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線状痕・線条痕とは何か? 銃弾に刻まれるライフルマークとライフリングの違いを解説

画像出典:slideplayer.com

テレビドラマでは、「線条痕(ライフルマーク)」の分析をよく目にします。

線条痕とは、銃から発射された弾丸に刻まれる、指紋のような唯一無二の痕跡のことを指します。

この微細な傷跡が、どのようにして弾丸に残されるのか、そしてそれが犯罪捜査においてどんな意味を持つのでしょうか?

この記事では、アメリカの法執行機関における鑑定を例として、「線条痕が形成されるメカニズム」「分析方法」「鑑定における利点と課題」「銃身の製造方法が線条痕に与える影響」など、多角的に掘り下げて解説します。

線条痕 / 施条痕(ライフルマーク)とは?

ライフリングと線条痕の基礎解説

riflemark
弾の側面に刻まれた施条痕(ライフルマーク)

線条痕(せんじょうこん) / 施条痕(しじょうこん)」とは、銃から発射された弾丸の表面に刻まれる痕跡を指します。

線条痕は「ライフルマーク」とも呼称されますが、これは和製英語的な表現です。

英語では「ストリエーション(Striations)」や「ライフリングマーク(Rifling marks / Land and groove impressions)」などの呼称が一般的です。

また、正確には「線条痕」と書きますが、「線状痕(誤記由来)」と表記されることもあります。

銃身内部のライフリング 画像出典:MatthiasKabel

銃身(バレル)の内側には、弾丸に回転を与えて飛翔安定性を高めるために斜めの溝が切られており、この構造をライフリング(施条 / 腔線)と呼びます。

1911ピストルの構造

銃身とは、弾丸を加速させる場所で、火薬の燃焼によって生じたガス圧で高速発射します。

弾丸がライフリングが施された銃身を通過すると、銃身内部の溝と接触した部分に痕跡が残ります。

これらの痕跡は、ランド痕グルーブ痕に分類されます。

ライフリング画像

ランドは銃身内部の盛り上がった部分(図A)、グルーブはランドの間にある溝部分(図B)を指し、それぞれ弾丸に対応した痕跡を形成します。

また同時に、その銃身特有の微細な傷や摩耗が弾丸に転写され、線条痕として残ります。

日本語では、ランドを「」、グルーブを「」と呼び、それぞれが対面する内径を「山径(ボア/ランドダイアメーター)」「谷径(グルーブダイアメーター)」と呼びます。

一般的に口径とは山径を指しますが、例外もあります。

口径についての詳細記事はこちら。

弾丸への痕跡形成と銃器識別の重要性

ライフリングは弾丸に回転を与えて飛行精度を高めますが、その過程で銃身内壁の微細な凹凸や傷、製造過程で生じる切削痕(ツールマーク)が弾丸の柔らかい表面に転写され、個々の銃器に固有の「指紋」のような線条痕が形成されます。

銃の画像
顕微鏡で見た発射された弾の表面
画像出典:forensicservices.utah.gov

この線条痕は銃身ごとに異なる痕跡であるため、法科学の専門家は犯罪現場で発見された弾丸から、使用された銃器を特定する重要な証拠として活用します。

線条痕の画像はNIBINのようなデータベースに登録され、複数の犯罪現場を同一の銃器に関連付けることで捜査に活用されます。

NIBIN(全米統合弾道情報ネットワーク / National Integrated Ballistic Identification Network)は、アメリカ合衆国のATF(アルコール・タバコ・火器・爆発物取締局)が運用する全国規模のコンピュータネットワークです。

主に犯罪現場から回収された薬莢や弾丸のデジタル画像をデータベース化し、他事件との関連性を調べることで銃犯罪の解決を支援します。

  • 仕組み
    • 警察が回収した薬莢や弾丸、押収銃の試射結果をIBISシステムで高精細2D/3D撮影し、NIBINに登録します。
    • データベースは数百万件以上の記録から自動検索を行い、他事件の証拠と似た痕跡を短時間で抽出します。
    • 類似が検出されると「NIBINリード」と呼ばれる未確認の関連情報として捜査官に通知されます。
    • 最終確認は専門の銃器鑑定官が比較顕微鏡で直接分析し、一致が確認されると「NIBINヒット」と認定されます。
  • 捜査上の価値
    • 複数事件で同じ銃が使用されたことを特定でき、未解決事件の関連付けや連続犯検挙につながります。
    • 銃の流通経路や犯罪パターン解明にも役立ちます。
    • NIBINヒットは刑事裁判における重要証拠として使用されます。
  • 特徴
    • 登録対象は犯罪証拠として押収または試射された銃弾・薬莢のみで、一般銃器所有者の情報は含まれません。
    • 全米で唯一、州をまたぐ銃犯罪データを自動照合できるシステムです。
    • 1999年の開始以来、74,000件以上のヒット実績があり、多数の銃犯罪解決に貢献しています。

