今アメリカの銃器業界で一番ホットな話題といえば、
「5.56mm弾(M855)が規制されるかもしれない問題」
・・・かもしれません。
発端は三週間前にATFが公表した「現在流通している5.56mm弾(M855)がスポーツ目的用であるかどうか?」という問題提起で、要するに「貫通力の高いM855は規制する予定」という内容です。
警官を守るための規制
昨年四月に私は以下の記事を書きましたが、今回M855に起こっている問題はこれと同じことです。
アメリカにはピストルにスチールコアの弾薬を使用することを禁止する法律があります。1968年の銃規制法(GCA)にて、「タングステン合金、スチール、真鍮、ブロンズ、ベリリウム銅、劣化ウランを使用するか、または.22口径以上でジャケットの重量が総重量の25パーセントを超えた弾を禁止する」という規制です。
近年、複数のメーカーがAKタイプのライフルを短くし、ピストル化させた製品が多く流通しており、これらの銃にスチールコアの弾薬を使用することが問題視されるようになっていました。これまで5.45x39mm 7N6という弾薬は、ライフルにのみ使用されるのが通常だったため、現在の状況は以前から「ちょっと不味いんじゃないの?」という雰囲気がありました。そしてついに、ATFは当該弾薬は違法であると認定し、規制されることとなったのです。
ハンドガンは隠し持つことが容易で、犯罪者が貫通力の高い弾(アーマーピアシング弾)を使用すれば警官のボディーアーマーを貫通して危険・・・ということで、警官を守るために 1968年の銃規制でハンドガンに使用可能なアーマーピアシング弾の製造、輸入、流通が禁止されました。(所持は禁止されていない)
しかしこれには例外があり、「主としてスポーツ目的として使用する場合(primarily intended to be used for sporting purposes.)は許可される」としており、M855は軍用として使用される一方で民間ではハンティングに使用されているため、この定義を元に民間で流通するM855を規制するのは強引だと感じる人が多いようです。
また、それ以前にM855(グリーンチップ)は1986年に、.30-06 M2AP(アーマーピアシング)は1992年にそれぞれ規制が免除されているにも関わらず、今回の騒動でATFは問題を作り出したと非難されています。
なぜ今回M855に規制の動きがあって.30-06M2APは無視されているのか?
それは上記で述べた「ライフルのピストル化」が問題であり、M855を使用できるピストル化されたショートバレルでストックを装備しないライフルが増加している背景があります。
皆さんご存知の通り、ほとんどのライフル弾はアーマーピアシング弾を使用しなくても警官のボディーアーマーを貫通できます。
よって「タングステン合金、スチール、真鍮、ブロンズ、ベリリウム銅、劣化ウランを使用するか、または.22口径以上でジャケットの重量が総重量の25パーセントを超えた弾を禁止する」という規制はハンドガンの弾にしか適用されません。
ATFは、「ピストル化されたライフルで使用されるM855はピストルで使用されるアーマーピアシング弾だとみなし、スポーツ目的の対象から外したい」と考えているようです。
※一部地域ではアーマーピアシング弾は規制対象となっています。
M855とはどんな弾か?
M855は米軍の制式名であり、NATOではSS109と呼ばれる弾薬です。
軍用ではM4やM16などで幅広く使用されていますが、民間市場ではハンティングやターゲットシューティングでポピュラーな存在です。
20インチバレルで最適化されているため、20インチより短いバレルで使用すると遠距離での性能が低下します。
「グリーンチップ」と呼ばれる由来は先端が緑色に塗られているためで、M855だと識別する目的があります。
銅のジャケットの内側には鉛のコアがあり、コアの先端部分には細身のプリンのような円錐台のスチールコアが内包されています。
スチールコアの先端は平らなのでジャケットとの間に空洞があり、着弾時にジャケットの先端が潰れて抵抗が大きくなるように設計されています。
薬莢の前半分が変色しているのはアニーリング(焼き鈍し)のためで、熱を加えて硬化処理されています。
M855誕生の背景については過去記事を参照ください。
M855A1とはどんな弾か?
