ホローポイント弾は、護身用や法執行機関で広く使用される弾薬です。
本記事では、ホローポイント弾の仕組み、歴史、用途、メリットとデメリットを詳しく解説します。
ホローポイント弾とは?
ホローポイント弾とは、弾頭の先端に空洞が備わっている弾薬です。
この空洞により、弾頭が柔らかい標的に命中した際に拡張し、「マッシュルーミング」と呼ばれるキノコ状に変形します。
拡張すると、ストッピングパワーが向上する効果があります。
「ストッピングパワー」とは、「対象を行動不能にし、無力化する能力」を意味します。
人や動物の体内に侵入した弾頭は、拡張によって広範囲に傷と出血を生じさせ、対象に対して大きなダメージを与えます。
また同時に、大きな抵抗によって体内で運動エネルギーを消費し、貫通しにくくなることで貫通弾による二次被害を防ぐ効果があります。
ホローポイント弾の構造
- ホローポイント・キャビティー(先孔): 弾頭先端の空洞部分で、命中時に拡張し威力を高める構造。
- ジャケット(被甲): 弾頭を覆う金属製の外装で、精度や貫通力を向上させる役割を持つ。
- コア(弾芯): 弾頭の内部にある主要な金属部分で、貫通やダメージを与える中核部分。
- パウダー(装薬): 弾薬内部に充填された火薬で、燃焼して弾頭を推進する役割を果たす。
- ケース(薬莢): 装薬や弾頭を収納し、発射時にガス圧を保持する金属またはプラスチック製の容器。
- プライマー(雷管): 火薬を着火するための小型爆発装置で、発射の引き金となる重要部品。
ホローポイント弾の内部構造は、その種類や設計によって異なりますが、多くの場合、これらの要素で構成されています。
ホローポイント・キャビティー(先孔)
ホローポイント弾の最大の特徴は、先端部にある空洞です。
ホロー(Hollow)は「凹み」や「空洞」を意味し、ポイント(Point)は「先端」を意味します。
この空洞は、着弾時に「意図した大きさ」に拡張するよう設計されています。
体液や細胞組織などの流体が空洞内に入って圧力が加わると、ジャケットとコアが耐えられる力を超え、先端が外側に向かって剥離し始めます。
しかし、鉄やコンクリートなど、硬い物体に着弾した場合は、設計通りに拡張しません。
あくまで人や動物といった、「ソフトターゲット」に着弾した際に効果を発揮する設計です。
ジャケット (Jacket/被甲)
多くのホローポイント弾は、コア(弾芯)を「ジャケット(被甲)」で覆っています。
ジャケットはホローポイント弾に限らず、現代のあらゆる弾薬で利用されています。
ジャケットは、鉛のコアが銃身内部に触れて摩擦熱で溶ける「レッディング」(銃身内部の汚れ)を防止し、ホローポイント弾では着弾時の拡張度合いをコントロールする役割を果たします。
ジャケット自体の硬さや柔軟性も、コアと同様に着弾時の変形に影響を与えます。
着弾時にジャケットとコアが分離することがあり、分離すると慣性力が減少し貫通力低下の原因になるため、各メーカーは分離がおこりにくい構造を採用しています。
ホローポイント弾が最も高い効果を発揮するためには、「バイタル(※)に到達する高い貫通力」と、「ターゲットを完全に貫通しない貫通力」の両立が重要です。高すぎず、低すぎない貫通力が必要とされます。
(※)バイタル(Vital)とは、生命維持に不可欠な重要な臓器や組織を指します。
具体的には以下が該当します:
ホローポイント弾は拡張による広範囲のダメージで、これらバイタルを確実に損傷し、迅速にターゲットを無力化することを目的としています。
弾頭製造時には、ジャケットは平らな材料からコップ状に成形され、鉛のコアの先端、または後端に取り付けられています(メッキ加工によるジャケットも存在します)。
ジャケットの素材は5~10%の亜鉛を含む銅合金が一般的ですが、珍しいものでは鉄のジャケットも存在します。
ホローポイント弾の製造法は、コップ状のジャケットの開口部から鉛のコアを挿し込んで製造されます。しかし、一部のホローポイント弾は、「逆ジャケット(リバースド・ジャケット)」を利用しており、ジャケットの開口部が弾頭の底部にあります。この場合、弾頭先端部からコアに向かって押し込んで凹みを成形し、着弾時に信頼性の高い拡張を実現する構造に仕上げることが可能になります。リバースド・ジャケットを利用する例としては、初期のウィンチェスター・シルバーチップ、ブラックタロン、レンジャーSXTなどが挙げられます。
