
「マグナム弾=強力な弾薬」というイメージを持っている方も多いでしょう。
しかし、実はマグナム弾には明確な基準がなく、弾薬メーカーによって定義が異なります。
この記事では、「マグナム弾とは何か?」という基本から、「.357マグナムと.44マグナムの違い」まで徹底解説します。
マグナム弾とは?

マグナム弾とは、一般的に従来の同系の弾薬よりケース(薬莢)が大きく、装薬量が多い弾薬です。
例を挙げると、.44マグナム(.44レミントンマグナム)は、.44スペシャルの装薬量を増量した結果誕生したものです。
しかし、「マグナム」の名称は弾薬メーカーによって定義が異なるため、必ずしも「マグナム=装薬量が多い=強力」とは限りません。

.338ラプアマグナムを例にすると、この弾薬は.416リグビーのケースを.338口径にネックダウンした弾薬ですが、ケース容量は.416リグビーの方が大きくなっています。
.338ラプアマグナムと.416リグビーのマズルエナジーを比較した場合でも、実際に使用されている装薬量や弾頭重量によって異なり、.338ラプアマグナムの方が大きなマズルエナジーになる傾向がある一方、その逆の場合もあります。
「マグナム」とは、「装薬量が多い」という意味だけではなく、あくまでメーカーや市場におけるブランド名の一部として使用されることが多いため、明確な規定は存在しません。
そのため、あるメーカーが「マグナム」と名付けた弾薬が、他メーカーの同等の弾薬より強力であるとは限りません。
「マグナム」という名称は、一般的に「高い威力や性能を持つ弾薬」という印象を与えますが、その具体的な定義や規定には幅があるため、あまり深く考えずに「強力な弾薬」と理解しておくことが現実的かもしれません。
マグナムの語源

マグナムはラテン語で「大きい」「巨大」「強力」「重大」などを意味します。
語源を遡るとラテン語のmagnus(マグナス)、古代ギリシア語のmegas(メガ)、ペルシア語のmeh、ヒッタイト語のmēkkis・・・まで辿りますが、これらは「大きい」や「沢山」といった意味があります。
英語圏では1788年以降のラージサイズのワインボトル(容量2クォート)はマグナムと呼ばれており、これが元となって1912年に開発された強力なライフル弾である.375H&Hマグナムが登場するとマグナム弾が広く知られるようになりました。
そして1935年にS&W社が同社のM27リボルバーとその弾薬に「マグナム」と命名したことで、ハンドガンの世界でもマグナムの名称が一般化しています。
.357マグナムと.44マグナムの違い

有名なマグナム弾に「.357マグナム」と「.44マグナム」が存在します。
これらの違いを比較します。
弾頭直径:
一般的な弾頭重量:
マズルエナジー:
反動:
一般的な用途:
結論
.44マグナムはより大きな口径と重い弾頭により、高い威力とストッピングパワー(対象を無力化する能力)が備わっています。
一方、.357マグナムは汎用性が高く、威力、精度、扱いやすい反動のバランスが優れます。
.357マグナムは.44マグナムよりも反動が小さいため、平均的な射手にとって正確な射撃を実現しやすい傾向があります。速射性は.357マグナムの方が優位といえます。
これらを総合すると、.44マグナムは圧倒的パワーによって狩猟に適していますが、.357マグナムは護身用や標的射撃を含む様々な用途に利用可能で、汎用性に優れているといえます。
代表的なマグナム弾の開発年と特徴

マグナム弾と、その開発された年、概要を紹介します。
.454カスールは1957年開発となっていますが、市販されるようになったのは1997年からでした。
拳銃弾のマグナム弾
ライフル弾のマグナム弾
マグナム弾とその基となった弾薬

マグナム弾は従来の同口径の通常弾を延長し、装薬量を増量したものが多く見られます。
例えば、.44スペシャル弾の装薬量を増量し、.44マグナム弾が登場しました。
しかし、.500S&W弾のように、強力な.500S&W弾が登場した後、装薬量を減らした.500スペシャル弾が登場した例もあります。
また、.454 カスールや.480 ルガーは名称に「マグナム」が含まれませんが、一般的にマグナム弾として扱われています。
拳銃弾のマグナム弾とその基となった弾薬
ライフル弾のマグナム弾とその基となった弾薬
マグナム弾とその基となった弾薬のデータ

