ご質問を頂きました。
ガンのカスタマイズについてなのですが、『ほぼノーマルだけどショップで軽く弄ってもらって』『とりあえずポリッシュして』『トリガージョブがどうこう』…というようなことを聞きますが、具体的にはどういったことをしているのか、特に見た目にあらわれないカスタマイズはどうもよくわかりません。
モデルによって色々と傾向は違うと思いますが、例えばセミオートピストルをライトチューンというかセミカスタムというか、そんな感じの軽度の汎用カスタマイズを施すとすればどういった手法が定番としてあるのでしょうか?
ご指摘の通り、モデルによってカスタムの内容が異なります。
モデル1911やAR-15といった人気の銃では、カスタムパーツのみで構成することも可能です。
これを詳しく解説すると本が出版できる長文になってしまいますから、今回はモデル1911ピストルを例に、定番カスタムの一部をご紹介したいと思います。
ハンマーとシアー
銃をカスタムする理由は様々ですが、ほとんどは命中精度向上や信頼性向上を目的としています。
ピストル射撃で高い命中精度を得るには、トリガーを引く瞬間に銃を静止させることができ、ハンマーやストライカーの落ちるタイミングが分かりやすいことが理想です。
そのため、高い命中精度に最も重要なのがトリガーといえます。
銃を静止させながらトリガーを引くという動作はトレーニングが必要です。
しかし、いくらトレーニングしても引き味に抵抗が感じられると、銃の静止の阻害となりますから、スムーズに引けるトリガーにしたいところです。
1911ピストルのハンマー(緑のパーツ)とシアー(紫のパーツ)はこのようになっています。
ハンマーはスプリングの力によって回転しようとしますが、シアーがストッパーとなり、ハンマーの動きを止めています。
トリガーを引くとトリガーバーがディスコネクター(赤のパーツ)を後ろへ押します。
押されたディスコネクターはシアーの下側を押し、ハンマーはシアーから解放されて回転します。そしてハンマーがファイアリングピンを打撃することで撃発に至ります。
トリガープルをスムーズにするには、ハンマーとシアーの接触面を適正な角度にカットし研磨する必要があります。
無難な接触面
この図はハンマーとシアーの接触面を表しています。(※イメージなので角度は正確ではありません)
この状態はシアーの接触面が広く、ハンマーをしっかり受け止めており、良くもなく悪くもない状態です。
トリガーを引くと、シアーはこの図の右上に向かって回転してハンマーを解放します。
理想的な接触面
これは理想的なシアーの形状です。
回転するシアーは接触面の先端で滑るため、少ない摩擦抵抗でハンマーを解放することが可能です。
二つの接触面が合わさる山の角度は、45度となります。
この形状では、トリガーの歯切れが良く、軽いトリガーでパチンとハンマーが落ちます。
ハンマーの落ちるタイミングがハッキリしていると、リズムよく複数のターゲットに弾を命中させやすくなります。
トリガーのカスタムでは、ハンマーとシアーの接触面を磨いて鏡面仕上げにします。
悪い接触面
これはダメな例のシアー形状です。
この状態では、トリガープルが重く、ハンマー解放には通常より強い力が必要となります。
しかし、ハンマーを確実に受け止めるため、安全性が高いといえます。
最悪な接触面
こちらは最悪です。
この形状では外部からの衝撃でハンマーが解放されやすい状態となっています。
シアーが滑ってハンマーが解放されてもハーフコックノッチで止まる可能性がありますが、運悪くハーフコックで止まらなければ、撃発し暴発事故に繋がるリスクがあります。
ディスコネクター
ディスコネクターはオートマチックピストルに欠かせない重要なパーツです。
1911ピストルのディスコネクターはスライドの前後運動によって上下運動を繰り返し、トリガーとシアーの接触を断ってトリガーをリセットする役目があります。
ディスコネクターもトリガーと接触して摩擦抵抗がトリガーの動きに影響するため、これも接触面を研磨して滑りやすくする必要があります。
要するに、トリガーの力が加わるすべての可動パーツの接触面を研磨して摩擦抵抗を少なくします。
1911ピストルのディスコネクターは、最上部と最下部が接触面なので、この部分を磨きます。
ディスコネクター下部は45度各で傾斜がありますが、この傾斜はリーフスプリングの先端が接触して滑ることでディスコネクターを上へ押し上げます。
また、この傾斜の反対側は平らになっていますが、この部分にトリガーが接触して滑るため、この面も鏡面仕上でツルツルにします。
また、ディスコネクター上部はスライド下部と接触しますが、ここが凸凹しているとスライドの裏側に傷が付きやすくなります。