NIBINは、銃犯罪現場の証拠を迅速に照合し、事件間の関連性を発見して犯人特定や犯罪抑止に活用される、アメリカの重要な捜査支援システムです。

IBIS(統合弾道識別システム / Integrated Ballistics Identification System)は、犯罪現場や押収銃の試射から回収した弾丸や薬莢を高精細2D/3D撮影し、データベースに登録・比較するための法科学ツールです。

カナダで開発され、アメリカのNIBIN(全米統合弾道情報ネットワーク)のベースとなっています。

  • 主な機能
    • 弾丸や薬莢の微細痕跡を高解像度で撮影
    • デジタル画像をデータベース化し、数学的特徴量を付与
    • 自動照合アルゴリズムで迅速に過去データと比較
    • 一致候補があれば、鑑識官が顕微鏡で最終確認
    • 各法執行機関間でデータ共有が可能
  • 効果
    • 複数事件で使われた同一銃の特定
    • 捜査の迅速化と精度向上
    • 銃犯罪の解決率向上

IBISは弾道解析用の技術ツール、NIBINはそのデータを全米で共有するネットワークです。

両者が連携することで、銃犯罪捜査の迅速化と広域照合が可能になります。

線条痕分析の検査方法

鑑定サンプルの回収と分析手順

銃の画像

押収された銃器から線条痕の比較に必要な既知のサンプルを得るためには、試射が行われます。

ピストルやリボルバーなどの弾速が遅い銃器の場合、水槽に発射して弾丸を損傷なく回収します。

ライフルなど弾速の速い銃器では、射撃場で十分な停弾能力のある標的を使用し、発射後に弾丸を回収します。

回収された証拠の弾丸と試射で得られた弾丸のサンプルは、比較顕微鏡を使用して同時に検査されます。

鑑定士は両方の弾丸を同時に観察し、線条痕のパターンが一致するかどうかを詳細に調べます。

線条痕の分析において、鑑定士は一致する連続したマークの数を探します。

特定の「一致」と見なされる連続一致の明確な基準は設定されておらず、鑑定士は証言の際に「十分な一致(sufficient agreement)」という表現を使用するように訓練されています。

全ての鑑定結果は、法廷での証言時に検察側と弁護側の双方から質問される対象となります。

線条痕分析の利点と欠点

線条痕分析の利点

線条痕分析には以下の利点があります。

  • 固有性の高さ:
    • ライフリングによって刻まれる線条痕は銃身ごとに異なるため、特定の銃器を識別する強力な手段となります。
  • 犯罪捜査への貢献:
    • 回収された弾丸を特定の銃器や、複数の犯罪現場に結びつけることで、捜査に貢献します。
  • データベースとの連携:
    • 線条痕の画像をNIBINのようなデータベースに登録することで、銃器犯罪の追跡や関連性の特定が容易になります。

線条痕分析の欠点

線条痕分析は、いくつかの課題も抱えています。

なかでも特定の銃器との「一致」を判断するための明確な科学的基準が不足している点が、専門家や報告書によって批判されています。

この「十分な一致」という表現の主観性に対する懸念が示されており、鑑定士の訓練と経験に依存する判断が客観性に欠けるという指摘もあります。

また、銃身の微細な線条痕は、発射ごとにわずかに変化する可能性があります。このため、鑑定士は押収された銃器から5発を超える試射を行わないことが推奨されています。

過去には、銃器の排莢パターン分析など、その有効性が疑問視された鑑定手法も存在しました。

現在のアメリカの法執行機関において、以下の手法は行われていません。

  • 比較鉛分析(Comparative bullet-lead analysis)
    • 弾丸の鉛の元素組成を比較することで発射銃を特定しようとする技術。
    • →2005年にFBIが科学的信頼性の問題から使用を中止しました。
  • 弾丸鋳型による個別特定
    • 19世紀には手作業で作られた弾丸鋳型の違いから発射銃を特定していました。
    • →現代では工業規格化によりこの方法は廃れています。
  • 排莢パターン分析による射手位置の特定
    • 薬莢排出位置から射手位置を断定する技術は、誤差が大きく信頼性が低いとされます。
    • →現在は補助的・参考的情報に留められています。

