「トレイルガン」や「キャンプガン」とは、どんな銃でしょうか?
キャンプに銃は必要でしょうか?
今回はアウトドアで必要とされるトレイルガンについて解説します。
トレイルガンとは何か?
トレイル(Trail)とは、「荒野の踏みならされてできた道」や「山中の小道」という意味があり、文明のない自然を歩く際に携帯する銃を「トレイルガン」と呼びます。
そしてキャンプに持参する銃は「キャンプガン」と呼ばれ、レクリエーション目的や非常用として携帯する銃を指しますが、トレイルガンとキャンプガンは同義として扱われることもあります。
トレイルガンやキャンプガンに定義はありません。
護身用に携帯する銃を「キャリーガン」と呼びますが、キャリーガンという銃が存在しないのと同じです。
トレイルライフル、トレイルリボルバー、トレイルピストルなど、何を携帯するかにより呼び方が異なり、それらを総称してトレイルガンやキャンプガンと呼ばれます。
ガンメーカーは歴史的に小口径リボルバーをトレイルガンの条件として扱う傾向がありますが、現代では必ずしも小口径とは限りません。
トレイルガンの目的
トレイルガンを携帯する主な目的は、外敵(野生動物や人間)から身を守るためです。
アメリカでは地域によって、熊(アメリカグマやグリズリー)、ピューマ(マウンテンライオン)、ヘラジカ(ムース)、バイソン、オオカミ、イノシシ、野犬、ワニ、蛇、蜘蛛、人間、等々が脅威となり、対象の大きさは様々です。
そのため実際にトレイルを歩く前に「何から身を守ることを想定するか?」を考え、それによって銃の種類や使用弾薬を選択します。
キットガン
20世紀前半から80年代頃までは、トレイルガンといえば蛇や毒虫、または悪人から身を守ることを目的とし、軽量で携帯しやすい小口径リボルバーが定番でした。
いわゆる「キットガン」と呼ばれるハンドガン(主に.22LR口径リボルバー)で、ハイカーや釣り人が背負うキットバッグ(ダッフルバッグ)に入れておく銃として普及しました。
S&Wが最初に「キットガン」として発表したモデルは6連発ダブルアクション・リボルバーの.22/.32キットガンです。
Iフレームで4インチバレルを装備。.22LRまたは.32S&Wロングを使用する2バージョンが1935年に発表され、1941年まで製造されます。戦後にはハンマーブロック・セイフティを搭載したキットガンが再生産され、1946年から1952年まで製造されました。
当時、熊などに対処するにはライフルやショットガンが必要でした。
マグナムリボルバーが存在しなかったため、.357マグナム(1934年~)や.44マグナム(1955年~)が市場に登場した後に、ライフルの代わりとして徐々にマグナムリボルバーも携帯の選択肢に入るようになります。
トレイルガンとキャンプガンの理想的条件
車で山に乗り付けてテントを張るだけであれば大きな銃でも問題ありません。
しかし、テントや寝袋を背負うとしたら、できるだけ軽量な銃を選びたいところです。
快適に携帯するには、大きすぎず重すぎない銃が理想でしょう。
.22LRを使用するような小口径ハンドガンは手軽で人気があります。
一方、人間より厚みのある胴体を持つ動物を対象する場合は、通常の護身用やホームディフェンス用の銃ではパワーが足りないため、大口径の銃を選択することになります。
着弾後に体内の深部まで弾を到達させて行動をストップさせるには、それなりの弾頭重量と弾速が必要です。
しかし、「熊除け」には銃より熊除けスプレーの方が効果があるという研究もあり、一概に大口径の銃が必要とはいえないようです。
何を携帯するかはユーザーの考え方次第でしょう。
それでは以下、トレイルガンに利用できる銃の一例をご紹介します。
ライフルとショットガン
レミントンM870マリーンマグナム
50メートル以内では圧倒的なパワーを誇る12ゲージショットガンは、スラグ弾を使用すれば熊に対処することも可能です。
猟目的ではないので、トレイルガンが短い射程でも問題ありません。
レミントンM870マリーンマグナムは装弾数6発で18インチバレルを装備しています。
18インチはアメリカでランセンス無しで所有可能なショットガンの最短銃身です。
グラスファイバーストックを装備し重量は3.4kgで、表面加工はニッケルプレーテッドフィニッシュなので耐水性は十分。
猟をするのであれば光を反射する銃は獲物を遠ざけてしまいますが、トレイルガンとしてはこれは寧ろメリットです。
ルガー・アメリカンライフル
ボルトアクションライフルには軽量なモデルが多く、トレイルガンとしても優秀なモデルが多数存在します。
ルガー・アメリカンライフルは重量2.7kgの軽量ボルトアクションライフルです。
- ボルトハンドルの角度が70度でスコープと干渉しにくい
- フリーフローティング・バレルを装備
- トリガープルを3~5ポンドに調節可能なアジャスタブルトリガーを装備
- ロータリー着脱式マガジン装備(装弾数4発)
・・・等々の特徴があり、トレイルガンとしても十分な性能です。
