
4ボア・ライフルは、19世紀にアフリカやインドの危険な大型獣を狩るために設計された、歴史上最大級の銃です。
その巨大なサイズと圧倒的な威力、そして強烈な反動から、「ストッピングライフル」の代名詞的存在となりました。
ハンターの命を守るための最後の切り札として、多くの探検家や象牙ハンターが携行した究極の護身用銃といえます。
この記事では、4ボア・ライフルを始めとする19世紀の大口径ライフルを解説します。
口径の概念
ボアとゲージの違い

ボア(bore)とは、銃身の内径そのものを指す言葉です。単位はインチやミリメートルで表され、実際の直径を示します。これは銃の種類や分類に関係なく用いられる基本的な概念です。
一方、ゲージ(gauge)は伝統的なイギリス由来の口径表記方法で、1ポンドの鉛から「銃身の内径にぴったり合う鉛球」をいくつ作れるかによって番号が決まります。例えば「4ゲージ」とは、1ポンドの鉛から4個の球を作れる大きさを意味し、このときの理論上の銃身内径は約26.7mmです。
数字が小さくなるほど口径が大きくなります。
ゲージ | 公称口径 (mm) | 備考 |
---|---|---|
4 | 26.7 | 非常に大型で希少、かつてアジアやアフリカで水鳥猟に使用 |
6 | 23.8 | 現在はほぼ使用されない規格、歴史的存在 |
8 | 21.2 | 水鳥猟や産業用で使用されたが、現在は民間利用禁止が多い |
10 | 19.7 | 大型獣猟や水鳥猟に使用、現在は一部地域で限定的に使用 |
12 | 18.5 | 最も普及しているゲージ、狩猟から競技射撃まで幅広く使用 |
14 | 17.8 | 現在ほとんど使われない旧規格 |
16 | 16.8 | 一時は広く使われたが、現在はややマイナー化 |
20 | 15.6 | 反動が小さく、女性や若年層にも扱いやすい |
24 | 14.7 | 現在ほとんど使用されない規格、主に歴史的な銃で見られる |
28 | 13.9 | 小型猟やクレー射撃向き、携行性に優れる |
32 | 12.7 | ヨーロッパでかつて使用、現在は非常に希少 |
.410 | 10.4 | ゲージ換算で約67.5番、小型猟や初心者向きとして利用 |
現在では、アメリカでもショットガンの口径を表す際にはゲージが標準的に使われています。
一方、イギリスでは歴史的に「○ボア(○ bore)」という表記が伝統的に用いられており、現代でも文献や一部のメーカーではボア表記が残っています。
例外として「.410」だけはゲージではなく、銃身内径(0.410インチ)をそのまま名称に使っています。そのため、「.410ボア」と呼称するのは正しいですが、「.410ゲージ」と呼称するのは誤りです。
公称と実測の不一致
当時の前装式銃では、公称ゲージと実測ボアが必ずしも一致しませんでした。
製造誤差やカスタムメイド、ガンスミス(銃工)の設計の違いにより、例えば4ゲージ(約26.7mm)の銃身でも実際のボアは23.7~24.3mm程度に収まることが一般的でした。
表記 | 口径 (公称値) | 口径 (実測値) |
---|---|---|
4ゲージ | 26.7mm | 23.7~24.3mm |
ショットガンの口径については、こちらの記事で詳しく解説しています。
ボア別解説
代表的な大口径である2~8ボアを解説します。
これらの口径は歴史的には「8ボア → 6ボア → 4ボア → 2ボア」という順で登場しました。
狩猟現場での主力は8ボアから4ボアに移り、やがてニトロ・エクスプレス系の金属薬莢式ライフルへと更新されていきました。
8ボア(18世紀後半以降)

デンジャラスゲーム(Dangerous game / 危険獣)とは、サイズ・パワー・防御力が高く、攻撃的で人間に危険を及ぼす可能性のある大型野生動物を指す狩猟用語です。
W.W.グリーナー(W.W. Greener)はイギリスの銃器メーカーで、1829年に創業し、現在も5代目が経営に関わっています。主にスポーツ用ショットガンやライフルを製造し、多くの技術革新で知られています。
創業者ウィリアム・グリーナーは、当初マズルローダー(前装銃)にこだわりましたが、息子のウィリアム・ウェリントン・グリーナーが1864年にブリーチローダー(後装銃)を製造し、1869年に会社を統合しました。その後、同社はバーミンガムやロンドン、ニューヨークなどに拠点を持ち、世界的に知られる銃器メーカーへ発展しました。
第二次世界大戦後に一部製品の生産は停止しましたが、近年再生産も行われており、伝統的な銃器メーカーとして存続しています。
映画「トレマーズ」で注目されたショットガン

William Moore & Co.の8ゲージショットガンは、19世紀中頃に製造されたベルギーの水平二連パーカッションショットガンです。
1990年公開の映画「トレマーズ」で登場人物バート・ガンマーが使用したことでも有名です。