コア (Core/弾芯)
一般的なホローポイント弾の中心部には、鉛 または 鉛合金 のコアがあります。(鉛を使用しないホローポイント弾も存在します)
コアの硬度は、着弾時の衝撃による変形の大きさに影響します。
コアは、ジャケットで覆われている場合と、覆われていない場合があります。
比重の重い鉛により大きな慣性力を持ち、空気抵抗による減速を抑え、距離が離れても大きな運動エネルギーを維持することが可能になります。
これはホローポイント弾に限った特徴ではなく、他の多くの弾頭もコアに鉛を利用しています。
拡張制御機構 (Expansion Control Mechanisms)
ホローポイント弾は、着弾時の弾頭の拡張度合いをコントロールするために、さまざまな設計が施されています。
以下はその一例です。
設計 | 特徴 |
---|---|
ジャケットの厚さの変化 | ジャケットを前部で薄く、後部で厚くすることで、拡張の開始を容易にし、その後、拡張速度を低下させる。 |
コアの中央の仕切り | 特定の時点で拡張を停止させるために、コアの中央に仕切りを設ける。 |
コアとジャケットの接着 | 分離や破砕を防ぐために、鉛のコアを銅のジャケットに、化学的、分子的、構造的に接着する。 |
ジャケットの溝 | 拡張や破砕を促進するために、ジャケットに溝を設けたり、弱化させたりする。 |
空洞内の支柱 | ウィンチェスター社のハイドラショックで利用される構造。 組織内で拡張させるために、空洞内に支柱を設ける。 ただし、この設計は厚い衣服の素材で詰まりやすく、弾頭が拡張しない傾向がある。 |
プラスチックインサート | ホーナディー V-Maxなどで利用される構造。 フルメタルジャケット弾と同じ形状でありながら、 プラスチック(ポリマー)製のインサートが着弾時に弾頭内の空洞部分に押し込まれることで拡張を開始する。 |
飛行中に分離するプラスチックインサート | ドイツのGeco Action Safetyで利用される構造。 フルメタルジャケット弾と同じ形状で、セミオートピストルでのスムーズな装填を可能にする。 発射時に弾頭先端のプラスチックインサートがガス圧で吹き飛ばされ、発射後に通常のホローポイント弾と同じ形状になる。 |
ホローポイント弾の性能と威力
拡張によるダメージ効果
ホローポイント弾は着弾時に弾頭が拡張し、ターゲット内部での接触面積が増大します。この特性により、血管や神経などの重要な組織を破壊し、広範囲に深刻な損傷を与えることができます。
ただし、衣服やガラスなどを貫通した場合、弾頭先端に異物が詰まることで拡張が阻害されることがあります。この場合、弾頭は設計通りの効果を発揮できず、過剰な貫通力を持つことで、背後の人や物に被害を与えるリスクがあります。
ストッピングパワーと安全性
弾頭が拡張することで、運動エネルギーが効率よく伝達され、ターゲットを迅速に無力化する「ストッピングパワー」を発揮します。この特性により、エネルギーがターゲット内部で効果的に放出され、貫通を防ぐことが可能です。
ホローポイント弾は貫通力が抑えられる設計であり、貫通弾による二次被害を最小限に抑えられる点で、市街地や住宅街などの人口が密集した都市環境での使用に適しています。
各弾薬のテスト結果
以下は、.380ACP、9mm、.40S&W、.45ACPの各弾薬を、人体を模したバリスティックゼラチンに射撃し、テストした結果です。
テストにはバリスティックゼラチンの手前に衣服を模した4層の布を加え、それぞれ異なる銃で実施されました。
FBI推奨貫通深度とバリスティックゼラチンについては、記事の最後で詳しく解説します。
ホローポイント弾の種類
ホローポイント弾には、以下の種類があります。
ホローポイント弾 (HP:Hollow Point)
- ホローポイント・キャビティー(先孔): 弾頭先端の空洞部分で、命中時に拡張し威力を高める構造。
- ブレット(弾頭): 発射後に標的に向かって飛ぶ金属製の弾体。
- パウダー(装薬): 弾薬内部に充填された火薬で、燃焼して弾頭を推進する役割を果たす。
