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銃を冷却するメカニズムとは? 水冷・空冷の仕組みとメリット・デメリット

ドアガナー射撃画像

銃は射撃によって加熱され、様々な問題が発生します。

暴発、銃身劣化、命中精度低下、破損など、これらの問題を防ぐには熱対策が必須です。

この記事では、銃が加熱される原因と問題点のほか、銃の冷却設計について詳しく解説します。

銃身の加熱原理

M60GPMG射撃画像

銃の発射原理はシンプルです。

火薬の燃焼によって高圧ガスを発生させ、そのガス圧を利用して銃弾を加速、発射します。

1911ピストルの構造

弾薬の薬莢内部には火薬(装薬)があり、薬莢の先端に弾頭が備わっています。

発射されると弾頭が銃身(バレル)のなかを加速する構造です。

1911ピストルの構造

弾頭は銃身と接触しながら進むため、大きな摩擦抵抗があり、摩擦熱の蓄積によって銃身が熱くなります。

燃焼によって発生したガスは高温で、1100~1200℃(ピーク時には2,000~3,000℃)に達します。しかし、時間にして瞬間的な高温状態のため、超高温の熱エネルギーのすべてが銃身に蓄積するわけではありません。

無煙火薬(ニトロセルロースとニトログリセリンを使用したダブルベース装薬)の場合、弾薬が発生させるエネルギーの約30~40%が弾頭の推進に消費され、残りは熱エネルギーなどに変換されています。

1発あたりでみると高温状態になるのは一瞬の出来事ですが、何発も連続して発射されると熱が蓄積し、やがて銃身が高温状態になります。

発射の間隔が長い場合はゆっくり加熱し、マシンガンのフルオート射撃のように短時間に大量発射すると、一気に温度が上昇します。

ライフリングの影響による加熱

VP9カッタウェイCG画像

加熱温度は銃の条件によって異なりますが、ピストルやライフルの場合、数発連続して発射すると銃身は手で触ることができない熱さになります。

この熱さの原因には、ライフリングが関係しています。

銃身内部のライフリング 画像出典:MatthiasKabel

ライフリングとは、銃身内側に掘られた溝で、弾道の直進性を高めるために必要とされます。

弾頭はライフリングの溝に食い込み、強い摩擦抵抗を受けながら銃身内を進みます。そのため、この抵抗が摩擦熱を生じます。

ピストルやライフルでは、たとえばステンレスの銃身と銅で覆われた弾頭が接触するといった、比較的に硬度の高い金属同士の摩擦により、摩擦熱の温度が高くなる傾向があります。

ショットガンが過熱しにくい理由

M1014ショットガン画像

一方、ライフリングが備わっていないショットガンは、銃身が手で触れなくなるほど高温状態になるまで数十発を要する場合もあります(条件によるが、ピストルやライフルよりは熱の蓄積が遅い)。

ピストルやライフルと比較して、なぜショットガンは過熱しにくいのでしょうか?

ショットガンには、以下の銃身が利用されます。

  • ライフリングが備わっていない「スムースボアバレル
  • ライフリングが備わっている「ライフルドバレル

ライフリングが備わっていないスムースボアでは、ライフリングによる摩擦熱がないため、熱の影響が軽微です

ですが、ライフリングが備わっているライフルドバレルでも、ショットガンでは熱の蓄積が多くありません。

サボット弾 画像出典: midwayusa.com

ショットガンでライフルドバレルを使用する場合、樹脂で覆われた「サボット弾」や、鉛の「スラグ弾」が使用されます。

これらはピストルやライフルで使用される弾頭と比較して柔らかく、弾速が遅い傾向があり、摩擦熱の蓄積が穏やかです。

つまり、ショットガンが比較的に加熱されにくいのは、使用弾薬に以下の条件があるからです。

  • 弾頭の材質が樹脂(サボット)
  • 接触圧が低い(接触構造の違いにより、摩擦が少ない)
  • 燃焼圧力が低い(12ゲージで約8,000〜12,000 psi程度。ライフルは50,000 psiを超える)
  • 弾速が遅い(多くのスラグ弾で400〜600 m/s。ライフル弾は700〜1000 m/s)
上下二連ショットガン画像

一般的なショットガンの銃身を確認すると、ピストルやライフルと比較して銃身の肉厚が薄いのがわかります。

(例外として、タクティカルショットガンなど、外部からの衝撃に対する強化目的から厚みのある銃身も存在します)

