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銃身のポリゴナルライフリングとは?

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Photo via impactguns.com

ポリゴナルライフリングとは、どんなライフリングなのでしょうか?

従来のライフリングと何が違うのでしょうか?

今回はポリゴナルライフリングについて解説します。

ライフリングとは?

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Photo via Wikipedia

ライフリングとは銃身(バレル)内に斜めに刻まれた溝です。

弾頭が銃身内を加速する際、ライフリングの溝が弾に回転を与えることで空中での直進性を高めます。

回転するコマが直立するように、物体を回転させると姿勢が安定するというジャイロ効果を利用しており、ライフリングにより高い命中精度が実現されます。

ポリゴナルライフリングとは?

ポリゴナルライフリングの構造

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ポリゴナルライフリング(右) Photo via wikipedia

ポリゴナルは多角形という意味です。

通常のライフリング(図左)は山と谷が急な形状をしている反面、ポリゴナルライフリング(図右)は、なだらかな多角形の山と谷になっています。

ポリゴナルライフリングは通常のライフリングより発射ガスが漏れにくいため弾速が向上する特徴があり、またクリーニングが容易という利点があります。

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ポリゴナル型(左)とエンフィールド型(右)のライフルマーク Photo via slideplayer.com

一方、欠点としては、現在ではポリゴナルライフリングの製造法として大量生産に向いているコールドハンマー法を利用しているため長距離射撃や精密射撃には不向きなうえ、キャストブレット(ジャケットで覆われていない鉛の弾)は異常腔圧になりやすいため使用できないという欠点があります。

「ポリゴナルライフリングは弾に回転がかかりにくい」と誤解されがちですが、通常のライフリングと同様に回転が掛かります。

ポリゴナルライフリングの利点

  • 弾頭に残る凹凸が少ないため空気抵抗が減少し命中精度に良い影響がある
  • ガス漏れが少ないため弾速が向上する
  • 弾頭の変形が小さいため摩擦が少なく弾速が向上する
  • 従来のライフリングより耐圧性に優れる
  • 銃身命数が長い
  • 汚れが残りにくく、クリーニングが容易

ポリゴナルライフリングの欠点

  • 異常腔圧になりやすいためキャストブレット(鉛のみの弾頭)は推奨されない
  • コールドハンマー法で製造されるため精密射撃(長距離射撃)に適さない
  • 製造機械が高価なため小ロット(中小企業)ではコストパフォーマンスが低い

ホイットワース(ウィットワース)ライフル開発の歴史

1852年のイギリス軍ではライフルの質が問題視され、同一モデルのパーツでも個々のパーツによって互換性がないといった問題を抱えていました。

そこで技術者のジョセフ・ホイットワースが起用されて原因を探ることになり、「製造技術に問題があるのではなく、ライフルの設計に問題がある」と結論付けられました。

その後イギリス政府はライフルの性能を向上させることを要請し、ホイットワースは試験場を設立。

1854年にポリゴナルライフリングを利用した大砲を製造し、この技術をライフルに転用します。

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ホイットワースライフル Photo via reserchpress

ホイットワースライフルの開発は1854年から1857年まで行われ、1857年から1865年まで製造されました。

当時イギリス軍に採用されていたエンフィールドM1853(前装式パーカッションライフル)は、500ヤードの距離で27インチ(約69cm)の集弾でしたが、ホイットワースが設計したポリゴナルライフリング採用のライフルでは500ヤードで4.44インチ(約11.3cm)という圧倒的な集弾性能を出していました。

距離ホイットワースの集弾エンフィールドの集弾
500ヤード4.44インチ26.88インチ
800ヤード12インチ 49.32インチ
1100ヤード28.92インチ 96.48インチ
1400ヤード55.44インチ 命中せず
1800ヤード139.44インチ 命中せず

エンフィールドM1853はライフリングによる回転が不十分なため飛翔中に弾頭が横転し、命中率低下の原因となっていましたが、ホイットワースが設計したポリゴナルライフリングと弾頭は十分な回転を得ることができ、遠距離でも精度を維持しています。

ところが、ホイットワースライフルはエンフィールドM1853の4倍の製造コストが掛かるうえ、古いパーカッション方式ということもあり結果的にイギリス軍に採用されず、マルティニ・ヘンリーライフルやスナイダーライフル(スナイドル銃)といったブリーチローダーのライフルが採用されています。

しかし、ホイットワースライフルは当時最高水準の命中精度を持つライフルであり、アメリカ南北戦争においてアメリカ連合国陸軍(南軍)の「シャープシューターズ(狙撃チーム)」に採用され、歴史上初のスナイパーライフルとなります。

そして1864年の「スポットシルバニア・コートハウスの戦い」では1000ヤード(約914m)の距離からジョン・セジウィック北軍将軍の顔に命中し射殺。

これは南北戦争中で北軍最高位の損失となりました。

その後、約50年間はポリゴナルライフリングが廃れていたものの、第二次世界大戦で日本軍の有坂銃やドイツ軍のMG42で再び採用され、現在ではH&K社、グロック社、CZ社のピストルの他、デザートイーグル、H&K G3A3、PSG-1/MSG90などで採用されています。