多少の傷は研磨によって修正可能ですが、あまり研磨や摩耗が進むとディスコネクターの移動量に影響しますから、スペック通りの長さが必要です。
全長はおよそ1.290インチ(32.8422mm)で、1.310インチ(33.274mm)を超えない長さが必要です。
バレル(銃身)
高い命中精度には高精度なバレルが必要です。
マッチグレード・バレルという名前を聞いたことがある方も多いのではないかと思います。
「高精度なバレル」として有名ですが、マッチグレード・バレルの定義はあまり知られていません。
一般的にメーカが販売するピストルのバレルは、異なる弾薬メーカーの製品が使用できるように、スペックに余裕を設けています。
余裕を設ける理由は、製造時にピッタリなサイズで薬室を加工をすると、少し大きめ弾薬が使用された際に装填時や排莢時が引っ掛かって作動不良を起こしやすくなるためです。
弾薬は大量生産品である以上、同じ規格の弾薬であってもそれぞれに若干の誤差があります。
そのため銃や弾薬は誤差を想定したサイズで設計されます。
しかし、高い精度で加工製造された競技用カスタムガンには特定の弾薬が使用されるため、その誤差を設けなくても作動します。
また、薬室内のサイズを厳密にすることで命中精度が高まります。
銃の命中精度は「高精度な銃」と「高精度な弾薬」の組み合わせによって完成するため、そのどちらかが欠けても高い命中精度を実現できません。
マッチグレード・バレルとは何か?
それは、「通常よりサイズが大きいバレル」です。
マッチグレード・バレルは少し大きめに製造されており、薬室の長さが短いという特徴があります。
マッチグレード・バレルを買ってきて箱出しの銃に装着しようとしても、サイズが異なるのでうまく装着できません。
そのため、専門技術を持ったガンスミスがマッチグレード・バレルを加工し、当該銃のスライドやフレーム、及び使用弾薬と一致するサイズに合わせて切削加工を施します。
この加工によって精度の高い組み合わせが実現し、高い命中精度を持つ銃が誕生します。
・・・ところが、近年ではこの定義が曖昧になっています。
実際には、銃にポン付けできるバレルも「マッチグレード・バレル」と呼ばれています。
商売上「マッチグレード・バレル」と呼べば売れるため、ごく普通のバレルも「マッチグレード・バレル」として販売されているのが現状です。
今と昔ではマッチグレード・バレルの意味と内容が変わってしまいました。
現在では、少しヤスリで擦るだけのマイナーフィッティングで作業が終了するバレルも多くなっています。
マッチグレード・バレルといっても性能は様々であり、バレルそのもの製造技術やライフリングの加工技術によっても精度が異なります。
高い精度を得るにはライフリングも重要ですが、これを解説すると長文になるので、また後日解説したいと思います。
マズル(銃口)
英語で銃口はマズルですが、銃身(銃口)の先端部分で切削加工された部分をマズルクラウン(クラウン)と呼びます。
銃に傷を付けてはならない場所があるとすれば、それはクラウンです。
クラウンの存在理由は主に二つあり、ひとつはライフリングの保護、もうひとつはガスの流れを整えることにあります。
銃口から弾が離れる瞬間、高圧ガスが外へ向かって一気に噴き出します。このガスの流れはマズルクラウンの形状の影響を受け、空中の弾に力が加わることがあります。
銃口を離れた弾に不要な影響を与えないために、精度の高い綺麗なマズルクラウン形状が必要になります。
クラウンはクリーニング時にブラシで傷が付いたり、高圧ガスを長期間受けることで損傷することがあります。
私も失敗経験がありますが、銃身をクリーニングする際はクラウンを傷つけないように、銃口側からではなく薬室側からブラシを挿入しましょう。
コルトM1911A1のマズルクラウンは、このような丸みのあるスタンダードクラウン(ラウンドクラウン)となっています。
ベレッタ92FSのマズルクラウンは、内側が少しカットされたディープリセスド・クラウンとなっています。
そしてこちらは1911ピストルのカスタムガンで加工されたイレブンデグリー・ターゲット・クラウン(11度ターゲットクラウン)です。
クラウンの角度はどの角度で最適か検証された結果、11度で最も結果が良かったため、イレブンデグリーはライフルベンチレストシューティングなどで定番のひとつとなっています。
「じゃぁ、全部11度に統一すれば良いじゃないか」と思われるかもしれませんが、ライフルとは異なり、ピストルのマズルクラウンはライフリング保護の意味が大きく、同時にクラウンの角度差による命中精度の差はあまり体感できません。
