが、韓国のように銃が規制されている国では一定の効果がある可能性があります。(※ただし、即座に犯人を無力化する能力に劣るため、状況によっては警察官や第三者が死傷するリスクが高くなります)

また、従来よりも低致死性であるプラスチック弾を使用することにより、警察官の発砲に至る心理的ハードルを下げたり、銃を使用したことにより訴訟問題になっても警察が勝訴しやすい面もあります。