マグナム弾とその基となった弾薬のデータの一覧です。
(※)はマグナム弾です。
以下のデータは目安であり、実際の数値は弾薬のブランド、弾頭重量、装薬の種類、銃身長などによって異なります。
弾薬名 | 弾丸重量 (グレイン) | 銃口初速 (フィート毎秒) | マズルエナジー (フットポンド) |
---|---|---|---|
.357 マグナム ※ | 158 | 1,235 | 535 |
.38 スペシャル | 158 | 755 | 200 |
.41 マグナム ※ | 210 | 1,300 | 785 |
.41 スペシャル | 200 | 900 | 360 |
.44 マグナム ※ | 240 | 1,350 | 971 |
.44 スペシャル | 200 | 870 | 336 |
.454 カスール ※ | 250 | 1,800 | 1,799 |
.45 コルト | 250 | 860 | 410 |
.480 ルガー ※ | 325 | 1,350 | 1,315 |
.475 ラインボー ※ | 400 | 1,300 | 1,500 |
.500 S&W ※ | 350 | 1,800 | 2,519 |
.500 スペシャル | 350 | 1,100 | 940 |
.300 ウィンチェスター マグナム ※ | 180 | 2,960 | 3,501 |
.30-06 スプリングフィールド | 180 | 2,700 | 2,913 |
.338 ラプア マグナム ※ | 250 | 3,000 | 4,999 |
.416 リグビー | 400 | 2,400 | 5,115 |
7mm レミントン マグナム ※ | 175 | 3,000 | 3,494 |
.375 H&H マグナム ※ | 300 | 2,530 | 4,263 |
.300 H&H マグナム ※ | 180 | 2,880 | 3,317 |
.458 ウィンチェスター マグナム ※ | 500 | 2,040 | 4,614 |
.338 ウィンチェスター マグナム ※ | 250 | 2,660 | 3,918 |
.300 ウェザビー マグナム ※ | 180 | 3,120 | 3,889 |
マグナム弾を使用する有名な銃
コルトパイソン .357マグナム

1935年に市場に登場した.357マグナムは最も成功したマグナム弾のひとつです。
.38スペシャルと同口径でありながらケース容量を増加させ、より多い装薬量により高速な弾速とパワーを持ちます。
.357マグナムは法執行機関のリボルバーに採用された他、デザートイーグルなどオートピストルにも利用されました。
そんな.357マグナムを使用する有名なリボルバーといえば、パイソンが挙げられるでしょう。
コルト社が開発した「パイソン」は、.357マグナムを使用する装弾数6発のリボルバーです。
パイソンは高い命中精度とガンスミスによってポリッシュされた美しい外観が人気を博し、高精度かつ高級なリボルバーとしてファンが憧れる存在となりました。
また、1980年には命中精度の高さから銃身長8インチのパイソンにスコープを搭載した「パイソンハンター」が発売され、狩猟や射撃競技にも利用されました。
日本ではアニメ/マンガ「シティーハンター」に登場したことも知名度の高さに影響しています。
S&W M29 .44マグナム

.44マグナムは1954年に登場したマグナム弾です。
.44マグナムを使用するリボルバーでは、S&W M29が有名といえるでしょう。
映画「ダーティハリー」シリーズでクリント・イーストウッドが使用していたことでも知られています。
M29はその圧倒的なパワーと高い命中精度から人気が高く、狩猟やターゲットシューティングなどに多く利用されています。
.44マグナムは反動が大きいため誰にでも扱いやすいとはいえませんが、M29は比較的に撃ちやすいデザインで、約1.2kgという重さが反動を軽減します。
ウィンチェスター M70 .300ウィンチェスターマグナム

.300ウィンチェスターマグナムは1963年に登場し、狩猟やターゲットシューティングに利用されて人気を博しました。
.300ウィンチェスターマグナムは他の同口径ライフル弾より高速でパワーに勝り、長距離射撃に適していることから米軍に採用されました。
ボルトアクションライフルのウィンチェスターM70は1936年に登場し、複数の口径に対応しますが、.300ウィンチェスターマグナムを使用するライフルとしても成功しています。
M70は命中精度が高い他、操作しやすくジャムが少ないなど信頼性が高く、あらゆる用途に使用され人気があります。
アキュラシーインターナショナルAWM .338ラプアマグナム

.338ラプアマグナムは米海兵隊のライフル開発の過程において誕生したライフル弾です。
長距離射撃といえば.338ラプアマグナムが挙げられるほど、弾道がフラットで高速な長距離射撃に適した弾薬です。
.338ラプアマグナムを使用するライフルは様々ですが、アキュラシーインターナショナルAWMは代表的なライフルのひとつです。
アキュラシーインターナショナルでは最新のAXMC(マルチキャリバーライフル)で.338ラプアマグナムが利用されていますが、AWMは1996年からイラク戦争から昨今のウクライナの戦場まで使用され、バトルプルーフされたライフルといえます。
悪環境でも変化しない強固なストックを装備しているため安定した射撃が可能で、加えて高精度なレシーバーとフリーフローティングバレルが備わった精度に拘った仕様です。