- ケース(薬莢): 装薬や弾頭を収納し、発射時にガス圧を保持する金属またはプラスチック製の容器。
- プライマー(雷管): 火薬を着火するための小型爆発装置で、発射の引き金となる重要部品。
ホローポイント弾(Hollow-point / HP)は、弾頭先端部に空洞がある基本的なタイプです。
ホローポイント弾には「ジャケット付き」と「ジャケットなし」の2種類がありますが、本来「ホローポイント弾」という言葉はジャケットのないもの(ホローポイント/HP)を指します。
一方、ジャケット付きのものは正式には「ジャケット付きホローポイント弾(ジャケッテッド・ホローポイント/JHP)」と呼ばれ、区別されています。このため、単に「ホローポイント弾」と言えば、ジャケットのないタイプを指すのが基本です。
ジャケットの無いホローポイント弾はリボルバーで多く利用され、セミオート・ピストルでは給弾不良の原因となるため、.22LR弾などを除き、ほとんど利用されません。
現代では、護身用や法執行機関で流通するほとんどのホローポイント弾がジャケッテッド・ホローポイント弾 (JHP) です。
ホローポイント弾(HP)のメリット
ホローポイント弾(HP)のデメリット
ジャケッテッド・ホローポイント弾 (JHP:Jacketed Hollow Point)
- ホローポイント・キャビティー(先孔): 弾頭先端の空洞部分で、命中時に拡張し威力を高める構造。
- ジャケット(被甲): 弾頭を覆う金属製の外装で、精度や貫通力を向上させる役割を持つ。
- コア(弾芯): 弾頭の内部にある主要な金属部分で、貫通やダメージを与える中核部分。
- パウダー(装薬): 弾薬内部に充填された火薬で、燃焼して弾頭を推進する役割を果たす。
- ケース(薬莢): 装薬や弾頭を収納し、発射時にガス圧を保持する金属またはプラスチック製の容器。
- プライマー(雷管): 火薬を着火するための小型爆発装置で、発射の引き金となる重要部品。
ジャケッテッド・ホローポイント弾(Jacketed hollow point / JHP)は、鉛のホローポイント弾頭を銅合金などのジャケットで覆っています。
ジャケットは、弾頭の拡張を制御し、深い貫通深度を得られる効果があります。
また、セミオート・ピストルで使用する際に、ジャケットにより給弾がスムーズになる他、銃身の汚れを軽減します。
JHP弾は、護身、狩猟、法執行機関で広く使用されています。
ジャケッテッド・ホローポイント弾(JHP)のメリット
ジャケッテッド・ホローポイント弾(JHP)のデメリット
ポリマーチップ弾(Polymer tipped bullet)
先端部にプラスチック(ポリマー)製のチップを挿入した弾頭は、
- ポリマーチップ弾(Polymer tipped bullet)
- プラスチックチップ弾(Plastic tipped bullet)
- プラスチックチップ・ホローポイント弾 (Plastic-tipped Hollow Point)
- バリスティックチップ弾(Ballistic Tip bullet)(Nosler社の商標)
などと、呼ばれます。
ホローポイント弾の先端にポリマー製のチップを付けた弾頭で、空力性能とストッピングパワーを向上させた設計です。
着弾時にチップが空洞(凹み)に押し込まれ、弾頭先端が拡張してターゲット内部に大きなダメージを与えます。
ホローポイント弾とポリマーチップ弾の拡張構造の違い:
ポリマーチップ弾は、主にライフルやシングルショット・ピストルで利用され、長距離射撃での精度向上を目的としていますが、一部のセミオート・ピストル用弾薬では、作動不良を防ぐスムーズな給弾を目的として利用されています(例:Cor-Bon/Glaserの「Glaser Pow’RBall」やExtreme Shockの「NyTrilium Air Freedom」など)。
この弾頭は「バリスティックチップ(Ballistic Tip)」とも呼ばれ、この名称はノスラー社(Nosler)の商標ですが、ホーナディー社(Hornady)やシエラ社(Sierra Bullets)といった他メーカーも類似の弾頭を製造しています。
