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ブラックタロン弾とは? 設計、論争、後継モデルまで徹底解説

銃の画像
ブラックタロン 画像出典:Wikipedia

ブラックタロンは、着弾時に拡張するホローポイント弾のひとつです。

アメリカで起きた殺人事件をきっかけに注目され、誤解や論争を引き起こした弾薬として知られています。

本記事では、ブラックタロンの背景や、その後継について詳しく解説します。

ブラックタロンとは?

画像出典:guns.com
画像出典:guns.com

ブラックタロン(Black Talon)は、1991年にアメリカのウィンチェスター社が発表したホローポイント弾です。

法執行機関や個人の護身用向けとして開発されました。

弾頭には6つのスリットが入っており、これにより着弾時に先端が拡張し、「タロン(鉤爪)」のように鋭いエッジが形成され、人体に侵入する際に大きな損傷を与えるよう設計されています。

この設計はストッピングパワー(対象を行動不能にする能力)を高めることを意図しており、弾薬の効果を最大限に引き出すものでした。

ブラックタロンはウィンチェスター社独自の「ルバロックス(Lubalox)」という黒色潤滑コーティング(銅酸化処理)が施されています。

このコーティングは銃身の摩耗を低減する役割があり、コーティングの色と拡張時の形状から「ブラックタロン(黒い鉤爪)」と名付けられました。

黒い弾頭は他のホローポイント弾に見られない珍しいもので、この黒い見た目から「防弾チョッキを貫通できる」という誤解が広まりました。

誤解の一因としては、同時期に使用されていたKTW弾(貫通力が高い弾薬)と混同されたことが考えられます。

実際には、ブラックタロンには防弾チョッキ(ボディーアーマー)を貫通する能力はなく、これは他の市販ホローポイント弾と同様でした。

殺人事件、誤解と論争

ブラックタロンは他のホローポイント弾と比較して、特別な性能はありませんでした。

弾頭の色が黒いこと以外は、通常の対人用ピストル弾です。

しかし、ある事件で注目されることになります。

1993年7月1日、カリフォルニア州サンフランシスコの101カリフォルニアストリートにある高層ビルで、ジャン・ルイジ・フェリ(当時55歳)による無差別発砲事件が発生。

この事件でブラックタロンが使用されました。

事件が起きたのは高層ビル内の法律事務所で、犯人はTEC-DC9(9mm口径)ピストル2丁と、ノリンコ1911(.45口径)ピストルで無差別に発砲し、弁護士やそのクライアントなど8人が死亡、6人が負傷。

その後、駆けつけた警察に包囲された犯人は自ら命を絶ちました。

犯行の動機は不明で、弁護士に対する恨みを抱いていたとされるものの、明確な理由は解明されていません。

この事件は、アメリカにおける銃規制論争に大きな影響を与えました。

事件後にはカリフォルニア州で銃規制が強化され、連邦議会でも銃規制法案が審議されるなど、銃に対する論争が活発になった事件となりました。

一部の医療関係者は、「ブラックタロンの拡張後弾頭の尖った部分が手術用手袋を破り、感染のリスクを高める可能性がある」と危惧しましたが、実際にこうした事故が起きた事例は確認されていません。

また、事件後に検死を担当した医師は、ブラックタロンによる銃創に関して「Unremarkable(平凡)」とし、他の弾薬と比較して特別なものではないことを示しました。

性能は一般的なホローポイント弾と同等であるものの、ブラックタロンはネガティブなイメージが広がっていたため、ウィンチェスター社はブラックタロンを民間市場から撤去し、2000年に製造を終了しました。

しかし、ブラックタロンは現在も合法的に所持可能であるため、コレクターの間ではプレミア価格で取引されています。

ブラックタロンの後継:SXTとPDX1

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レンジャーSXT 画像出典:midwayusa.com

ブラックタロン販売終了後、ウィンチェスター社は後継モデルを発表しました。

当初はブラックタロンSXTとして市場に登場しましたが、その後、コーティングを施されないレンジャーSXTや、レンジャータロンの名で販売されました。

弾頭は銅合金ジャケットで、ブラックタロンの特徴である黒い弾頭は廃止されました。

SXTは「Supreme eXpansion Technology」の略で、大きく拡張する弾頭であることを強調していますが、一部ユーザーの間では「Same eXact Thing(旧ブラックタロンと全く同じもの)」と揶揄されました。

レンジャーSXTは、ブラックタロンと同じ「逆テーパー」設計を採用しており、弾頭が放射状に拡張する際、鋭い爪状のペタルがターゲットに対して直角に留まるよう設計されています。

従来の弾薬では、弾頭が拡がる際に完全に折り返し、鉛の部分が露出することが多かったのに対し、SXTはペタルが剥がれることなく構造が保持されます。これは、ストッピングパワーを保つための工夫といえます。

また、2009年には「PDX1」という新しいホローポイント弾が発表され、これはブラックタロンやレンジャーSXTの設計を引き継ぎつつ改良が加えられています。

PDX1は、弾頭とペタルが一体化した構造により、着弾時にコアとジャケットが分離しにくくなっており、ハードターゲット貫通後も構造が保たれる設計です。

この弾薬は法執行機関にも採用されており、FBIにも利用されました。

米軍のM1153弾はブラックタロン?

M1153画像
M1153とM1152 画像出典:americanrifleman.org

米軍に採用されたM1153ホローポイント弾は、「ブラックタロンに似ている」と指摘され、これに対して弾薬を供給するウィンチェスター社は「似ているのは偶然」と回答しています。

陸軍のMHS(モジュラーハンドガンシステム)契約において、M17ピストルに採用された弾薬としてウィンチェスターの「M1153スペシャルパーパス」(147グレインのホローポイント弾)と「M1152ボール」(115グレインのフルメタルジャケット弾)があります。

50メートルでバリスティックジェルを14インチ貫通することを採用条件とし、この弾薬は条件をクリアしています。

ウィンチェスター社は、アメリカ政府に長年弾薬を提供しており、MHS契約においてもその経験が評価されました。

米軍においてホローポイント弾の使用は、「過剰な貫通を避け、周囲への二次被害を最小限にする」という目的のために求められています。

ホローポイント弾の使用は1899年のハーグ条約に抵触しないと判断されており、米軍特殊部隊も以前から同等の弾薬を使用していました。

各弾薬のデータ

弾薬名弾頭重量銃口初速マズルエナジー
ブラックタロン
(9mm)
147 gr983 fps316 ft-lbf
レンジャーSXT
(9mm)
147 gr990 fps 320 ft-lbf
PDX1
(9mm)
147 gr889 fps258 ft-lbf
M1153
(9mm)
147 gr962 fps302 ft-lbf
9mm NATO
(9mm FMJ)
124 gr1296 fps463 ft-lbf

最後までお読みいただきありがとうございます。

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