防弾プレートを撃ちつづけるとどうなるか?・・・・の疑問の前に、防弾の基礎知識について簡単に解説します。
「防弾チョッキ/防弾ベスト」は、弾を防ぐという意味で英語では「ブレットプルーフベスト(Bullletproof Vest)」と呼ばれますが、軍や警察では弾を防ぐだけではなく砲弾の破片や爆発物などから身を守る目的もあるため、「ボディーアーマー(Body Armor)」と呼ばれることが多いかと思います。
ボディーアーマーのタイプと耐弾性能
アメリカではボディーアーマーにNIJ規格と呼ばれる規格が設けられており、これは国立司法省研究所(National Institute of Justice)が定めた防弾性能の指針となっています。
NIJ規格は時代によって更新され、現在の規格(NIJ STANDARD–0101.06)ではレベルIIA~レベルIVに分類されています。
例えば、レベルIIAのボディーアーマーは最低でも9x19mmや.40S&Wのフルメタルジャケット弾を停止させなければ認められません。
ボディーアーマーのタイプと耐弾性能 (規格:NIJ STANDARD–0101.06) |
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レベル | 停弾可能な弾薬 | 弾頭重量 | 弾速 |
IIA | 9x19mm FMJ RN | 8.0 g (124 gr) |
373 m/s ± 9.1 m/s (1225 ft/s ± 30 ft/s) |
.40S&W FMJ | 11.7 g (180 gr) |
352 m/s ± 9.1 m/s (1155 ft/s ± 30 ft/s) |
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II | 9x19mm FMJ RN | 8.0 g (124 gr) |
398 m/s ± 9.1 m/s (1305 ft/s ± 30 ft/s) |
.357マグナム JSP | 10.2 g (158 gr) |
436 m/s ± 9.1 m/s (1430 ft/s ± 30 ft/s) |
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IIIA | .357SIG FMJ FN | 8.1 g (125 gr) |
448 m/s ± 9.1 m/s (1470 ft/s ± 30 ft/s) |
.44マグナム SJHP | 15.6 g (240 gr) |
436 m/s ± 9.1 m/s (1430 ft/s ± 30 ft/s) |
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III | 7.62 mm FMJ M80 | 9.6 g (147 gr) |
847 m/s ± 9.1 m/s (2780 ft/s ± 30 ft/s) |
IV | .30 M2 AP (徹甲弾) | 10.8 g (166 gr) |
878 m/s ± 9.1 m/s (2880 ft/s ± 30 ft/s) |
ソフトアーマーとハードアーマー
ボディーアーマーは大きく分けて「ソフトアーマー」と「ハードアーマー」があります。
ソフトアーマーは、レベルIIAからレベルIIIAに対応する拳銃弾を停弾させますが、ライフル弾は貫通してしまいます。
合成化学繊維を使用し、柔軟性があり比較的軽量です。折り曲げ可能なため、肩や首の周囲に配置しているものもあります。
現在軍用ではレベルIIIAのモジュラーボディーアーマーが主流となり、それぞれの部位が分割できる特徴があります。
ソフトアーマーの素材は主に、ザイロン、アラミド繊維のケブラー、トワロンなどがあり、最近ではカーボンナノチューブやUHMWPE(超高分子量ポリエチレン/Ultra-high-molecular-weight polyethylene)などが使用されています。
ハードアーマーは「ライフルプレート」や「バリスティックインサート」と呼ばれるプレートを使用し、レベルIIA~IVの拳銃弾からライフル弾まで停弾させる能力を持ちます。
素材は主にセラミック、スチール、ポリエチレン、セラミックとケブラーを合成したものなどがあり、プレート状で柔軟性がないため、プレートキャリアといった専用の収納ポケットに入れて使用されます。
使用する際はライフルプレートのみ装着しても構いませんが、プレートが守る範囲はソフトボディーアーマーより狭いので、一般的にはソフトボディーアーマーの上からライフルプレートを重ねて使用する場合が多いでしょう。
ハードアーマー(ライフルプレート)を撃ちつづけるとどうなる?
YoutubeチャンネルのIraqveteran8888がMK46ライトマシンガン(5.56mm)でライフルプレート(AR500)をフルオート射撃しました。
結果は、全弾停弾に成功。使用したプレートはレベルIIIなので、5.56mm弾を停止させるのは問題ありません。
しかし、プレートキャリアが裂けてプレートが脱落しました。着弾後の弾頭は衝撃で飛散し、その破片がプレートキャリアの繊維を切り裂きます。破片は意外とパワーがあり、至近距離なら飛散する破片だけでスチール缶を貫通できます。
Iraqveteran8888はショットガンで散弾やスラグを使用した実験も行っていますが、使用したライフルプレート(AR500)はすべて停弾させることに成功しています。
50口径ライフルにも耐えられる?
では、ハイパワーライフルでは貫通可能でしょうか?
次の動画では、レベルIIIのライフルプレートを400ヤードの距離から射撃しています。
使用した弾薬は、.300winマグナム、.338ラプアマグナム、.50BMGです。
結果はこうなりました。
使用銃 | 弾薬 | 弾頭重量 (グレイン) |
初速 (fps) |
マズルエナジー (ft-lbf) |
結果 |
サベージM110BA | .300winマグナム | 180 | 2,960 | 3,502 | 停弾 |
SAKO TRG-42 | .338ラプアマグナム | 285 | 2,745 | 4,768 | 停弾 |
ブッシュマスターBA50 | .50BMG | 750 | 2,820 | 13,241 | 貫通 |
.338ラプアマグナムはストップできたものの、衝撃が強烈です。衝撃を吸収するトラウマパッドを内側に入れておかなければ、骨折や内臓損傷の恐れがあるでしょう。ライフルプレートは一見すると固そうですが、着弾時に湾曲するため身体を守る緩衝材が必要です。
一方、.50BMGはさすがに停弾できず、半分に割れました。
50グラムの弾が時速3,000kmで衝突すれば、レベルIVのライフルプレートでも耐えられません。恐ろしい破壊力です。
YouTubeチャンネルのFPSRussiaも同じテストをしていますが、結果は貫通です。
YoutubeチャンネルのBuffmanとAR500 ArmorもそれぞれAR500ライフルプレートの実射テストを行っており、レベルIIIで.338レミントン・ウルトラ・マグナムと.30-06 M2アーマーピアシングが貫通し、レベルIVで.30-06アーマーピアシングを停弾といった結果を出しています。
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