
AR-15とFN P90という、全く異なる2つのプラットフォームの要素を組み合わせたユニークなライフルが存在します。それが、今回解説するAR57です。
この記事では、AR57がなぜ誕生したのか、どのような構造が備わっているのか、そして低反動で高い装弾数を誇るその実射性能について、利点と欠点も踏まえ、詳細に解説します。
※専門用語は記事の最後で解説しています。
AR57開発の背景

AR57は、手軽で軽快なスポーツ射撃用途、いわゆるプリンキング向けに開発されました。既存のAR-15ロアレシーバーを活用することで操作性と入手性を確保しつつ、FN P90用ハイキャパシティマガジンと5.7x28mm弾の特徴を組み合わせたアッパーレシーバーとして市場に投入されています。
オーナーの死去と負債問題で一時生産停止しましたが、近年生産が再開されました。
現在、新品・中古での購入が可能で、アッパーレシーバー単体やコンプリートガン(完成ライフル)として流通しています。
FN P90とは?

FN P90はベルギーのFNハースタル社が開発したコンパクトPDW(個人防衛用火器)で、主に軍・警察向けに設計されています。
作動方式はストレートブローバック式・クローズドボルトで、フルオート時の発射速度は850〜1,100RPM。米国向け民間型PS90はセミオート専用。セーフティ・セミ・フルオート切替可能(軍・警察版)、薬莢は下方に排出されます。
弾薬は5.7x28mmで、弾薬によっては装甲貫通能力を持ち、有効射程は約200m。民間型PS90も同様の設計で50連マガジンを使用します。
世界40か国以上で特殊部隊や警察に採用されており、未来的なデザインは人間工学に基づいています。
AR57の上部はガス作動系を持たず、ストレートブローバックでボルトが作動します。
給弾は上部に装着された水平マガジンから行われます。発射後の空薬莢は下方へ落下し、AR-15のマガジンウェル(マガジンハウス)が排莢口として機能します。
チャージングハンドルは側面配置で、最終弾発射後の自動ホールドオープンは行われませんが、手動操作は可能です。
AR57はAR15とP90を組み合わせたユニークな製品といえます。
項目 | AR57 | FN P90 | AR-15 (5.56 NATO) |
---|---|---|---|
弾薬 | 5.7x28mm FN | 5.7x28mm FN | 5.56x45mm NATO |
動作方式 | ストレートブローバック | ストレートブローバック | ガス作動 |
給弾方式 | 上部水平マガジン(50発) | 上部水平マガジン(50発) | ARマガジン(30発) |
排莢方向 | 下方 | 下方 | 右側 |
銃身長 | 16インチ (406mm) (6インチあり) | 10.4インチ (265mm) | 16〜20インチ |
重量 | 約6.5〜7.2 lb (2.95〜3.27kg) | 約5.6 lb (2.54kg) | 約6〜8 lb (2.72〜3.63kg) |
反動 | 非常に低い | 非常に低い | 中程度 |
光学搭載自由度 | 制限あり | 制限あり | 高い |
モジュール性 | AR-15互換 (レール、M-LOK可) | 低い (専用規格) | 高い |
有効射程 | 150~200ヤード (約135~180m) | 150~200ヤード (約135~180m) | 400~600ヤード (約365~550m) |
価格 | 600〜900ドル (アッパー) 800〜1400ドル (ライフル) | 1600〜2000ドル | 800〜2000ドル |
命中精度を比較
AR57の命中精度
銃身長16インチのモデルでは初速が2,300–2,600 fps、マズルエナジーは340–400 ft-lbf前後で、低反動かつ高連射性を実現します。
AR57は標準的な5.7x28mm弾を使用した場合、100ヤード(約91m)でおおむね2〜3 MOAの精度を得られます。