今回の規制の話題から少し離れますが、M855には改良型のM855A1があります。
M855A1では飛躍的に性能が向上し、遠射性、殺傷力ともにAK-47で使用される7.62x39mm以上と高い評価を受けています。
上図はM855(左端)とM855A1(右三点)の断面図を表しています。
M855は鉛とスチールコアの組み合わせですが、M855A1では先端がスチールで、その下にビスマス合金、あるいは銅のコアが配置されており、先端を露出して周囲が銅のジャケットで被われています。
M855A1では鉛を使用していないので、ある意味環境にやさしい弾でもあります。
2010年から米軍がアフガニスタンで使用し始めた比較的新しい弾薬で、M855の欠点を改良されました。
その欠点とは、「フロントガラス貫通後の殺傷力不足」「長距離での性能が悪い」「近距離でもフラグメンテーションが起きにくい」といったもので、これらの問題を解決したのがM855A1です。
M855A1の集弾性はM855と比較すると約1/2となり、米陸軍によると600mで8x8インチ(20.32cm四方)のターゲットへの集弾率は約95%とのことです。
殺傷力に関しては、5.56x45mm弾という小口径高速弾は、人体に命中すると変則的に向きを変えて進む「タンブリング」が起こることでターゲットへのダメージを増幅します。
しかしM855ではタンブリングの始まりが遅く、着弾から7インチ(17.78cm)進んでから向きを変えるため、アフガニスタンで米軍が相手にする痩せ型体形のターゲットに対しては十分な効果が得られず、複数弾命中しても貫通し無力化できなかった事例がありました。
その経験からM855A1ではタンブリングのタイミングを早め、着弾後1~3インチ(2.54~7.62cm)で弾頭が向きを変えることでストッピングパワーを高めました。
M855(グリーンチップ) | M855A1 EPR | |
---|---|---|
全長 | 57mm (2.248インチ) | 57mm (2.248インチ) |
弾頭重量 | 62グレイン | 62グレイン |
チップ | グリーン | ブロンズ |
コア | 鉛 | 錫ビスマス合金 / 銅 |
貫通コア(ペネトレーター) | 円錐台型スチール | 矢尻型スチール |
腐食耐性 | なし | あり |
装薬 | WC-844 | SMP-842 |
マズルフラッシュ抑制 | なし | あり |
除銅剤 | なし | あり |
貫通力 (厚さ9.5mm軟鋼使用) | 距離160mまで貫通可 | 距離350mまで貫通可 |
プライマー | No 41 | No 41 |
プライマーの固定方法(クリンプ) | 4ヵ所(スタッブ) | 全周(サーカムフェレンシャル) |
鉛害による環境問題
M855の規制には直接関係ありませんが、アーマーピアシング弾の是非を問う議論でよく耳にする話題が鉛害問題です。
射撃場や猟場で蓄積した鉛が動物や土壌に悪影響を及ぼすため、近年では鉛フリーの弾頭が普及し始めています。
しかし、鉛の代わりとなる素材は鉛より硬い物質となりやすく、それは同時に貫通力が大きくなることを意味します。
カリフォルニア州などでは鉛を使用する弾を規制しようという動きがある一方、アーマーピアシング弾を規制するために硬いコアを規制しようという声もあり、どんな素材をコアに使用すれば良いのか将来の難しい課題となりそうです。
追記
3月7日 追記:
ATFはすでに2014年度版のレギュレーション・ガイドにグリーンチップを規制対象品として掲載したとのことで、規制決定のようです。
EXCLUSIVE Common AR-15 Green Tip Ammunition Already Banned in New ATF Regulation Guide – Katie Pavlich
3月9日 追記:
ATFが2014年度版のレギュレーション・ガイドに載せた内容はミスだと発表しました。AP弾の例外項目はまだ生きているとのことです。
Nothing to analyze here folks, just a publishing mistake. No AP ammo exemptions revoked @NRA @NSSF. See http://t.co/mEIKThYBAX
— ATF HQ (@ATFHQ) 2015, 3月 7
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