
銃を安全かつ迅速に使うためには、装填の仕組みや薬室、スライドの役割を理解しておく必要があります。
装填とは何か?
薬室とはどの部分なのか?
スライドを引くのはなぜ必要なのか?
この記事では、「装填の基本的な仕組み」「薬室との関係」「スライドを引く理由」「安全な携帯方法」まで、初心者にもわかりやすく銃の仕組みを解説します。
装填とは何か?
装填の定義と基本操作
銃における「装填」とは、弾薬を発射可能な状態にすることを指します。
具体的には、弾薬をマガジンに収めた後、スライドを引いて薬室に弾薬を送り込みます。
この状態で引き金を引けば、即座に発射が可能です。
自動式ピストルにおける装填の流れ

自動式ピストルでは、まずマガジンに弾薬を装填し、本体に挿入します。
その後、スライドを引いて離すことで、マガジンの最上段の弾薬が薬室に送られます。
これにより、ピストルは発射可能な状態となります。
以下の動画は一連の動作を表しています。
射撃時には反動で自動的にスライドが後退しますが、初弾(1発目)は手動で装填する必要があります。
- マガジン(弾倉)に弾薬をセットし、銃本体にマガジンを挿入する。
- スライドを引き、マガジン内の弾薬を薬室へ送りこむ。
- 発射準備完了
薬室(チャンバー)の役割とは?
薬室の位置と機能

薬室(やくしつ)は、「銃身」または「リボルバーのシリンダー」の後部にある中空の部分で、弾薬を装填し発射する場所です。
引き金を引くと、薬室内の弾薬が撃針によって発火し、銃身を通って発射されます。
英語では「Chamber」、日本語では「薬室」「チャンバー」「チェンバー」などと呼ばれます。
薬室は発射時に生じる高圧ガスを封じ込める重要な役割を果たします。
リボルバーとピストルの薬室の違い

リボルバーでは薬室がシリンダー内に複数存在し、回転によって次弾が順番に発射位置へ移動します。
これに対し、ピストルでは薬室は一つで、発射後はスライドの作動により次の弾薬が薬室に装填されます。
通常、ピストルには1つの薬室が備わっていますが、リボルバー(回転式けん銃)には装弾数と同数の薬室が備わっています。
フルーテッド・チャンバーとは?

一般的に薬室内の表面はツルツルしていて滑らかですが、なかには表面に溝が彫られている薬室も存在します。

こうした溝のある薬室は「フルーテッド・チャンバー(Fluted chamber)」と呼ばれ、発射時に膨張した薬莢の貼りつきを防止し、スムーズな排莢を行う目的で備わっています。(一部のモデルでは反動軽減目的で備わっています)
フルーテッド・チャンバーが備わっている銃の例として以下があります。
スライドの役割と作動の仕組み
スライド操作による装填・排莢・発射準備
スライドは、装填・排莢・次弾の装填を連続的に行う自動機構の主要パーツです。
発射によりスライドが後退し、薬莢を排出したのち、前進時に次の弾薬を薬室に装填します。
スライドが後退する原理はモデルによって異なり、反動を利用したり、ガス圧を利用してスライドを後退させます。

スライドは、ピストルの上部にある可動部分で、前後に動きます。
以下がスライドの主な機能です:
ホールドオープンと解除の方法

ピストルの多くは、弾薬が撃ち尽くされると、スライドがホールドオープン(後退位置で停止)します。(ホールドオープンしないモデルも存在します)
これにより、マガジン交換後にスライドストップ(スライドリリースレバー)を操作し解除するだけで即座に薬室装填が行えます。

ホールドオープンは、マガジン内で弾薬を押し上げるパーツ(マガジンフォロアー)がスライドストップを押し上げることで作動しているため、スライドストップを押し下げると解除されてスライドが前進します。
これは空のマガジンが挿入されているときだけ自動的に作動するため、マガジンを抜いた状態でホールドオープンさせるには、スライドを引きながら同時に手動でスライドストップを押し上げる必要があります。
射撃場にて射撃を中断する場合、安全のためマガジンを抜いてホールドオープンさせた状態で銃を置くことが推奨されます。
「装填された状態」とはどういう意味か?
一般的な定義

装填された状態とは、薬室に弾薬が収まっており、引き金を引けば発射が可能な状態を指します。
この状態を英語圏では「チャンバード(chambered)」や「ローデッド(loaded)」などと表現します。
具体的に「装填された状態」とは、以下のような状態です。
一般的に以下の状態は「装填」ではありません。
マガジン装填と薬室装填の違い