ポリマーチップ部分の素材は、ポリオキシメチレン(POM)が多いですが、ポリウレタンなど他の素材を使用する場合もあります。
ポリオキシメチレン(POM)は軽量で耐久性が高く、加工が容易なため、弾頭のチップに使用することで弾道性能の向上やコスト削減が可能です。
ポリマーチップ弾のメリット
ポリマーチップ弾のデメリット
ノスラー社では口径によってチップを色分けしています。
以下はポリマーチップ弾で利用されている代表的な弾薬です。
その他の拡張する弾薬
主要なホローポイント弾には、「ホローポイント弾」「ジャケッテッド・ホローポイント弾」「ポリマーチップ弾」があります。
これらに比べると市場シャアは小さいですが、他にも以下のような弾薬が流通しています。
セグメンテッド・ホローポイント弾(Segmented Hollow Point / SHP)は、着弾時に複数の破片に分裂するよう設計された弾頭です。
弾頭が竹を割るように縦に分裂し、複数の創傷経路を生み出すことでストッピングパワーを高めます。
しかし、この弾薬には注意点があります。
分裂する特性が原因で、厚手の衣服を着たターゲットに対しては十分な貫通力を発揮できない場合があります。
大きな貫通力を維持するには大きな質量が必要であり、分裂して1断片あたりの質量が小さくなると貫通力が低下します。
狩猟においては、小動物に対して有効ですが、大きな動物の場合は致命傷となる主要な臓器に到達できないため、効果的ではありません。
SHP弾のメリット
SHP弾のデメリット
モノメタル弾(Monometal)は、銅や銅合金などの単一素材で作られた弾頭です。
一般的な弾頭は鉛を銅のジャケットで覆う構造ですが、多く流通するモノメタル弾は鉛不使用が特徴です。
- 単一素材構造
- モノメタル弾は、ジャケットやコアといった複数の部品を使用せず、均質な単一素材で製造されています。
- 素材
- 主に銅や銅-亜鉛真鍮合金が使われており、これにより耐久性と加工性を両立しています。
- 環境への配慮
- 鉛の毒性による環境汚染や健康被害を防ぐため、モノメタル弾は環境に優しい弾薬として注目を集めています。
- 重量保持率の高さ
- 着弾時に破砕しにくく、変形後も重量が保たれるため、深い貫通深度を発揮します。
- 安定した拡張性
- ホローポイント構造や特殊形状の設計により、拡張性能が均一で安定しています。
- コストの高さ
- 製造コストが高く、従来の鉛のコアを使用した弾薬に比べて価格が高めです。
モノメタル弾の種類には以下があります。
モノメタル弾は主に狩猟や競技射撃で使用されます。
モノメタル弾には以下のメリットとデメリットがあります。
モノメタル弾のメリット
モノメタル弾のデメリット
環境意識の高まりや鉛弾の規制強化により、モノメタル弾の需要は増加し続けると見込まれています。
また、技術の進化により、モノメタル弾は従来の鉛のコアの弾頭と同等か、それ以上の性能を発揮するようになっています。
エクスパンディング・フルメタルジャケット (Expanding Full Metal Jacket / EFMJ)は、フェデラル社(Federal Premium)が特許を取得した弾頭で、従来のホローポイント弾の代替として設計されたフルメタルジャケット弾です。
一般的なホローポイント弾のように先端が裂けず、弾頭内部が潰れて拡張する構造です。
この弾薬はホローポイント弾ではありませんが、ストッピングパワーと貫通力のバランスを取りつつ、過剰な貫通を抑えることを目的としています。
EFMJのメリット
EFMJのデメリット
オープンチップマッチ弾(Open Tip Match / OTM)は、設計思想上ホローポイント弾ではありません。しかし、ホローポイント弾として扱われることがある弾薬です。
OTM弾は、ホローポイント弾と同様に先端に空洞があり、長距離射撃での精度を追求して設計されています。
先端の空洞は、製造過程で鉛を充填するために設けられており、弾頭の重量バランスを均一化し、空力特性を向上させることで高い精度を実現しています。命中時の弾頭の挙動(拡張)は考慮されていません。
主に標的射撃や競技で使用され、 軍でも使用されていますが、一般的に厳密にはホローポイント弾ではないと解釈されています。
