ご質問を頂きました。
「ライフルを除く散弾銃と22口径、38口径、45口径、357、44マグナムは主にソフトポイント(弾丸が鉛)を使用するため貫通力が弱く、防弾は比較的容易ですが 、トカレフ、9mm オートマチックは主にフルメタルジャケット(弾丸の表面を合金で包んである)の弾丸を使用するため貫通力が高く、防弾は難しい」と、何かに書かれていました。
これは44マグナムよりトカレフのほうが威力があるということですか?
トカレフ弾と.44マグナムの比較について解説します。
ソフトポイントとフルメタルジャケット
「ソフトポイント」とは、鉛のコアが銅のジャケットで覆われており、弾頭の先端だけ鉛が露出している弾頭です。
拳銃弾で消費量が多く最もポピュラーな弾頭はFMJ(フルメタルジャケット)ですが、FMJは先端も含めて弾頭の全体が銅のジャケットで覆われています。
FMJの多くは弾頭の底部は鉛が露出しており、底部もジャケットで覆っているものはTMJ(トータルメタルジャケット)と呼ばれます。
鉛は柔らかいため着弾時の変形が大きく、弾頭の先端で鉛が露出していると着弾時に潰れて弾頭直径が拡張されるため、ターゲットに大きなダメージを与えると同時に貫通力が低下します。
しかし同一条件下においてFMJは着弾時の変形が少ないためソフトポイントより貫通力が高くなります。
トカレフ弾(7.62x25mm)は軍用弾のため、多くはFMJを採用しています。
一方、.44マグナムは対人用や狩猟用として利用されるため、ソフトポイントやホローポイントが多く利用されています。
弾速とマズルエナジーの差異
トカレフ弾 | .44マグナム弾 | |
---|---|---|
口径 | 7.62mm | .44(11.2mm) |
銃口初速 | 1645 fps | 1200 fps |
マズルエナジー | 511 ft-lbs | 900 ft-lbs |
トカレフ弾と.44マグナムの弾速を比較するとトカレフ弾の方が高速です。
しかし、マズルエナジーを比較すると.44マグナムの方が大きくなります。
7.62x25mm トカレフ弾(FMJ)とその他の弾(FMJ)の比較
弾薬 | メーカー | 弾頭重量 gr | 銃口初速 fps | マズルエナジー ft-lbs |
---|---|---|---|---|
7.62x25mm トカレフ | Winchester | 85 | 1645 | 511 |
7.62x25mm トカレフ | S&B | 85 | 1647 | 512 |
7.62x25mm トカレフ | Prvi Partizan | 85 | 1720 | 558 |
7.63x25mm マウザー | Fiocchi | 88 | 1425 | 390 |
7.63x25mm マウザー | Prvi Partizan | 88 | 1509 | 427 |
7.65x21mm ルガー | Winchester | 93 | 1280 | 338 |
7.65x21mm ルガー | Fiocchi | 93 | 1200 | 300 |
7.62x38mmR ナガン | Prvi Partizan | 98 | 738 | 118 |
9mm ルガー | Federal | 115 | 1180 | 356 |
9mm ルガー | CCI | 124 | 1090 | 327 |
9mm マカロフ | Wolf | 95 | 1017 | 218 |
9mm マカロフ | Geco | 95 | 1015 | 212 |
5.7x28mm SS197SR | FN | 40 | 2034 | 256 |
.40S&W | PMC | 165 | 985 | 355 |
.45ACP | Winchester | 230 | 875 | 356 |
.357 SIG | Remington | 125 | 1350 | 506 |
.357 マグナム | Geco | 158 | 1295 | 593 |
運動エネルギー VS 弾速
トカレフ弾と.44マグナムのどちらがより威力があるのでしょうか?
