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4ボア・ライフルとは? 象撃ち用大口径ライフルの誕生から衰退までをわかりやすく解説

4ボアダブルバレルライフル画像
4ボアダブルバレルライフル 画像出典:Rock Island Auction

4ボア・ライフルは、19世紀にアフリカやインドの危険な大型獣を狩るために設計された、歴史上最大級の銃です。

その巨大なサイズと圧倒的な威力、そして強烈な反動から、「ストッピングライフル」の代名詞的存在となりました。

ハンターの命を守るための最後の切り札として、多くの探検家や象牙ハンターが携行した究極の護身用銃といえます。

この記事では、4ボア・ライフルを始めとする19世紀の大口径ライフルを解説します。

  • ストッピングライフルとは?
    • 象やライオンなどの危険な大型動物の突進を即座に止めるために作られた強力な銃です。
    • 大口径弾で高い貫通力を持ち、連射が可能な設計で、精度よりも瞬時のストッピングパワーを重視します。

口径の概念

ボアとゲージの違い

4ボアダブルバレルライフル画像
4ボアダブルバレルライフル 画像出典:revivaler.com

ボア(bore)とは、銃身の内径そのものを指す言葉です。単位はインチやミリメートルで表され、実際の直径を示します。これは銃の種類や分類に関係なく用いられる基本的な概念です。

一方、ゲージ(gauge)は伝統的なイギリス由来の口径表記方法で、1ポンドの鉛から「銃身の内径にぴったり合う鉛球」をいくつ作れるかによって番号が決まります。例えば「4ゲージ」とは、1ポンドの鉛から4個の球を作れる大きさを意味し、このときの理論上の銃身内径は約26.7mmです。

数字が小さくなるほど口径が大きくなります。

ゲージ公称口径
(mm)
備考
426.7非常に大型で希少、かつてアジアやアフリカで水鳥猟に使用
623.8現在はほぼ使用されない規格、歴史的存在
821.2水鳥猟や産業用で使用されたが、現在は民間利用禁止が多い
1019.7大型獣猟や水鳥猟に使用、現在は一部地域で限定的に使用
1218.5最も普及しているゲージ、狩猟から競技射撃まで幅広く使用
1417.8現在ほとんど使われない旧規格
1616.8一時は広く使われたが、現在はややマイナー化
2015.6反動が小さく、女性や若年層にも扱いやすい
2414.7現在ほとんど使用されない規格、主に歴史的な銃で見られる
2813.9小型猟やクレー射撃向き、携行性に優れる
3212.7ヨーロッパでかつて使用、現在は非常に希少
.41010.4ゲージ換算で約67.5番、小型猟や初心者向きとして利用

現在では、アメリカでもショットガンの口径を表す際にはゲージが標準的に使われています。

一方、イギリスでは歴史的に「○ボア(○ bore)」という表記が伝統的に用いられており、現代でも文献や一部のメーカーではボア表記が残っています。

例外として「.410」だけはゲージではなく、銃身内径(0.410インチ)をそのまま名称に使っています。そのため、「.410ボア」と呼称するのは正しいですが、「.410ゲージ」と呼称するのは誤りです。

公称と実測の不一致

当時の前装式銃では、公称ゲージと実測ボアが必ずしも一致しませんでした。

  • 前装式銃 (マズルローダー / muzzleloader)
    • 銃口から弾丸と火薬を装填する方式の銃。
    • 例:火縄銃など
  • 後装式銃 (ブリーチローダー / breechloader)
    • 銃身の後ろから弾薬を装填する方式の銃。
    • 前装式より連射性や信頼性が高い。
    • 例:現代の軍用銃

製造誤差やカスタムメイド、ガンスミス(銃工)の設計の違いにより、例えば4ゲージ(約26.7mm)の銃身でも実際のボアは23.7~24.3mm程度に収まることが一般的でした。

表記口径
(公称値)
口径
(実測値)
4ゲージ26.7mm23.7~24.3mm

ショットガンの口径については、こちらの記事で詳しく解説しています。

ボア別解説

代表的な大口径である2~8ボアを解説します。

これらの口径は歴史的には「8ボア → 6ボア → 4ボア → 2ボア」という順で登場しました。

狩猟現場での主力は8ボアから4ボアに移り、やがてニトロ・エクスプレス系の金属薬莢式ライフルへと更新されていきました。

8ボア(18世紀後半以降)

