私がアメリカで生活していた際、日本とは違う治安の悪さを感じることが多々ありました。日本と比べたらアメリカはサファリパークのような国なので、日本では体験できないような驚かされる事件や事故に遭遇します。
最近ではフランス、アメリカ、バングラデシュなど、世界的に銃を使用した無差別殺人が繰り返されており、通常の犯罪から身を守る方法では対処できない事態が起こっています。
そこで今回は、万が一銃撃テロに遭遇した際に知っておくと役に立つかもしれない(?)、銃撃から逃れるための方法について考えてみます。
相手との距離を縮めるとリスクが高い
2007~2011年に米国で発生した銃による殺人被害者数
2007年 | 2008年 | 2009年 | 2010年 | 2011年 | |
ハンドガン | 7,398人 | 6,800人 | 6,501人 | 6,115人 | 6,220人 |
ライフル | 453人 | 380人 | 351人 | 367人 | 323人 |
ショットガン | 457人 | 442人 | 423人 | 366人 | 356人 |
その他 | 116人 | 81人 | 96人 | 93人 | 97人 |
この統計はFBIが公開している2007~2011年に発生した銃による殺人の被害者数です。
使用されるのはハンドガン(拳銃)が圧倒的に多く、これは隠匿携帯しやすいことが原因ともいわれます。
これを踏まえて次の統計をご覧ください。
2004~2013年に米国で発生した銃により殺害されたLEOの人数(LEO = 警官や保安官などの法執行機関職員)
発砲距離 | 殉職者数 |
0-5フィート (0~1.5メートル) | 219人 |
6-10フィート (1.8~3メートル) | 77人 |
11-20フィート (3.4~6.1メートル) | 70人 |
21-50フィート (6.4~15メートル) | 36人 |
50フィート以上 (15メートル以上) | 27人 |
不明 | 45人 |
そしてこちらはFBIが公開した2004~2013年に殉職した法執行機関職員の人数と発砲距離の統計です。
もっとも多いのは1.5メートルに満たない近距離であり、距離が近いほど死亡率が高いといえるでしょう。
距離が近いと命中率が高く、複数発命中させることも難しくありません。
※ただ誤解がないように付け加えると、これは「死亡に至った事件での発砲距離」であり、「死亡者数を無視した発砲事件の統計」ではありません。命中したか否かに関わらず、全体的にみた発砲事件ではおおむね5~7メートルでの発砲が多いといわれています。
つまり、命中のリスクを下げるには距離が重要であり、できるだけ対象から離れる必要があります。
特にハンドガンの有効射程距離はおよそ25ヤード(約23メートル)以下なので、ハンドガンの場合は20~30メートル以上離れて走って逃げれば命中し難いとも考えられます。
もちろん、射撃のスキルは個人差があるため一概に言えませんし、逃げる時点で距離が数メートルだと30メートルも引き離すのは現実的に厳しいかもしれません。また、ライフルはさらに厄介な存在です。ストックを肩に当てることで安定するため、移動目標に対して命中させやすい有利なデザインです。
やはり、初期の段階から自分を危険な状況に置くことを避け、予防的危機管理が必要ではないでしょうか。
不自然な行動がみられる不審者に注意し、あらかじめ危険そうな場所から離れたり、避難経路を確認していつでも逃げられるよう準備する心構えが必要だと思われます。
ボディーアーマー(防弾チョッキ)は有効?
