
1980年代後半までアメリカの法執行機関は主にリボルバー(.38スペシャルや.357マグナム)を採用していました。リボルバーは構造がシンプルで誰でも扱いやすく、信頼性の高さが評価されていました。
しかし、1980~1990年代に信頼性の高い大容量のハイキャパシティー・マガジンが備わったセミオートピストルが普及するようになると、それまで法執行機関で使用してきたリボルバーの装弾数(5~6発)では不十分となり、リボルバーからセミオートピストルへと置き換えるようになりました。
アメリカの法執行機関で装備近代化のきっかけとなった事件には、「ノルコ銃撃事件(1980年)」「FBIマイアミ銃撃事件(1986年)」「ノースハリウッド銃撃事件(1997年)」などがあり、多くの被害を出した事件の教訓から火力を増強した歴史があります。
現在、アメリカの法執行機関ではGlock、S&W、H&Kなどの有名銃器メーカーの製品を採用し、使用弾薬には9mm弾や.40S&W弾が多く利用されています。
この記事では、こうした銃器を中心に、アメリカの法執行機関が現在採用しているピストルを詳しく紹介します。
この記事(全4ページ)では、次のことを学べます:
Glock(グロック)

Glock(グロック)は、オーストリアの銃器メーカー「Glock Ges.m.b.H.」が製造するブランドです。
1980年にオーストリア軍が新しい制式採用ピストルの入札を発表したため、銃器設計の経験がなかったガストン・グロック氏(1929~2023年)がポリマー素材の知識を活かしてGlockピストルを開発しました。
このピストルはGlock社の製品で17番目の特許となったことから「Glock 17」と名付けられました。
Glockピストルは、ポリマー製フレーム、ショートリコイル、ストライカー式、ロックドブリーチという特徴があります。
Glockピストルは1982年に「P80(ピストル80)」としてオーストリア軍に採用。高い信頼性と安全性により、軍の他、法執行機関や民間市場でも高く評価されています。
現在では少なくとも48か国の軍や警察で採用され、競技や自衛目的での民間利用も広がっており、1992年までに350,000丁以上を販売。特にアメリカ市場で大きな成功を収めています。
Glockピストルは第一世代から第五世代まで発展しています。
世代 | 主な特徴 |
---|---|
第1世代 (Gen 1) | スムーズな「ペブルフィニッシュ」のグリップ フィンガーグルーブなしのフレーム ペンシルバレル(細い銃身) 「タッパーウェア」スタイルのプラスチックガンケース (初期モデル) |
第2世代 (Gen 2) | チェッカー仕様グリップ 銃身の肉厚増加 |
第3世代 (Gen 3) | アクセサリーレール採用(ユニバーサルグロックレール) レーザーやタクティカルライトの装着が可能に |
第4世代 (Gen 4) | 反動を抑えるデュアルリコイルスプリングシステム モジュラーバックストラップシステム (グリップサイズ調整可能) 大型化したマガジンキャッチ 粗いテクスチャーのフレーム 改良されたトリガーハウジング |
第5世代 (Gen 5) | アンビ(両利き対応)のスライドストップ グリップのフィンガーグルーブ廃止 フレア加工されたマグウェル (マガジン挿入が容易に) マッチグレードの「グロックマークスマンバレル」(命中精度向上) スライドとバレルに耐久性の高いnDLCフィニッシュ |
Glock 17

