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マガジンの装弾数が30発の理由

アサルトライフルやサブマシンガンの装弾数に30発が多いのは何故でしょうか?

この記事ではその理由について解説します。

結論から先に述べると、マガジンの装弾数はマガジンや弾薬の大きさ、重さ、長さ、作動の信頼性、運用方法などの影響を受けて決定されています。

まずは歴史上のライフルの装弾数を確認したいと思いますので、各使用弾薬にご注目ください。

歴史上のライフルの装弾数とは?

Gewehr 98

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G98 トレンチマガジン Photo via invaluable.com

7.92x57mmマウザーを使用するドイツのゲヴェアー98は装弾数5発のボルトアクションライフルですが、第一次世界大戦(1914~1918年)では25連マガジン(通称トレンチマガジン)が製造されました。

しかし現代のマガジンとは異なり、素早く着脱するのは困難で、固定式マガジンと同様の運用がされていました。

一般的な着脱式マガジンはマガジンから弾薬が飛び出さないようにマガジンリップが備わっていますが、このマガジンにはその機能がありません。マガジン内の弾薬はマガジン上部を貫通するタブで固定されており、マガジンを銃に装着後にタブを引き抜くとマガジン内の弾薬がボルトの位置まで押し上げられる構造です。(マガジン装着後に上部からクリップで5発装填し、計30発装填可能)

継戦能力が高いという利点がある反面、重くバランスの悪いライフルとなりました。

ボルトアクションライフルはボルト操作によって作動する都合上、重いマガジンによって重心位置が後方へ移動するとサポートハンド(右利き射手の左手)で銃を支えられず、扱い難くなってしまいます。

塹壕戦など静止状態の射撃ではマガジンを支えて射撃可能ですが、動きのある場面では不適当な重量バランスです。

ショーシャM1915(FM mle1915)

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ショーシャM1915 マガジン部を透過した状態

フランスのショーシャM1915は世界最初期の一人で運用可能なマシンガンです。

世界初の無煙火薬軍用ライフル弾である8x50mmR Lebelが使用され、20連マガジンが装着されますが、20発装填するとジャムが多発するため19発以下で運用されていました。

その後改良されたベルギー製ショーシャM1915/27には信頼性の高い15連マガジンが使用されています。

フェドロフM1916

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フェドロフM1916 Photo via Wikipedia

ロシア初のフルオートマチックライフルであると同時に世界初のバトルライフルであるフェドロフM1916は6.5x50mmR有坂を使用し、着脱式の25連マガジンが備わっています。

ショーシャM1915の影響を受けた構造を持ち、日露戦争で経験した6.5x50mmR有坂の有効性から日本の弾薬を採用しイギリス経由で利用した背景があります。

しかし1925年、ロシアは外国製弾薬の使用を禁止したため、計3200丁で製造終了となりました。

ブローニング・オートマチック・ライフル(BAR)

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.30-06スプリングフィールド弾を使用するアメリカのブローニング・オートマチック・ライフル(BAR)は1918年に米軍に採用され、それまで使用していたショーシャM1915と交代されました。

20連マガジンが採用されましたが、三脚を利用した対空用として40連マガジンも存在します。

AVS36 / SVT38 / SVT40 / AVT40

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SVT38 Photo via Wikipedia

7.62x54mmR15連マガジンで使用するロシアのAVS36はセミオートとフルオートを切り替え可能なバトルライフルです。

後に10連マガジンを使用するセミオートライフルであるSVT38が1938年から1940年まで採用され、1940年からは改良型のSVT40が採用されました。

1942年からはフルオート射撃が可能なAVT40が採用されましたが、フルオート射撃が可能とはいえ、装弾数は10発と少なく、またフルオート射撃による銃身へのダメージが大きい(銃身命数が短くなる)ためセミオート射撃を基本とする運用がされていました。

SVT40やAVT40はドイツのG43やベルギーのFN FALなどに影響を与え、現代のバトルライフルの源流ともいえる存在です。

MP43 / MP44 / StG44

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7.92x33mmクルツ弾を30連マガジンで使用するStG44はドイツ製アサルトライフルです。

長距離射撃が可能なライフルと近距離で使用されるサブマシンガンの間を埋める中距離射撃に適した構成です。

1944年、アドルフ・ヒトラーがSturmgewehr 44(StG44 / アサルトライフル44)と名付けたことでそれが英語に翻訳され「アサルトライフル」の名称が定着し、ロシアのAK47の開発にも大きな影響を与えました。

