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リュングマン方式とは何か? ガス圧利用方式ライフルの構造

銃の画像リュングマンシステムとはどういうものなのでしょうか。

銃の画像リュングマン方式(リュングマンシステム / Ljungman System)とは、スウェーデンの軍用セミオートマチックライフル、リュングマン AG-42(Ag m/42)で採用されたガスシステムです。

リュングマンの構造

AG-42はスウェーデン軍の制式ライフルとして1942年に採用され、AK4(H&K G3ライフルのライセンス生産バージョン)に交代する1960年代まで使用されていました。

使用弾薬に6.5x55mmを採用し、着脱式10連ボックスマガジンを装備したライフルですが、マガジンは銃に装填したまま5連のストリッパークリップで弾を装填可能な構造です。

 

下図はリュングマンAG-42の構造を表しています。

銃の画像

Photo via de.wikipedia.org

火薬の燃焼によって発生したガスは弾丸を押し出し、銃身内を加速します。

やがて銃身内の穴(ガスポート)からガスチューブ(赤のパーツ)にガスが流入すると、ガスはガスピストン(緑のパーツ)に衝突します。

ボルトキャリアの先端がガスピストンとなっており、ガスキャップ(ガスチューブと繋がるオレンジのパーツ)がシリンダーの役目を果たしています。

ガスの圧力によってボルトキャリアが後退すると、少し遅れてボルトがボルトキャリアに引っ張られて後退します。

遅れて後退する理由は、発射の瞬間は銃身内が高圧になるため、圧力が低下してから薬莢を引き抜く必要があるためです。

このように、ボルトキャリアにガスを直接吹き付けて後退させるシステムを「リュングマン方式」と呼んでいます。

 

AR-10/AR-15/M16/M4はリュングマン方式なのか?

「M16系ライフルはリュングマン方式ではない」「いや、リュングマン方式だ」と論争されることがあります。

リュングマン方式は、アメリカではDI(ダイレクト・インピンジメント/Direct impingement)と呼ばれており、この論争はもしかしたら日本だけかもしれません。

(DI方式の詳細は、こちらの記事「M16/M4/AR-15ライフルの構造」をご覧ください)

 

個人的にアメリカで聞いたことがない論争なのですが、とはいえ、やはり触れない訳にはいかないと思います。

それでは、日本語の資料ではどう説明されているのか確認したいと思います。

 

1999年12月発行、国際出版「Gun12月別冊 GUN用語事典(監修・編集 Turk Takano)」では次の様に説明されています。

リュングマン・システム [Ljungman System]

ガス圧利用のライフル/マシンガンにつきもののピストンとシリンダーを省略し、発射ガスを直接ガス・チューブでレシーバー内のボルト・キャリアーに導入、ボルトの開閉鎖、往復させる自動装填機構。1942年、スウェーデン軍のAG42Bで実用化されたガス圧利用のバリエーションである。

米国のアーマライト社は1950年代後半、AR10でこの作動方式を採用した。そしてこのモデルはAR15に発展、米軍のM16/M16A1/M16A2として制式採用され、今日に至っている。ガスが直接レシーバーに入るため汚れやすい。ベトナム戦争でこれが欠陥として騒がれたが、発射薬の改良、ボア(銃腔)とチェンバー(薬室)、そしてレシーバー内の部品をクローム・メッキにすることで解決をみた。

 

続いて、2008年4月発行、早川書房「図説銃器用語事典(著者・小林宏明)」では次の様に説明されています。

リュングマン方式(Ljungman system)

スウェーデンのエリック・エクランドが開発したリュングマンAG42というセミ・オートマチック・ライフルの作動方式。ボルト(ボルト・キャリアー)の後退のさせ方のひとつ。アメリカのアサルトライフルM16がこの方式を採り入れた。

弾丸を発射する高圧の発射ガスの一部を、銃身上部にあけられた穴(ガス・ポート)から細いガス・チューブに取り込み、そのガスをボルト・キャリアーに直接吹き付けて、ボルトとボルト・キャリアーを後退させるやり方。ほかのガス利用式ライフルと違って、ガス・シリンダーも、そのなかにあるガス・ピストンも不要なので、銃の重量を軽くすることには役立つが、発射薬の種類によってはその残渣が機関部に付着して汚れやすくなる欠点があり、定期的なクリーニングは必須(どんな銃でも同じだが)だ。

この言葉は、英語ではあまり用いられず、「ダイレクト・インピンジメント」と表現するほうが多い。

 

どちらもM16について触れており、説明の方法は違えど内容はほぼ同じといえるのではないでしょうか。

因みに、英語版の銃器用語辞典、1985年発行「Steindler’s New Firearms Dictionary (R. A. Steindler著)」と、2001年発行「Dictionary of Guns and Gunmakers (John Walter著)」も確認したのですが、リュングマンAG42の記述があるだけで、リュングマン方式には触れていませんでした。

 

またウィキペディアの英語ページでは、ダイレクト・インピンジメントのページでM16とAG42の両方について触れられていますが、日本語ページでは以下の記述があります。

現在はAR-10、M16(AR-15)系の小銃のみで使用されているが、これらは通常のリュングマン式とは異なりストーナーが特許(U.S.Patent2951424)を取得した形式で、遊底とボルトキャリアをそれぞれガスピストン、ガスシリンダーとして利用している。 [6]

前述のように「リュングマン式の作動機構」を持つとされる自動小銃の代表であるAR-10/15系列はリュングマン式とは異なる独自の機構を持っており、“リュングマン式”と呼べるのは厳密にはAg m/42とそれに類似した機構を持つフランスのMAS 49等、少数のモデルのみである。

 

リュングマン方式ではないリュングマン

銃の画像

FM-59 Photo via forgottenweapons.com

上の画像は、リュングマンAG42を改良したリュングマンFM-59ライフルの薬室部分を見たところです。

FM-59は10丁しか製造されていないプロトタイプで、着脱式20連マガジンと使用弾薬に7.62mmNATOが採用されています。

画像を見ると分かりますが、ガスキャップが削り取られており、本来ガスチューブがある場所にショートストローク・ガスピストンが収まっています。

ガスをボルトキャリアに吹き付けるのではなく、ガスピストンがボルトキャリアを押して後退させる構造です。

FM-59はリュングマンなのにリュングマン方式を採用していないライフルですが、残念ながらスウェーデン軍にはAK4が採用されてしまい、日の目を見ることがなかった可哀想な銃です。

 

まとめ

私は個人的に、M16をリュングマン方式と呼ぶことは間違っていないと考えています。

その根拠は、ガスが直接ボルトキャリアを後退させる機構をリュングマン方式と呼んでいるのであって、ボルトキャリアとボルトの作動機構をそう呼んでいるわけではないからです。

ですから、日本語版ウィキペディアで記述される「異なる独自の機構を持っており」の部分は、リュングマン方式と呼ぶことについてとは直接関係ないという持論です。

しかし、リュングマン方式とは正式な名称ではなく、あくまで通称ですし、「リュングマン方式=リュングマンAG42が持つ機構と全く同じもの」という解釈をしてしまうと間違いなので、素直に誤解がないよう、「ダイレクト・インピンジメント方式」と呼ぶ方が良いのではないでしょうか。