
銃は射撃によって加熱され、様々な問題が発生します。
暴発、銃身劣化、命中精度低下、破損など、これらの問題を防ぐには熱対策が必須です。
この記事では、銃が加熱される原因と問題点のほか、銃の冷却設計について詳しく解説します。
銃身の加熱原理

銃の発射原理はシンプルです。
火薬の燃焼によって高圧ガスを発生させ、そのガス圧を利用して銃弾を加速、発射します。

弾薬の薬莢内部には火薬(装薬)があり、薬莢の先端に弾頭が備わっています。
発射されると弾頭が銃身(バレル)のなかを加速する構造です。

弾頭は銃身と接触しながら進むため、大きな摩擦抵抗があり、摩擦熱の蓄積によって銃身が熱くなります。
燃焼によって発生したガスは高温で、1100~1200℃(ピーク時には2,000~3,000℃)に達します。しかし、時間にして瞬間的な高温状態のため、超高温の熱エネルギーのすべてが銃身に蓄積するわけではありません。
無煙火薬(ニトロセルロースとニトログリセリンを使用したダブルベース装薬)の場合、弾薬が発生させるエネルギーの約30~40%が弾頭の推進に消費され、残りは熱エネルギーなどに変換されています。
1発あたりでみると高温状態になるのは一瞬の出来事ですが、何発も連続して発射されると熱が蓄積し、やがて銃身が高温状態になります。
発射の間隔が長い場合はゆっくり加熱し、マシンガンのフルオート射撃のように短時間に大量発射すると、一気に温度が上昇します。
ライフリングの影響による加熱

加熱温度は銃の条件によって異なりますが、ピストルやライフルの場合、数発連続して発射すると銃身は手で触ることができない熱さになります。
この熱さの原因には、ライフリングが関係しています。

ライフリングとは、銃身内側に掘られた溝で、弾道の直進性を高めるために必要とされます。
弾頭はライフリングの溝に食い込み、強い摩擦抵抗を受けながら銃身内を進みます。そのため、この抵抗が摩擦熱を生じます。
ピストルやライフルでは、たとえばステンレスの銃身と銅で覆われた弾頭が接触するといった、比較的に硬度の高い金属同士の摩擦により、摩擦熱の温度が高くなる傾向があります。
ショットガンが過熱しにくい理由

一方、ライフリングが備わっていないショットガンは、銃身が手で触れなくなるほど高温状態になるまで数十発を要する場合もあります(条件によるが、ピストルやライフルよりは熱の蓄積が遅い)。
ピストルやライフルと比較して、なぜショットガンは過熱しにくいのでしょうか?
ショットガンには、以下の銃身が利用されます。
ライフリングが備わっていないスムースボアでは、ライフリングによる摩擦熱がないため、熱の影響が軽微です
ですが、ライフリングが備わっているライフルドバレルでも、ショットガンでは熱の蓄積が多くありません。

ショットガンでライフルドバレルを使用する場合、樹脂で覆われた「サボット弾」や、鉛の「スラグ弾」が使用されます。
これらはピストルやライフルで使用される弾頭と比較して柔らかく、弾速が遅い傾向があり、摩擦熱の蓄積が穏やかです。
つまり、ショットガンが比較的に加熱されにくいのは、使用弾薬に以下の条件があるからです。

一般的なショットガンの銃身を確認すると、ピストルやライフルと比較して銃身の肉厚が薄いのがわかります。
(例外として、タクティカルショットガンなど、外部からの衝撃に対する強化目的から厚みのある銃身も存在します)
肉厚が薄いのは、ショットガンが低圧で発射されるため、高強度な銃身を必要としないからです。
このように、「低圧低速」で発射されるショットガンは、連続発射時でもゆっくりと加熱される傾向があります。
※ライフリングについては、以下の記事でも詳しく解説しています。
過熱が引き起こす問題
銃が過熱すると、主に以下の問題が生じます。
クックオフ(暴発)

クックオフ(Cook-off)とは、加熱された薬室に弾薬が装填され、熱伝導によって弾薬が撃発することを指します。
無煙火薬の自然発火温度は約160℃~270℃で、この温度まで弾薬が加熱されると暴発します。
そのため、フルオート射撃を前提として設計されたマシンガン(機関銃)の多くは「オープンボルト方式」を採用し、発射時以外は薬室内に弾薬を保持しない設計を採用しています。
※以下の記事ではオープンボルトの構造を解説しています。
銃身の劣化(バレルエロージョン)