2001~2010年に米国でボディーアーマーを貫通して殺害されたLEOの人数と貫通弾の口径
銃のカテゴリー | 口径 | 殉職者数 |
ハンドガン | 9mm | 1人 |
ライフル | .223 | 3人 |
.30-06 | 2人 | |
.30-30 | 3人 | |
.300 | 1人 | |
.308 | 1人 | |
5.56mm | 1人 | |
7mm | 2人 | |
7.62x39mm | 5人 | |
不明 | 2人 |
この統計は、FBIが公開している2001~2010年にボディーアーマーを貫通して殉職した法執行機関職員の人数と、その使用された弾薬です。
一般的なアメリカの警察官はレベルIIIAのソフトボディーアーマーを着用しており、これはほとんどの拳銃弾をストップ可能ですが、ライフル弾は貫通します。
ボディーアーマーのタイプと耐弾性能(規格:NIJ STANDARD–0101.06)
レベル | 停弾可能な弾薬 | 弾頭重量 | 弾速 |
IIA | 9x19mm FMJ RN | 8.0 g (124 gr) | 373 m/s ± 9.1 m/s (1225 ft/s ± 30 ft/s) |
.40S&W FMJ | 11.7 g (180 gr) | 352 m/s ± 9.1 m/s (1155 ft/s ± 30 ft/s) | |
II | 9x19mm FMJ RN | 8.0 g (124 gr) | 398 m/s ± 9.1 m/s (1305 ft/s ± 30 ft/s) |
.357マグナム JSP | 10.2 g (158 gr) | 436 m/s ± 9.1 m/s (1430 ft/s ± 30 ft/s) | |
IIIA | .357SIG FMJ FN | 8.1 g (125 gr) | 448 m/s ± 9.1 m/s (1470 ft/s ± 30 ft/s) |
.44マグナム SJHP | 15.6 g (240 gr) | 436 m/s ± 9.1 m/s (1430 ft/s ± 30 ft/s) | |
III | 7.62 mm FMJ M80 | 9.6 g (147 gr) | 847 m/s ± 9.1 m/s (2780 ft/s ± 30 ft/s) |
IV | .30 M2 AP (徹甲弾) | 10.8 g (166 gr) | 878 m/s ± 9.1 m/s (2880 ft/s ± 30 ft/s) |
ボディーアーマーはレベルによって性能が異なります。
ライフル弾に対応するレベルIII~IVは、ハードボディーアーマー(ライフルプレート)となるため、衣服の下に着用できるようデザインされていません。よって我々一般人が日常的に着用するには、拳銃弾対応のレベルIIIA以下を着用することになります。
しかし、昨今の銃撃テロではライフルが使用されており、これらのテロに対処するには、撃たれないことが大前提となるでしょう。
ボディーアーマーは爆発物にも有効
爆弾テロには条件次第でレベルIIIA以下のアーマーも有効かもしれません。
レベルIIIAのボディーアーマーは手榴弾の破片をストップできる能力があり、その他の爆発物による破片も阻止できる可能性があります。
実際、イラクやアフガニスタンでは、レベルIIIAボディーアーマーによって手榴弾や砲弾の破片をストップし、命が助かった事例が報告されています。
民間ではスーツケース型やショルダーバッグ型のソフトアーマーを利用するのも良いでしょう。これらのバッグは片手で展開可能であり、折り畳まれたレベルIIIAのソフトアーマーが使用時に展開されて身を守ります。爆弾テロの場合、一度目の爆発に対処できないかもしれませんが、二度目の爆発に対処できるかもしれません。
ただし先ほど述べた通り、レベルIIIAではライフル弾をストップできません。スーツケースにハードアーマーを挿入しておけばライフル弾も防げますが、ハードアーマーはAK-47(7.62x39mm)対応の軽量モデルでも約1.5~2kgと重いので、日常的に携帯するには負担となります。
現実的には、レベルIIIAのソフトアーマーを選択すると良いでしょう。
床に伏せるのは間違い
映画やドラマ、または現実世界でも、銃声がすると床に伏せるのが常識のように語られます。
しかし、床に伏せるのは危険な行為といって良いでしょう。
その理由は次の二つです。
1.床に伏せても危険な状況から脱したことにはならない。
無差別に大勢を殺害したいと考える犯人にとって、伏せている人ほど狙いやすいターゲットはありません。なぜなら、ターゲットが静止しているからです。
静止目標と移動目標では、射撃時の難易度が全く異なります。フロリダ州で起こったナイトクラブ銃撃事件では、伏せた人間や倒れた人間に向かって何度も執拗に発砲されており、危機を脱するには適当な行動ではありませんでした。
危機から脱するには、一刻も早くその場を離れるしかありません。