このショットガンは、野鳥猟(ワイルドフォウリング)や大型獣の狩猟に用いられ、強力な火力で知られています。口径は8ゲージ(0.835インチ / 21.2mm)で、大量の散弾や大口径の弾丸を発射できるため、水鳥やデンジャラスゲームに対して高い効果を発揮しました。
19世紀、8ゲージショットガンはイギリスや植民地で人気を博しました。特に水鳥猟や広大な領地における害獣駆除に用いられ、大口径と多い装弾量により、一度の発射で複数の鳥を仕留めることができました。
6ボア(19世紀初頭以降)

画像出典:andersonandgarland.com
象ハンターのシガーも、重い6ボアのマズルローダーを使用していました。
シガー(Cigar)は19世紀アフリカの著名な象ハンターです。
現代でも使用されている6ボア・ショットガン

KS-23は旧ソ連で開発されたショットガンです。銃身にライフリング(施条)があるため、ロシア軍では正式に「カービン」として分類されています。
KSは「Karabin Spetsialniy(特殊カービン)」の略称。口径は23mmで、英米式換算で6ゲージ強、欧州式換算で約4ゲージに相当し、現代で使用されるショットガンとしては最大級の口径です。
1970年代にソ連の内務省(MVD)の要請で、刑務所暴動の鎮圧を目的として開発されました。開発はツニートチマシュ(TsNIITochMash)が担当し、航空機機関砲用23mm銃身の不合格品を切断・流用して製造されました。
1980年代半ばにMVD部隊に配備され、1990年代には屋内での使用を考慮した改良型(KS-23M、KS-23K)が試作されました。
KS-23は多種多様な弾薬を使用可能です。
銃口に擲弾発射器(36mm、82mm)を装着でき、より強力な催涙弾の発射も可能です。
4ボア(19世紀中頃以降)

2ボア(19世紀中頃以降)
2ボアライフルは巨大なサイズと威力で知られていますが、その実態は伝説的要素が多く、手持ちの猟銃としての歴史的な実用例は確認されていません。
19世紀に使用されなかった2ボアライフルは、現代ではカスタムガンとして存在します。
2ボアは「伝説の超大口径」として語られる存在であり、実用史においては4ボアが限界でした。
2ボアは狩猟銃の歴史に大きな役割を持たず、ほとんどが作り話や現代に再現された試作品として残っています。
パントガン(punt gun)とは、19世紀から20世紀初頭にかけて商業的に大量の水鳥を捕獲するために使われた超大型ショットガンです。肩撃ちや単独での持ち運びが不可能なほど大型で、小型ボート(パント)に固定して使用します。

口径は2インチ(約51mm)を超えるものもあり、一度の発射で1ポンド(約0.45kg)以上の散弾を撃ち出し、50羽以上の水鳥を仕留めることができました。発射の反動でボートが後退するほど威力が強く、照準はボートの位置を変えることで調整しました。
多くは前装式で、フリントロックやパーカッション式が用いられましたが、1890年代にはホーランド&ホーランドが後装式や規格化された弾薬を使うモデルも製造しました。二連式や8ゲージ相当の小型モデルも存在します。
アメリカでは乱獲によって水鳥資源が減少し、1860年代には多くの州で禁止され、1900年のレーシー法や1918年の連邦法により商業狩猟は完全に違法となりました。イギリスでは現在も使用例がわずかにあり、銃身径や装弾量に制限があります。
サー・サミュエル・ホワイト・ベイカー / Sir Samuel White Baker(1821–1893)はイギリスの探検家、将校、博物学者、猟師、作家、奴隷制度廃止運動家です。
ナイル川上流域やアフリカ内陸部を探検し、ヨーロッパ人として初めてアルバート湖を訪れた人物として知られています。エジプトの依頼を受けて奴隷貿易撲滅のための軍事遠征を指揮し、エクアトリア州総督を務めました。
ハンターとしては世界各地で狩猟を行い、セイロン(現スリランカ)やアフリカでの象・イノシシ・大型獣の狩りで有名です。
自身の最初の象用ライフルとして6ボアのパーカッション式ライフルを使用しました(1840年製、銃身36インチ、重量約9.5kg)。
世界最大級の猟銃である「2ボア(事実上の3ボア)」や「4ボア」ライフルを使用した数少ない人物であり、著書「Wild Beasts and Their Ways」は狩猟と銃器に関する重要な記録となっています。
工業用8ボア(20世紀初頭以降)

MASTERBLASTER 8-GAUGE INDUSTRIAL GUN 画像出典:remington.com
現代の8ボア(8ゲージ)ショットガンは、鉱山、セメント、製鉄といった産業分野において、採掘現場や設備に発生する堆積物や障害物を、安全な距離から破砕・除去するための特殊工具として利用されています。
2~8ボアの比較
以下は、歴史的に使用された主なボア(口径)と、その理論値・実測値、用途および特徴を整理した一覧です。
ボア | 銃身内径 (理論/実測) | 主な用途 | 備考 |
---|---|---|---|
2ボア | 33.7mm | パントガン | 肩に当てて撃つことはない |
4ボア | 26.7mm(公称) 23.7~24.3mm(実測) | 大型獣狩猟 | 象牙猟やアフリカでの狩猟に使用 |
6ボア | 23.3mm(公称) 22~23mm(実測) | 大型獣狩猟 | 4ボア登場で衰退 |
8ボア | 21.2mm(公称) 21mm前後(実測) | 大型獣狩猟 水鳥狩猟 工業用 | 反動と威力のバランスが良い |
歴史と技術の変遷