銃身が劣化する原因には、主に以下があります。
このうち、熱による影響としては、「高温高圧環境」が薬室や銃身内側の侵食に大きく影響しています。
火薬が燃焼すると燃えカス(残渣)であるカーボン(炭素)が金属表面に付着します。
付着の状態は不均一で、付着した箇所と付着していない箇所が存在します。
この状態で射撃を繰り返すと、カーボンが付着した箇所は悪影響が少なく、付着していない箇所は高温となり、高温となった箇所が削れて小さなヒビ(マイクロクラック)が生じ、そこへガスジェット※が流入し大きな溝へと成長します。
高温ガスによるガスジェット侵食(Gas cutting)とは?
発射時に発生する高温・高圧の燃焼ガスは、スロート部やライフリングの谷部に入り込み、金属をジェット流のように削っていきます。
この現象を「ガスカッティング(Gas cutting)」あるいは「ガスジェットエロージョン」と呼びます。
銃身温度が高いほど、金属が軟化し、ガスの侵食作用が強まりやすくなります。
また、熱膨張で弾頭との密着が緩むと、ガスがよりライフリング隙間に漏れ込み、侵食が激化します。
河川の侵食のように、高圧ガスが流れる箇所は強度が弱まり、やがて圧力に耐えられなくなると銃身側面に穴が開くなどして破損します。
まとめると、以下の問題が生じます。
これらの問題を進行させないためには、銃身の過熱を抑える必要があります。
命中精度の低下

銃身の過熱は、銃の命中精度を低下させることが、研究や実際の事例から確認されています。
熱による銃身の変形、振動パターンの変化、弾薬の不安定化は、いずれも命中精度の低下につながります。
熱膨張による銃身の変形
連続して発射すると、発射ガスや摩擦による熱で銃身が膨張します。
たとえば、5°Cの温度上昇で5.6mm口径の内径が約0.00034mm拡大するといった、ごくわずかな変化でも、弾頭と銃身の接触に影響を及ぼします。
この膨張によりガスシールの効率が低下し、発射ガスが弾頭と銃身の隙間をすり抜けやすくなります。
結果、初速や弾頭の回転が不安定となり、集弾性能が悪化します。
肉厚のある銃身(ヘビーバレル)は加熱には強いものの、冷却に時間がかかります。
ヘビーバレルについては、以下の記事で詳しく解説しています。
銃身振動(ハーモニクス)の変化
銃を発射すると銃身が振動します。
銃身の振動(ハーモニクス)は、弾頭が銃口から出るタイミングや角度に直接影響します。
どれだけ照準器が正確でも、振動によって銃口が動いていると高い命中精度は実現できません。
熱は銃身の剛性や共振周波数を変化させ、予測不能な振動パターンを生じます。
わずかな振動の変化であっても、特に長距離射撃では着弾点に大きなズレを生む可能性があります。
以下の記事では、銃身の振動について詳しく解説しています。
弾薬温度の影響
弾薬の温度は命中精度に影響し、以下の特性があります。
狙撃手が弾薬を温めて銃身との密着性(シール性)を向上させることで精度を高めることもありますが、熱くなった弾薬と熱い銃身が組み合わさると、むしろ不安定さが増す結果となることがあります。
薬室が過熱すると、点火の不安定化や不規則な燃焼が起きる可能性もあります。
部品故障

熱によって最もダメージを受けやすいのは、「銃身」「薬室」「弾薬」ですが、その他にもダメージを受ける部品が存在します。
銃器の主な冷却方法
銃器の冷却メカニズムは、主に以下の2つのカテゴリーに分類されます。
パッシブクーリング(受動冷却)の概要

パッシブクーリングは、高温のガスと銃身の間にバリアを構築することで、熱エネルギーの入力を減少させます。
これらには以下のものが含まれます:
アクティブクーリング(能動冷却)の概要
アクティブクーリングシステムは、熱放散率を増加させることで温度上昇を抑制します。
主なアクティブクーリングには、「水冷式」や「空冷式」があります。
水冷式(ウォーター・クーリング)

水冷式は、持続的に射撃する目的において歴史的に最も効果的な方法でした。
肉厚の薄い銃身の周囲に水を満たし、銃身を冷却します。

例として、M1917A1は毎分450~600発の持続的な射撃が可能です。
水冷式の仕組み:
- 水がバレル周囲の保護ジャケット内を循環する。
- 水が加熱され沸騰し始めると、蒸気がジャケットの上部に集まる。
- 蒸気はホースで接続された容器に排出され、そこで水に戻って再利用される。
この連続サイクルにより、銃身の温度を臨界値以下に維持します。
水冷式の長所と短所
水冷式の長所
水冷式の短所
現代の軍事ドクトリンにおいては、機動性と迅速性が重視されるため、水冷式機関銃が新規に開発されることはほとんどありません。
海軍において艦砲で水冷式が利用される事例がありますが、小火器では廃れた冷却方法です。
空冷式(エア・クーリング)
現代の軍用小火器では空冷式が一般的な冷却方法です。
空冷式には大きく分けて以下の2つがあります。
自然空冷とは?

自然空冷(ナチュラル・エア・クーリング)は、最も一般的でシンプルな冷却方法です。
銃身が周囲の空気と直接触れることで、熱を空気中に放散させる仕組みです。
自然空冷の仕組み:
射撃によって熱くなった銃身の表面から、熱伝導と対流(自然対流)によって熱が周囲の空気へと移動します。
銃身の表面積が大きいほど、また、周囲の空気との温度差が大きいほど、冷却効率は高まります。
放熱フィン付き銃身(フィンドバレル/Finned barrel)とは?