口径バリエーションは、.22-250 Rem、.223 Rem、7mm-08 Rem、.243 Win、.308 Winが用意されていますが、熊を想定するなら.308 winを選択すると良いでしょう。
.308 winは対人から狩猟用までオールラウンドで扱いやすい弾薬です。
レミントンM700SPSコンパクト
そしてこちらはレミントンM700SPSコンパクトです。
重量3.2kgと軽量で装弾数は4発。
口径バリエーションに.243 Winと7mm-08 Remが用意されていますが、7mm-08 Remをお勧めします。
7mm-08 Remは.308winカートリッジを7mmにネックダウンした小口径高速弾で、.308よりリコイルが軽く、弾道がよりフラットです。
熊や大型の獲物に対してはパワー不足なものの、鹿、イノシシ、ピューマといった中型の獲物には効果的です。
私が以前所有していたライフルは通常のM700SPS(.308win)でしたが、M700SPSは命中精度やアクションの信頼性が高くお勧めです。
トリガーメカのトラブルでリコール問題が発生したこともありましたが、それも今では解消されています。
また、M700シリーズはオプションが豊富なので、コンバージョンキットを導入してインターナルマガジンをボックスマガジンに交換することで装弾数を10発に増加でき、予備マガジンが携帯可能になります。
マーリンM1895
トレイルガンとしてボルトアクションよりお勧めなのがレバーアクションです。
マーリンM1895の使用弾薬は.45-70ガバメントで装弾数は4~6発(モデルによる)。
マズルエナジーは1,500~3,000ft-lbfとなり、弾によっては.308winのパワーに匹敵します。ボルトアクションより速射が可能であり、野生動物による咄嗟の襲撃にも対応しやすいでしょう。
全長 94~102cm、重量 3.2~3.6kg
マグナムリボルバー
長物を持ち歩きたくないが大型の獲物にも対応できる銃なら、大口径リボルバーがお勧めです。
上の画像の左から順番に、.357マグナム、.44マグナム、.480ルガー、.454カスール、.500S&Wです。
いずれもパンチ力のあるカートリッジですが、人間の胴体より厚みのある胴体を持つ動物にはこれらマグナムカートリッジのパワーが必要になります。
S&W M500
もう紹介する必要もないほど有名なS&W M500は、世界最強リボルバーのうちのひとつです。
使用弾薬の.500S&Wは、300~500グレインの弾頭を1,600~2,000フィート/秒(290~610メートル/秒)で撃ち出し、マズルエナジーは1,600~2,800ft-lbfに達します。
ライフル弾の.308winのマズルエナジーが2,600~3,000ft-lbfであることから、その60~90%のパワーを出せる.500S&Wは、拳銃弾でありながら大型の獲物に対応可能な数少ないリボルバー用弾薬といえるでしょう。
M500はダブルアクションリボルバーであり、短時間に複数弾を命中できれば総合的なストッピングパワーに優れます。
画像の4インチバレルモデルは重量約1.6kgとハンドガンとしては重いものの、ライフルの半分という重量はトレイルガンにも利用できます。
S&W M500 10.5インチバレル
S&W M500には胸の位置で保持できるショルダーホルスターも用意されていますが、10.5インチバレルモデルであればスリングも装着できるため携帯しやすいでしょう。
全長 45.7cm、重量 2.3kg
ルガー・スーパーレッドホーク・アラスカン
ルガー・スーパーレッドホーク・アラスカンは、スタンダードのスーパーレッドホークより軽量でコンパクト(2.5インチバレル装備)な大口径リボルバーです。
口径バリエーションに.454カスール、.480ルガー、.44マグナムが用意されていますが、マズルエナジーの大きさは、.454カスール > .480ルガー > .44マグナムです。
.454カスールのマズルエナジーは、1,500~1,900ft-lbf程度。.500S&Wの1,600~2,800ft-lbfには劣りますが、それでもかつて世界最強と呼ばれた.44マグナムの1.5~2倍のパワーを持ちます。
.454カスールより強力な弾薬に.460マグナムが存在しますが、S&W M500の.460口径モデルであるM460シリーズで.460マグナムを使用することができます。
こちらもトレイルガンの選択肢として良いリボルバーでしょう。
ルガー・スーパーレッドホーク・アラスカンの優れる点は装弾数にあります。
S&W M500やS&W M460は装弾数5発ですが、アラスカンなら6発装填できます。
また、.454カスールモデルの重量は1.2kgと4インチバレルのM500より400グラムも軽量です。
S&W M629
S&W M629は装弾数6発の.44マグナムリボルバーです。
2.6インチバレルモデルの重量は1.1kgと.44マグナムリボルバーでは比較的軽量。