マガジンに弾薬があるだけでは、まだ発射はできません。
薬室に弾薬が送り込まれて初めて、ピストルは実際の発射可能な状態となります。
アメリカの州法における定義の違い
「装填済み(loaded)」の定義は、一般的用法と法的用法で異なります。
アメリカの一部の州法では、マガジンに弾薬が入っているだけでも「装填状態」とみなす場合があります。
定義の違いは大きく3つに分けられます。
定義区分 | 内容 | 該当州の例 |
---|---|---|
薬室に弾薬がある場合のみ装填扱い | 実際に発射可能な状態(薬室に弾薬がある)でのみ「装填済み」とみなす | 一部の州 |
マガジンが銃に装着されていて弾が入っている場合も装填扱い | マガジンに弾が入っていれば、薬室に入っていなくても「装填済み」とされる | カリフォルニア、メイン、ミネソタ、ワシントンなど |
銃と弾薬が一緒にあるだけで装填扱い | 銃本体と弾薬が即時に使える距離で一緒にある場合も「装填済み」とされる | ニューヨーク、狩猟・運搬規制下の一部州 |
各州法の「装填済み」の定義の違いは、以下のとおりです。
州名 | 「装填済み」の定義 |
---|---|
カリフォルニア | 薬室または銃に装着されたマガジン・クリップに弾があれば「装填済み」 |
メイン | 薬室またはマガジン・クリップ・シリンダーに弾があれば「装填済み」 |
ミネソタ | 銃にマガジンが装着されていて、そこに弾が入っていれば「装填済み」 |
ワシントン | 銃(ライフル・ショットガン)に薬室・マガジンに弾があれば「装填済み」、マズルローダーが点火可能状態でも同様 |
ニューヨーク | 弾薬が銃に入っている、または銃と弾が一緒に所持されていれば「装填済み」 |
バージニア | 一部セミオート銃のマガジン容量には規制あり、だが明確な「装填済み」の定義なし |
連邦法および機関における定義は以下のとおりです。
機関・法 | 内容 |
---|---|
TSA(運輸保安局) | 銃に装填されたマガジン、薬室、シリンダーに弾薬があると「装填済み」 |
連邦法 | TSAと同様。マガジンが銃に装着されている場合は「装填済み」とされる |
州によっては、銃に弾薬が装填されていなくても、適合する弾薬を同時に所持していた場合に「装填済みの銃を所持」とみなされる場合があるため、注意が必要です。
薬室装填で携帯するべき理由と安全性

オートピストル(自動式拳銃)はマガジン内と薬室内に弾薬が装填される構造です。
スライドを引くと、マガジン内の弾薬が薬室に送り込まれ、発射可能な状態となります。
このとき、ハンマー(ストライカー)は後退状態を維持し、トリガーを引けば発射可能です。
この状態で銃を携帯したとき、うっかりトリガーに触れると自分や第三者を誤射する可能性があります。
トリガーに指が掛かる可能性だけでなく、衣服やホルスターの一部がトリガーに触れたり、テーブルの上に銃を仮置きした際に銃を取ろうとして指がトリガーに触れて発射した事例も存在します。
このことから、「銃を携帯する際は薬室内に弾を装填しない方が良いのか?」、それとも「薬室に装填するべきか?」と議論されることがあります。
果たして、どちらが正しいのでしょうか?
これには様々な考え方がありますが、一般的には「薬室装填が正しい」とされています。
薬室装填が推奨される理由
軍、法執行機関、民間においてハンドガンは護身用に多く使用されています。
(もちろん法執行機関では狭い屋内などにおいて攻撃の手段としてピストルが利用されることもありますが、そのほとんどが護身用途となります)
こうした軍や法執行機関のプロはもちろん、民間においても多くは薬室に装填した状態で携帯しており、それには理由があります。
理由1:スライドを引く余裕がない

FBIの統計を確認すると、発砲事件の多くは「近距離」や「短時間」で起きていることがわかります。
フレンドリーに会話していた相手が突然、銃を抜いて発砲するケースも少なくありません。
そうした瞬間的に起こる事件に対処する際、スライドを引いて薬室に装填し発射するのは時間が掛かりすぎてしまいます。
1秒でも早く相手を撃たなければ自分の命が危ない状況で、スライドを引いている時間はありません。
仮に相手の方が自分より発砲が早かったとしても、その弾が有効弾でなければ自分の射撃によって相手の次弾発射を迅速に阻止する必要があります。
理由2:両手が使えるとは限らない

仮に相手があなたの片腕をつかみ、もう片方の手に持つナイフであなたを刺そうとしている状況では片手が塞がっているためスライドを引くことができません。
また、相手の攻撃によって自分の片手を負傷した場合、片手だけでスライドを引くのは困難です。
他にも片手が塞がっている際に銃が必要となる状況は様々で、あらゆるケースが想定されます。
銃のリアサイトを脚の踵に引っ掛けて片手でスライドを引くテクニックも存在しますが、そのような時間を掛けるよりあらかじめスライドを引いて薬室内に装填しておく方が合理的です。
理由3:緊張でスライド操作が困難な場合

自分の命が脅かされているストレス状況下では誰でも緊張します。
このような状況は自律神経が緊張し、普段なら問題なくできることが難しくなる場合があります。
銃を抜いてスライドを引く際も、手が滑ってスライドがうまく引けない、スライドは引けたが手が引っ掛かってしまいスライドの前進速度低下によってジャムが発生するといったリスクがあります。
銃を発射しなければならない場面で正しくスライドが引けるとは限りません。
理由4:現代銃の安全性と訓練の効果

近年、大手ガンメーカーによる銃はトリガーを引かなければ発射されない安全性が担保されています。
法執行機関において薬室装填されたグロックがヘリコプターから落下したものの発射されなかった事例もあります。
使用者は銃の安全性を理解し、「銃を撃つ瞬間以外は指をトリガーガード内に入れない」という鉄則を守ることでほとんどの事故を防ぐことが可能です。
これは日常的に意識することで訓練されます。
薬室装填に不安があるのは理解できますが、「何のために銃を携帯するのか」という理由について考えると、誤射や暴発のリスクより有事で銃が役に立たないリスクの方が大きいと感じられるのではないでしょうか。