2024年5月29日、中部国際空港で発見された回転弾倉式拳銃が大きな注目を集めています。
アメリカのコレクターにとっては知られた銃ですが、日本では珍しい銃といえるかもしれません。
この記事では、押収された回転弾倉式拳銃の種類や歴史について詳しく掘り下げていきます。
事件の概要
中部国際空港で29日、拳銃1丁を所持していた中国人の男が現行犯逮捕されました。
中部国際空港の保安検査場で29日正午過ぎ、中国行きの便に乗ろうとしていた男のリュックサックから、回転弾倉式拳銃1丁が見つかりました。
警備員からの報告を受けた警察官が拳銃であることを確認し、男を銃刀法違反の現行犯で逮捕しました。
逮捕されたのは、中国国籍で住所不定・職業不詳のチョウ・デンチョウ容疑者(33)で、調べに対し「おもちゃだと思っていた」と容疑を否認しているということです。
チョウ容疑者は銃弾は持っておらず、「日本で職を失い、中国に帰国しようとしていた」と話しているということで、警察が拳銃の入手方法などについて調べています。
https://news.yahoo.co.jp/articles/bb00c7cb2b1856140504847bdeb7197e5b282ca3
押収された銃を見る限り、かなり腐食が進んでおり、あまり良い状態とはいえません。
この銃が製造された当時のニッケルメッキは脆弱なため、扱いには注意を必要とします。
しかし、内部メカに問題がなければ、十分に発射可能だと思われます。
追記:2024年6月19日
中部空港で拳銃所持の疑いで逮捕の男性を不起訴処分
中部空港でリュックサックの中に拳銃を所持していたとして逮捕された男性について名古屋地検は不起訴処分としました。
19日付で不起訴処分となったのは中国籍の33歳の男性です。
警察によりますと男性は5月、中部空港の保安検査場でリュックサックの外側ポケットに回転弾倉式拳銃1丁を所持した疑いで現行犯逮捕されていました。
拳銃はところどころ錆びていて弾は持っていませんでした。
名古屋地検は不起訴の理由を明らかにしていません。
https://news.yahoo.co.jp/articles/ed87204a4b450057c3850d4442ca43cbe84cdd55
回転弾倉式拳銃(リボルバー)とは?
回転弾倉式拳銃(リボルバー)は、弾倉が回転することで次の弾丸を発射位置に送る構造を持つ銃です。
この仕組みにより、連続して弾丸を発射することが可能です。
一般的なオートマチック拳銃とは異なり、作動方式が火薬の力に依存しないため、比較的に信頼性が高いとされています。
今回発見された銃とは?
報道では押収された銃の詳しいモデル名まで触れていませんが、私は画像からホプキンス&アレン社(Hopkins & Allen)のXLダブルアクションリボルバー(3インチバレル)と判断しています。
ホプキンス&アレン・XLダブルアクションリボルバーは、弾薬に.32 S&Wを使用する、.32口径SA/DAリボルバーです。
アメリカの中古市場では商品状態によって約80~1,000ドルの価格帯となっていますが、並みの状態でも100ドル程度で購入できる場合もあります。
19世紀末(1886~1898年)に製造され、フロントサイトの形状が異なるものなど、同型で3種類のモデルが存在します。
他の大型バリエーションとしては、XLネイビー、XLアーミー、XLポリスなどの.38~44口径モデルも製造されました。
手動でハンマーを起こして発射するシングルアクションと、トリガーを引いてハンマーを起こすダブルアクションが可能です。
シリンダー構造
フレーム左側に縦に伸びるレバーの様な部品(ラッチ)が確認できますが、これは分解時に使用されます。
これを押すとシリンダー(回転弾倉)をフレーム内に固定するシリンダーロッドを引き抜くことが可能になります。
1871年に特許が取得された、ホプキンス&アレン社の特徴的な構造といえるでしょう。
装填と排莢の方法
現代の一般的なリボルバーはシリンダー(回転弾倉)をフレームの横から押し出す「スイングアウト方式」が主流で、シリンダーの出し入れによって装填と排莢を行います。
しかし、このモデルはシリンダーがフレーム内に固定されており、シリンダーを取り出さずに装填と排莢を行います。
フレーム右側(シリンダー後方)にあるリコイルシールド(シリンダー内の弾が抜け落ちないようにする部分)に、蓋のようなローディングゲートが備わっているのが確認できるでしょうか?
このローディングゲートを開けて装填と排莢を行う構造です。
イメージとしては、コルトSAAに似た仕組みです。
このほか、ホプキンス&アレン社のリボルバーには、シリンダーロッドを引き抜くとバネの力で自動的にシリンダーが横に飛び出すモデルも製造していました。
オクタゴンバレル
銃身(バレル)に注目すると、八角形のオクタゴンバレルが特徴的です。
全体的に角ばっており、現代のハンドガンではあまり見られない形状です。
これは18世紀ドイツのデザインに由来し、19世紀当時のアメリカでドイツ製銃器を象徴するデザインとして人気がありました。
オクタゴンバレルは通常の丸い銃身よりも重量が重く、強度があります。
銃身が重いことは反動を軽減するメリットがある反面、携帯性が悪化するデメリットがあります。
現代では、このサイズのリボルバーは携帯性を重視されるため、コレクター向けを除いて使用されなくなりました。
.32 S&Wとは?