AK47

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世界一有名なライフルともいえるロシアのAK47は、7.62x39mm30連マガジンを使用します。

SVT、M1ガーランド、StG44などを参考に設計され、StG44と同様に近~中距離のターゲットに対して有効です。

M14

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M14は1958年から1964年まで製造され、現在まで米軍で採用されているバトルライフルです。

7.62x51mmNATOを使用し20連マガジンが備わっています。

フルオート射撃が可能ですが、コントロールが困難なため主にセミオートで運用されています。

弾薬の大きさとマガジンの大きさの関係

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M1ガーランド(8連)エンブロッククリップ、M14(20連)、M16(20/30連) Photo via Wikipedia

第二次世界大戦までの軍用ライフル弾は.30口径(7.62mm)以上のハイパワーなフルサイズカートリッジが主流でした。

こうした強力なフルサイズカートリッジを利用するには弾薬のパワーに耐えられる銃が必須となり、設計される銃は重く大きくなります。

しかし歩兵は戦場で素早く移動すると同時に、素早く敵を狙う必要があり、重い銃は歩兵の行動を制限します。

そのため両手で支える銃の重量は可能な限り軽量な方が望ましく、装弾数増加による重量増も避けたいところです。

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Photo via sadefensejournal.com

例を挙げると7.62x51mmNATOの重量は一発当たり25g前後のため、20発で500g、30発で750gになり、フルサイズカートリッジの装弾数増加は負担が大きいと言えます。

一方、軽量な5.56x45mmNATOでは一発当たり約12gのため、フルサイズカートリッジを使用する銃と比較したとき、同じ重量でもより多くの弾薬を携行することが可能になります。

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カナダ軍 C2ライフル Photo via canadiansoldiers.com

また、マガジン装弾数が増加するとマガジンの全長が長くなるため、プローン(伏射)で射撃する際に低い姿勢を取ったり、マガジン交換が困難になる場合があります。

こうした重量や長さの問題をクリアするためにも、フルサイズカートリッジを使用するマガジンの装弾数は20発前後、インターミディエートカートリッジでは30発前後が好まれる傾向があります。

※インターミディエートカートリッジ(中間弾薬)とは、5.56x45mmや7.62x39mmといった有効射程距離300~600メートルのライフルで使用される、フルサイズカートリッジより大きさやパワーが小さい弾薬です。

インターミディエートカートリッジの例フルサイズカートリッジの例
5.45x39mm7x57mmマウザー
5.56x45mm NATO7.62x51mm NATO
.30カービン
(7.62x33mm)
7.62x54mmR
7.62x39mm.30-06 スプリングフィールド
(7.62x63mm)
7.92x33mmクルツ.303ブリティッシュ
(7.7x56mmR)

作動の信頼性と装弾数の関係

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MP 43/1 Photo via wikipedia.org

ドイツのStG44は使用弾薬がフルサイズカートリッジや拳銃弾でもない、その中間を補うインターミディエートカートリッジである7.92x33mmクルツを使用することで30発の装弾数でもフルサイズカートリッジほどの重さにはなりません。

それでは、フルサイズカートリッジでも重さのデメリットを無視すれば装弾数を増加させても問題ないのでしょうか?

もちろんマガジンにとって長さや重さの問題は重要ですが、それ以上に重要なのが「作動の信頼性」の問題です。

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マガジン内には重い弾薬が連なっており、この弾薬を押し上げるには反発力の強いマガジンスプリングが必要です。

重い弾薬を使用したり装弾数が多い場合は、より強力なスプリングが使用され、装填された状態では強い力で圧縮されています。

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ダブルカラムマガジン(複列弾倉)内では弾薬がジグザグに連なっています。

この状態でマガジンスプリングが弾薬を押し上げると、押された弾薬は横へ逃げようとする力が働き、マガジンが膨らんだり、摩擦によって弾薬がスムーズに上昇しないことでジャムの原因になることがあります。

また、強いマガジンスプリングによってマガジン内の最上部の弾薬がボルトキャリアの前後運動を妨げ、抵抗となることでジャムの原因になる場合があります。

他にも、タクティカルリロード時などボルトが前進した状態でマガジンを交換する際、スプリングテンションが強すぎることでマガジンを挿入してもロックされず、マガジンが脱落することがあります。
(これは30連マガジンでも起こり得るため、29発のみ装填して対処される場合もあります)

このような問題から、フルサイズカートリッジでは20発以下、インターミディエートカートリッジでは30発以下の装弾数を持つマガジンの方が作動の信頼性が高い傾向があります。