.454カスールや.500S&Wはリコイルが強すぎるため万人向けではありませんが、.44マグナムであれば手に受ける苦痛は軽減されますし、鹿やイノシシといった中型の獲物にも有効です。
しかし、.44マグナムもリコイルが大きい弾薬には違いないので、もし女性が使用するなら.357マグナム以下の方が扱いやすいでしょう。
全長 19.4 cm、重量 1.1kg
トーラス・レイジング・ジャッジ M513
近距離で小型~中型の獲物を狙うなら、トーラス・レイジング・ジャッジ M513も選択肢として良いリボルバーです。
これ一丁で.454カスール、.45コルト、.410ゲージショットシェルの三種類の弾を計6発装填可能です。
全長 26cmで、重量は少し重めの 1.7kg
リコイルの強い銃では、少し重い銃の方がリコイルが軽減され撃ちやすいといえます。
.410ゲージショットシェルは装弾の種類が豊富で、スラグや散弾が発射できます。
数発の散弾が飛ぶバックショットを使用すれば、対人や中型の獲物に対応できますし、バードショットを使用すれば数メートル先の毒蛇にも対処できます。
S&W GOVERNOR
S&W ガバナーは、トーラスジャッジ・シリーズと同じコンセプトを持つリボルバーです。
ジャッジのように.454カスールは撃てませんが、代わりに.410ゲージショットシェル、.45ACP、.45コルトを計6発装填可能です。
また、フレームの素材にスカンジウム合金を使用しており、ステンレスを使用しているトーラスジャッジの約1/2の重量で軽量です。
ガバナーにはクリムソントレース社のレーザーグリップを標準装備したモデルが用意されています。
直射日光下のレーザーは視認性が悪く、あまり役に立ちませんが、薄暗い場所では非常に有効です。
木が生い茂る日光が遮断されるような場所を歩く際にも便利かもしれません。
全長 21.59 cm、重量 839g
一般的なピストルやリボルバーでも散弾を発射可能で、CCI社が製品化していますが、これらはショットサイズが#4~#12(3.3mm~1.3mm)と小さく、ショット数が少ないのが難点です。
ケース容量が小さいので仕方がありませんが、その点、.410ゲージショットシェルはケース長が長いので容量も十分です。
S&W M317 キットガン
S&W M317キットガンはS&Wの現行カタログにある現代のキットガンです。
重い銃を携帯したくないが丸腰は不安、または気軽に撃って遊びたいというユーザーにお勧めです。
使用弾薬は.22LRで装弾数8発。
アルミ合金製で重量は354gという軽量リボルバー。
.22LRは「安い」「良く当たる」「リコイルが軽い」と三拍子揃った人気の弾薬です。
3インチバレルの先にはHI-VIZファイバーオプティクのフロントサイトが搭載されており、明るいドットで視認性の高いサイトです。
M317は1997年に登場し、以後様々なバージョン展開がされました。
登場年 | モデル | 概要 |
---|---|---|
1997年 | 317 | 2インチバレル |
1997年 | 317-1 | 3インチバレル・ターゲットモデル ブラックランプ・フロントサイト |
2000年 | 317-1 | 2インチステンレスバレル・ターゲットモデル レッドランプ・フロントサイト (製造数120丁) |
2001年 | 317-1 | 3インチバレル・ターゲットモデル HI-VIZフロントサイト(グリーン) |
2002年 | 317-2 | 2インチバレル固定サイト インターナル・キーロック・システム |
2002年 | 317-3 | 3インチバレル・ターゲットモデルにインターナル・キーロック・システムを搭載 刻印を”SPFLD, MA S&W U.S.A.”に変更 |
まとめ
「大は小を兼ねる」ではありませんが、大口径の強力な弾薬を選択すれば大型生物からも身を守れて安心です。
しかし、目的が猟ではない以上、重い銃を携帯して移動の快適性をどこまで犠牲にできるかがトレイルガンを選ぶうえで問題となるでしょう。
移動手段は徒歩?車?それとも馬?・・・条件次第で選択肢は無数です。
また、どんな生物が生息している地域なのかリサーチも必要でしょう。
北極を歩くならホッキョクグマ対策で大口径ライフルが必須ですが、熊が生息していない砂漠で大口径ライフルは無用で、むしろ毒蛇対策として散弾(バードショット)を用意したいところです。
アメリカでは様々な大型生物が生息していますが、ある人は「トレイルで一番脅威なのは人間」と言います。
そのため、トレイルガンには対人用として普段から携帯しているコンパクトピストルを選択している人もいます。
ベストトレイルガンは存在せず、環境と目的に応じた銃を選択する必要があるでしょう。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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