S&W M&Pを採用して暴発が増えた理由

先日、米カリフォルニア州ロサンゼルス郡監察官室があるレポートを公開しました。

そのタイトルは、”Assessing the Rise in Unintended Discharges Following the Sheriff’s Department’s Conversion to a New Handgun“というもの。

要約すると、「警察(ロサンゼルス郡保安局)の制式採用銃をベレッタ92FからS&W M&Pに変えたら暴発が増えたから背景を調べてみた」です。

レポートでは暴発事故が起こった背景を調査し、必要な改善点について指摘しています。

 

 

S&W M&Pの採用

Photo via oig.lacounty.gov
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ロサンゼルス郡保安局(以下:LASD)は1992年からベレッタ92Fを採用していましたが、2007年から次期正式採用銃S&W M&Pの評価を開始しました。そして2013年にロサンゼルス郡とS&Wは5年間で2万丁のM&Pを購入する契約を結びます。また同時にシュアファイア社と各2万個のウェポンライト(X300 ULTRA)と専用プレッシャーグリップスイッチの購入契約を結んでおり、同年一月から採用されました。

M&Pが評価された点は、ベレッタ92Fのトリガーは初弾がダブルアクションで次弾からシングルアクションとなりますが、M&Pは一貫して同じトリガープルなので総合的に命中率が高いとされており、また、M&Pのグリップは手の大きさに合わせてサイズを変更できるアジャスタブル・グリップを採用していることが評価されました。

 

 

トレーニング不足

2014年末、「M&Pの暴発が急激に増えている」と報告を受けた監察官は調査を開始。すると、銃のトレーニング不足、ウェポンライトのトレーニング不足、新規装備採用過程や採用理由の不明確さ、不適当なリスク管理や暴発事故後の対処方針など、様々な問題が明らかになりました。

ベレッタ92Fにはマニュアルセイフティがあり、トリガープルの重さは約11.5ポンド(約5.2kg)です。一方、M&Pはマニュアルセイフティが無く、トリガープルは約6.5ポンド(約3kg)。装填した銃にマニュアルセイフティが無いということは、トリガーを引けばいつでも発射できる状態であり、なおかつトリガーも軽ければ、トリガーに触れる機会があればより暴発させやすくなります。

しかし、「M&Pは危険な銃」とレッテルを貼るのは間違いです。銃の欠陥ではなく、無意識にトリガーを引いてしまう状況を作ってしまったこと自体が問題といえるでしょう。これはトレーニング不足や理解不足が原因なので、このレポートではM&Pやウェポンライトに問題があったのではなく、それらを扱う人間や組織に問題があったことが主に指摘されています。

Photo via oig.lacounty.gov
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グラフは2013年1月から2014年11月までのLASDでのM&Pトレーニング受講者数の推移です。 全9,455人中3,061人がトレーニングを受講しました。トレーニングを受けた警官が増加するということはM&Pを装備する警官が増加することを意味しており、M&Pの暴発件数は増えていきました。

LASDではベレッタ92Fに慣れている者にM&Pへの交代を強制することはなく、各人が交代か継続使用かを選択できる方針を取りました。ベレッタ92Fを継続して装備する場合はトレーニング不要ですが、M&Pを選択した者はトレーニング受講が必須となります。

LASDでは支給されたウェポンライト付M&Pを装備する全員にローライト・エクササイズ(夜間/暗闇での訓練)を含む8時間のトレーニングを義務付けていますが、レポートでは「トレーニングが不十分」と指摘し、8時間ではなく最低16時間以上のトレーニングを推奨しています。

 

 

年度別暴発件数

年度別暴発事故発生件数 Photo via oig.lacounty.gov
年度別暴発事故発生件数 Photo via oig.lacounty.gov

グラフは年度別暴発事故発生件数です。

M&Pとウェポンライトの採用を始めた2013年から急激に暴発事故が増加しています。

 

 

暴発させた銃の種類と件数

銃の種類2012年2013年2014年
S&W M&P828(2※)
ベレッタ92F341
コルトM4ライフル111
グロック171※
グロック271※
S&W .38口径リボルバー1※
レミントン・ショットガン131
ルガーP-90 .45口径ピストル1※
SIG 9mmピストル1
SIG .45口径ピストル2
モデル不明.22口径ピストル1※
モデル不明.45口径ピストル1※
容疑者の銃のクリアリング最中11
計13計19計31

※印はオフデューティー(非番)時に発生した暴発事故です。オフデューティーで暴発したM&Pのうち1件は、個人所有の「M&Pコンパクト」でした。

暴発させた銃の種類と年度別件数を見ると、M&Pの暴発は突出しています。M&Pの暴発が突出する原因の一つは、M&Pを装備する警官の母数が大きいという背景がありますが、それまで採用していたベレッタ92Fと比較すると暴発件数は圧倒的です。このことから、暴発事故が増えた原因はベレッタ92FからM&P+ウェポンライトへ交代したことが大きいとみられます。

また、この調査時の段階で2015年は21件の暴発事故が発生しています。

 

 

暴発時の状況と件数

状況2012年2013年2014年
ノンタクティカル101012
タクティカル3919
計13計19計31

暴発事故が発生した状況とその件数です。

タクティカルとは、容疑者の車を停止させたり、屋内捜索(ルーム・クリアリング/プロテクティブ・スウィープ)など、現場で職務を執行している状況です。

ノンタクティカルとは、現場に出る前に警察署のロッカールームでホルスターに銃を入れるなど準備中であったり、銃のクリーニングの最中といった状況のことです。

暴発件数は2013年までノンタクティカルが上回っていましたが、以降は逆転しています。

レポートでは、「タクティカル状況での暴発は公共に対して危険性があり問題」と指摘しています。

 