線条痕が変化する原因

銃身の製造方法と線条痕への影響

ライフリングの製造方法には主に3つの種類があり、それぞれが線条痕の性質に異なる影響を与えます。

カットライフリング (Cut Rifling)

カットライフリングの製造方法

「カット(切削)ライフリング」は、高精度に制御されたカッターを使用し、銃身の内側から金属を複数回にわたって削り取りながらライフリングの山(ランド)と谷(グルーブ)を形成する方法です。

銃身を回転・送ることで螺旋状の溝を作り、これを全てのグルーブに対して繰り返し、徐々に深く削り込んで目的の形状に仕上げます。

カットライフリングの線条痕への影響

この方法では、カッターのわずかな不完全さや摩耗、切削時に生じる金属の削りカス(チップ)によって、非常に特徴的で不連続な微細な工具痕が銃身内部に形成されます。

これらの不規則な痕跡は、発射された弾丸に特有の個性を与え、法科学的な銃器識別の根拠となります。

一部の「製造ロット痕」も存在する可能性がありますが、通常は個別の工具による痕のユニークさがそれを上回ります。

カットライフリングの特徴と用途
  • 利点:
    • ライフリングの溝の形状、数、ねじれ率(ツイストレート)を柔軟に調整できるため、多様な設計に対応できます。
    • 銃身へのストレスが少なく、精密な加工が可能で、カスタム銃器や競技用銃身に適しています。
  • 欠点:
    • 製造に時間がかかり、大量生産には不向きでコストが高くなります。
    • 合金によっては効率的な切削が難しく、最適な内部仕上げにはその後の研磨(ラッピング)が必要です。
  • 主な用途:
    • カスタムの競技用銃身、マッチグレード(高精度)銃身、高品質な狩猟用ライフルなどで使用されます。

ボタンライフリング (Button Rifling)

ボタンライフリングの製造方法

ボタンライフリングは、銃身内部に圧力でライフリングを形成する方法です。

銃身内部はドリル加工とリーマ加工によってあらかじめ目的の口径寸法まで仕上げられています。その後、「ボタン」と呼ばれる超硬合金製の硬い工具を使用します。

ボタンは、外周にライフリングのパターンが正確に刻まれており、形状は形成したいライフリングの逆パターンになっています。加工では、このボタンを高い油圧で銃身内部に押し通すか、または引き抜きます。すると、銃身内面の金属が塑性変形によって押し広げられ、ボタンの刻まれたパターンがそのまま銃身内面に転写される仕組みです。

この方法は切削によって金属を削り取るのではなく、金属を押し広げることによって溝を形成するため、加工速度が速く、生産性に優れています。また、金属表面が圧延されるため、仕上がりの内面は非常に滑らかで硬化されるという特徴があります。このため、命中精度の安定性や耐摩耗性においても利点があります。

ボタンライフリングの線条痕への影響

この加工では、ドリル加工やリーマ加工によって生じた既存の微細な痕跡が、ボタンによって最終的な溝の表面に押し固められます。

ボタン自体の摩耗や微細な欠陥、そして以前の加工工程で生じた痕跡が、発射される弾丸に個性を与えます。

カットライフリングに比べて、より粗い工具痕は少ない傾向がありますが、ボタンのわずかな欠陥や銃身への押し込み方によって生まれる微細な特徴が法科学的な識別を可能にします。

ボタンライフリングの特徴と用途
  • 利点:
    • 製造速度が速く、均一で経済的なため、大量生産に適しています。
    • 滑らかな内面仕上げを実現し、表面硬度を高める効果もあります。
  • 欠点:
    • 銃身内部に応力が発生するため、その後の熱処理による応力除去が必要です。
    • ボタンは特定のねじれと形状に合わせて作られるため、設計変更の柔軟性は低くなります。
  • 主な用途:
    • 大量生産される多くのライフル銃身(狩猟用、スポーツ用、一部の精密ライフル)、ピストルやセミオートライフルの大量製造に利用されます。

冷間鍛造 / コールドハンマーフォージング(Cold Hammer Forging / CHF)