肉厚が薄いのは、ショットガンが低圧で発射されるため、高強度な銃身を必要としないからです。

このように、「低圧低速」で発射されるショットガンは、連続発射時でもゆっくりと加熱される傾向があります。

※ライフリングについては、以下の記事でも詳しく解説しています。

過熱が引き起こす問題

銃が過熱すると、主に以下の問題が生じます。

クックオフ(暴発)

クックオフ(Cook-off)とは、加熱された薬室に弾薬が装填され、熱伝導によって弾薬が撃発することを指します。

無煙火薬の自然発火温度は約160℃~270℃で、この温度まで弾薬が加熱されると暴発します。

そのため、フルオート射撃を前提として設計されたマシンガン(機関銃)の多くは「オープンボルト方式」を採用し、発射時以外は薬室内に弾薬を保持しない設計を採用しています。

※以下の記事ではオープンボルトの構造を解説しています。

銃身の劣化(バレルエロージョン)

画像出典: Lucky Gunner Ammo

銃身が劣化する原因には、主に以下があります。

  • 高温・高圧ガスによる金属表面の浸食・焼損(サーマルエロージョン)
  • 燃焼ガス中の未燃粉・化学成分(化学的腐食)
  • 弾頭とライフリングの摩耗(機械的摩擦)
  • 発射時の衝撃による微細な亀裂の蓄積

このうち、熱による影響としては、「高温高圧環境」が薬室や銃身内側の侵食に大きく影響しています。

火薬が燃焼すると燃えカス(残渣)であるカーボン(炭素)が金属表面に付着します。

付着の状態は不均一で、付着した箇所と付着していない箇所が存在します。

この状態で射撃を繰り返すと、カーボンが付着した箇所は悪影響が少なく、付着していない箇所は高温となり、高温となった箇所が削れて小さなヒビ(マイクロクラック)が生じ、そこへガスジェット※が流入し大きな溝へと成長します。

高温ガスによるガスジェット侵食(Gas cutting)とは?

