
この記事の要約:
- ゴム弾は1970年の北アイルランド紛争で導入され、世界各地で「非致死性」兵器として広く使われてきた。
- 実際には硬質素材を多く含み、失明や重傷、死亡例もあるなど安全性への懸念が大きい。
- 群衆管理に本当に適切かどうか議論が続き、より安全な代替技術の開発が求められている。
ゴム弾(Rubber Bullets)は、暴徒鎮圧や群衆管理の場面で「できるだけ致命傷を与えない方法」として世界各地で使われてきた弾薬です。もともとは、実弾による深刻な被害を減らすことを目的に開発され、1970年の北アイルランド紛争で初めて本格的に導入されました。それ以来、半世紀以上にわたり、各国の法執行機関で広く利用されてきました。
一方で、「非致死性」という名称とは裏腹に、失明や重傷、場合によっては死亡につながった例も報告されており、安全性については長く議論が続いています。
この記事では、ゴム弾の構造や歴史的な背景、世界での使用状況、そして安全性に関する主なポイントについて、できるだけ分かりやすく紹介します。
ゴム弾の実際の構造
「ゴム」という名称の誤解

画像出典:Mustafa Bader, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
ゴム弾は、ゴムバトンラウンド(Rubber Baton Rounds)とも呼ばれるバトンラウンドの一種ですが、その名称とは異なり、実際には完全にゴムで作られているわけではありません。多くのゴム弾は金属コアにゴムコーティングを施したもの、あるいはゴムが少数成分である均質混合物で構成されています。
チリ警察が使用したゴム弾の分析によれば、「ゴム」ペレットの約80%はシリカや硫酸バリウムなどの硬質物質で構成されており、ゴムは全体質量のわずか20%程度にすぎません。測定された「ゴム」ペレットの硬度はショアA硬度96.5という非常に高い値を示しています。このペレットの硬度が、2019年から2020年のチリ抗議活動において「眼球破裂」が頻発した理由を説明しています。
ショアA硬度96.5は、ほとんど塑性に近いほど硬いゴムを示す値で、指で押してもほぼ凹まないレベルの剛性を持ちます。
- Shore A はゴムの硬さを測る指標で、90 以上は「非常に硬い」領域。
- 96.5 はスケール上限(100)に近く、わずかな弾性を残しつつ、硬質樹脂に近い感触。
- 例えるなら 硬質ゴムボールやゴルフボールに近い硬さで、タイヤや消しゴムよりはるかに硬い。
標準的なゴムバトンラウンドは直径37mm、長さ約15cmで、先端部がわずかに丸みを帯びた鈍頭設計となっています。銃口初速は約60~70m/s(200フィート/秒)、最大射程距離は約100m、運動エネルギーは約400ジュールです。
歴史的発展:暴徒鎮圧手段の進化
起源:1880年代の原始的手法
非致死性弾薬の概念は1880年代のシンガポールまで遡ります。当時、暴徒を鎮圧する手段として短く切った箒の柄が発射されていました。これは後に木製弾丸へと進化し、特にチーク材を使用した「膝打ち弾(knee-knockers)」と呼ばれるものが開発されました。これらは地面で跳ね返って標的の脚部に当たるよう設計されており、直接的な貫通創を避ける構造でした。
1970年:現代的ゴム弾の誕生

イギリス陸軍が支給したもので、北アイルランド紛争の際に使用された。
37×122Rゴム弾と薬莢は、当初支給された状態のままである。
画像出典:37mm_baton_rounds.jpg: Andy Dingleyderivative work: Binksternet, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
現代的な意味でのゴム弾は、イギリス国防省が1970年に北アイルランド紛争(The Troubles)における暴徒鎮圧を目的として発明しました。正式名称は「Round, Anti-Riot, 1.5in Baton(暴動鎮圧用1.5インチバトン弾)」とされ、同年に初めて実戦使用されました。
これらの弾薬は低出力の推進薬によって約60m/sの銃口初速があり、最大射程距離は約100mでした。設計思想として、「一般的に低い弾道で、特定の標的を狙わず、標的の方向にスキップ射撃される」とされ、負傷ではなく痛みを与えることを目的としていましたが、操作者の裁量で直接射撃することも想定されていました。
跳弾射撃の方法論では、暴徒の脚部または暴徒の前方の地面を狙って発射され、跳ね返る際に速度を失ってから標的に当たるよう設計されていました。しかし実際には、治安部隊によって近距離から人々に対して直接発射されることが多く、その結果、多数の死傷者が発生しました。
1970年から1975年の間に、イギリス軍は北アイルランドで約55,000発のゴム弾を発射しました。人権活動家でプラスチック弾反対統一キャンペーンの共同設立者であるエマ・グローブスは、1971年にゴム弾によって失明しています。また、1972年には10歳の少年リチャード・ムーアがイギリス兵に発射されたゴム弾によって失明した事例もあります。
1975年:プラスチック弾への移行