8ボアカートリッジ画像
8ボアカートリッジ 画像出典:See page for author, Public domain, via Wikimedia Commons
  • 定義とサイズ
    • 8ボアの公称上の口径は21.2mmですが、実際には21mm前後が一般的でした。
    • 典型的な8ボアライフルの重量は約6.8~7.3kgで、862グレイン(56g)の球形弾を1,654 ft/s (504 m/s)、1,257グレイン(81g)の円錐弾を1,500 ft/s (460 m/s)で発射可能です。
  • 歴史
    • 元々は水鳥用の重い散弾銃として普及しました。
    • 17世紀のオランダ領ケープ植民地では、現地の獲物に対して8ボア前後のフリントロック・スムースボアが用いられました。
    • 19世紀には、象狩猟用に4ボアが標準となり、その他のデンジャラスゲーム狩猟には8ボアが一般的に使われました。
    • 19世紀後半、ウィリアム・W・グリーナーは、デンジャラスゲーム狩猟において8ボアが最大かつ実用的な口径であると結論づけました。
    • 重量と反動は比較的扱いやすいものの、時代が進むと実用性の高い小口径ライフルに置き換えられていきました。

デンジャラスゲーム(Dangerous game / 危険獣)とは、サイズ・パワー・防御力が高く、攻撃的で人間に危険を及ぼす可能性のある大型野生動物を指す狩猟用語です。

  • 特徴
    • 体が大きく筋肉質で厚い皮膚を持つ。
    • 攻撃的で、場合によっては突進することもある。
    • 効果的に狩猟するために、特殊な銃器や弾薬が必要。
    • 行動が予測困難で、高度な追跡・射撃・安全対策が求められる。
  • 代表例
    • 象、ライオン、ヒョウ、サイ、ケープバッファロー
    • その他:カバ、ナイルワニ、イノシシ

W.W.グリーナー(W.W. Greener)はイギリスの銃器メーカーで、1829年に創業し、現在も5代目が経営に関わっています。主にスポーツ用ショットガンやライフルを製造し、多くの技術革新で知られています。

創業者ウィリアム・グリーナーは、当初マズルローダー(前装銃)にこだわりましたが、息子のウィリアム・ウェリントン・グリーナーが1864年にブリーチローダー(後装銃)を製造し、1869年に会社を統合しました。その後、同社はバーミンガムやロンドン、ニューヨークなどに拠点を持ち、世界的に知られる銃器メーカーへ発展しました。

  • 主な功績
    • 銃身強度の改良や拡張弾(エクスパンディング・ブレット)の発明
    • 強固な閉鎖機構「トレブル・ウェッジファスト」の開発
    • 1874年に実用化したチョークボーリング(銃身の絞り加工)による命中精度向上
    • ハンマーレス銃「ファシル・プリンセプス」の開発
    • 自動排莢機構(イジェクター)の発明
    • 1895年に畜産用「ヒューマン・キラー(屠殺銃)」を開発し、軍でも採用

第二次世界大戦後に一部製品の生産は停止しましたが、近年再生産も行われており、伝統的な銃器メーカーとして存続しています。

映画「トレマーズ」で注目されたショットガン

William Moore & Co. 8ゲージショットガンイメージ画像

William Moore & Co.の8ゲージショットガンは、19世紀中頃に製造されたベルギーの水平二連パーカッションショットガンです。

1990年公開の映画「トレマーズ」で登場人物バート・ガンマーが使用したことでも有名です。

William Moore & Co. 8ゲージショットガン画像
William Moore & Co. 8ゲージショットガン 画像出典:imfdb.org

このショットガンは、野鳥猟(ワイルドフォウリング)や大型獣の狩猟に用いられ、強力な火力で知られています。口径は8ゲージ(0.835インチ / 21.2mm)で、大量の散弾や大口径の弾丸を発射できるため、水鳥やデンジャラスゲームに対して高い効果を発揮しました。

  • 設計と特徴
    • 銃身は36インチを超えることも多いツイストラミネート鋼製
    • 二本のハンマーと二本のトリガーを装備
    • 手作業により調整された強固なアクション
    • 銃の重量は約15ポンド(6.8kg)以上(大容量の黒色火薬による強烈な反動を抑えるため)

19世紀、8ゲージショットガンはイギリスや植民地で人気を博しました。特に水鳥猟や広大な領地における害獣駆除に用いられ、大口径と多い装弾量により、一度の発射で複数の鳥を仕留めることができました。

6ボア(19世紀初頭以降)