.32 S&W(スミス&ウェッソン)は、1878年に開発されたセンターファイア・リムドカートリッジです。
S&W社が小型フレームのポケットリボルバー用に設計しました。
弾薬 | 弾頭重量 (gr) | 銃口初速 (ft/s) | マズルエナジー (ft-lbf) |
---|---|---|---|
.32 S&W | 85 | 705 | 94 |
.32 S&W | 98 | 705 | 108 |
.32 S&Wロング | 85 | 723 | 99 |
.32 S&Wロング | 90 | 765 | 117 |
.32 S&Wロング | 98 | 718 | 112 |
.38スペシャル | 158 | 755 | 200 |
.357マグナム | 158 | 1349 | 639 |
弾頭直径は.314インチ(約8mm)で、弾頭重量は85~98グレインが主流。
最大腔圧は約14,500 psiと比較的低く、その結果、反動が少なく、銃声も小さめです。
リボルバー用に設計されましたが、初期の半自動ピストル(例えばコルトモデル1903ポケットハンマーレス)にも使用されました。
当時は自衛用として非常に人気があり、その小型で扱いやすい特性が評価されましたが、現代ではより強力な弾薬が広く普及しています。
ホプキンス&アレン社の歴史
設立と初期の活動
ホプキンス&アレン社(Hopkins & Allen Manufacturing Co.)は、1868年に米国コネチカット州ノーウィッチで設立され、1917年まで(商業販売は1915年まで)存続した銃器メーカーです。
設立メンバーは、次の人々です。
- チャールズ・W・アレン(創業者)
- チャールズ・A・コンバース(大佐であり元ベーコン社の社員)
- ホレース・ブリッグス(元ベーコン社オーナー)
- サミュエル・S・ホプキンス(創業者:ホプキンス兄弟)
- チャールズ・W・ホプキンス(創業者:ホプキンス兄弟)
彼らは南北戦争終結によって不況となった銃器業界において、1868年に倒産したベーコン社(Bacon Manufacturing Company)の資産を購入し、新たな会社として再スタートを切りました。
設立当初から、ホプキンス兄弟が運営しています。
拡大と主要な出来事
創業当初、かつてベーコン社が製造していた装弾数5発の.31口径パーカッションリボルバーを製造していました。
これは、ローリン・ホワイトが特許を持つ「貫通型シリンダー(S&W社独占)」を法的理由から製造できなかったためです。
しかし、特許が期限切れになると、これまで製造したパーカッションリボルバーを、金属カートリッジを使用できるように改変しました。
1870年代には、マーウィンハルバート社(Merwin-Hulbert & Co.)との提携が始まり、同社のリボルバーを製造。
これにより、ホプキンス&アレン社の製造ラインは大幅に拡大。
1878年にはベイステートアームズ社(Bay State Arms Company)を買収し、高品質のライフルやショットガンの製造を開始しました。
この期間、XLアーミー、XLネイビー、XLポリスなどの大型リボルバーを含むさまざまなモデルを発表し、そのラインナップを多様化させました。
製品ラインの進化と代表的なモデル
製品ラインナップは、5連発.31口径のパーカッションリボルバーから始まり、後に銃身長4~7インチで装弾数6発の、.44-40センターファイア、.44リムファイア、.38リムファイアなどの大型リボルバーまで広がりました。
これらのリボルバーは、銃身長も複数選択できるため、さまざまな用途に対応しました。
最終期
1896年、マーウィンハルバート社が倒産し、ホプキンス&アレン社は販路を失います。
経営が困難になり、これまで工具や自転車も製造していましたが、人気モデルの銃器製造に絞る対策を行いました。
1900年2月4日の早朝、原因不明の工場火災で大きな被害を受け、設計図や銃器など、ほとんどを焼失。
1902年にフォアハンドアームズ社(Forehand Arms Company)が売りに出されたことで、同社を買収し、製造に必要な機材を入手することに成功しました。
しかし、1915年にはSMLEライフルの大量生産に失敗し、1917年に倒産。
最終的にはマーリン・ロックウェル社に買収されました。
ホプキンス&アレン社は従業員数600人まで成長し、銃器製造が盛んなコネチカット州においてコルト社やウィンチェスター社に次ぐ第三位の大手銃器メーカーでした。
製造品と商標
ホプキンス&アレン社は、.22、.32、.38口径のシングルアクションリボルバーを製造。
商標には、
- ACME
- アメリカンイーグル(American Eagle)
- ブルージャケット(Blue Jacket)
- キャプテンジャック(Captain Jack)
- ディフェンダー(Defender)
- インペリアルアームズ(Imperial Arms Co.)
- マウンテンイーグル(Mountain Eagle)
- レンジャー(Ranger)
などがありました。
さらに、ヒンジフレームのダブルアクションモデルや、フォアハンド&ワズワース社向けのリボルバー、スポーツ用ショットガン、ライフル、デリンジャーも製造していました。
まとめ
ホプキンス&アレン社製品の評判は賛否両論でした。
というのも、安価なモデルは「低品質な自殺用」と呼ばれ、高価なモデルは「高品質な高級モデル」と評価されていたのです。
しかし、事実かどうかはさておき、「低品質」といったネガティブなイメージが広がっていたため、会社経営への悪影響が大きかったようです。
今回押収された銃も、評価はあまり高くなかったようで、信頼性が高い銃とはいえません。
とはいえ、一時期に脚光を浴びたメーカーの製品でもあり、価格では測れないコレクターズアイテムとしての歴史的価値があるでしょう。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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