画像出典:Mfield, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

1975年、イギリス軍はゴム弾をプラスチック弾に置き換えました。プラスチック代替品は、ゴム製の前身よりも短く、不正確さが少なく、軽量でした。しかし逆説的に、プラスチック弾はより正確であったにもかかわらず、配備時により多くの負傷者を出しました。これは棒状の形状により、正面から衝突してより小さな表面積にエネルギーを伝達するため、より深刻な外傷を生じたためです。
北アイルランドでは35年間(1970~2005年)で約125,000発のゴムおよびプラスチック弾が発射され、1日平均10発、17名の死者を出しました。ただし、負傷率が高かったにもかかわらず、北アイルランドで使用されたプラスチックバトンラウンド自体による公式な死亡例は報告されていません。
機密文書が明らかにした危険性の隠蔽
2013年、1977年に作成されたイギリス国防省の機密解除文書により、ゴム弾が公表されていたよりも危険であることを当局が認識していたことが明らかになりました。この文書には、1972年に失明した児童に関する訴訟について、裁判になれば弾薬の問題が露呈し、将来の関連訴訟への対応が困難になるため、示談を求めるべきだという法的助言が含まれていました。文書には、さらなる試験により弾薬に深刻な問題が明らかになること、「理想的な期間よりも短い時間で試験された」こと、「致死的になり得る」こと、「深刻な負傷の可能性があり、実際に生じさせた」ことが記されていました。
ゴム弾は制御不能に跳ね返る傾向があるため、現在では他の材料に大きく置き換えられています。
世界的な普及と各国の使用状況
イギリスから世界へ
北アイルランドでの配備後、ゴム弾および類似の弾薬は世界中の治安部隊に採用されました。バトンラウンドは2001年から北アイルランド以外のイギリス警察にも提供されるようになりました。
1980年代までに、ゴム弾は南アフリカの抗議者に対して使用され、その後イスラエル、パレスチナ自治区、アメリカ、インド、チリ、スイス、トルコ、ネパールの治安部隊によって採用されました。これらの武器は、市民の不安や抗議運動の期間中に特に広く使用されるようになりました。
アメリカにおけるゴム弾