発射時に発生する高温・高圧の燃焼ガスは、スロート部やライフリングの谷部に入り込み、金属をジェット流のように削っていきます。

この現象を「ガスカッティング(Gas cutting)」あるいは「ガスジェットエロージョン」と呼びます。

銃身温度が高いほど、金属が軟化し、ガスの侵食作用が強まりやすくなります。

また、熱膨張で弾頭との密着が緩むと、ガスがよりライフリング隙間に漏れ込み、侵食が激化します。

河川の侵食のように、高圧ガスが流れる箇所は強度が弱まり、やがて圧力に耐えられなくなると銃身側面に穴が開くなどして破損します。

まとめると、以下の問題が生じます。

  • 高温による鋼材の軟化・侵食性の増大
  • 熱疲労によるマイクロクラックの蓄積
  • 燃焼ガスによる侵食作用
  • 潤滑・保護機能の喪失

これらの問題を進行させないためには、銃身の過熱を抑える必要があります。

命中精度の低下

マシンガン画像

銃身の過熱は、銃の命中精度を低下させることが、研究や実際の事例から確認されています。

熱による銃身の変形、振動パターンの変化、弾薬の不安定化は、いずれも命中精度の低下につながります。

熱膨張による銃身の変形

連続して発射すると、発射ガスや摩擦による熱で銃身が膨張します。

たとえば、5°Cの温度上昇で5.6mm口径の内径が約0.00034mm拡大するといった、ごくわずかな変化でも、弾頭と銃身の接触に影響を及ぼします。

この膨張によりガスシールの効率が低下し、発射ガスが弾頭と銃身の隙間をすり抜けやすくなります。

結果、初速や弾頭の回転が不安定となり、集弾性能が悪化します。

肉厚のある銃身(ヘビーバレル)は加熱には強いものの、冷却に時間がかかります。

ヘビーバレルについては、以下の記事で詳しく解説しています。

銃身振動(ハーモニクス)の変化

銃を発射すると銃身が振動します。

銃身の振動(ハーモニクス)は、弾頭が銃口から出るタイミングや角度に直接影響します。

どれだけ照準器が正確でも、振動によって銃口が動いていると高い命中精度は実現できません。

熱は銃身の剛性や共振周波数を変化させ、予測不能な振動パターンを生じます。

わずかな振動の変化であっても、特に長距離射撃では着弾点に大きなズレを生む可能性があります。

  • 冷えた銃身は安定した振動を保ち、精密射撃に適しています。
  • 加熱した銃身は振動が不規則になり、グルーピング(集弾範囲)が広がります。

以下の記事では、銃身の振動について詳しく解説しています。

弾薬温度の影響

弾薬の温度は命中精度に影響し、以下の特性があります。

  • 温かい弾薬は火薬の燃焼が早く、初速や内圧が増加する。
  • 冷たい弾薬は、初速や圧力が低下する。

狙撃手が弾薬を温めて銃身との密着性(シール性)を向上させることで精度を高めることもありますが、熱くなった弾薬と熱い銃身が組み合わさると、むしろ不安定さが増す結果となることがあります。

薬室が過熱すると、点火の不安定化や不規則な燃焼が起きる可能性もあります。

部品故障

熱によって最もダメージを受けやすいのは、「銃身」「薬室」「弾薬」ですが、その他にもダメージを受ける部品が存在します。

  • マガジン
    • 軍用規格(ミルスペック)ではあまり影響がないですが、樹脂製マガジンは銃身や薬室の熱にさらされることで変形し、給弾不良を起こすことがあります。
    • 金属製のマガジンは熱を弾薬に伝導し、過剰な加熱はクックオフのリスクを間接的に高める要因となります。
  • マズルデバイス
    • サプレッサーなどは、素材にアルミニウムやチタンが使われていることが多く、軽量ではあるものの熱ストレスに弱いという欠点があります。連続射撃によってこれらの部品が変形・破損する事例も報告されています。
  • ガスシステム
    • ガス圧を利用して作動する構造では、高温により鉛やカーボンの堆積が進み、ガスチューブやピストンが詰まることがあります。また、ピストンの膨張により摩擦が増加し、作動不良を起こすこともあります。
  • 光学機器
    • 銃身からの輻射熱によりスコープのレンズが歪む事例が報告されています。

銃器の主な冷却方法

銃器の冷却メカニズムは、主に以下の2つのカテゴリーに分類されます。

  • パッシブクーリング(受動的冷却)
    • 銃器の構造や素材を工夫することで自然に熱を抑える方法。
  • アクティブクーリング(能動的冷却)
    • 外部の力を使って意図的に熱を冷ます方法。

パッシブクーリング(受動冷却)の概要

パッシブクーリングは、高温のガスと銃身の間にバリアを構築することで、熱エネルギーの入力を減少させます。

これらには以下のものが含まれます:

  • クロムメッキ
    • 多くの軍用ライフルにおいて、耐久性と耐食性向上のためにクロムメッキが銃身内部に施されています。これにより、連続射撃時の熱や発射ガスの影響による銃身内部の摩耗を軽減し、銃身の寿命を延ばす効果があります。また、銃身のクリーニングも容易になります。
  • 弾頭のコーティング
    • 弾頭の表面にポリマーやフッ素系化合物などの潤滑性・耐摩耗性のあるコーティングを施すことで、弾頭がライフリングを通過する際の摩擦熱を低減させ、銃身内部の温度上昇を抑制する効果が期待できます。
  • サーマル・バリアコーティング
    • 銃身の外装やマズルブレーキ(銃口の反動軽減装置)などに、セラミック粒子を含んだ特殊な塗料を塗布することで、熱の伝達を遅らせ、銃身表面の温度上昇を抑制します。これにより、射手が銃身に触れた際の火傷のリスクを低減したり、ハンドガードなどの樹脂パーツへの熱影響を軽減したりする効果があります。ただし、効果は限定的な場合があります。

アクティブクーリング(能動冷却)の概要

アクティブクーリングシステムは、熱放散率を増加させることで温度上昇を抑制します。

主なアクティブクーリングには、「水冷式」や「空冷式」があります。

水冷式(ウォーター・クーリング)

PM M1910画像出典: proxibid.com

水冷式は、持続的に射撃する目的において歴史的に最も効果的な方法でした。

肉厚の薄い銃身の周囲に水を満たし、銃身を冷却します。

ブローニングM1917 画像出典: rockislandauction.com

例として、M1917A1は毎分450~600発の持続的な射撃が可能です。

水冷式の仕組み:

