.38スペシャル弾は9mm弾(9x19mm)と比較すると非力なのでしょうか?
.38スペシャル弾は「豆鉄砲」と揶揄されることがありますが、これは事実でしょうか?
今回は.38スペシャル弾と9mm弾の違いについて解説します。
9mmと.38スペシャルの違い
平均的な.38スペシャルのマズルエナジーと弾速は9mmより劣ります。
9mmを100とすると、.38スペシャルは約50~70程度です。
最大腔圧は9mmが35,000 psiに対して、.38スペシャルは17,000 psiに留まります。
.38スペシャルは1898年に設計された弾薬で、当時はブラックパウダー(黒色火薬)が使用されていました。
しかし、スモークレスパウダー(無煙火薬)の普及により、使用する装薬量が減少したものの、ケース(薬莢)の規格サイズは現在も当時と同じため、装薬が収まる薬莢内部は空洞(エアスペース)が多くを占めています。
装薬量は弾頭重量や装薬の種類によって異なりますが、.38スペシャルでは約2.5~7グレイン(約0.16~0.45グラム)、9mmでは約3~8グレイン(約0.19~0.52グラム)の装薬が使用されています。
※1グレイン=0.0647989グラム
9mmの長所と短所
9mmの長所
- .38スペシャルよりも初速が速く、運動エネルギーも大きい。
- 流通量が多く、安価で入手しやすい。
- セミオートピストルで装弾数が多い。
- 反動が小さく、速射性や速射時の命中率が優れる。
- コンパクトピストルからカービンまで幅広い銃に対応。
- 現代の9mmホローポイント弾はFBIの貫通基準をクリアする。
9mmの短所
- 弾薬のブランドによってはストッピングパワー(対象を無力化する能力)が不足する場合がある。
- 条件によっては貫通力の高さから二次被害のリスクがある。
- .38スペシャルよりも銃声が大きい傾向がある。
- テーパードケースのためハンドロード(弾薬の自作)に手間が掛かる。
.38スペシャルの長所と短所
.38スペシャルの長所
- 反動が小さく撃ちやすい。
- 9mmよりも重い弾(最大158グレイン)を発射可能。
- リボルバーで使用されるため、シンプルかつ作動の信頼性が高い。
- .357マグナムリボルバーでも発射可能。
- 軽量コンパクトな銃が多く、携帯しやすい。
.38スペシャルの短所
- 9mmと比べると初速と運動エネルギーが低い。
- リボルバーで使用されるため、装弾数が少ない(通常5~6発)。
- セミオートピストルと比べるとリロードが遅い。
- 9mmよりも高価なことが多い。
- 古いフルメタルジャケットやラウンドノーズ弾ではストッピングパワーが不足しやすい。
弾道データを比較
以下の弾道曲線は、ウィンチェスター社の9mm+P(124 gr)と.38スペシャル+P(125 gr)の比較です。
黄色の曲線が9mm、緑色の曲線が.38スペシャルです。(単位は横軸がヤード、縦軸がインチ)
距離 | 9mm 弾速 | .38spl 弾速 | 9mm エナジー | .38spl エナジー |
---|---|---|---|---|
0ヤード | 1200 fps | 945 fps | 396 ft-lbf | 248 ft-lbf |
10ヤード | 1180 fps | 943 fps | 383 ft-lbf | 247 ft-lbf |
20ヤード | 1161 fps | 942 fps | 371 ft-lbf | 246 ft-lbf |
30ヤード | 1143 fps | 940 fps | 359 ft-lbf | 245 ft-lbf |
40ヤード | 1126 fps | 938 fps | 349 ft-lbf | 244 ft-lbf |
50ヤード | 1110 fps | 937 fps | 339 ft-lbf | 243 ft-lbf |
距離50ヤード(約46メートル)のターゲットを射撃した場合、このような弾道曲線になります。
9mmは発射から0.13秒で着弾し、.38スペシャルは0.16秒で着弾しています。
9mmは30ヤードまで超音速を維持していますが、.38スペシャルは初速が既に亜音速のため比較的に小さな銃声になり、特に屋内射撃時のメリットになります。
弾道は、双方を比較すると9mmは.38スペシャルよりもフラットな弾道です。
弾道曲線の頂点の高さを比較すると、9mmが0.9インチ、.38スペシャルが1.3インチ。
弾頭重量はほとんど同じですが、弾速が遅い.38スペシャルは弾道の放物線が大きくなります。
距離が遠くなるほど落下時の角度が強くなるため、弾速が遅い弾薬は距離が離れるほど不利になり、命中率が悪化しやすくなります。
勿論、使用する弾頭重量や弾速によって結果は異なりますが、おおむねこのような傾向がみられます。
以下はフルメタルジャケット弾を使用した際の弾道データです。
.38スペシャル(FMJ)の弾道データ
フェデラル アメリカンイーグル 130 gr FMJ
弾道係数 0.174 G1 / サイト高 0.2インチ
距離 (ヤード) | 弾速 (フィート/秒) | エナジー (ft-lbf) | 弾道 (インチ) |
---|---|---|---|