アメリカでは、1960〜70年代の大規模な社会不安を背景に、群衆を致死性の低い手段で制圧する目的からゴム弾が導入されました。イギリスが1970年に北アイルランド向けに開発した技術が参考にされ、アメリカの警察も採用を進めました。その後、催涙ガス、ペッパースプレー、フラッシュバンなどと並び、ゴム弾は「非致死性兵器」の一つとして位置づけられてきました。
しかし、ゴム弾の規制は州や都市によって大きく異なり、連邦レベルでは一般的な「必要最小限の武力行使」原則が示されるのみで、具体的な運用基準は統一されていません。カリフォルニア州のAB 48のように使用を厳しく制限する法律もありますが、全米的には規制が不十分な状況が続いています。
2020年のジョージ・フロイド抗議運動では、ゴム弾の使用が過去に例のない規模に達し、多数の重傷者が発生しました。ミネアポリスでは6日間で約5,200発が使用され、失明や頭部外傷など深刻な被害が相次ぎました。医療団体や人権団体は、ゴム弾が群衆管理に適さないと強く批判しています。
2025〜26年には、移民政策への抗議デモに対して連邦機関がゴム弾を再び多用し、記者や非武装の市民が負傷する事例が発生しました。これを受け、連邦裁判所が頭部や敏感部位への発射禁止、警告の義務化などの制限命令を出すケースも見られます。
ゴム弾は「非致死性」とされながらも、実際には硬質素材を多く含み、野球のボール並みの衝撃エネルギーを持つため、失明、骨折、脳損傷、内臓損傷など重大な傷害を生じさせます。国際的にも、アムネスティ・インターナショナルなどが深刻な人権問題として警告を発しています。
2020年以降、各地で訴訟が相次ぎ、ロサンゼルスやポートランドなどで高額の賠償が命じられています。
イスラエルにおける使用
イスラエルのゴム弾は主に2つのタイプで生産されています。旧型の標準ゴム弾は、薄いゴム層でコーティングされた重量14グラムの鋼球です。1989年に導入された改良型は、直径1.7cm、重量15.4グラムのゴムコーティング金属円筒です。この弾薬による致命傷の大部分は頭部に集中しています。
イスラエル治安部隊は、2011年2月28日にヨルダン川西岸地区のハヴァット・ギラド入植地における違法建造物の取り壊し作戦で、ゴム弾を含む低致死性兵器を使用しました。
暴動鎮圧用ショットガン弾の多様化
より小型のゴム弾は暴動鎮圧用ショットガンで使用され、様々なタイプが利用可能です。例えば、ある企業は1カートリッジあたり直径8.3mmのゴム球15個を含むゴムバックショット弾と、重量4.75グラムの単一弾体を含むゴムバトンラウンドの両方を製造しています。
民間人による自衛用途を認める国々
一部の国では、ゴム弾を発射する低致死性銃器を民間人が自衛目的で使用することが許可されています。
- カザフスタンでは、民間警備員が自衛目的でゴム弾を発射できるガスピストルの携帯が許可されています。
- ルーマニアでは、民間人が自衛目的でゴム弾銃を所有できます。
- ロシアでは1999年以降、一般市民、民間警備員、法執行機関が低致死性兵器の使用を許可されています。様々なハンドガン(Osa、Makarych、Horheなど)が使用され、これらは構造と銃身が特別に弱められており、内部ラグによってフルパワーの装薬や硬質弾の使用が不可能になっています。ゴム弾はラグを通過する際に圧縮されるため発射可能です。最も一般的な口径は9mmと10mmで、銃口初速は通常のハンドガンとほぼ同等、弾丸重量は0.7gと軽量なものもあります。
- ウクライナでは、警備員がゴム弾を発射できるガスピストルの使用が許可されています。
主要な用途と対応口径
暴徒鎮圧:最も一般的な用途

ゴム弾の主要用途は暴徒鎮圧です。プラスチック、ワックス、木材などで作られた類似の弾薬とともに、暴動管理や抗議活動の鎮圧に最も一般的に使用されています。法執行機関による採用は1990年代から2000年代にかけて大幅に加速し、特に脱施設化の取り組みや平和維持活動のための軍事開発の増加に伴って進展しました。
ゴム弾は、7.62mm、9mm、.38スペシャル、.45ACP、12ゲージなど、各種口径に対応する製品が用意されています。警察などの法執行機関では、12ゲージ以上のショットガンで使用されるゴム弾が暴徒鎮圧用のスタン弾として実際に配備されています。
レクリエーション・訓練用途

プライマーのみで発射されるゴム弾は、通常、短距離屋内標的射撃や訓練用、一般的にはハンドガンで使用されます。これらは標的射撃のみを目的としており、適切に保護された対人用を意図したペイントボールやエアソフト用ペレットとは異なります。適切なバックストップを使用すれば、ゴム弾は発射後も損傷を受けずに回収でき、何度も再使用できます。
ピストルやリボルバーで使用されるゴム弾は、主に屋内での射撃訓練やプリンキング(娯楽目的の射撃)に使用されることが多く、人体に対する威力が限定的です。そのため、暴徒鎮圧用としてはほとんど効果が期待できません。ただし、目などの脆弱な部位に命中した場合には失明の危険性があります。
アメリカではホームディフェンス用としてピストル用ゴム弾も流通していますが、一般的な選択肢とはなっていません。
害獣駆除
ゴム弾は鉛製弾丸の代わりにゴムを使用し、害獣(クマや鹿など)の駆除(追っ払い)にも利用されています。
現代の低致死性弾薬の多様化
ビーンバッグ弾

現代の法執行機関では、ビーンバッグ弾も広く使用されています。ビーンバッグ弾は、ゴム弾と同様に弾体の運動エネルギーによって対象者に打撃を与える弾薬です。布製の袋に散弾が充填されており、袋ごとターゲットに命中する構造となっています。
散弾は袋に入った状態では貫通力を持ちませんが、ゴム弾と同様に命中部位によっては致命傷を与える可能性があります。最大有効射程距離は、ピストル用ゴム弾が10~15メートル以内であるのに対し、ビーンバッグ弾は20メートル以内とされています。
スポンジ弾