  • 水がバレル周囲の保護ジャケット内を循環する。
  • 水が加熱され沸騰し始めると、蒸気がジャケットの上部に集まる。
  • 蒸気はホースで接続された容器に排出され、そこで水に戻って再利用される。

この連続サイクルにより、銃身の温度を臨界値以下に維持します。

水冷式の長所と短所

水冷式の長所

  • 持続射撃能力の向上(熱容量の大きさ)
    • 水は非常に高い熱容量を持つため、大量の熱を吸収できる。
    • 銃身が過熱して溶融したり、クックオフを起こしたりすることなく、長時間の連続射撃が可能。(第一次世界大戦のような塹壕戦で、数千発にも及ぶ持続的な弾幕射撃が求められた際に極めて重要だった)
  • 精度維持
    • 銃身の温度が安定するため、熱による銃身の歪みが少なく、射撃精度をより長く維持できる。
    • 空冷式では、銃身が熱で膨張・変形し、命中精度が低下することがある。
  • 銃身寿命の延長
    • 過熱による金属疲労や摩耗が抑えられるため、銃身自体の寿命が長い。

水冷式の短所

  • 重量の増加
    • 冷却用の水、水タンク、ホース、ポンプ(一部のシステム)などの付帯設備が必要となるため、システム全体の重量が大幅に増加する。(運搬や展開が困難)
  • 複雑性の増加とメンテナンスの煩雑さ
    • 水冷システムは、空冷システムに比べて構造が複雑。
    • 冷却水の補充、凍結防止(寒冷地)、漏れチェック、錆対策など、定期的なメンテナンスが必要。
  • 冷却水確保の手間
    • 連続射撃を行うと冷却水は沸騰し、蒸発する。
    • 常に新鮮な冷却水を補給する必要がある。
    • 乾燥地帯や水源が限られた場所では水の確保が大きな問題となる。
  • 展開時間の増加
    • 射撃準備に冷却水の充填が必要なため、迅速な展開が求められる状況には不向き。
  • 視認性の問題
    • 冷却水が沸騰すると蒸気が発生し、射手の視界を遮る場合がある。
    • 蒸気は敵に位置を特定される要因になる。

現代の軍事ドクトリンにおいては、機動性と迅速性が重視されるため、水冷式機関銃が新規に開発されることはほとんどありません。

海軍において艦砲で水冷式が利用される事例がありますが、小火器では廃れた冷却方法です。

空冷式(エア・クーリング)

現代の軍用小火器では空冷式が一般的な冷却方法です。

空冷式には大きく分けて以下の2つがあります。

  • 自然空冷(ナチュラル・エア・クーリング)
  • 強制空冷(フォースド・エア・クーリング)

自然空冷とは?

PKM射撃画像

自然空冷(ナチュラル・エア・クーリング)は、最も一般的でシンプルな冷却方法です。

銃身が周囲の空気と直接触れることで、熱を空気中に放散させる仕組みです。

自然空冷の仕組み:

射撃によって熱くなった銃身の表面から、熱伝導と対流(自然対流)によって熱が周囲の空気へと移動します。

銃身の表面積が大きいほど、また、周囲の空気との温度差が大きいほど、冷却効率は高まります。

放熱フィン付き銃身(フィンドバレル/Finned barrel)とは?

十一年式軽機関銃の画像
画像出典:Wikipedia

銃身の表面にフィン(英: fins、日本語では「ひれ」や「羽根」とも訳される)と呼ばれる突起状の構造が設けられる設計があります。

これらのフィンは、銃身から発生する熱をより効率的に周囲の空気へ放出するために機能します。

  • フィンがあることで、銃身の表面積が大幅に増加します。熱は物体表面から周囲へ伝わるため、表面積が広ければ広いほど、より多くの熱が空気中に放出されやすくなります。
  • 銃身で発生した熱はフィンに伝導します。その後、フィンの表面から周囲の空気へと対流によって熱が移動します。
トンプソンM1921 画像出典: guns.fandom.com

フィンドバレルの長所

  • 構造が単純で故障しにくい。
  • 可動部品が少ないため、過酷な環境下でも高い信頼性を維持できる。
  • 複雑な冷却システムと比較して、製造コストを抑えられやすい。
  • 水冷式や一部の強制空冷式に比べて、冷却液やファンなどの追加部品が不要なため、重量増加を最小限に抑えられる。ただし、フィンの材質や厚みによっては、ある程度の重量増加が発生する。
  • 効果的な冷却によって銃身の寿命を伸ばし、銃身の耐久性を維持する。
  • 銃身の温度上昇を抑えることで、命中精度の低下を防ぐ。

