PR

AR-15のフェーズドアレイガスポートとは?ガス作動銃の仕組み

弾の画像

ガス作動方式のライフルに利用される「フェーズド・アレイ・ガスポート」について質問をいただきましたので解説します。

ガイズリーが特許出願したフェーズド・アレイ・ガスシステム(DI式)なるものは
連射速度が早くなりがちなAR15を650RPM(サイレンサー装着時は700~750)に抑制できる…、と聞くのですが、具体的にどの様なシステムとなるのでしょうか?
また、DI式…というよりはストーナー・ガスシステム以外にも同様のものが利用できるのでしょうか?(その前にガイズリーの特許ではあるのですが…)

ガイズリー(Geissele)から発表されたフェーズドアレイガスポートは、簡単に説明すると「ガス圧をソフトに取り込むシステム」です。

そして、このシステムは(権利関係の問題を除けば)他のガス作動方式のライフルでも技術的に使用可能です。

この「ガス圧をソフトに取り込む」という意味を理解するために、まずはガス圧利用方式で作動するライフルの基本構造について簡単に解説します。

ガス作動ライフルの構造

ライフルの画像

オートマチックライフルやマシンガンでは、ガスの圧力を利用して作動する構造が多く利用されています。

ガスは装薬の燃焼により発生し、高温高圧のガス圧が銃身内(バレル内)の弾頭を加速させます。

そしてガス圧を利用してボルトを後退させ、排莢と装填を自動的に行います。

この画像はCZ805BRENライフルのガスポートの中を横からみた状態です。

フロントサイトの近くにガスブロックがあります。

ガスブロックは、発射時に銃身内に空いた穴(ガスポート)からガスを取り込みます。

ガスピストン方式では取り込んだガスでピストンを後退させ、DI方式ではマガジン直上に位置するボルトキャリア内にガスを取り込んでボルトを後退させ、排莢と次弾装填を行います。

このシステムはシンプルでありながら信頼性が高く、様々なライフルやマシンガンに利用されています。

しかし、どのようなシステムであっても長所と短所があるように、このシステムにも問題があります。

その問題のひとつとなるのが、「熱によるエロージョン(焼損)」です。

熱によるエロージョン(焼損)の問題

Photo via Lucky Gunner Ammo

高温高圧のガスが繰り返しガスポートに流入すると、次第に穴の周囲が削れて穴が大きくなったり、耐久性が低下し、銃身の寿命(銃身命数)に影響します。

初期段階ではマイクロクラックと呼ばれる目視できない小さなひび割れが生じ、装薬燃焼後の残渣(カーボン)が付着します。

銃身内にはカーボンが「付着した部分」と「付着していない部分」があり、この差によって熱による劣化の度合いに差が生じます。

そして、脆弱になった部分は剥がれ落ちやすくなり、そこへ高圧ガスが繰り返し通過すると、河川の浸食のように大きなひび割れとなって削れていきます。

高温によるエロージョン(焼損)によりガスポートの穴の大きさが増大すると、ガスの流入量が増加するため、過剰な力でボルトを後退させることで反動が大きくなります。

すると、パーツが破損しやすくなったり、腔圧が高い状態で排莢動作することで排莢不良の原因になります。

ショートバレルライフルの問題

ショートバレル(短銃身)を利用するなど、ガス作動ライフルの銃身長を短くしたい場合、正常に作動させるにはガスポートの位置が重要になります。

具体的には、ガスポートから銃口までの距離を短くする場合と、薬室からガスポートまでの距離を短くする場合では、異なる問題が生じやすくなります。

ガスポートから銃口までの距離が短い場合

先述の通り、ガス作動方式ではガスポートからガスを引き込み、ボルトやボルトキャリアを後退させています。

このガス圧を得られる時間は、弾頭が銃身内を進み、ガスポートを通過した点から銃口を離れるまでの間です。

もしガスポートと銃口の間が短すぎる場合、ガス圧を得られる時間が短いため、作動に必要なガス圧が不足し、排莢不良や装填不良の原因となります。

私が中学生の頃、M16エアガンのフロントサイトから先を切断して全長を短くしたことがあったのですが、これを実銃で再現すると作動不良になります。

AKS74Uの画像
AKS74U Photo via Wikipedia

ロシアのAKS74Uライフルはガスポートから銃口までの距離が短いですが、ガスポートより先にブースターを装着することで作動に必要なガス圧を得ています。

Photo via AKTalk.com

ブースターは一時的にガスを溜め、長い銃身の場合と同等のガス圧を得る構造です。

薬室からガスポートまでの距離が短い場合

薬室からガスポートまでの距離が短い場合、過剰に高圧なガスを取り込むことになり、発射速度上昇、反動増大、命中率低下、作動不良、パーツ寿命の低下などの問題が起こりやすくなります。