しかし、見た目はホローポイント弾と変わらないため、ホローポイント弾とみなされる場合もあります。
一部、狩猟用OTM弾も存在しますが、狩猟を目的とした他の弾頭に比べて人気がありません。
OTM弾のメリット
OTM弾のデメリット
他の弾薬との違い
一般的に多く流通している、「ホローポイント弾(HP/JHP)」「フルメタルジャケット弾 (FMJ)」「ソフトポイント弾 (SP)」 は、それぞれ異なる特性を持ち、用途や目的に応じて使い分けられます。
以下に、それぞれの特徴を解説します。
特徴 | ホローポイント (HP/JHP) | フルメタルジャケット (FMJ) | ソフトポイント (SP) |
---|---|---|---|
拡張設計 | あり | なし | あり |
ストッピングパワー | 高い | 低い | 中程度 (狩猟では獲物による) |
貫通力 | 低い | 高い | 中程度 |
近距離命中精度 | 高い | 高い | 高い |
長距離命中精度 | 高い | 中程度 | 低い |
二次被害リスク | 低い | 高い | 中程度 |
給弾不良リスク | 中程度 | 低い | 中程度 |
価格 | 高い | 低い | 中程度 |
用途 | 護身、狩猟、競技 | 軍事、訓練、競技 | 狩猟 |
フルメタルジャケット弾 (FMJ)
- ジャケット(被甲): 弾頭を覆う金属製の外装で、精度や貫通力を向上させる役割を持つ。
- コア(弾芯): 弾頭の内部にある主要な金属部分で、貫通やダメージを与える中核部分。
- パウダー(装薬): 弾薬内部に充填された火薬で、燃焼して弾頭を推進する役割を果たす。
- ケース(薬莢): 装薬や弾頭を収納し、発射時にガス圧を保持する金属またはプラスチック製の容器。
- プライマー(雷管): 火薬を着火するための小型爆発装置で、発射の引き金となる重要部品。
フルメタルジャケット(Full metal jacket / FMJ)は、コアがジャケットで覆われた構造の弾頭です。
日本語でFMJは「完全被甲弾」と呼ばれますが、実際は「完全」ではなく、弾頭の底部に鉛のコアが見える開口部があります。
弾頭底部の開口部は鉛が露出しているため、発射時には鉛の粒子が空気中に放出されることから、屋内射撃場では健康リスクを考慮して推奨されていません。
代わりに、弾頭底部もジャケットで完全に覆っている弾頭が屋内射撃場で推奨されており、この弾頭はトータル・メタル・ジャケット(TMJ)と呼ばれます。
TMJはメッキ加工でコアを包んでいるため厚みが薄く、ポーテッドバレルが備わっている銃で使用するとジャケットが剥がれるリスクがあるため、用途によっては推奨されません。
FMJは最も多く利用されている弾頭の種類で、主に射撃練習用や軍用として利用されています。
ライフル用FMJは高速で、弾頭先端が尖った「スピッツァー」形状が一般的ですが、一部の口径では丸型のFMJも見られます。
低速のライフル弾(例:レバーアクションライフル用)などでは、先端が平らなFMJが多く使用されます。
セミオート・ピストルなど、自動式の銃で使用されるFMJは先端が丸い形状がほとんどですが、円錐台形などの形状のFMJも存在します。
一部のFMJはジャケット素材にスチール(鉄)を使用しています。スチールジャケットFMJは着弾時に火花を発生させることから火災のリスクがあるため、一部の射撃場ではスチールジャケットFMJの使用を禁止しています。
フルメタルジャケット弾のメリット
フルメタルジャケット弾のデメリット
ソフトポイント弾 (SP)
- ソフトポイント:コアが露出し、拡張性と貫通力のバランスを重視した設計。
- ジャケット(被甲): 弾頭を覆う金属製の外装で、精度や貫通力を向上させる役割を持つ。
- コア(弾芯): 弾頭の内部にある主要な金属部分で、貫通やダメージを与える中核部分。
- パウダー(装薬): 弾薬内部に充填された火薬で、燃焼して弾頭を推進する役割を果たす。
- ケース(薬莢): 装薬や弾頭を収納し、発射時にガス圧を保持する金属またはプラスチック製の容器。
- プライマー(雷管): 火薬を着火するための小型爆発装置で、発射の引き金となる重要部品。