アイザック・ホリス&サンズ6ボアライフル 画像
アイザック・ホリス&サンズ6ボアライフル(Isaac Hollis & Sons)
画像出典:andersonandgarland.com
  • 定義とサイズ
    • 6ボアの公称口径は23.3mmですが、実際には22~23mmの銃身もありました。
    • 前装式や後装銃で使用されました。
  • 設計
    • 散弾やスラッグ弾を発射可能で、後期型は金属製薬莢の弾に対応していました。
    • 1891年、W.W.グリーナーが製作した6ボアのライフルには、象・サイ用の硬化鉛弾、バッファロー用のセミ硬化鉛弾、ライオン用のカッパーチューブホローポイント弾など、3種類の弾薬が用意されました。
  • 歴史
    • 初期の6ボアは大型マズルローダーの散弾銃で、水鳥猟に用いられましたが、アフリカやインドで危険な大型獣を狩るため、スラッグ弾も使用されました。
    • 1850年代にはアフリカ・インドの象牙取引で需要があり、特にライフル銃用として人気でした。
    • しかし、4ボアや2ボアの登場で徐々に人気は衰え、1880年代には象狩猟には8ボアがより実用的とされました。
    • 6ボアは、1898年にニトロ・エクスプレス弾の登場で完全に廃れました。

象ハンターのシガーも、重い6ボアのマズルローダーを使用していました。

シガー(Cigar)は19世紀アフリカの著名な象ハンターです。

  • もともとはグラハムズタウン(南アフリカ)の騎手で、1869年に象ハンターのウィリアム・フィナウティのもとで象狩りを始め、捕獲した象牙の半分を得ていました。
  • シガーは2人の現地ハンターと3人のポーターを雇い、やや小柄で活発、持久力に優れ、6ボアの古いマズルローダーで狩猟していたといいます。

現代でも使用されている6ボア・ショットガン

KS-23ショットガン画像
KS-23 画像出典:Vitaly V. Kuzmin, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

KS-23は旧ソ連で開発されたショットガンです。銃身にライフリング(施条)があるため、ロシア軍では正式に「カービン」として分類されています。

KSは「Karabin Spetsialniy(特殊カービン)」の略称。口径は23mmで、英米式換算で6ゲージ強、欧州式換算で約4ゲージに相当し、現代で使用されるショットガンとしては最大級の口径です。

1970年代にソ連の内務省(MVD)の要請で、刑務所暴動の鎮圧を目的として開発されました。開発はツニートチマシュ(TsNIITochMash)が担当し、航空機機関砲用23mm銃身の不合格品を切断・流用して製造されました。

1980年代半ばにMVD部隊に配備され、1990年代には屋内での使用を考慮した改良型(KS-23M、KS-23K)が試作されました。

KS-23は多種多様な弾薬を使用可能です。

  • 散弾(「Shrapnel-10」「Shrapnel-25」)
  • 貫通弾(「Barrikada」:自動車のエンジン破壊が可能)
  • 訓練用の空包や非致死弾(ゴム弾・プラスチック弾)
  • 催涙弾(「Cheremukha-7」「Siren-7」)
  • 閃光弾(「Zvezda」)
  • 発射補助用の空包カートリッジ

銃口に擲弾発射器(36mm、82mm)を装着でき、より強力な催涙弾の発射も可能です。

4ボア(19世紀中頃以降)

4ボアと.50BMGの大きさ比較画像
4ボアと.50BMG(12.7x99mm NATO)の大きさ比較イメージ
  • 定義とサイズ
    • 4ボアの公称口径は約26.7mmです。
    • 実際には23.7~24.3mmの個体が多く、カスタム製造の影響で現代の換算では「5ボア」に近い場合があります。
  • 用途
    • 19世紀アフリカやインドで象やバッファロー、サイなどの危険な動物に用いられた代表的な大口径黒色火薬ライフル弾です。
    • 銃身がスムースボアのものも多く、のちにライフリング付きや金属製薬莢対応型も登場しました。
    • 20世紀初頭にはニトロ・エクスプレス系の小口径高速弾に取って代わられました。
  • スムースボア(滑腔式
    • 内側が滑らかで溝がない銃身(バレル)。
    • 弾丸ではなく、散弾(ショットシェル)を使う散弾銃(ショットガン)に多い。
    • 弾が拡散しやすく、近距離で使用される。
  • ライフリング(旋条)
    • 銃身内に刻まれている螺旋状の溝。
    • 弾丸に回転を与え、飛翔中の安定性と命中精度を高める。
    • ライフルやハンドガンの多くで採用されている。

2ボア(19世紀中頃以降)