これを考えるには「威力とは何を意味するのか」を明確にしたいところです。
国語辞典を参考にすると「威力=強い力や勢い」となりますが、銃は弾頭形状、弾頭重量、弾速、ターゲットの種類等、条件によって効果が異なります。
「運動エネルギー=威力」と捉えた場合、マズルエナジーが大きい.44マグナムの方が高威力と言えます。
スチールターゲットを撃ち倒す場合など、パンチ力は.44マグナムが勝ります。
しかし、NIJレベル3Aのボディーアーマーは.44マグナムをストップしますが、トカレフ弾はこれを貫通します。
ボディーアーマーを貫通させる目的においてはトカレフ弾の方が高威力と言えそうです。
銃撃戦で優位なのはどちらか?
トカレフ弾を発射するピストルと.44マグナムを発射するリボルバーを比較した場合、現実的にはどちらが優位でしょうか?
人体(流体)に対する効果
バリスティックゼラチンのテストにおいてFMJのトカレフ弾は最低でも約30インチを貫通し、JHP(ホローポイント弾)でも16インチ以上を貫通することからFBI基準値である12インチを超える必要十分な貫通力があります。
一方、JHPの.44マグナムでは約23インチを貫通します。
弾頭重量が115グレインのトカレフ弾と240グレインの.44マグナムでは、弾頭重量の重い.44マグナムは慣性力によって人体などの流体に対し高い貫通力を維持します。
また、.44マグナムの方が拡張時の弾頭直径が大きいため、より大きな永久空洞を形成します。
この結果からも、ボディーアーマーを着用していない人体に対しては.44マグナムの方が効果があると考えられます。
ただし、これは「目標に命中した場合」の仮定の話です。
命中しなければ貫通力の強さは無意味です。
速射性と命中率と装弾数
対人用として1発当たりのパワーは.44マグナム弾の方が強力ですが、銃撃戦で撃ちあった場合に.44マグナム弾が有利であるとは言えません。
.44マグナムは強力な弾薬であり、トカレフ弾を使用する銃より反動が大きい傾向があります。
反動の大きな銃はマズルジャンプ(銃口の跳ね上がり)が大きいため、速射性が低下します。
ターゲットに初弾を命中させ、それが相手の行動力を失わせる急所に命中すれば、その一発で終了します。
しかし、初弾が外れたり、相手の行動を阻止するには不十分な箇所(筋肉など臓器や中枢神経以外)に命中した場合、相手はまだ攻撃力を維持しており脅威となります。
そこで素早く次弾を命中させ、相手の反撃を阻止する必用があります。
速射性の悪い銃(弾薬)を使用したとき、速射性の良い銃と対決すれば撃ち負けるリスクが高くなります。
仮に、パワーで勝る.44マグナムを3発撃つ間にトカレフ弾を6発撃つことが可能なら、トカレフ弾の方が有利といえます。
こうした交戦時においては、1発当たりのパワーよりも、速射性の良さや装弾数の多さが重要視されます。
特にストレス状況下において緊張状態にあるときは平時より命中率が低下するため、反動が小さく装弾数の多いピストルが適しており、速射時でもコントロールしやすい銃と弾薬が求められます。
そのため、護身用のコンシールドキャリー用としても、.380ACP、9mm、.40S&W、.45ACPといった弾薬が多く利用される一方、トカレフ弾や.44マグナムはほとんど利用されません。
トカレフ弾は.44マグナムより速射性や装弾数で勝るものの、他の9mmなどの弾薬と比較して貫通力が高すぎるため、二次被害のリスクがあります。
まとめ
トカレフ弾が.44マグナムより適しているのは以下の場合です。
- ターゲットがボディーアーマーを着用している
- 軍用など、対人用護身用武器として使用
- 遠距離のターゲットを狙う必要がある
.44マグナムがトカレフ弾より適しているのは以下の場合です。
- キャンプ時など野外で熊などの大型動物から身を守る必要がある
- 鹿やアメリカグマ(小型の熊)などの狩猟用
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