使用弾薬 | 装弾数 |
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9x19mm | 17発 |
Glock 17は、1982年に登場した9mm弾を使用するセミオートピストルです。当初は民間モデルとして「Glock 82」という名称が検討されましたが、最終的に「Glock 17」と命名されました。
スタンダードなマガジン装弾数は17発ですが、様々なバリエーションが展開されています。「+2ベースプレート(エクステンション)」を利用することで19発まで増量可能で、装弾数規制のある地域向けには10連マガジンも用意されています。さらに、装弾数24発や33発のマガジンも使用できます(33連マガジンはフルオートモデルのGlock 18用として知られていますが、他の9mm仕様Glockピストルとも互換性があります)。
Glock 17の特徴の一つは、豊富なカスタマイズ性です。サプレッサーに対応するスレッドバレル、光学機器搭載に対応するモジュラーオプティックシステム(MOS)対応スライド、ウェポンライト搭載に対応するユニバーサルGlockレールなど、豊富なアクセサリー類に対応した選択肢が用意されています。
また、Glock 17には複数の派生モデルが存在します。

Glockピストルはボアアクシス(銃身軸)が低く配置されているため速射性が高く、とても撃ちやすい銃です。トリガープルがMGCのGlock(ガスガン)と似ていると思うのは私だけでしょうか・・・。Glock 17の長所は、「装弾数が多い」「信頼性が高い」「命中精度が高い」「マズルジャンプが小さい」「カスタマイズ性に優れる」です。短所は、「サイトが貧弱」「トリガープルが並レベル」ですが、手が大きいユーザーにはスライド後退時にスライドが手に接触する「スライドバイト」の問題や、フィンガーグルーブが備わったモデルでは、万人の手にフィットしないなどの問題があります。
Glock 17 採用組織例
Glock 19

使用弾薬 | 装弾数 |
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9x19mm | 15発 |
Glock 19は、1988年にGlock 17のコンパクトバージョンとして登場したモデルです。
銃身とグリップを約12mm短縮することで携帯性を高め、軍や法執行機関で広く採用されています。
スタンダードマガジンの装弾数は15発ですが、ニーズに応じて様々なマガジンを使用できます。10連マガジンの他、+2ベースプレートを装着することで17発まで増量可能。さらに、Glock 17やGlock 18用のマガジン(17発、19発、24発、33発)との互換性もあります。
スライドを除く多くのパーツがGlock 17と互換性があり、スレッドバレルやMOS(モジュラーオプティックシステム)対応スライドカットなど、カスタマイズオプションに対応しています。
主要な派生モデル
その他、カナダ市場向けに製造された「Glock 19 カナディアン」は、106mmバレルを採用し、スライド右側にメープルリーフのレーザー刻印が施されています。
Glock 19は、コンパクトなサイズながら高い拡張性を持ち、Glockシリーズの中でも特に高い人気を誇るモデルです。

G19はコンパクトでありながら十分な装弾数を持ち、各国の軍や特殊部隊でも採用されています。個人的にGlockシリーズで最もおすすめのモデルです。
Glock 19 採用組織例
Glock 22

使用弾薬 | 装弾数 |
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.40S&W | 15発 |
Glock 22は、1990年に登場した.40 S&W弾対応のフルサイズピストルです。
.40 S&Wのサイズと威力に対応するよう調整され、信頼性とパワーを兼ね備えたモデルです。
スタンダードマガジンの装弾数は15発ですが、他にも装弾数の選択肢が用意されています。
Glock 22は、.40 S&W弾の高いストッピングパワーとGlockブランドならではの堅牢な設計により、法執行機関から高い評価を得ています。
豊富なカスタマイズオプションと実用的な性能を備え、第一線で活躍し続けている信頼性の高いモデルです。

1993年の映画「逃亡者」でトミー・リー・ジョーンズ(連邦保安官補役)が装備していたのがGlock 22(Gen2)でした。Glock 22はトリガーリセットやグリップの大きさに不評があり、手の小さい射手には向かないかもしれません。しかし、法執行機関で採用されるなど、一定の評価を受けています。
Glock 22 採用組織例
Glock 26