2ボアライフルは巨大なサイズと威力で知られていますが、その実態は伝説的要素が多く、手持ちの猟銃としての歴史的な実用例は確認されていません。

19世紀に使用されなかった2ボアライフルは、現代ではカスタムガンとして存在します。

  • 起源
    • 2ボアの口径は約33.7mm(1.326インチ)で、約227g(8オンス、3500グレイン)の鉛弾を発射しました。
  • 実際の使用
    • 狩猟用で肩撃ち式2ボアライフルが用いられた記録はなく、実際に使用された最大級の狩猟銃は4ボアでした。
    • 2ボア相当の口径はパントガンに見られますが、ライフルではありません。
    • 現代では展示用や娯楽目的でガンスミスが製作した例があるにすぎません。
  • 誤解
    • イギリスの探検家サミュエル・ベイカーが使用したライフルは2ボアとされましたが、実際には3ボアであったと言われています。
    • 実際に当時使用された2ボアライフルの記録は確認されていません。

2ボアは「伝説の超大口径」として語られる存在であり、実用史においては4ボアが限界でした。

2ボアは狩猟銃の歴史に大きな役割を持たず、ほとんどが作り話や現代に再現された試作品として残っています。

パントガン(punt gun)とは、19世紀から20世紀初頭にかけて商業的に大量の水鳥を捕獲するために使われた超大型ショットガンです。肩撃ちや単独での持ち運びが不可能なほど大型で、小型ボート(パント)に固定して使用します。

パントガン画像
パントガン 画像出典:Yorkshire Museum, Public domain, via Wikimedia Commons

口径は2インチ(約51mm)を超えるものもあり、一度の発射で1ポンド(約0.45kg)以上の散弾を撃ち出し、50羽以上の水鳥を仕留めることができました。発射の反動でボートが後退するほど威力が強く、照準はボートの位置を変えることで調整しました。

多くは前装式で、フリントロックやパーカッション式が用いられましたが、1890年代にはホーランド&ホーランドが後装式や規格化された弾薬を使うモデルも製造しました。二連式や8ゲージ相当の小型モデルも存在します。

アメリカでは乱獲によって水鳥資源が減少し、1860年代には多くの州で禁止され、1900年のレーシー法や1918年の連邦法により商業狩猟は完全に違法となりました。イギリスでは現在も使用例がわずかにあり、銃身径や装弾量に制限があります。

サー・サミュエル・ホワイト・ベイカー / Sir Samuel White Baker(1821–1893)はイギリスの探検家、将校、博物学者、猟師、作家、奴隷制度廃止運動家です。

ナイル川上流域やアフリカ内陸部を探検し、ヨーロッパ人として初めてアルバート湖を訪れた人物として知られています。エジプトの依頼を受けて奴隷貿易撲滅のための軍事遠征を指揮し、エクアトリア州総督を務めました。

ハンターとしては世界各地で狩猟を行い、セイロン(現スリランカ)やアフリカでの象・イノシシ・大型獣の狩りで有名です。

自身の最初の象用ライフルとして6ボアのパーカッション式ライフルを使用しました(1840年製、銃身36インチ、重量約9.5kg)。

世界最大級の猟銃である「2ボア(事実上の3ボア)」や「4ボア」ライフルを使用した数少ない人物であり、著書「Wild Beasts and Their Ways」は狩猟と銃器に関する重要な記録となっています。

工業用8ボア(20世紀初頭以降)

工業用ショットガン画像
レミントン製工業用8ゲージショットガン
MASTERBLASTER 8-GAUGE INDUSTRIAL GUN 画像出典:remington.com

現代の8ボア(8ゲージ)ショットガンは、鉱山、セメント、製鉄といった産業分野において、採掘現場や設備に発生する堆積物や障害物を、安全な距離から破砕・除去するための特殊工具として利用されています。

  • 用途
    • 鉱山・セメント産業では、鉱山や採石場では岩の張り出し部分を崩す作業、サイロやシュート内部に生じる詰まりや固結物の除去に使用されます。
    • 製鉄産業では、ボイラーチューブの清掃、炉内部のスラグ(溶融残渣)の除去、頑固な堆積物の破砕に用いられます。
    • 危険区域に近づかずに作業を行えるため、稼働中の設備でも安全に対応できる利点があります。
  • 特徴
    • 一部の機種には騒音を低減するサプレッサーや、角度を調整できる車輪付きマウントが装備されています。これにより正確な射撃と安全な操作が可能になります。
    • スラグ弾など専用の8ボア実包が製造されており、破砕対象を効率的に分解しつつ周囲の設備や作業員を危険にさらさないよう設計されています。
    • 重量が大きいため手持ちでは使用せず、据え置き台座や三脚に固定して運用します。

