スターム・ルガーとS&Wが「今後カリフォルニア州でピストルを販売しない」とアナウンスしました。その原因となったのは何年も論争が続く「マイクロスタンピング問題」です。
マイクロスタンピングとは、銃のファイアリングピン(撃針)の先端に、銃の情報を表す文字や数字を刻印し、発射の際にファイアリングピンがプライマーを叩くことでプライマーに銃の情報が打刻され、犯罪現場に残された薬莢から犯人を辿ろうという技術です。
マイクロスタンピングを法制化することで銃器メーカーや関連するFFLディーラーはマイクロスタンピングされたハンドガンのみ扱わなければなりません。2007年にカリフォルニア州で法案が通過したものの、現在まで施行されていませんでしたが、施行に現実味が出てこのようなアナウンスに至りました。2011年にはニューヨークでも法案が提出されましたが、こちらは通過に失敗しています。
マイクロスタンピングに犯罪の抑止効果があるのかは疑問視されており、次の問題が指摘されています。
- 技術的に確立されていない。
ファイアリングピンの先端にレーザーを使用し刻印するのですが、まだ技術的に確立されていません。どのメーカーも経験がない状態です。 - 莫大なコストを消費者が負担する。
ファイアリングピンは銃の数とは比較にならないほど大量に製造され、そのすべてにレーザー刻印することは莫大なコストを必要とし、最終的には銃の価格上昇という形で消費者が負担することになります。メーカーも、対応させるために投資を必要とするため否定的です。 - 偽造可能。
レーザー刻印自体は法規制されていないので、刻印できる機械があれば誰でも打刻でき、実質偽造自由です。それにより別人が犯人に仕立て上げられるという危険性はゼロではありませんが、そうなると証拠能力に疑問が出てきます。 - ファイアリングピンは自由に交換できる。
ファイアリングピンは消耗品なので簡単に交換できます。しかも安価でネット通販も活発であり、購入時に身分を明かす必要もありません。 - 多くの盗難銃が犯罪に使用されている。
アメリカでは年間2万丁以上の銃が盗難にあっており、犯罪に使用される数も膨大な現実があります。 - 規制強化は次の規制の引き金になる。
銃を持つ権利を保障されているアメリカでは、規制は権利剥奪の危機感を想起させるものです。過去30年間に様々な規制強化が実現しており、これ以上は受け入れられないという反発があります。
マイクロススタンピングの法律はこれまでの銃規制同様に穴だらけなのは言うまでもありませんが、これはアメリカの伝統的な妥協点の探りあいのようなものだと思います。「この部分を規制強化したい」と声が出たら、「じゃあ、見えにくいところに穴を開けさせてもらいますね?」と妥協点を探り、結果的に銃規制賛成派は「法案が通過した!万歳!」と喜び、一方で銃に詳しい銃規制反対派は「(面倒だけど)穴の抜けた部分で今まで通りさせてもらいますね」ということの繰り返しです。画期的で現実的な銃犯罪防止方法を考えた人は、ノーベル賞物ではないかと思います。
現在この規制に反対する訴訟も起こされており、今後の動向が気になります。
Gun flight Smith & Wesson, Ruger quit California over stamping requirement
http://www.foxnews.com/us/2014/01/26/smith-wesson-to-stop-selling-some-pistols-in-california-due-to-gun-law/
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