ソフトポイント弾(Soft-point / SP)は、先端に鉛のコアが露出している弾頭です。
弾頭側面は銅合金などのジャケットで覆われており、着弾時には柔らかい先端部分が大きく潰れて拡張し、ターゲットに大きなダメージを与えます。
ホローポイント弾よりも拡張しにくいため、大きく拡張させるには高速な弾速が必要です。そのため、マグナム弾やライフル弾と相性が良い傾向があります。
セミオート・ピストルなど、自動装填式の銃でソフトポイント弾を使用すると、露出した鉛がフィードランプ(傾斜)に接触し抵抗となり、給弾不良が起こりやすい問題があります。
ソフトポイント弾は狩猟用として使用されることが多く、リボルバーや手動式ライフル(ボルトアクション、レバーアクション、ポンプアクションなど)で使用されるのが一般的です。
弾速や弾頭重量などが同じ条件の場合、ソフトポイント弾はホローポイント弾よりも貫通力が高いため、大型獣の狩猟に適しています。
ソフトポイント弾のメリット
ソフトポイント弾のデメリット
ホローポイント弾の歴史とダムダム弾
ホローポイント弾の歴史は19世紀後半に始まります。当時、「エクスプレス弾」として販売され、主にライフル用として開発されました。
弾頭の先端部分を空洞化することで軽量化し、高速でフラットな弾道を実現すると同時に、柔らかい鉛合金製の弾頭が着弾時に拡張する効果も持っていました。.32-20、.38-40、.44-40などの弾薬はリボルバーでも使用可能で、ハンターや射撃愛好家の間で人気を集めました。
19世紀後半から20世紀初頭にかけて、無煙火薬が普及。無煙火薬は黒色火薬に比べ燃焼効率が高く、弾薬の小型化、高速化、軽量化を可能にしました。
しかし、鉛の弾を高速で発射すると、融点の低い鉛は摩擦熱によって溶けてしまい、ライフリングの溝を埋めてしまう「レッディング」と呼ばれる問題が生じます。そのため、弾頭が負荷に耐える必要があり、鉛を銅合金で包んだフルメタルジャケット(FMJ)弾が開発されました。
FMJ弾は鉛より硬いため着弾時に変形が少なく、対象を貫通する傾向が強い弾薬であると同時に、内部損傷を与えにくいという課題がありました。
この問題を解決するため、イギリス軍が管理するダムダム兵器廠(現インドのカルカッタ郊外)で「ジャケッテッド・ソフトポイント弾」が開発され、後にジャケッテッド・ホローポイント弾が開発されました。
これにより、着弾時に拡張する弾薬は「ダムダム弾」と呼ばれるようになりました。
ジャケッテッド・ソフトポイント弾とは、鉛のコアを銅合金で包んだ状態で、先端だけ鉛が露出している弾薬です。鉛は柔らかいため着弾時に変形し、大きく拡張します。
これらの弾薬には以下の種類があります:
- .303口径のMk III, IV, V:イギリス軍が採用したライフル弾。
- .455口径のMk III「マンストッパー」:リボルバー用ホローポイント弾。
1899年、ドイツがこれらの弾薬を「不必要な苦痛を与える武器」として国際法違反を訴えました。その結果、ハーグ条約で「人体内で容易に拡張または平坦化する弾丸」の使用が禁止されました。(アメリカはこの条約に署名しなかったため、国際法上アメリカは戦争でホローポイント弾を使用可能な状態を維持しました)
それから時が流れて1960年代のアメリカでは、ホローポイント弾が法執行機関や民間のハンターに利用されるようになり、次第に人気を得ていきました。
1980年代、FBIの要請を受けてフェデラル社(Federal Premium Ammunition)が「ハイドラショック(Hydra-Shok)」を開発。ホローポイントの中心に「センターポスト」を備え、衣類を貫通しても拡張性を維持する新しい設計でした。
1990年代初頭にはウィンチェスター社(Winchester)が黒いホローポイント弾「ブラックタロン(Black Talon)」を発売。命中時に花びら状に開く逆テーパージャケットを採用し、高い拡張効果と貫通抑制を実現しました。しかし、殺人事件で使用されたことでメディアの批判を受け、販売中止に追い込まれました。
ブラックタロンの後継として、ウィンチェスターは「レンジャーTシリーズ」や「PDX1」などの弾薬を開発し、民間市場や法執行機関で人気を博しました。これらの弾薬は、高いストッピングパワーを維持しつつ、安全性を考慮した設計が特徴です。