伏せて良い状況は、敵まである程度距離があり、周囲に遮蔽物が無く、自分も銃を所持し反撃できる場合に限るでしょう。荒野のような視界の良い場所では、伏せた方が命中し難いのは言うまでもありませんが、一般的にそのような場所でテロは発生しません。
2.跳弾した弾は低い位置を飛ぶ。
跳弾については以前の記事「水面に跳弾させて目標に命中可能?」で解説しましたが、弾は入射角より低い角度を跳ねて飛びがちです。
野外で地面を跳弾した場合、弾は土にめり込んだり、石などによって上空高く跳弾することがあります。しかし、市街地のような平らな床やアスファルトでは、跳弾した弾は低い弾道を飛びます。そこで伏せると逆に命中しやすくなり、リスクが高まります。
跳弾から逃れるには、硬い遮蔽物に隠れるか、その場を離れて安全な場所まで逃げるしかありません。
カバーとコンシールメントを理解する
タクティカル用語で「カバー(Cover)」と「コンシールメント (Concealment)」という用語があります。
カバーとは、「弾が貫通しない遮蔽物」を意味し、厚い鉄板やコンクリート塀、自動車のエンジン、岩、防弾ガラス・・・等々がカバーに相当します。
コンシールメントとは、「弾は貫通できるが、敵の視界から自分の姿を隠せる遮蔽物」を意味します。射手は対象の正確な位置が分からないため、射撃して遮蔽物を貫通させても命中しない可能性が高くなります。
自動車のドア、冷蔵庫、ソファ、草木、木製の柵、住宅の壁・・・等々はコンシールメントです。
アサルトライフルのライフル弾(FMJ)に対するカバーとコンシールメント
カバー (弾が貫通しない遮蔽物) | コンシールメント (弾が貫通する遮蔽物) |
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コンシールメントを利用して交戦した場合、敵から撃ち返されると遮蔽物を貫通するため、敵に自分の位置がバレてしまうと被弾しやすくなります。
そのため、交戦する場合は弾が貫通しないカバーを利用し、相手より優位に立つ必要があります。
自動車はエンジン以外は貫通するため、カバーとして利用するには良い選択肢ではありませんが、自分が銃を所持し応戦できる場合は、自動車をカバーとして利用し、応戦が最優先となります。
もし自分が銃を所持していない場合は、相手と自分の間にエンジンを置くようにして隠れるか、迅速にその場を離れる方が良いでしょう。
ライフル弾(FMJ)のバースト射撃と手榴弾の貫通力
弾薬 | 石膏ボード | 合板 | レンガ壁 | コンクリートブロック壁 |
5.56mmNATO | 貫通 | 貫通 | 貫通 | 片面貫通 |
7.62x39mm | 貫通 | 貫通 | 貫通 | 貫通 |
7.62mmNATO | 貫通 | 貫通 | 貫通 | 貫通 |
M203HEDPグレネード | 貫通 | 貫通 | 貫通 | 貫通 |
M67グレネード | 貫通 | 貫通 | 貫通不可 | 貫通不可 |
住宅の壁に使用される石膏ボードや合板は、45度の角度で着弾しても1発で貫通します。
上記の弾薬だとレンガやコンクリートブロックは1発だけなら耐えることがありますが、複数発が同じ場所に命中すると脆く貫通するため、これらの遮蔽物の背後に留まるのは安全とはいえないでしょう。
もし銃撃テロに遭遇したら、カバーとコンシールメントを利用しながらその場を離れると、生存率上昇の助けになるかもしれません。
水中に潜る
時期が夏場で、テロ現場に池や川があれば、飛び込んで水深1メートルまで潜って逃げることも理論上可能と考えられます。
実際に第二次世界大戦で川を潜って命拾いした兵士も存在しており、水深1メートル以上潜れば多くのライフル弾は到達できません。これはアサルトライフルの小口径高速弾の他、.30-06や.50BMGでも検証され確認されています。
一方、弾速が遅く弾頭重量が重い拳銃弾(FMJ)は、ライフル弾より深い水深まで到達可能です。
この原因は、弾速が速いほど水面着弾時の衝撃で弾が潰れてしまい、フラグメンテーションやマッシュルーミングが起こるためです。しかし、拳銃弾でも1メートル以上水中進むと急激に弾速が低下するため、運が良ければ致命傷を避けられるかもしれません。
・・・とはいえ、服を着たまま水深1メートルを泳ぎ続けるのはかなり大変でしょう。
これは個人の身体能力にもよるでしょうが、走って逃げられるなら走った方が良いかもしれません。
まとめ
私はテロの専門家ではありませんので、今回は銃や弾が持つ性能から注意すべき項目に絞って考えてみました。
テロから身を守る方法として、「現地の情報収集」「人が集まる場所には行かない(または滞在時間を減らす)」「危険を感じたら伏せずに逃げる」などといったことが重要と考えるのが私の持論です。
今回の記事はあくまで「提案」を目的としており、私の持論を皆さんに押し付ける意図はありません。
この記事が危機管理を考える上での参考になれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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