近年、法執行機関では暴徒鎮圧用として40mmグレネードランチャーも使用されています。これらから発射される暴徒鎮圧用弾薬には、ゴムの代わりにスポンジを使用したものがあり、ゴム弾よりも高い安全性を持つとされています。
現代の低致死性弾薬には、異なる戦術的用途向けに設計された複数の形態が存在します。一部はゴムで覆われた金属球のクラスターを使用してより広い範囲をカバーするもの、他には単一の円筒形または球形の弾体を使用するものがあります。
医療的および安全性に関する重大な懸念
「低致死性」という分類の実態
金属弾薬に対する低致死性の代替手段と考えられていますが、ゴム弾は致命傷や失明などの深刻な負傷、その他の障害を与える可能性があります。
2002年に医学雑誌『The Lancet』に掲載された研究では、2000年10月の暴動時にイスラエル警察が使用したゴムコーティング弾が、失明や永久的な障害を含むあまりにも多くの負傷者を出したため、安全な群衆管理手段とは見なせないと結論づけています。
強力な運動エネルギーを持つため、近距離での使用や命中部位(特に頭部)によっては死亡事故につながる可能性があります。実際、北アイルランドでは35年間にゴムおよびプラスチック弾による17名の死者が発生しており、完全な非致死性弾薬とは言えません。
精度と誤射のリスク
ゴム弾は制御不能に跳ね返る傾向があり、命中精度が低く、流れ弾が第三者に当たりやすいという特性があります。このため、群衆に対して使用することは不適切であるとの指摘があります。この問題は、抑止効果を達成するために必要な速度と運動エネルギーで発射される弾薬が、その構造にかかわらず深刻な危害を引き起こし得るという現実を示しています。
価格と入手可能性
ゴム弾の価格は、通常弾薬と比較して2~3割程度安価な製品も存在しますが、口径やメーカーによって価格帯が大きく異なるため、一概には言えません。
例えば、X-Ring Rubber Bulletの.38スペシャルや.44マグナム口径では50発あたり約10ドルですが、1発あたり2~3ドルの高価な製品も存在します。参考までに、通常弾薬の9mmは、安価なもので50発入り1箱が約10~15ドル程度となっています(価格は販売業者によっても差があります)。
まとめ
ゴム弾は、暴徒鎮圧や群衆管理のために使われる低致死性弾薬として広く知られています。初めて使われたのは1970年の北アイルランド紛争で、その後は世界各地で抗議活動や暴動への対応手段として採用されてきました。 「非致死性」とされてはいるものの、実際には失明や骨折、場合によっては死亡につながることもあるため、完全に安全というわけではありません。ゴム弾は運動エネルギーが高く、精度もあまり良くないため、当たった場所によっては想定以上の大きなダメージを与えてしまうことがあります。
また、ゴム弾は構造上どうしても精度が低く、誤射や跳弾による思わぬ事故が起きる可能性もあります。このため、群衆管理の手段として本当に適切なのかどうかについては、今も議論が続いています。民間でも自衛用や訓練用として使われることがありますが、安全性に対する懸念は残ったままです。
今後は、より安全で効果的な群衆制御手段の開発が求められています。ゴム弾に代わる新しい技術や素材を使った低致死性弾薬が普及すれば、負傷のリスクを減らし、より人道的な方法で暴動や混乱に対処できるようになることが期待されています。
参考文献
- Wikipedia – “Rubber Bullet”
- National Institutes of Health – “Rubber-coated bullets: Medical and Safety Concerns”
- Journal of Military and Veterans’ Health – “Less-lethal Projectiles: An Investigation”
- Development Education – “Rubber Bullets and Crowd Control”
- Time Magazine – “Riot Control and the Use of Rubber Bullets”
- CBS News – “Rubber Bullets Don’t Get Rubber Stamp”
- Longlead – “Timeline of Rubber Bullets in Crowd Control”
- OPB – “A History of Rubber Bullets and Crowd Control”
- Cumberland Rubber – “Ballistic Rubber: The Roots”
- Finance Brokerage – “Rubber Balls as Bullets: Science and History”
- その他、多数の資料