冷間鍛造ライフリングの製造方法
銃の画像
画像出典: researchgate.net

コールドハンマーフォージング(冷間鍛造)は、ライフリングの逆パターンが刻まれた硬化鋼製の「マンドレル(芯棒)」を銃身の素材に挿入し、外部から複数の超硬合金製または鋼製のハンマーで同時に叩きつけることで行われます。

高圧で高速な工程により、室温で銃身の素材がマンドレルの周りに圧縮され、ライフリングだけでなく、しばしば薬室(チャンバー)も一度に形成されます。

冷間鍛造ライフリングの線条痕への影響

この方法では、マンドレルやハンマー、およびそれ以前の機械加工工程で生じたあらゆる微細な痕跡が、銃身内部に刻み込まれ、冷間加工されます。

カットライフリングに比べて不規則な工具痕は少ない傾向があり、線条痕はより「滑らか」に見えることがありますが、工具のわずかな不完全さや取扱いの差によって生じる微妙な特徴が法科学的な識別を可能にする個性を出します。

冷間鍛造ライフリングの特徴と用途
  • 利点:
    • 非常に高い生産速度と効率性を誇り、大量生産に最適です。
    • 銃身は滑らかで硬く、耐久性に優れた表面仕上げとなり、加工硬化により強度と耐摩耗性が向上します。
  • 欠点:
    • 大規模で高価な機械設備とインフラが必要であり、初期投資が高額になります。
    • 設計変更の柔軟性は他の方法に比べて低く、一部の表面仕上げの精度はカットライフリングほどではない場合があります。
  • 主な用途:
    • 標準的な軍用銃器や法執行機関用ライフル(多くのヨーロッパ製軍用銃身など)、大量生産される市販銃器(多くのピストルやスポーツライフル)など、耐久性と迅速な生産を重視するメーカーで広く採用されています。

ライフリング製造法と影響のまとめ

ライフリングの製造法とその影響をまとめると以下のとおりです。

  • カットライフリング
    • 金属を削って溝を作る方法で、高精度かつ設計自由度が高いですが、製造に時間とコストがかかります。
    • 線条痕には不規則で個性的な痕跡が残るため、法科学鑑定においても個別識別が容易です。
    • 主に精密射撃用カスタムバレルや競技用銃に使われます。
  • ボタンライフリング
    • 硬いボタンで金属を押し広げて溝を形成する方法で、製造が速く滑らかな仕上がりになりますが、内部応力が発生し、設計変更には不向きです。
    • 線条痕には既存の痕跡が押し込まれる形で個性が出ます。
    • 大量生産されるライフルやピストルに広く使用されます。
  • 冷間鍛造ライフリング(コールドハンマーフォージング)
    • 鍛造で金属を圧縮して溝を作る方法で、耐久性が高く大量生産に適していますが、設備投資が高額で設計変更も難しいです。
    • 線条痕は比較的滑らかですが、微細な個性が残ります。
    • 軍用ライフルや大量生産の商用銃器に多く採用されています。
項目カットライフリングボタンライフリングコールドハンマーフォージング
(冷間鍛造)
プロセス金属除去(削り出し)金属の塑性変形(押し込み)金属圧縮(鍛造)
利点高精度、柔軟な設計高速、滑らかな仕上がり、安定生産高耐久性、高速生産、滑らかな銃腔
課題時間がかかる、コストが高い内部応力発生、設計柔軟性が低い高額な設備投資、設計柔軟性が低い
個性強く、不規則な個別の痕跡個性あり、既存の痕跡を押し込む微妙で「滑らかな」固有の痕跡
用途カスタムバレル、競技用銃器、試験用銃身大量生産ライフル/ピストル、スポーツ用銃器軍用ライフル、大規模商用生産

銃身の使用による変化

.22-250レミントンバレル Image courtesy of ultimatereloader.com

銃身の製造方法は、銃身に固有の微細な傷や痕跡を生じ、これが線条痕の「個性」を形成します。

しかし、銃器が繰り返し使用されると、銃身内部のライフリングは摩耗します。

また、不適切な手入れや保管による腐食、発射時の高温ガスによる焼損も発生します。

これらの変化は、銃身の微細な特徴を変え、結果として発射される弾丸に刻まれる線条痕もわずかに変化する可能性があります。

ホローポイント弾とペーパーパッチ弾による影響とは?

ホローポイント弾でも線条痕は残るのか?