MOA(Minute of Angle、分角)は、射撃での照準精度を表す単位です。
1 MOAは角度の1分で、距離100ヤード(約91.4 m)で約1インチ(約2.54 cm)の集弾範囲に相当します。
たとえば「2 MOA」という場合、100ヤード先でおよそ2インチの範囲に弾が収まる精度を意味します。射程が伸びると集弾範囲も角度に応じて比例して広がります。
高精度な弾薬と最適な光学機器を使用すると、2 MOA未満の集弾が可能な場合もありますが、射手のスキルや環境条件によって変動します。
距離 | 2 MOA (cm) | 3 MOA (cm) |
---|---|---|
50 m | 約2.91 cm | 約4.37 cm |
100 m | 約5.82 cm | 約8.73 cm |
150 m | 約8.73 cm | 約13.1 cm |
200 m | 約11.6 cm | 約17.5 cm |
上部にマガジンが配置されているため、光学機器の選択肢が制限され、精度に影響することがあります。しかし、反動が非常に低いため、連射時の安定性や実用的精度には有利です。
初期モデルでは信頼性の問題があり、間接的に精度に影響することもありましたが、現行ではこれらの技術的問題は解決されています。
FN P90の命中精度

FN P90も同じ5.7x28mm弾を使用し、実用的な射撃距離である200メートル程度まで十分な精度を発揮します。典型的な射撃条件下では2〜3 MOAのグルーピングが期待できます。
P90はクローズドボルト方式を採用しており、オープンボルト式のサブマシンガンよりも精度が高くなっています。
ファクトリーロード(工場製のFN弾)と標準装備の光学機器を使用すれば安定した射撃が可能で、フラットな弾道と低反動も命中精度の安定に寄与します。
ただし、トリガーの作動感は精度に制限を与える要素で、P90のスライドアクショントリガーは「長め」または「プラスチック感がある」と評され、一般的なライフルのトリガーほど鋭敏ではありません。
5.7x28mm弾と5.56mm NATO弾の比較

5.7x28mm弾は、PDW(パーソナルディフェンスウェポン / 個人防衛火器)やハンドガン、サブマシンガン向けに設計されており、軽量で反動が非常に小さいことが特徴です。弾頭重量は27〜40グレインと軽く、初速は16インチ銃身で2,000〜2,350 fps、有効射程はおおよそ150〜200メートルです。マガジン容量は20〜50発と多く、近距離射撃や個人防衛(PDW用途)に適しています。弾薬自体も軽量で、より多く携行できる利点があります。
一方、5.56mm NATO弾は標準歩兵用ライフル向けに開発され、威力や射程が高く、汎用性に優れた軍用弾です。弾頭重量は55〜77グレインで重く、20インチ銃身での初速は2,900〜3,200 fps、有効射程は約400〜600メートルに達します。マガジン容量は20〜30発程度で、遠距離での精密射撃や多様な戦闘状況に対応できますが、弾薬は比較的重いため5.7x28mm弾よりも携行数に制限があります。
特徴 / 項目 | 5.7x28mm FN | 5.56mm NATO (5.56x45mm) |
---|---|---|
目的・用途 | PDW、ハンドガン、サブマシンガン向け(軽量・コンパクト) | ライフル・カービン(標準歩兵用ライフル) |
弾薬全長 | 1.594 in(40.5 mm) | 2.260 in(57.4 mm) |
ケース長 | 1.138 in(28.9 mm) | 1.760 in(44.7 mm) |
弾頭重量 | 27〜40 グレイン | 55〜77 グレイン |
弾薬重量 (1発) | 約6 g | 約12 g |
初速 (典型値) | 2,000〜2,350 fps (16インチ銃身) | 2,900〜3,200 fps (20インチ銃身) |
マズルエナジー | 340〜400 ft-lbf (460〜540 J) | 1,200〜1,300 ft-lbf (1,625〜1,763 J) |
有効射程 | 約150〜200 m | 約400〜600 m |
対応銃器例 | FN P90 Five-seveN Ruger-57 AR57 CMMG Banshee | AR-15 M16 M4 Steyr AUG HK416 |
弾倉容量 | 20〜50発 (PDW・サブマシンガン用) | 20〜30発 (標準ライフルマガジン) |
使用例 | 近接戦闘、個人防衛 | 汎用戦闘 |
価格 (1発) | 約0.50~0.60ドル | 約0.30~0.50ドル |
AR57の利点と欠点
AR57の利点と欠点をまとめます。
AR57はFN P90より重く約3.5 kg前後です。
上部マガジン配置により光学機器搭載は制限され、遠距離精密射撃には不向きです。初心者や小柄な射手にとって低反動は利点ですが、マウントの短さにより搭載可能な光学機器の種類が限られる点が運用上の選択肢を狭くします。