 

タクティカル状況で発生した暴発件数

銃の種類2013年2014年
S&W M&P316
ベレッタ92F21
コルトM4ライフル11
レミントン・ショットガン31
計9計19

これはタクティカル状況で発生した暴発件数です。

屋内を捜索中に暴発させたり、職務中のM&Pの暴発事故が増加しています。

 

 

タクティカル状況で発生した暴発時の状況と件数

暴発発生時の状況2013年2014年
ウェポンライトの操作中24
容疑者を前にしてホルスターから銃を抜いた01
雑踏警備中01
落下による衝撃02
ドアを押し開けた01
銃をグリップし直した02
銃を持っているときに躓いた01
屋内捜索中12
銃をもう一方の手に持ち替えた02
計3計16

これはタクティカル状況で発生した暴発事故の状況と件数です。これを見るとウェポンライト操作中の暴発が増えており、M&Pを正しく操作できていないだけでなく、新規採用したウェポンライトの扱い方が適切ではない可能性があります。

グリップスイッチ(LASDではシュアファイアDGグリップスイッチを採用)の採用を禁止する警察署があるように、「グリップスイッチはうっかりトリガーを引かせてしまうリスクがあり危険」と指摘されることがあります。また、ウェポンライトの問題として屋内での使用中に光の反射により自分の目が眩むといったリスクががあると議論されることがあり、ウェポンライトを正しく使用するにはリスクに対処する専門的なトレーニングが欠かせません。

デンバー警察では暴発事故防止のため2013年10月からグリップのフロントストラップに装着するスイッチを全面的に禁止し、トリガーガードの前に位置するパドルスイッチのみ許可しました。また、テキサス州オースチン警察、ダラス警察、ロサンゼルス警察も同様にグリップ装着型スイッチを禁止しています。

Photo via oig.lacounty.gov
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レポートでは、「グリップスイッチを採用する経過が不透明で、採用前のテストや検討、ライトを使用したトレーニングが十分でなかった」と指摘しています。

また、グリップスイッチを使用しない場合は、もう一方の手(サポートハンド)の親指でライトのスイッチを操作するように推奨しています。

 

タクティカル状況で発生した暴発事故では、具体的に以下の事例がありました。

  • ケース1:クローゼットを捜索中に重いバッグが銃を持つ手に落下し、衝撃でトリガーを引いてしまい暴発した。(トリガーガード内に指を入れていたことが原因)
  • ケース2:クローゼットを捜索中に躓いてバランスを崩し暴発させた。(トリガーガード内に指を入れていたことが原因)
  • ケース3:「銃をチラつかせている」と通報を受けて容疑者の車を停止させ、パトカーの座席でM&Pを抜こうとして暴発させてしまい大腿を負傷した。

 

 

ノンタクティカル状況で発生した暴発時の状況と件数

暴発発生時の状況2013年2014年
クリーニング時にチャンバーに弾が残っていた01
銃の操作中(スライドを前進させた等)02
銃の移動中(ホルスター収納時やロッカーから取り出した等)49
ウェポンライトを銃から取り外すとき10
計5計12

ノンタクティカル状況で発生した暴発事故では、具体的に以下の事例がありました。

  • ケース1:パトカーのトランクから銃を取り出そうとして、うっかりトリガーを引いてしまった。
  • ケース2:仲間のM&Pをロッカーから取り出して渡そうとしたとき、グリップとグリップスイッチを掴んだつもりが、実際はトリガーを握ってしまい暴発した。
  • ケース3:現場に向かう前にロッカールームで準備中、ホルスターとタクティカルベストがロッカー内に吊り下げられており、M&Pをホルスターに収納しようとした際にベストのポーチに収納された無線機のアンテナにトリガーが引っ掛かり暴発した。

 

 

 

以上、ざっくりとレポートの概要を紹介しました。

結局のところ、殆どの暴発事故は基本に忠実に「指はトリガーガードの外へ置く」を実践していれば、いくらトリガープルの軽い銃であろうと暴発は防げますし、「銃口は常に安全な方向へ向ける」というルールを守っていれば暴発させても命を奪うことはありません。

LASDでの問題は、暴発を防止するためのガイドラインが不足し、明らかなトレーニング不足といえます。ベレッタ92Fはマニュアルセイフティがあるため、セイフティがオンになっていればトリガーを引いても発射されないことに慣れていたのかもしれません。そうだとすれば、M&Pで同じ扱い方をすれば暴発事故に至るのは当然といえますし、ベレッタ92F採用時から既に銃の扱い方を間違えていたと推測できます。

 

レポートでは調達価格についても触れられていますが、シュアファイアX300 ULTRAが125ドル(約15,000円)なのは羨ましいところです。アメリカでの市場価格は200~300ドルですが、日本だと3万円台後半が相場です。

また、M&Pの価格は9mm口径で336ドル(約41,000円)、.40S&W口径はフルサイズ/コンパクトが346ドル(約42,000円)という契約でした。因みに一般希望小売価格は569ドル(約69,000円)で、店頭価格は約480ドル(約58,000円)前後です。

このレポート内容はかなり詳細なので、深く知りたい方はレポートを一読されることをお勧めします。

 


 
 
 
 
 
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