PSG1は法執行機関向けに対テロ用を意識して設計されたH&K社のセミオートマチック・スナイパーライフルです。
1968年にH&K社によって設計され、西ドイツ(当時)で発生したテロ事件「ミュンヘンオリンピック事件」を切っ掛けにテロ対策用として1972年~2014年に製造されました。
PSG1は同社G3シリーズの流れを受けていますが、内容は精密射撃用に改良され、G3とは性能に違いが見られます。
銃身(バレル)
フリーフローティングバレルが採用され、これは銃身とハンドガードとの接点がなく、浮いた状態になっている銃身です。
このおかげで外部から銃身に加わる力が遮断され、高い命中精度を持ちます。
また銃身は一般的なアサルトライフル等とは異なり太く肉厚で、ポリゴナルライフリングを採用し約15,000発の発射に耐えます。
発射時に弾は銃身内を加速し、銃身に振動が発生します。この振動が大きければ命中精度に悪影響を及ぼしますが、銃身を肉厚にすることで振動を軽減し、命中精度を維持することが可能になります。
また銃身は弾頭通過に摩擦熱や発射ガスの熱により加熱し、冷えた銃身と熱した銃身では着弾点にズレが生じますが、肉厚な銃身を利用することで熱による命中精度への影響を小さくすることが可能になります。
レシーバーと作動
レシーバー側面にはスチールプレートが溶接されており、発射時の振動を軽減し高い剛性を持ちます。
M16やAK47といったガス作動方式のライフルではガスチューブが銃身に連結されていますが、PSG1にはそれが存在しません。
H&K社のお家芸ともいえるローラーロッキングシステムによるディレイドブローバック方式を採用しており、フリーフローティングバレルとの組み合わせによって高い命中精度を維持します。
また、H&K G3ライフルではローラーディレードブローバックのローラーに回転式ローラーを採用しているのに対し、PSG1ではチタン製の非回転式ローラーを採用することで射撃毎のローラーの接触面が一定となり、摩耗の差が生じにくく、耐久性と作動の信頼性が向上しています。
スコープ
スコープはヘンゾルド(Hensoldt)社(現カール・ツァイス)製の ZF 6×42 PSG1スコープが付属します。
シンプルなクロスヘアを持つスコープで、有効射程距離約600~1000mの狙撃に対応します。
スコープマウントはレシーバーに溶接されており、取り外し不可な構造です。
このスコープではレティクルをバッテリーで発光させ、スコープ左側のスイッチを入れると2分間オンになり、2分経過後自動でオフになります。
スコープの調整は一般的なスコープと同様に上部のエレベーションノブで高さを調節し、右側面のウィンデージノブで左右を調節します。
上部のノブには1~6の数字が書かれていますが、1は100m、2は200mを意味しており、距離に応じて素早いゼロインが可能です。
2006年に登場したPSG1A1ではシュミット&ベンダー 3-12×50ポリスマークスマンIIスコープが付属します。
シンプルなクロスヘアからミルドットスコープに変更され、よりモダンな内容となりました。
また、A1ではチャージングハンドルの角度を浅いものに変更することでスコープとの干渉を避ける設計になっています。
グリップとトリガー
汗を吸収するウォールナット木製グリップを装着し、G3のプラスチックグリップよりも手にフィットするデザインです。
グリップの上には親指で操作できる「0」「1」と刻印されたセレクターがあり、0の位置がセイフティ、1の位置でセミオートとなります。
トリガーグループの内部構造はG3シリーズと異なり、大きな違いとしてはロックタイムの差があげられます。
ロックタイムとはトリガーを引いてから発射されるまでの時間のことですが、ハンマーがシアーに掛かる位置が浅いなど、時間差のない射撃が可能です。
起こされたハンマーの位置はG3より浅く、ロックタイムを短縮しています。
通常、ハンマーを浅い位置から解放するとプライマー(雷管)を叩く打撃力が不足し不発のリスクが高まりますが、PSG1ではツーステージハンマースプリングを採用することで解決しています。
これはハンマースプリングが2つ使用されており、トリガーを引いた瞬間は軽いスプリングでハンマーを動かし、ハンマーがファイアリングピン(撃針)を叩く直前に強いスプリングによってハンマーを叩きつける構造です。
ストック
木製ストックとは異なり、湿度や気温によって伸縮しないグラスファイバー製(プラスチック)ストックが採用されています。
調節可能なチークパッドやリコイルパッドが付属しており、射手の体格や装備の違いに合わせて調節可能です。
チークパッドはスプリングのテンションによって持ち上げられる構造で、適当な位置でネジを締めて固定します。
まとめ
PSG1は一般的な警察が使用するようなボルトアクションライフルとは異なり、複数のターゲットを素早く倒すことに対応した高性能セミオートライフルです。
重量は8kgと重く、軍用としては重い中距離狙撃ライフルですが、PSG1の軍用バージョンであるMSG90ライフルは6.2kgと軽量化されています。
PSG1の価格は1万ドルといった高価な銃ため、警察など法執行機関では簡単に大量購入できるものではありません。
しかしながら、性能は競技用ライフル並みの豪華な仕様で、相当の効果が得られるライフルだといえます。
メーカー | HK(ヘッケラー&コッホGmbH.) |
モデル | PSG1 |
口径 | 7.62×51 mm |
全長 | 1208 mm |
全高(スコープ含む) | 258 mm |
重量 | 約7~8 kg |
銃身長 | 650 mm |
ライフリング | 4条右回り(ポリゴナル) |
装弾数 | 5+1 or 20+1 |
スコープ | 6×42倍(ヘンゾルドZF6×42PSG-1) |
トリガープル | 約1.6 kg |
閉鎖方式 | ローラーロッキング |
作動方式 | ディレードブローバック |
最大有効射程距離 | 1000 m |
価格(米ドル) | 1万ドル |
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