フィンドバレルの短所

  • 自然対流に依存するため、短時間で大量の熱を放出する必要がある場合や、空気の流れが少ない環境では、冷却能力に限界がある。
  • フィンの設置によって、銃身の重量と体積が増加する。
  • フィンの間に土や埃などが詰まりやすく、清掃が難しい場合があり、これにより冷却効率が低下する可能性がある。
  • 製造コストが高い。

自然空冷の長所と短所

自然空冷の長所

  • シンプルで軽量
    • 冷却機構が不要なため、銃器自体の構造がシンプルになり、軽量化が図れる。(これが、現代のほとんどの小銃、拳銃、狙撃銃などに採用されている最大の理由)
  • 信頼性が高い
    • 可動部品や冷却媒体が不要なため、故障のリスクが極めて低い。
  • メンテナンスが容易
    • 特別なメンテナンスはほとんど不要。

自然空冷の短所

  • 冷却効率が低い
    • 強制的な空気の流れがないため、冷却能力には限界がある。
    • 連続射撃を行うと、銃身が急激に過熱しやすい。
  • 銃身の過熱による性能低下
    • 過熱すると銃身の金属が膨張・変形し、命中精度が低下する可能性がある。
    • 表面が高温になり、火傷の危険や、ハンドガードなどの樹脂パーツへの熱影響も懸念される。
  • クックオフのリスク
    • 極端な連続射撃によって銃身が非常に高温になると、薬室内の実包が熱で自然発火する「クックオフ」のリスクが生じる。

自然空冷の短所の対策として以下があります。

  • 射撃間隔を空ける: 最も基本的な対策。
  • 銃身を太くする: 熱容量を増やし、温度上昇を緩やかにする。
  • 放熱フィン: 銃身にフィンを設けて表面積を増やし、放熱効果を高めるものも存在(一部の機関銃や、冷却性能を重視したカスタムパーツなど)。
  • ハンドガード: 射手が銃身に触れるのを防ぎ、放熱を助けるための穴が開いているものも多い。
  • クイックチェンジバレル: 機関銃など連続射撃が前提の銃器では、過熱した銃身を素早く交換できるシステムを採用。これにより、実質的に冷却時間が確保され、射撃の継続が可能になる。

マシンガンに利用されるクイックチェンジバレルシステム(Quick Change Barrel System, QCB)は、過熱した銃身を迅速かつ容易に交換するための機構です。

連射を前提とした銃器において、銃身の過熱による性能低下や損傷を防ぐために不可欠なシステムとなっています。

クイックチェンジバレルシステムの具体的な構造は機種によって異なりますが、基本的な原理は共通しています。

  1. 簡単なロック解除機構
    • 銃身を固定しているロック機構が、工具なしで素早く解除できるように設計されています。多くの場合、レバーやボタン、または回転させることでロックが解除されます。
  2. 取り外し可能な銃身
    • 過熱した銃身を、銃本体から分離できるように設計されています。銃身自体に把持用のハンドルが付いていることが多く、高温の銃身を素手で触らずに交換できます。
  3. 予備銃身の準備
    • 通常、マシンガン運用時は複数の予備銃身を携行しており、過熱した銃身とすぐに交換できるようになっています。
  4. ヘッドスペースとタイミングの自動調整
    • 銃身交換時に、発射に必要な薬室とボルトの隙間(ヘッドスペース)や、発射サイクル(タイミング)の調整が自動的に行われるか、極めて簡素化されていることが現代のシステムでは重要です。これにより、交換後の安全性と確実な作動が保証されます。

クイックチェンジバレルシステムの利点

  • 銃身交換によって、連続的な射撃能力を維持可能。
  • 銃身の過度な劣化を防ぎ、寿命を延ばす。
  • クックオフの危険性を低減し、射手の安全を確保する。
  • 必要に応じて、異なる長さや口径の銃身に交換することで、ミッションの要件に合わせた柔軟な運用が可能になる場合がある(マルチキャリバー対応モデルの場合)。

