PR

KRISS Vectorの構造と重量バランスの問題点

皆さんからいただいた、「銃の疑問」に回答します。

過去に投稿されたKRISS VECTORの記事にて本来の利点が「ボルトの位置をグリップの前に収めボルトを上下運動させることで全長を短くし、重量バランスが向上してより扱いやすい重心位置となる」点だと解説されていますが、これはどういう場面で活きるのでしょうか?
田村装備開発のレビュー動画にて「一般的なサブマシンガンよりも重く長く、重量バランスも悪い」といった酷評もされておりメリットを探すのが難しい位ですが…

クリスベクターの重量バランスとは?

クリスベクターの画像
Photo via Wikipedia

銃はボルトの前後可動域を狭くすることで全長が短縮されてコンパクトに設計することが可能になり、同時に重心位置を後方側へ配置できるため、バランスが向上し銃を取り回しやすくなります。

銃のバランスが向上すると、素早く照準できたり、銃のコントロールが容易になります。

クリスベクターの開発元であるKRISS USA(TDI)が実現させたかった事とは、これまでに存在しない低反動かつ、銃口の跳ね上がり(マズルジャンプ)がないサブマシンガンの開発でした。

HKUMP内部画像

従来のサブマシンガンはグリップの上にボルトと銃身が配置されており、「支点」となるグリップの上に「力点」である銃身が配置されているため、マズルジャンプが発生しやすい構造です。

このマズルジャンプの問題を解決する方法として、銃身の軸線上にグリップを配置し、支点と力点をほぼ同軸線上に配置する設計が考案されました。

クリスベクタープロトタイプ画像

TDIは2006年頃にプロトタイプを完成。

ボルトが下方に落ち込む構造により、ボルトの慣性によって発生する反動を軽減させており、同時に全長を短縮しています。

仮に、ボルトが水平に後退する構造を採用した場合、ボルトの移動に必要な空間を確保するために、銃身がグリップから遠く離れた前方に配置されることになります。

そうなるとフロントヘビーになり、重心位置が前方にあるためバランスが悪く、取り回しにくい銃になります。

しかし、ボルトが下方へ落ち込む構造を採用したことで、銃身や薬室の位置をグリップ側に近づけることが可能になり、重心位置がグリップから離れすぎないバランスを維持しています。

クリスベクターを解説した記事には、「ボルトが落ちることで反動が軽減される」という説明から「反動軽減」にばかり注目する記事が散見されますが、この設計には「ボアアクシスの低さと銃身長を維持しながら全長を短縮する」という大きな利点があります。

では、「この設計によりバランスの問題が解決したのか?」といえば、そうではありません。

従来のサブマシンガンと比較した場合、それでもクリスベクターのボルトとスライダーは遠くグリップより前方へ配置されており、ただでさえ重い銃(2.7~3.2kg)がさらに重く感じやすいバランスになっています。

クリスベクターを手にしたとき、「想像より重い」と感じる人が多いのは、これが理由です。

設計上、ボルトとスライダーが下方へ落ち込む構造は「極端なフロントヘビー」という「最悪のバランス」を回避しましたが、他のメジャーなサブマシンガンと比較してバランスが良いとはいえないでしょう。

クリスベクターはマズルジャンプの問題を解決した反面、相対的なバランスの問題が残ったモデルとなっています。