クラウンは角度が深い方がライフリングの露出が少なくなり保護されるため、「ウィルソン・コンバット」や「ナイトホーク」のタクティカル系ピストルカスタムでは、45度クラウンが多く採用されています。
フィードランプ
カスタムには命中精度を高める目的と、信頼性を高める目的があります。
フィードランプのカスタムは、作動の信頼性を高める目的で行われます。
フィードランプとは、マガジン内の弾が薬室に向かう途中に存在する「傾斜路(ramp)」です。
後退したスライド(ブリーチブロック)が前進する際にマガジン内の弾を後ろから押すと、弾頭がフィードランプに衝突し、この坂を滑りながら薬室内に装填される仕組みです。
スタンダードな1911ピストルのフィードランプは、フレームの一部が斜めにカットされています。
ピストルをカスタムする際には、このフィードランプをピカピカに磨いて鏡面仕上げにします。
バレル側にも傾斜がカットされており、この部分はスロートやバレルランプと呼ばれます。
スロートという銃器用語はライフルやリボルバーでも使用されますが、円錐状に狭くなっている場所がスロートと呼ばれます。
弾はスロートの壁に沿って狭い銃身や薬室内に滑り込んでいきます。
こちらはコルトM1911A1の銃身後部(ブリーチ)です。
さきほどの画像のようなスロートが見られませんが、当時の軍用ピストルはFMJ弾(フルメタルジャケット)のみを使用するため、これで十分でした。
しかし、現在ではホローポイント弾などバリエーション豊かな弾頭形状の弾薬が使用されるため、周囲を削って装填時の作動確実性を高めています。
アルミ合金のフレーム(フィードランプ)は弾頭の衝突によって凹んだり摩耗するため、傷ついたフィードランプを修理する目的で大胆にカットし、ステンレス製インサートを挿入することがありますが、単にカスタムとしても施されます。
硬度の高い金属を使用すれば長年の使用にも耐え、長期に渡って装填不良のリスクを抑制します。
インサート挿入はアルミフレームの1911でよく行われますが、スチールフレームの1911ではアルミフレームほど必要性がありません。
画像左はスタンダードなバレル、右側がランプドバレルです。
1911ピストルのランプドバレルは、競技用に使用される高圧な弾薬(.38スーパーや10mmAutoなど)を使用するために開発された強化型バレルです。
先ほどの画像の通り、通常の1911ピストルはフレーム側のフィードランプとバレルランプの2ピースで構成されていますが、フィードランプをバレル側に設けることで段差(ギャップ)を無くすことができます。
注意したいのは、このランプドバレルはフレームとセットである必要があり、同じランプドバレルでもメーカーによって互換性がないことがあります。例えば、「ウィルソンとクラークは切削加工時の刃の挿入角度が異なるので形状も異なる」といった場合があります。
上の画像の矢印部分に注目すると、少しケース(薬莢)の側面が露出しているのが確認できます。
この露出が大きい薬室はアンサポーテッド・チャンバーと呼ばれ、反対に側面がカバーされている薬室はサポーテッド・チャンバーと呼ばれます。
上の画像では、左側のオリジナルバレルがアンサポーテッド・チャンバー(ノン・ランプドバレル)、右側がサポーテッド・チャンバー(ランプドバレル)です。
ケース側面の露出はスペックに合わせてある程度許されています。
ケースの断面を見ると、底の方が厚みのあるケースウォール(側壁)を持っているのが確認できますが、少しの露出は撃発時の高圧にも耐えることができます。
しかし、露出が大きければケースの薄い部分に穴があき、ガスが漏れるリスクがあり、これは使用するケースの材質、規格、口径などによって異なります。
このガス漏れは、薬莢の6時方向に穴が空くことから、俗に「シックス・オクロック・フェイリアー(six o’clock failure)」と呼ばれることがあります。
スタンダードな1911ピストルの場合、ケースウォール露出部分のセイフティ・リミットは、0.090インチ(2.286mm)までとされており、ノーマル状態は0.075インチ(1.905mm)となっています。
高圧な弾薬や、リローディングなど再生ケースを使用する場合はサポーテッド・チャンバーが推奨されます。
カスタムは奥が深く、まだまだ語り尽くせませんが、この続きはまたの機会にしたいと思います。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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