4ボア・ライフルは、アフリカで遭遇するゾウやサイといった危険な大型獣に対して、従来のマスケット銃では威力不足だったことが開発の契機となります。
前装式・滑腔銃の時代(~1860年代)
初期の4ボアは、スムースボアの前装銃で、超大型の散弾銃に近いものでした。
弾丸は主に丸い鉛の球が使用されました。
しかし、大物猟の経験から、ハンターたちは獲物を確実に仕留めるために、より大きな口径と強力な装薬を求めました。
ライフリングと円錐弾の登場(1860年代~)

1860年頃になると、銃身にライフリングが施されるようになり、空気抵抗の少ない円錐弾が使用可能になりました。これにより、弾丸の重量と貫通力が飛躍的に向上しました。
しかし、危険な獣との遭遇は約40~50m以内の近距離が多かったため、スムースボアの銃も依然として人気がありました。
スムースボアの銃はライフリングがないため過度な高圧が発生せず、その分だけ装薬量を増やすことができ、結果としてより高い初速を得られたのです。
後装式と金属薬莢(1870年代~)
19世紀中頃には、ブリーチローダー(後装式銃)へと移行し、信頼性と連射性が向上しました。
これにより、より重い金属薬莢式の弾薬も使用可能となり、その性能はピークを迎えました。
W.W.グリーナーのような名門銃器メーカーがこの時代の4ボアを手がけ、探検家や象牙猟師たちの信頼を得ました。
驚異の性能と凄まじい反動
4ボア・ライフルの性能は、一般的な銃器とは比較にならないほど規格外でした。
ドラム(dram)とは、黒色火薬の装薬量を表す伝統的な重量単位で、1ドラムは約27.3グレイン(約1.77グラム)です。もともとは前装銃や散弾銃の黒色火薬量を示すために使われていました。
現代の無煙火薬に置き換わった後も、「ドラム換算(dram equivalent)」という表現で、従来の黒色火薬の装薬量に相当する威力を示す指標として使われています。
たとえば「3ドラム換算」とは、黒色火薬3ドラム分のエネルギーに相当する威力の散弾であることを意味します。
反動エネルギー(リコイルエナジー)は200ft-lbf(約270ジュール)を超え、不用意に撃てば鎖骨骨折や脳震盪、転倒などの重傷を負う危険がありました。
銃自体の重量は約7〜10kgありましたが、熟練のハンターでも反動を完全に制御するのは困難で、独自の構え方を習得する必要がありました。
探検家のサー・サミュエル・ホワイト・ベイカーは、自身の銃について「反動はすさまじく、嵐の中の風見鶏のようにぐるぐると回った」と語っています。
衰退とコレクターズアイテムへ

4ボア・ライフルの時代は、1890年代に終わりを迎えます。
無煙火薬の登場により、.577ニトロ・エクスプレスのような小口径で軽量な銃でも、同等以上の貫通力と扱いやすい反動を実現できるようになったためです。
巨大で重く、装填が遅い4ボアは次第に姿を消していきました。
現在、4ボア・ライフルは非常に希少で高額なコレクターズアイテムとなっています。
.577ニトロ・エクスプレス(.577 Nitro Express / 14.9×94mmR)は、象などの危険な大型獣狩猟を目的に開発された大口径ライフル弾です。主にシングルショットやダブルライフルで使用され、アフリカでの狩猟やインドのシカール黄金期を象徴する弾薬とされています。

画像出典:The original uploader was Olegvolk at English Wikipedia., CC BY 2.5, via Wikimedia Commons
設計は.577ブラックパウダー・エクスプレスをコルダイト装薬に転用したもので、2+3/4インチ、3インチ、3+1/4インチの3種が存在します。中でも3インチ弾は750グレイン弾を2,050fps(約620m/s)で発射し、象猟用の標準弾として普及しました。
1898年の.450ニトロ・エクスプレス成功を受けて誕生し、20世紀初頭には広く用いられましたが、安価なボルトアクション式ライフルの登場により次第に衰退しました。それでも現在も一部の高級銃メーカーが製造を続けています。
第一次世界大戦では、ドイツ軍狙撃兵が使用した防弾鋼板に対抗するため、イギリス軍が少数の.577ニトロ・エクスプレスライフルを導入し、高い貫通力を発揮しました。
威力は絶大で、重量13ポンド(約6kg)以上の銃でなければ制御困難な強烈な反動を伴います。ハンターは通常は小口径銃を携帯し、従者がこの重い大口径銃を持ち運ぶのが一般的でした。
有名な使用者として、象を1,600頭近く仕留めたジェームズ・サザーランドをはじめ、ジョン・テイラー、ジョン・ハンター、ピート・ピアソンらが知られています。また、作家のアーネスト・ヘミングウェイもこの銃を所有していました。
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