現代のマシンガンにおける実例

マシンガンの画像

現代の汎用機関銃(GPMG)や軽機関銃(LMG)のほとんどがクイックチェンジバレルシステムを採用しています。

  • M240機関銃 (FN MAG): 銃身の根本にあるレバーを操作し、回転させることで銃身を取り外します。
  • M249軽機関銃 (MINIMI): ハンドガードと一体化した銃身を、ロックボタンを押してレバーを回転させることで素早く取り外せます。
  • M2重機関銃 (M2HB-QCB): かつては銃身交換後にヘッドスペースとタイミングの調整が必要で熟練を要しましたが、現代では改良型(M2A1など)でクイックチェンジバレルが導入され、調整不要で交換できるようになっています。

以下の記事ではフルオート火器について詳しく解説しています。

強制空冷とは?

PKP機関銃画像
PKP ペチェネグ 画像出典: Vitaly V. Kuzmin, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

強制空冷(フォースド・エア・クーリング)は、外部の力を使って意図的に空気の流れを作り出し、冷却効率を高める方法です。

上の画像の強制空冷式を採用するロシア製マシンガン「PKPペチェネグ」は、以下の特徴を持っています。

  • 固定されたヘビーバレル(非交換式銃身)
    • PKPは、PKMのような銃身迅速交換システムを持っていません。その代わり、肉厚で重い銃身を採用し、熱容量を大きくしています。
  • 銃身のフィンとシュラウド
    • 銃身には放射状の冷却フィン(リブ)が刻まれており、その上を覆うように金属製のシュラウド(覆い)が設けられています。
  • 発射ガスを利用した強制空冷
    • 発射時に発生するマズルブラストの吸引効果(ベンチュリ効果※)を利用し、銃身周囲の空気を前方へ強制的に流す構造になっています。

ベンチュリ効果とは、流体(液体や気体)が細い管路を流れるときに、その流速が増し、同時に圧力が低下する現象です。

銃身のガスブロック部分に空気を導入する穴があり、銃口部分にも排気口があります。

この負圧が、シュラウドの後部(ガスブロック付近)から冷たい空気を吸い込み、シュラウドと銃身の間の空間を通過させて、銃口から排出させるという仕組みです。

これは、電動ファンなどによる強制的な送風とは異なりますが、発射時のガスの力(排莢ガス)を利用して、能動的に空気の流れを作り出し、銃身を冷却するため、「強制空冷」の一種と見なされます。

このシステムは、第一次世界大戦のルイス軽機関銃の冷却システムに類似していると言われています。

ルイス軽機関銃のクーリングシステムとは?

ルイスガン 画像出典: guns.fandom.com
  • アルミ製ヒートシンクとシュラウド(外装筒)
    • 銃身を囲う大型シュラウド(筒状カバー)があり、その内部には放熱フィン付きのアルミ製ラジエーターが配置されていました。水冷を使わず、受動的な空冷で熱を逃がすための構造でした。
  • 空気の流れの仕組み
    • 空気は銃の後方から吸い込まれて前方へと流れます。
    • 銃の後端(レシーバー付近)に開口部があり、そこから空気が吸い込まれます。
    • 発射時のマズルブラストが吸引力を生み、空気が銃身および放熱フィンに沿って前方に流れ、銃口付近から排出される仕組みです。
  • 冷却効果の実際
    • 実験および実戦経験から、冷却効果は限定的であったことが判明しています。
    • シュラウドを外しても連射性能にほとんど差はなく、むしろシュラウドの重さ(約1~1.4kg)がデメリットとされました。

ルイス軽機関銃のクーリングシステムが廃止された理由

  • シュラウド後方の開口部から泥や異物が入りやすく、塹壕戦では作動不良の原因となりました。
  • 航空機搭載型では初期からシュラウドが省略され、性能に問題がなかったことが確認されています。
  • 第二次世界大戦期には多くの歩兵用モデルでシュラウドが取り外されました。

ルイス軽機関銃とPKPペチェネグのクーリングシステムの違い

  • ルイス軽機関銃は、発射ガスの自然な流れを使った自然空冷
  • PKPペチェネグは、ガス圧を利用して空気を強制的に送り込む強制空冷

強制空冷は、熱くなった銃身や冷却フィンに強制的に空気を送り込み、熱を奪います。

航空機に搭載される機関銃や機関砲の中には、飛行中の風圧を利用したり、専用のエアダクトを設けて空気を引き込んだりして、強制的に冷却を行うものがあります。

これは、高速で移動する航空機だからこそ可能な冷却方法とも言えます。

扇風機が付属? ロスMk III 自動装填ライフルの強制空冷システム

カナダの銃器設計者であるチャールズ・ロスは、カナダ軍および民間市場向けに3種類のストレートプル式ボルトアクションライフルを開発しただけでなく、自動装填ライフルの実験も行っていました。