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XM177E1 Photo via firearmcentral.fandom.com

米軍はM16ライフル(5.56x45mm弾)で20連マガジンを採用していましたが、1967年からXM177E1で30連マガジンを使用し始めました。

しかし、当初米軍はM16を製造するコルト社に対しXM177E1と30連マガジンのセットを要求したものの、コルト社は信頼性の高い30連マガジンを製造することができず、しばらくの間XM177E1には20連マガジンを付属して出荷され、一部の特殊部隊にのみ30連マガジンが供給されました。

その後コルト社はマガジンを改良し、1968年に米陸軍は30連マガジンを推奨することを決定しています。

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Surefire 100連マガジン Photo via armoryblog.com

現在では技術の向上により40連、60連、100連といった比較的に信頼性の高いハイキャパシティーマガジンが流通しており、一部の軍特殊部隊でも利用されるようになりました。

しかし、重さや長さの問題は未だ課題となっています。

重さの問題についてはポリマーカートリッジやハイブリッドカートリッジの開発により解決が期待されるものの、コストや信頼性の問題もあり先行きは不透明です。

サブマシンガンの装弾数

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サブマシンガンはコンパクトで隠匿性や携帯性の高さが利点として挙げられます。

装弾数は様々で、15発もあれば100発もあり、各モデルのコンセプトや想定される運用方法によって異なります。

サブマシンガンはライフルとは異なり有効射程距離が短いためプローン(伏射)で射撃されることが殆どありません。しかし、あまりに長すぎるマガジンはサブマシンガンの利点を活かしにくくなります。

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サイドマウントのマガジンは地面につっかえることもなく、塹壕戦などで有効な構成ですが、屋内で使用する場合など狭い場所ではマガジンの長さが射手の移動を制限しやすくなります。

また、左右の重量バランスが不均衡なため、利用可能な装弾数には限界があり、隠匿性も高いとは言えません。

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かつてドラムマガジンが多用される時代もありましたが、ドラムマガジンには以下のような問題があります。

  • 構造が複雑になるため作動の信頼性が低い
  • 重く嵩張るためトータルの携行可能弾数が少なくなる
  • 銃の重量増となり素早い動きが制限され取り回しにくい
  • ドラムマガジンやマガジンポーチ類などの製造コストが高い
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また、らせん構造のヘリカルマガジンは1868年にエヴァンズ・リピーティングライフルで開発されて以降様々なモデルで利用されていますが、ドラムマガジンと同様の問題があり、こうしたハイキャパシティーマガジンの成功例は多くありません。

近年、サブマシンガンの多くはVIP警護用、警備用、自衛用(PDW)などで利用されることが多く、コンパクトさを活かして車両や航空機に乗降する機会が多い要員や、交戦距離の短い屋内等での使用を想定される場面に対して多用されています。そのため信頼性、隠匿性、軽快性が重視される傾向があります。

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B&T APC9K Photo via recoilweb.com

2019年、米陸軍及び米海軍はセキュリティー要員用としてB&T APC9Kを採用しました。

軽量コンパクトで隠匿性が高く、ストックを装着しているためピストルより長い有効射程距離(100m)を持ちます。

APC9はマガジン装弾数のオプションとして15連、20連、25連、30連が用意されており、隠匿性が必要な場面では15連マガジン、装弾数が必要な場面では30連マガジンを使用するといった使い分けも可能です。

軍や法執行機関での採用が多いCZスコーピオンEvo3SIG MPXといったサブマシンガンも同様に異なる装弾数のマガジンが用意され、必要に応じた装弾数が選択されています。

まとめ

以上の理由からマガジンの長さや重さが運用上の支障となることや、長いマガジンは作動不良の原因となるリスクについてもご理解いただけたかと思います。

30連マガジンが多い理由として「装弾数が多いとマガジンスプリングがヘタるから」と言われることがありますが、これは30連マガジンが多い理由として正確ではありません。

マガジンスプリングは消耗品であり、装弾数に関係なく定期的な交換が必要です。

しかしマガジンスプリングは収縮を繰り返すことで劣化が進むもので、圧縮状態を維持するだけでは「ヘタリ」を心配する必要はありません。
(保存環境によっては長期に渡る温度変化による収縮膨張によって劣化する場合があります)

もちろんマガジンスプリングには様々なメーカーや品質が存在するため一概に性能を語れるものではありませんが、現代の信頼性の高いマガジンにおいては腐食などが無い限り「ヘタリ」を気にする必要のないレベルにあります。

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