使用弾薬 | 装弾数 |
---|---|
9x19mm | 10発 |
Glock 26は、1995年に登場した9mm弾を使用するサブコンパクトピストルです。
民間市場向けに開発されながら、その優れた性能によりアメリカ海軍ではMK 26として採用されています。
従来モデルからの単純な小型化ではなく、以下の要素を再設計することで、コンパクトながら高い性能を実現しています。
Glock 26はGlock 19よりもさらにコンパクトな設計ながら、豊富なマガジンオプションも用意しています。
MOSオプション対応ですが、ユニバーサルレールは備わっていません。(携帯性重視設計)
アメリカ税関・国境警備局向けGen 5モデルでは、以下の特徴があります。
Glock 26は、高い携帯性と拡張性を両立し、コンシールドキャリー(隠匿携帯)用ピストルとして確固たる地位を築いています。
コンパクトなサイズながら本格的な性能を備え、実用性の高さから高い評価を得ています。

コンパクトで予備のバックアップガンとしても利用されます。映画「ジョン・ウィック」に登場していることでも有名です。携帯性を重視した設計のため、「レール類が無い」「装弾数が少ない」「グリップが安定しにくい」「有効射程距離が短い」などの妥協点があります。
Glock 26 採用組織例
Glock 27

使用弾薬 | 装弾数 |
---|---|
.40S&W | 9発 |
Glock 27は、Glock 26の.40口径バージョンです。
.40S&Wを使用し、スタンダードマガジンでは装弾数9発ですが、+1ベースプレートで10発に増やすことも可能です。さらに、Glock 22や23のマガジンを使えば、13発から22発まで対応します。
小型ながらも高い火力を持ち、専用のスペーサーを使えば長いマガジン使用時でも快適なグリップを実現可能。
携帯性と拡張性を両立させたGlock 27は、コンシールドキャリー(隠匿携帯)用ピストルとして、法執行機関や民間のユーザーに支持されています。

Glock 27はメディアへの露出も少なく、Glock 26と比較すると知名度が低いところがありますが、バックアップとして利用する場合にメインの.40口径ピストルと共通の弾薬を使用したいユーザーには重宝されます。
Glock 27 採用組織例
S&W(スミス&ウェッソン)

S&W(スミス&ウェッソン / Smith & Wesson Brands, Inc.)は、1852年に創業されたアメリカの有名銃器メーカーで、ホレース・スミス氏とダニエル・B・ウェッソン氏によって設立されました。
リボルバーやピストルをはじめ、ライフル、ピストルカービン、レバーアクションライフル、手錠、サプレッサー、その他の銃器関連製品を製造しており、「Smith & Wesson」「M&P」「Gemtech」などのブランド名で販売されています。
S&W 5946

使用弾薬 | 装弾数 |
---|---|
9x19mm | 15発 |
S&Wモデル5946は、法執行機関向けに設計されたピストルで、過酷な環境にも耐えられる耐久性が備わっています。1990年から1999年まで製造されていました。
最大の特徴は、オールステンレススチール製のボディです。これにより、サビや摩耗に強く、長期間にわたって機能を維持します。
また、ダブルアクションオンリー(DAO)トリガーを採用しており、トリガーを引くことで連動してハンマーがコックされ、発射される仕組みになっています。この設計により、誤射のリスクが低減して安全性が向上した他、高い背即応性を持ちます。
主な特徴は以下の通り。
S&Wモデル5946は法執行機関に求められる耐久性、安全性、精度を兼ね備えた優れたピストルで、同シリーズのモデル5906は日本の海上保安庁でも採用されています。

モデル5900シリーズは、スミス&ウェッソン社が1989年から1999年にかけて製造した人気のシリーズです。シリーズにはいくつかのバリエーションがあり、それぞれに特徴があります。
モデル | 製造期間 | 特徴 |
---|---|---|
5903 | 1990年〜1997年 | アルミ合金フレーム ステンレススチール製スライド 15連ダブルスタックマガジン |
5904 | 1989年〜1998年 | アルミ合金フレーム スチール製スライド 15連マガジン |
5905 | 1991年のみ | スチール製スライドとフレーム 限定生産 |
5906 | 1989年〜1999年 | オールステンレススチール製 アルミフレームモデルより重い |
5946 | 1990年〜1999年 | ステンレススチール製 ダブルアクション専用 セーフティーレバーなし |
5967 | 1990年のみ | 特別エディション 500丁限定 2トーンのタンポリマーフィニッシュ |