その中でも特筆すべきは、標準的なロスMk IIIライフルをベースに開発された、ガス圧作動のピストンと引き金を備え、自動射撃を可能にした実験的なライフルです。

このライフルには、強制空冷システムが搭載されていました。

ボルトが作動する際に一方向ラチェット機構がファンを回転させ、ルイス機関銃に似た銃身を覆うバレルシュラウドの中に空気を送り込むことで、銃身を冷却するというものです。

このライフルは、おそらく1915年から1916年頃に、軍の軽機関銃または自動小銃の契約獲得を目指して製造されたものと考えられますが、残念ながら契約には至りませんでした。

強制空冷の長所と短所

強制空冷の長所

  • 自然空冷よりもはるかに効率的に熱を放散させることができる。これにより、より長時間の連続射撃が可能になる。
  • 銃身の過熱を効果的に抑えるため、クックオフのリスクを大幅に下げることができる。

強制空冷の短所

  • ファンやモーター、ダクトなどの冷却装置が必要となる場合があり、銃器全体の構造が複雑になり、重量も増加する。
  • ファンなどを駆動する場合には電力が必要な場合もある。
  • ファンなどの可動部品があるため、自然空冷に比べて故障のリスクが高まる。

現代の軍用小火器では、機動性、軽量性、信頼性が優先されるため、ほとんどの銃器で自然空冷が採用されています。

機関銃のように連射性能が求められる銃器では、自然空冷の限界を補うために、クイックチェンジバレルが最も効果的な熱対策として定着しています。

まとめ

銃器の冷却方法は、大きく分けて以下の2つがあります。

  • パッシブクーリング(受動的冷却): 銃器の構造や素材を工夫することで自然に熱を抑える方法です。
    • クロムメッキ: 銃身内部に施され、耐久性と耐食性を向上させ、熱やガスの影響による摩耗を軽減します。
    • 弾頭のコーティング: 弾頭表面に潤滑性・耐摩耗性のあるコーティングを施し、摩擦熱を低減します。
    • サーマル・バリアコーティング: 銃身の外装などに特殊な塗料を塗布し、熱伝達を遅らせます。
  • アクティブクーリング(能動的冷却): 外部の力を使って意図的に熱を冷ます方法で、「水冷式」と「空冷式」があります。
    • 水冷式: 銃身の周囲に水を満たして冷却する方法で、持続的な射撃能力が高いという長所がありますが、重量増加、複雑なメンテナンス、冷却水確保の手間、展開時間の増加、蒸気による視認性の問題といった短所があります。現代では機動性が重視されるため、新規開発はほとんどありません。
    • 空冷式: 現代の軍用小火器で一般的な方法で、さらに「自然空冷」と「強制空冷」に分けられます。
      • 自然空冷: 銃身が周囲の空気と直接触れて熱を放散させる最もシンプルで軽量な方法です。信頼性が高くメンテナンスも容易ですが、冷却効率が低く、連続射撃では過熱しやすい、命中精度低下、クックオフのリスクがあるといった短所があります。これらの対策として、射撃間隔を空ける、銃身を太くする、放熱フィン、ハンドガードの利用、機関銃ではクイックチェンジバレルシステム(過熱した銃身を迅速に交換する機構)などが用いられます。
      • 強制空冷: 強制空冷は、外部の力で空気の流れを作り出し、銃身の冷却効率を高める方法です。ロシアの機関銃「PKPペチェネグ」は、この方式の一例で、以下の特徴があります。
        • 固定されたヘビーバレル: 銃身交換システムを持たず、肉厚で重い銃身で熱容量を大きくしている。
        • 銃身のフィンとシュラウド: 銃身に冷却フィンと金属製シュラウドを設け、放熱性を高めている。
        • 発射ガスを利用した強制空冷: 発射時のマズルブラストによるベンチュリ効果を利用し、銃身周囲の空気を強制的に流して冷却する。