2018年、米陸軍は初めてホローポイント弾を正式採用しました。「M1153特殊用途弾薬」は、9×19mmパラベラム弾で、弾頭重量147グレインのジャケッテッド・ホローポイント構造を採用しています。
バリスティックゼラチンとFBIが推奨する弾薬
FBI(連邦捜査局)は、バリスティックゼラチン(バリスティックジェル)を使用した試験において、12~18インチ(約30~46cm)の貫通深度を持つ弾薬を推奨しています。
バリスティックゼラチンは、人の細胞組織を模したゼラチンの塊で、弾薬の貫通力を測る指標として利用されています。
以下はバリスティックゼラチンを使用した貫通力と拡張サイズの例です。
使用弾薬 | 製品名 | 貫通深度 (インチ) | 拡張直径 (インチ) | 銃口初速 (fps) |
---|---|---|---|---|
.380 ACP | Hornady 90 gr FTX Critical Defense | 13.2 | 0.52 | 910 |
.380 ACP | Federal 99 gr HST | 22.5 | 0.35 | 893 |
.380 ACP | Sig Sauer 90 gr V-Crown | 12.8 | 0.51 | 861 |
.380 ACP | Speer 90 gr Gold Dot | 11.0 | 0.49 | 937 |
.380 ACP | Winchester 95 gr PDX1 | 9.5 | 0.63 | 900 |
9mm | Hornady 124 gr XTP | 18.0 | 0.52 | 1150 |
9mm | Federal 124 gr HST | 14.5 | 0.68 | 1155 |
9mm | Sig Sauer 124 gr V-Crown | 13.8 | 0.57 | 1160 |
9mm | Speer 124 gr Gold Dot | 14.0 | 0.65 | 1180 |
9mm | Winchester 124 gr PDX1 | 13.3 | 0.61 | 1200 |
.45 ACP | Hornady 185 gr FTX Critical Defense | 13.0 | 0.63 | 960 |
.45 ACP | Federal 230 gr HST | 12.2 | 0.77 | 890 |
.45 ACP | Sig Sauer 230 gr V-Crown | 13.5 | 0.70 | 850 |
.45 ACP | Speer 230 gr Gold Dot | 13.8 | 0.72 | 875 |
.45 ACP | Winchester 230 gr PDX1 | 12.9 | 0.75 | 880 |
バリスティックゼラチン(弾道ゼラチン)は、動物の筋肉組織における銃創の効果をシミュレートするために設計された試験用素材で、主に貫通力の比較に利用されます。
人間の筋肉組織に近い特性を持ち、弾薬の性能試験で使用されています。
終末弾道(ターゲットに当たった後の弾頭の挙動)の研究に役立ちますが、皮膚や骨、筋肉の引張強度といった構造までは再現していません。
バリスティックゼラチンは、ゼラチン粉末を水に溶かして作られ、代表的な配合には以下の2種類があります。
バリスティックゼラチンは水温が40℃を超えるとゼラチンの特性が変化する可能性があり、調製時の温度管理が重要です。
バリスティックゼラチンを使用して正確な試験を行うためには校正が必要となり、校正方法の一例として、次の手順が挙げられます。
- 空気銃で、.177口径(4.5mm)のスチールBB弾をゼラチンに撃ち込み、貫通深度を測定。
- 速度183±3m/sで、貫通深度が8.3〜9.5cmであれば適切と判断。
天然ゼラチンと合成ゼラチンを比較すると、以下の違いがあります。
狩猟用弾薬を評価する場合、以下の点に注目されます。
FBIは護身用弾薬において、バリスティックゼラチンに対して14~16インチ(約35.6~40.6cm)の貫通深度を理想としています。
この基準は、1986年のFBIマイアミ銃撃事件をきっかけに策定されたもので、法執行機関で護身用弾薬の性能を適切に評価し選択できるようにするために作成されました。