2~8ボアの比較

以下は、歴史的に使用された主なボア(口径)と、その理論値・実測値、用途および特徴を整理した一覧です。

ボア銃身内径
(理論/実測)
主な用途備考
2ボア33.7mmパントガン肩に当てて撃つことはない
4ボア26.7mm(公称)
23.7~24.3mm(実測)
大型獣狩猟象牙猟やアフリカでの狩猟に使用
6ボア23.3mm(公称)
22~23mm(実測)
大型獣狩猟4ボア登場で衰退
8ボア21.2mm(公称)
21mm前後(実測)
大型獣狩猟
水鳥狩猟
工業用
反動と威力のバランスが良い

歴史と技術の変遷

象画像

4ボア・ライフルは、アフリカで遭遇するゾウやサイといった危険な大型獣に対して、従来のマスケット銃では威力不足だったことが開発の契機となります。

前装式・滑腔銃の時代(~1860年代)

初期の4ボアは、スムースボアの前装銃で、超大型の散弾銃に近いものでした。

弾丸は主に丸い鉛の球が使用されました。

しかし、大物猟の経験から、ハンターたちは獲物を確実に仕留めるために、より大きな口径と強力な装薬を求めました。

ライフリングと円錐弾の登場(1860年代~)

銃身内部のライフリング 画像出典:MatthiasKabel

1860年頃になると、銃身にライフリングが施されるようになり、空気抵抗の少ない円錐弾が使用可能になりました。これにより、弾丸の重量と貫通力が飛躍的に向上しました。

しかし、危険な獣との遭遇は約40~50m以内の近距離が多かったため、スムースボアの銃も依然として人気がありました。

スムースボアの銃はライフリングがないため過度な高圧が発生せず、その分だけ装薬量を増やすことができ、結果としてより高い初速を得られたのです。

後装式と金属薬莢(1870年代~)

19世紀中頃には、ブリーチローダー(後装式銃)へと移行し、信頼性と連射性が向上しました。

これにより、より重い金属薬莢式の弾薬も使用可能となり、その性能はピークを迎えました。

W.W.グリーナーのような名門銃器メーカーがこの時代の4ボアを手がけ、探検家や象牙猟師たちの信頼を得ました。

驚異の性能と凄まじい反動

4ボア・ライフルの性能は、一般的な銃器とは比較にならないほど規格外でした。

  • 弾丸:初期の丸弾から、後には円錐弾や被甲弾が登場。弾丸の重量は1,750グレイン(113グラム)を超えるものが一般的でした。
  • 装薬:黒色火薬を約12〜16ドラム(21〜28グラム)使用。
  • 初速:約1,310〜1,445fps(400〜440m/s)
  • マズルエナジー:約7,965〜10,990ft-lbf(10,800〜14,900ジュール)に達し、象の突進を止めるために必要な最低限の威力とされていました。

ドラム(dram)とは、黒色火薬の装薬量を表す伝統的な重量単位で、1ドラムは約27.3グレイン(約1.77グラム)です。もともとは前装銃や散弾銃の黒色火薬量を示すために使われていました。

現代の無煙火薬に置き換わった後も、「ドラム換算(dram equivalent)」という表現で、従来の黒色火薬の装薬量に相当する威力を示す指標として使われています。

たとえば「3ドラム換算」とは、黒色火薬3ドラム分のエネルギーに相当する威力の散弾であることを意味します。

反動エネルギー(リコイルエナジー)は200ft-lbf(約270ジュール)を超え、不用意に撃てば鎖骨骨折や脳震盪、転倒などの重傷を負う危険がありました。

銃自体の重量は約7〜10kgありましたが、熟練のハンターでも反動を完全に制御するのは困難で、独自の構え方を習得する必要がありました。

探検家のサー・サミュエル・ホワイト・ベイカーは、自身の銃について「反動はすさまじく、嵐の中の風見鶏のようにぐるぐると回った」と語っています。

衰退とコレクターズアイテムへ

4ボアダブルバレルライフル画像
4ボアダブルバレルライフル 画像出典:revivaler.com

4ボア・ライフルの時代は、1890年代に終わりを迎えます。

無煙火薬の登場により、.577ニトロ・エクスプレスのような小口径で軽量な銃でも、同等以上の貫通力と扱いやすい反動を実現できるようになったためです。

巨大で重く、装填が遅い4ボアは次第に姿を消していきました。

現在、4ボア・ライフルは非常に希少で高額なコレクターズアイテムとなっています。

.577ニトロ・エクスプレス(.577 Nitro Express / 14.9×94mmR)は、象などの危険な大型獣狩猟を目的に開発された大口径ライフル弾です。主にシングルショットやダブルライフルで使用され、アフリカでの狩猟やインドのシカール黄金期を象徴する弾薬とされています。