ビデオゲーム「バイオハザード」では、ジルバレンタインが「Beretta 92FSサムライエッジ」を装備していましたが、映画版ではS&W 5946とBeretta 92FSを装備していました。S&W 5946は現在では古い銃となりましたが、トリガープルのスムーズさと信頼性は高く評価されています。
S&Wモデル5946 採用組織例
S&Wモデル5906 採用組織例
S&W M&P9

使用弾薬 | 装弾数 |
---|---|
9x19mm | 17発 |
S&W M&Pは、2005年に登場したポリマーフレームのピストルで、もともとは法執行機関向けに設計されましたが、現在では民間市場でも広く販売されています。(金属フレーム版も存在します)
S&W シグマ(Sigma)およびSW99の設計を進化させたハイブリッド型で、改良されたトリガーとエルゴノミクス※によりカスタマイズが可能。グリップは18°の角度で設計されており、より快適な操作感を実現しています。
銃におけるエルゴノミクス(人間工学)とは、ユーザーが銃を快適かつ効果的に使用できるように設計することです。手にフィットするグリップ、バランス、反動の吸収、自然な照準位置、アクセサリの配置などが含まれます。これにより、射撃の精度が向上し、長時間の使用でも疲れにくくなります。
M&Pには以下の特徴があります。
M&Pは、安全性、耐久性、操作性を兼ね備えた多用途なピストルであり、法執行機関だけでなく、一般市場でも高い評価を得ています。
現在ではバージョンアップされたM&P M2.0が販売され、以下の改善点があります。

映画「ダイ・ハード/ラスト・デイ」やアニメ「リコリス・リコイル」で有名なピストルです。M2.0登場によるトリガープル改善で評価が上がりました。グリップの滑り止め効果も強化されましたが、逆に効果的過ぎて「携帯時に衣服が傷む」という声もあります。
S&W M&P9 採用組織例
S&W M&P40

使用弾薬 | 装弾数 |
---|---|
.40S&W | 15発 |
S&W M&P .40 S&Wは、法執行機関、軍、民間向けに設計された.40 S&W弾を使用するストライカー式セミオートピストルです。
基本性能は9mm版と同じですが、フルサイズモデルを比較すると以下の違いがあります。
項目 | .40 S&W | 9mm |
---|---|---|
弾頭重量 | 135〜180グレイン | 115〜147グレイン |
マズルエナジー | 350〜500 ft-lbf | 320〜420 ft-lbf |
反動 | 大きめ | 小さめ |
射撃速度と精度 | 反動の影響で速射が遅れがち | 速射性が高く、高い命中率 |
マガジン装弾数 | 15発 | 17発 |
銃の重量 | 687g(M&P40) | 680g(M&P9) |
弾薬のコストと流通 | やや高価で入手が難しい | 安価で入手しやすい |
.40口径版と9mm口径版はどちらも優れた性能ですが、最終的な選択は、射手の好み、スキルレベル、用途によります。

.40S&Wは9mmよりも反動が大きいですが、平均的な日本人の私でも15ヤード離れたターゲットに速射で命中させることは容易でした。S&W M&P40は撃ちやすくバランスの良いピストルです。言葉で表現するのが難しいですが、シャープにキビキビ作動するというよりも、スライドやトリガーがヌルっと作動する「粘り」のような感覚があります。装弾数、命中率、コストなどを総合的に判断すると、個人的には9mm版モデルの方がおすすめです。
S&W M&P40 採用組織例
次のページでは「SIG Sauer」と「H&K」を紹介します。