純正FN P90マガジンは給弾安定性が高く、社外互換マガジンは不具合が発生しやすい点に注意が必要です。ドロップイン方式でロア側の恒久的改造は不要です。
排莢はマガジンウェルから落下するため、薬莢受け用マガジンを用いる運用も可能です。

ユーザー層はコレクション用途やトレーニング向けに限られ、FN P90を採用するベネズエラ軍ではAR57の使用が確認されているものの、軍・警察での標準採用例はほとんどありません。AR-15ロア互換という利点はありますが、P90との明確な優位性は示せず、需要は限定的です。
内部構造は、ストレートブローバック式のため、ガス作動系特有のカーボン蓄積は少なく、ボルトと銃身周辺のクリーニングで良好な状態を維持できます。消耗品や調整箇所も限定的で扱いやすいですが、給弾系の公差やマガジン選定が信頼性に直結するため、管理と弾薬やマガジンの互換性確認は必須です。
AR57には初期の第1世代と改良型の第2世代が存在します。第2世代では給弾安定性と操作性の改善が主眼で、射撃精度やメンテナンス性が向上しています。ただし上部マガジンによる光学搭載制約の問題は両世代共通です。
まとめ
AR57は、FN P90と同じ5.7x28mm弾と水平50発マガジンを使用し、AR-15のロアレシーバーと互換性を持つユニークなライフル/ピストルです。主にプリンキング(スポーツ射撃)用途向けに開発されました。
主な特徴をまとめると以下のとおりです。
AR57は、特殊なコレクション用途やトレーニングに適した製品といえるでしょう。
- プリンキング(plinking): 趣味のスポーツ射撃で、特定の競技規則を持たずに、空き缶などの非公式な標的を撃つカジュアルな射撃のことです。
- アッパーレシーバー(upper receiver): AR-15ライフルにおいて、銃身やボルト、ガスシステムなどが装備されている上半分の主要な部品です。これに対し、トリガーやストックが取り付けられる下半分をロアレシーバーと呼びます。
- ハイキャパシティマガジン(high-capacity magazine): 銃に装填できる弾薬の数が通常よりも多い弾倉のことです。FN P90のマガジンは標準で50発という高い装弾数を備えています。
- ストレートブローバック(straight blowback): 反動利用式(ブローバック方式)の中でも、発射時の燃焼ガス圧力でボルトが後退し、排莢と次弾の装填を行うシンプルな作動方式です。
- クローズドボルト(closed bolt): 射撃準備状態でボルトが前進・閉鎖されており、トリガーを引くと撃発する作動方式です。オープンボルト方式よりも命中精度が高くなる傾向があります。
- ブルパップ構造(bullpup): 銃の作動機構や弾倉がトリガーよりも後方に配置された設計です。これにより、銃身長を維持しつつ銃全体の全長を短くできます。
- PDW(Personal Defense Weapon): 個人防衛用火器のことで、主に兵士や後方部隊の兵員が自己防衛のために使用する小型・軽量の火器を指します。
- MOA(Minute of Angle): 射撃における命中精度を表す単位です。1 MOAは100ヤード(約91.4 m)の距離で、約1インチ(約2.54 cm)の集弾範囲に相当します。
- アウト・オブ・バッテリー発火(out-of-battery discharge): 銃のボルトが薬室を完全に閉鎖していない状態で弾薬が発火する、危険な作動不良のことです。
- フィールドストリップ(field strip): 銃器の基本的な分解方法で、清掃やメンテナンスを目的とした、工具をほとんど使用しない簡易分解のことです。
- Gun Review: The Fully Functional AR57
- AR57 — Rainier Arms tech overview
- AR-57 (Wikipedia)
- Panzer Arms AR-57 Conversion (product write-up)
- The AR57: The Unique AR Design and Its Revival (Ready Gunner feature)
- Northwest Firearms forum thread: AR57 discussion
- The 5.7x28mm Cartridge and the Rattlesnake Tactical AR57 Platform (Ammunition Depot)
- FN 5.7×28mm (Wikipedia)
- Overview of gun laws by nation (Wikipedia)
- Australian Border Force: Firearms import guidance
- Sidley legal insights: DDTC rule updates
- Federal Register: ITAR updates (2025)
- Gun review: The Fully Functional AR57 (alternate publication)
- Military Today: FN P90
- Omaha Outdoors: AR57
- その他多数。