銃身の表面にフィン(英: fins、日本語では「ひれ」や「羽根」とも訳される)と呼ばれる突起状の構造が設けられる設計があります。
これらのフィンは、銃身から発生する熱をより効率的に周囲の空気へ放出するために機能します。

フィンドバレルの長所
フィンドバレルの短所
自然空冷の長所と短所
自然空冷の長所
自然空冷の短所
自然空冷の短所の対策として以下があります。

マシンガンに利用されるクイックチェンジバレルシステム(Quick Change Barrel System, QCB)は、過熱した銃身を迅速かつ容易に交換するための機構です。
連射を前提とした銃器において、銃身の過熱による性能低下や損傷を防ぐために不可欠なシステムとなっています。
クイックチェンジバレルシステムの具体的な構造は機種によって異なりますが、基本的な原理は共通しています。
- 簡単なロック解除機構
- 銃身を固定しているロック機構が、工具なしで素早く解除できるように設計されています。多くの場合、レバーやボタン、または回転させることでロックが解除されます。
- 取り外し可能な銃身
- 過熱した銃身を、銃本体から分離できるように設計されています。銃身自体に把持用のハンドルが付いていることが多く、高温の銃身を素手で触らずに交換できます。
- 予備銃身の準備
- 通常、マシンガン運用時は複数の予備銃身を携行しており、過熱した銃身とすぐに交換できるようになっています。
- ヘッドスペースとタイミングの自動調整
- 銃身交換時に、発射に必要な薬室とボルトの隙間(ヘッドスペース)や、発射サイクル(タイミング)の調整が自動的に行われるか、極めて簡素化されていることが現代のシステムでは重要です。これにより、交換後の安全性と確実な作動が保証されます。
クイックチェンジバレルシステムの利点
現代のマシンガンにおける実例

現代の汎用機関銃(GPMG)や軽機関銃(LMG)のほとんどがクイックチェンジバレルシステムを採用しています。
以下の記事ではフルオート火器について詳しく解説しています。
強制空冷とは?

強制空冷(フォースド・エア・クーリング)は、外部の力を使って意図的に空気の流れを作り出し、冷却効率を高める方法です。
上の画像の強制空冷式を採用するロシア製マシンガン「PKPペチェネグ」は、以下の特徴を持っています。
ベンチュリ効果とは、流体(液体や気体)が細い管路を流れるときに、その流速が増し、同時に圧力が低下する現象です。
銃身のガスブロック部分に空気を導入する穴があり、銃口部分にも排気口があります。
この負圧が、シュラウドの後部(ガスブロック付近)から冷たい空気を吸い込み、シュラウドと銃身の間の空間を通過させて、銃口から排出させるという仕組みです。
これは、電動ファンなどによる強制的な送風とは異なりますが、発射時のガスの力(排莢ガス)を利用して、能動的に空気の流れを作り出し、銃身を冷却するため、「強制空冷」の一種と見なされます。
このシステムは、第一次世界大戦のルイス軽機関銃の冷却システムに類似していると言われています。
ルイス軽機関銃のクーリングシステムとは?

ルイス軽機関銃のクーリングシステムが廃止された理由
ルイス軽機関銃とPKPペチェネグのクーリングシステムの違い
強制空冷は、熱くなった銃身や冷却フィンに強制的に空気を送り込み、熱を奪います。
航空機に搭載される機関銃や機関砲の中には、飛行中の風圧を利用したり、専用のエアダクトを設けて空気を引き込んだりして、強制的に冷却を行うものがあります。
これは、高速で移動する航空機だからこそ可能な冷却方法とも言えます。
扇風機が付属? ロスMk III 自動装填ライフルの強制空冷システム
カナダの銃器設計者であるチャールズ・ロスは、カナダ軍および民間市場向けに3種類のストレートプル式ボルトアクションライフルを開発しただけでなく、自動装填ライフルの実験も行っていました。
その中でも特筆すべきは、標準的なロスMk IIIライフルをベースに開発された、ガス圧作動のピストンと引き金を備え、自動射撃を可能にした実験的なライフルです。
このライフルには、強制空冷システムが搭載されていました。
ボルトが作動する際に一方向ラチェット機構がファンを回転させ、ルイス機関銃に似た銃身を覆うバレルシュラウドの中に空気を送り込むことで、銃身を冷却するというものです。
このライフルは、おそらく1915年から1916年頃に、軍の軽機関銃または自動小銃の契約獲得を目指して製造されたものと考えられますが、残念ながら契約には至りませんでした。
強制空冷の長所と短所
強制空冷の長所
強制空冷の短所
現代の軍用小火器では、機動性、軽量性、信頼性が優先されるため、ほとんどの銃器で自然空冷が採用されています。
機関銃のように連射性能が求められる銃器では、自然空冷の限界を補うために、クイックチェンジバレルが最も効果的な熱対策として定着しています。
まとめ
銃器の冷却方法は、大きく分けて以下の2つがあります。