※FBIマイアミ銃撃事件については、以下の記事をご覧ください。
主な目的は、貫通力とストッピングパワー(無力化する能力)を測定することです。
試験は以下の6種類の条件で行われます。
- 通常のバリスティックゼラチンのみ
- 厚手の冬服を着せたバリスティックゼラチン
- 車のドアを模した20ゲージ鋼板(2枚)
- 住宅の壁を模した石膏ボード+バリスティックゼラチン
- 合板+バリスティックゼラチン
- 車のフロントガラス+バリスティックゼラチン
各試験で5回発射し、ゼラチン内の貫通深度を測定します。
貫通深度の評価基準は以下に基づいています。
FBIは、試験で得られるデータの70%で「貫通深度の一貫性」を重要視しています。
残りの評価基準は、拡張性能が20%、停弾時の弾頭重量が10%です。
この試験基準によって弾薬メーカーはFBI試験で高評価を得る製品の開発に取り組むようになり、その結果、9mm弾の性能向上や、低威力と判断されていた.38スペシャル弾や.380ACP弾なども改善し、護身用の弾薬として注目されるようになりました。
しかし、この試験は万能ではありません。
一部の専門家は以下の点を指摘しています。
まとめ
ホローポイント弾は、護身用や法執行機関で使用される弾薬で、先端に空洞(ホローポイント)が設けられており、着弾時に拡張してダメージを増大させるのが特徴です。
構造と機能
性能と特徴
種類と用途
ホローポイント弾には、ジャケット付きの「ジャケッテッド・ホローポイント」やプラスチックチップが内蔵された「ポリマーチップ」などがあります。
ホローポイント弾にはさまざまな設計が施されており、用途に応じて選択されています。
関連用語集
用語 | 説明 |
---|---|
ホローポイント弾 Hollow Point Bullet | 先端部に空洞があり、着弾時に拡張して標的に大きな損傷を与える弾丸。 貫通力を抑制し、背後への貫通を防ぐ。 |
ジャケテッドホローポイント弾 Jacketed Hollow Point Bullet | ホローポイント弾の一種で、ジャケットで覆われており、銃身内での鉛汚れを減少させる。 |
ソフトポイント弾 Soft Point Bullet | 弾芯の先端が露出しており、着弾時に適度に拡張するが、ホローポイント弾ほどの拡張はない。 |
フルメタルジャケット弾 Full Metal Jacket Bullet | 弾芯全体をジャケットが覆っており、変形しにくく貫通力が高いが、阻止力は低い。 |
モノメタル弾 Monolithic Bullet | 鉛を含まない単一の金属(通常は銅)で作られた弾丸。 |
コア/弾芯 Core | 弾丸の中心部で、通常は鉛などの軟らかい金属でできている。 |
ジャケット Jacket | 弾芯を覆う硬い金属製の外皮。 銃身内での摩擦を減らし、弾丸の形状を維持する。 |
拡張 Expansion | ホローポイント弾が標的に命中した際に、先端部がきのこ状に広がる現象。 |
マッシュルーミング Mushrooming | ホローポイント弾が標的に命中した際に、先端部がきのこ状に広がる現象を指す俗語。 |
貫通力 Penetration | 弾丸が目標物を貫通する能力。 |
ストッピングパワー Stopping Power | 対象を行動不能に(無力化)する能力。 |
オーバーペネトレーション Over-penetration | 過剰な貫通。 弾丸が標的を貫通し、背後にあるものにも被害を与える可能性がある。 |
FBI テストプロトコル FBI Test Protocol | FBIが採用する弾薬の性能試験方法。 貫通力や拡張性を評価する。 |
バリスティックゼラチン Ballistic Gelatin | 弾丸の挙動を研究するために使用される特殊なゼラチン。 人体組織に似た密度と弾性を持つ。 |
ハーグ条約 Hague Conventions | 戦争における兵器使用を制限する国際条約。 人体内で容易に拡張する弾丸の使用を禁止。 |
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