ホローポイント弾画像

ホローポイント弾でも線条痕が残りますか?」と質問されることがあります。

はい、ホローポイント弾でも線条痕は残ります。

ホローポイント弾は先端に空洞があることを特徴としますが、弾丸の側面は通常通り銃身のライフリングと接触します。この接触によって、弾丸の側面に銃身特有の線条痕が刻まれます。

弾頭の形状が異なっても、銃身内を通過する際にライフリングから受ける圧力や回転によって、線条痕は同様に形成されます。

ホローポイント弾の詳細は以下の記事をご覧下さい。

ペーパーパッチ弾でも線条痕は残るのか?

スイス製7.5mm GP90/03実包画像
スイス製7.5mm GP90/03実包。ペーパーパッチ弾、薬莢、PC88発射薬、完成した弾薬。
画像出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Special:Contributions/213.55.184.226 213.55.184.226 (talk) 10:30, 17 September 2016 (UTC), CC0, via Wikimedia Commons

映画などでは、線条痕を残さない方法として「ペーパーパッチ弾」が登場することがあります。

ペーパーパッチとは?

ライフリングが発明され弾速が上がると、鉛弾の発射で銃身に鉛が残ることが問題となりました。鉛は融点が低く柔らかいため、高速発射すると摩擦熱で溶けます。鉛残渣は「レッディング」と呼ばれ、ライフリングの溝を鉛が埋めることで命中率が低下します。

この対策として、現在もマズルローダー(前装式銃)や黒色火薬ライフルで使われているのがペーパーパッチです。

ペーパーパッチングとは、弾丸を銃身径(山径)で鋳造し、溝径(谷径)に合わせるために弾丸側面に紙を巻く方法です。

ペーパーパッチ(名詞) = 弾丸を覆う紙
ペーパーパッチング(動名詞) = その紙を巻く作業・方法

強く正確に切った紙を2回巻く人もいれば、タバコ用ライスペーパーやクッキングペーパー、ワックス紙、シリコン加工ベーキングペーパーなど様々な紙を使う人もいます。

紙の幅は弾丸の接触面より少し長く、余った部分は弾底に折り込んだりねじって弾底の窪みに収めます。紙は水で湿らせて柔らかくし、密着性を高めた上で巻き付けます。乾燥後に潤滑剤を塗る場合もあります。

ペーパーパッチ弾は高い精度が得られるとされますが、製作には手間がかかります。精度向上が紙によるものか、パッチを丁寧に巻く射手の作業均一性によるものかは議論がありますが、現在も一部の射撃愛好者が約2,000 fps(約610 m/s)までの速度で使用しています。

ペーパーパッチ弾を発射したとき、紙はどうなるか

発射すると、紙は弾丸と銃身の間で強く押しつけられます。

紙はライフリングの溝に押し込まれ、回転を弾丸に伝えます。

そして銃口を出るときに破れたり剥がれたりして、弾丸から離れます。

線条痕は残るのか

通常の鉛弾では、ライフリングの山と溝が弾丸に直接刻まれるため、はっきりとした線条痕が残ります。これにより、どの銃から撃たれた弾かを特定できます。

一方、ペーパーパッチ弾では、紙が間にあるため、以下のようになります。

  • ライフリングの刻みは紙に刻まれる
  • 弾丸そのものには、ほとんど線条痕が残らない
  • 紙がとても薄かったり破れたりすると、うっすらと跡がつく場合もあるが、非常に不鮮明

捜査への影響

犯罪捜査では、弾丸についた線条痕や微細な傷を手がかりにして、使われた銃を特定します。

しかし、ペーパーパッチ弾の場合は、ライフリングの本数や幅などの特徴すら分からないことが多く、銃身固有の微細な傷(工具痕)はほとんど転写されない状態になります。

このため、ペーパーパッチ弾から銃を特定するのは困難な場合があり、他の証拠(火薬残渣成分や薬莢の分析など)から捜査が進められる可能性があります。

まとめ

線条痕(ライフルマーク)は、銃身内のライフリングによって弾丸に刻まれる微細な痕跡で、銃器鑑定の重要な証拠です。

これらの痕跡は製造時の工具痕や使用による摩耗で銃ごとに異なり、弾丸と銃器を特定して結び付けることができます。

鑑定では、押収銃器を試射して得たサンプルと証拠弾丸を比較顕微鏡で照合し、「十分な一致」が確認されれば関連性が立証されます。

また、線条痕データはNIBINなどのデータベースに登録され、犯罪捜査で銃器の特定や事件間の関連付けに活用されます。

ただし、線条痕分析には、客観的基準の不明確さや鑑定士の主観性、銃身の摩耗による変化といった課題もあります。