圧力と時間の関係画像

発射時の銃身内の圧力(腔圧)の状態を表すと、このような曲線になります。

装薬が燃焼し始めると急激に圧力が上昇し、弾頭が進むにつれて圧力が緩やかに下がっていきます。

つまり、銃身長が短いほど(薬室からガスポートまでの距離が短いほど)、過剰な高圧ガスがガスブロックへ取り込まれます。

この問題を解決する方法はいくつかあります。

例を挙げると、長銃身用ガスチューブと同等の容量を持つガスチューブを使用することでボルト後退のタイミングを遅らせて正常に動作させることができます。

ピッグテールガスチューブの画像
Photo via opticsplanet.com

このような螺旋状のガスチューブは、豚の尻尾に似ていることから「ピッグテールガスチューブ」と呼ばれています。

これは全長が短いものの、チューブ内の容量が大きいため過剰なガス圧を緩和することができます。

また、AR15(M4/M16)ではストックの根元部分(ボルトキャリアの後ろ)にはリコイルバッファーとバッファースプリングが備わっており、重いバッファーに変更したり、スプリングの反発力を強いものに変更することでボルトの後退速度を遅らせて正常に作動させることができます。

フェーズドアレイガスポートとは?

ガス作動方式の構造が理解できたところで、本題に戻ります。

今回、ガイズリー(Geissele)が開発した「フェーズドアレイ」と呼ばれるガスポートは、3つのガスポートからガスを取り込む構造です。

ガスブロックの図
フェーズドアレイガスポート Photo via US11365945B2

このガスポートの特徴で重要な点は以下の2点です。

  • ガスポートは、それぞれ角度120度の間隔で3方向にあけられている
  • 3つのガスポートの位置は、それぞれ前後に少しづつズレた場所に配置されている

従来通りの1つの穴から大量のガスを一気に取り込むガスポートとは異なり、小さな内径の穴で3箇所からガスを取り込むため、制限されたガス流量によって損傷が軽減されます。

加えて、ガスポートの内径が小さくなることで、弾頭がガスポートに接触することで起こるダメージも軽減されます。

ガスブロックの図
フェーズドアレイガスポート Photo via US11365945B2

また、弾頭が進みながら3つのガスポートに順番にガスが流入するため、それぞれガスを取り込む時間差が生じます。

従来のようにガツンと一度にガス圧を伝えることなく、分割してソフトに圧力を伝えることでボルトやボルトキャリアを適正な速度で後退させることができます。

そして同時に、AKS74Uのようにブースターを装着することなく、作動に必要なガス圧を得ることも可能です。

これにより、ショートバレル化によって起こりやすい問題(発射速度上昇、反動増大、命中率低下、作動不良、パーツ寿命の低下)を軽減することができます。

ガイズリーの説明によると、フェーズドアレイガスポートを使用した同社のショートバレルAR15(GFW/ガイズリー・ファイティング・ウェポン)において、毎分650~700発の発射速度とされています。

ガス作動方式であるAR15に銃身長16インチ未満(10~15インチ)のショートバレルを利用すると、毎分950~1,200発になることもあるため、毎分650~700発という発射速度はかなり遅く、フルオート射撃時でも銃をコントロールしやすい速度と言えます。

欠点は価格?

ガイズリーMRGGの画像
Geissele Mid-Range Gas Gun (MRGG) Photo via Geissele

ガイズリーのフェーズドアレイガスポートは、同社のMRGG(Mid-Range Gas Gun)モデルにも採用されています。

このシステムの製造コストがどれぐらいかは不明ですが、MRGGは6,500ドルというAR15ライフルのなかでは高級な価格帯となっています。

従来のガスポートと比較すると製造時の工程が増えるためコストにも反映されていると考えられ、これは欠点と言えるかもしれません。

また、ガスポートの穴が小さいことが、カーボンの蓄積による影響をどの程度受けるのか、それとも受けないのか気になるところです。

私はガス作動方式のライフルを所有していたことがありますが、ガスポートやガスチューブ内は高圧でカーボンなどの残渣を吹き飛ばす環境にあるため、基本的にこれらをクリーニングする必用はありません。

しかし、内径が小さい場合も残渣の影響がないと言えるのか、はっきりしたことは分かりません。

もちろん、これはメーカーも承知の上で開発していると思われますが、今後公開されるであろう海外サイトの実射レポート等に注目したいと思います。