.577ニトロエクスプレス画像
.577ニトロエクスプレス(左).22CB(右)
画像出典:The original uploader was Olegvolk at English Wikipedia., CC BY 2.5, via Wikimedia Commons

設計は.577ブラックパウダー・エクスプレスをコルダイト装薬に転用したもので、2+3/4インチ、3インチ、3+1/4インチの3種が存在します。中でも3インチ弾は750グレイン弾を2,050fps(約620m/s)で発射し、象猟用の標準弾として普及しました。

1898年の.450ニトロ・エクスプレス成功を受けて誕生し、20世紀初頭には広く用いられましたが、安価なボルトアクション式ライフルの登場により次第に衰退しました。それでも現在も一部の高級銃メーカーが製造を続けています。

第一次世界大戦では、ドイツ軍狙撃兵が使用した防弾鋼板に対抗するため、イギリス軍が少数の.577ニトロ・エクスプレスライフルを導入し、高い貫通力を発揮しました。

威力は絶大で、重量13ポンド(約6kg)以上の銃でなければ制御困難な強烈な反動を伴います。ハンターは通常は小口径銃を携帯し、従者がこの重い大口径銃を持ち運ぶのが一般的でした。

有名な使用者として、象を1,600頭近く仕留めたジェームズ・サザーランドをはじめ、ジョン・テイラー、ジョン・ハンター、ピート・ピアソンらが知られています。また、作家のアーネスト・ヘミングウェイもこの銃を所有していました。

記事内の専門用語一覧

  • 4ボア・ライフル
    • 19世紀にアフリカやインドで大型獣を狩るために使われた、史上最大級のライフル。
  • ストッピングライフル
    • 象やライオンなどの危険な動物の突進を即座に止めることを目的とした強力な銃。
    • 精度よりも瞬間的な威力を重視します。
  • ボア (bore)
    • 銃身の内径(実際の直径)を指す言葉。単位はインチやミリメートルで表されます。
  • ゲージ (gauge)
    • 伝統的なイギリス式の口径表記。
    • 1ポンド(約454g)の鉛から作れる球の個数で口径が決まる理論値です。番号が小さいほど口径は大きくなります。
  • パントガン (punt gun)
    • 19世紀から20世紀初頭にかけて、大量の水鳥を捕獲するために使われた超大型ショットガン。
    • 肩撃ちが不可能なため、小型ボートに固定して使用しました。
  • 前装式銃 (muzzleloader)
    • 銃口から弾丸と火薬を装填する方式の銃。
  • 後装式銃 (breechloader)
    • 銃身の後ろから弾薬を装填する方式の銃。
    • 前装式より連射性や信頼性が高いです。
  • スムースボア / 滑腔式 (smoothbore)
    • 銃身の内側にライフリング(螺旋状の溝)がない銃。
  • ライフリング (rifling)
    • 銃身内側に刻まれた螺旋状の溝。
    • 弾丸を回転させることで直進安定性を高めます。
  • 被甲弾 (jacketed bullet)
    • 鉛などの弾芯を銅や真鍮などの硬い金属で覆った弾丸。
    • 貫通力が高く、銃身に鉛が付着するのを防ぎます。
  • 黒色火薬
    • 19世紀の銃器で広く使用された火薬。
    • 大量の煙と強い反動が特徴です。
  • 無煙火薬 (smokeless powder)
    • 19世紀末に開発された、黒色火薬に代わる高性能な火薬。
    • 燃焼時に煙がほとんど出ず、より少ない量で高い威力を実現できるため、銃器の小型化・軽量化に貢献しました。
  • マズルエナジー (muzzle energy)
    • 銃口から飛び出した瞬間の弾丸が持つ運動エネルギー。
    • 銃の威力を示す指標の一つです。
    • 単位はジュール(J)やフィートポンド(ft-lbf)で表されます。
  • グレイン (grain)
    • 弾丸や火薬の重さを測る際に使われる単位。
    • 1グレインは約0.0648グラムです。