0 | 810 | 189.0 | -0.2 |
25 | 794 | 182.0 | 0.0 |
50 | 779 | 175.0 | -3.2 |
75 | 765 | 169.0 | -10.1 |
100 | 751 | 163.0 | -20.6 |
9x19mm(FMJ)の弾道データ
フェデラル アメリカンイーグル 115 gr FMJ
弾道係数 0.119 G1 / サイト高 0.2インチ
距離 (ヤード) | 弾速 (フィート/秒) | エナジー (ft-lbf) | 弾道 (インチ) |
---|---|---|---|
0 | 1180 | 356.0 | -0.2 |
25 | 1105 | 312.0 | 0.0 |
50 | 1046 | 279.0 | -1.6 |
75 | 998 | 254.0 | -5.1 |
100 | 958 | 234.0 | -10.9 |
9mmは、弾速、エナジー共に.38スペシャルより勝っていることがわかります。
ホローポイント(JHP)で比較
以下は、ホローポイント弾の比較です。
代表的な製品として、スピアー・ゴールドドットの弾道データです。
.38スペシャル(JHP)の弾道データ
スピアーゴールドドット +P 125 gr JHP
弾道係数 0.14 G1 / サイト高 0.2インチ
距離 (ヤード) | 弾速 (フィート/秒) | エナジー (ft-lbf) | 弾道 (インチ) |
---|---|---|---|
0 | 945 | 248.0 | -0.2 |
25 | 917 | 233.0 | 0.0 |
50 | 891 | 220.0 | -2.4 |
75 | 867 | 209.0 | -7.5 |
100 | 845 | 198.0 | -15.5 |
9x19mm(JHP)の弾道データ
スピアーゴールドドット +P 124 gr JHP
弾道係数 0.135 G1 / サイト高 0.2インチ
距離 (ヤード) | 弾速 (フィート/秒) | エナジー (ft-lbf) | 弾道 (インチ) |
---|---|---|---|
0 | 1150 | 364.0 | -0.2 |
25 | 1088 | 326.0 | 0.0 |
50 | 1039 | 297.0 | -1.6 |
75 | 997 | 274.0 | -5.3 |
100 | 962 | 255.0 | -11.1 |
この比較では双方の弾頭重量が近いため、さきほどのフルメタルジャケットの比較よりも弾速差が少なくなっていますが、弾速と運動エネルギーは依然として9mmの方が優位にあります。
しかし、.38スペシャルは「豆鉄砲」と呼ばれるほど非力ではありません。
対人としては、致命傷となる部位に命中すれば、死に至る確率の高い殺傷力を持ち合わせていますし、9mmよりリコイル(反動)が小さいため、護身用としても広く使用されている弾薬です。
グリズリー(ハイイログマ)を倒した事例
最後に.38スペシャルでグリズリーを倒した事例をご紹介します。
2011年9月13日、アメリカのワイオミング州にて、二人のハンターがエルク(アメリカアカシカ)を狩るために険しい山中(標高2878m)を移動していました。
二人は弓で猟を行うボウハンターで、そのうちの一人は弓と.38スペシャルリボルバーを携帯しています。(以下、氏名不明なためハンターA、ハンターBと呼称します)
午前10時ごろ、倒木の多い場所を横断中にグリズリーが現れました。
グリズリーはハンターAに飛び掛かってきたため、倒木の上へかけ上げると、グリズリーは驚いて雑木林の中へ逃げていきました。
そしてグリズリーが見えなくなるまで待ち、危険なため二人は下山することにします。
下山途中、大きな音を聞いた二人はエルクだと思ったところ、グリズリーが走ってくるのが見えました。
ハンターAは急いで倒木の幹に登り、ハンターBも弓を捨て、近くの倒木を登ろうとしました。
しかし、ハンターBは滑って仰向けに落ちてしまいます。
倒れたハンターBは襲ってくるグリズリーを足で蹴ると、グリズリーはハンターの足首をつかみました。
そしてハンターBはハンターAに向かって「Shoot the bear!(熊を撃て!)」と叫びます。
ハンターAは.38スペシャルリボルバーを2発発砲。
するとグリズリーはハンターBから離れたものの、次にハンターAに向かっていきます。
ハンターAは震える手でグリズリーに向かってもう1発撃つと、グリズリーはその場に倒れました。
発砲時の距離はいずれも6フィート(約1.8m)以内だったとのことです。
同日、通報を受けたワイオミング州魚類野生生物局はハンターと共に現場を訪れ、グリズリーを解剖しました。
グリズリーの体内から変形が少ない弾頭2発と、大きく変形した弾頭1発を発見し、恐らくこの変形した弾頭がグリズリーの脊髄に命中したことが致命傷になったと考えられています。
情報元:ammoland.com .38 Special Effective Against Wyoming Grizzly Bear
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