
1911ピストルは、誕生から100年以上経った今でも多くのユーザーに支持されています。
本記事では、1911ピストルの歴史と構造、.45ACPの性能、そして現代のハンドガンと比較した際のメリット・デメリットについて詳しく解説します。
この記事を読むと、以下のことを学べます。
1911ピストルとは?

コルトM1911(別名:1911、コルト1911、コルト.45、コルト・ガバメント)は、シングルアクションの反動利用式セミオートピストルで、.45ACP弾を使用します。
「シングルアクションの反動利用式」とは、引き金(トリガー)を引くと撃鉄(ハンマー)が落ちて発射される仕組み(シングルアクション)と、発射時の反動エネルギーを利用して次弾を自動装填する機構(反動利用式)が備わっているという意味です。
M1911の場合、発射にはトリガーを引く前にハンマーが起こされている必要があり、発射後はスライドの後退によって次弾装填される仕組みです。
M1911は1911年3月に正式採用され、1940年のアメリカ軍での正式名称は「Automatic Pistol, Caliber .45, M1911」で、改良型のM1911A1は1926年に採用されました。ベトナム戦争時には「Pistol, Caliber .45, Automatic, M1911A1」と改称されています。
設計者はジョン・ブローニングで、作動機構にショートリコイル方式を採用。M1911はこの機構を用いた最も有名な銃であり、多くのピストルに影響を与えました。1911ピストルは現在でも射撃競技(IDPA、IPSCなど)で高い人気を誇ります。
ショートリコイル方式とは、発射時に銃身(バレル)とスライドが短い距離を一緒に後退し、その後バレルがロックを解除して停止し、スライドだけが慣性で後退して次弾を装填する方式です。これにより、強力な弾薬に対応し、スムーズな排莢を行います。
アメリカ軍はM1911およびM1911A1を約270万丁調達し、1911年から1985年まで採用。第一次世界大戦、第二次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争で広く使われました。1985年には9mm口径のベレッタM9に交代しましたが、一部の部隊では2022年まで使用されました。
M1911はアメリカ軍の主力ピストルとして長年使用され、多くの派生モデルが作られました。
西暦 | アメリカ軍での出来事 |
---|---|
1911年 | アメリカ陸軍がオリジナルのM1911を採用 |
1926年 | M1911A1が採用され、改良が加えられる |
1985年 | ベレッタM9がアメリカ軍全体の標準サイドアームとして採用される |
1986年 | 海兵隊がM1911A1ピストルを改良し、MEU(SOC)ピストルとして配備を開始 |
2002年 | アメリカン・ハンドガナー誌が海兵隊のM1911アップグレード部品の購入についての記事を発表 |
2002~2003年頃 | 海兵隊がKimber社製のICBQピストルを購入 |
2012年 | コルト社製の新しいM1911がM45A1として選定される |
2016年 | MARSOCがM45A1をグロックに置き換え始める |
2017年 | アメリカ陸軍がSIG SauerのMHS(Modular Handgun System)を採用 |
2019年 | 海兵隊が標準サイドアームをM18(9mm)に置き換える計画を発表 |
2019年 | 海兵隊がグロック19Mピストル(M007)を一部の部隊に支給 |
2019年 | スコット・ミラー将軍がカスタムM1911を携行している姿が確認される |
2022年10月 | M45A1(.45ACP)からM18(9mm)への置き換えが完了 |
現代でも人気の理由
M1911は100年以上の歴史を持ちながら、現在でも多くの人に支持されています。
その理由は、「デザイン」「歴史的な価値」「実用性の高さ」にあります。
歴史的な背景

M1911は1911年にアメリカ軍が採用し、第一次・第二次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争などで使用されました。
戦場での実績と、その信頼性から「アメリカの象徴」として広く認識されています。
優れた設計

マニュアルセイフティの必要性

1911ピストルに限定する話題ではありませんが、マニュアルセイフティの必要性について議論されることがあります。
かつて法執行機関においてSIGやグロックを好んで採用した理由のひとつが、マニュアルセイフティを持たない点でした。リボルバーを使用していた警官にとって、外部セイフティの扱い方を新たに覚えるより、スムーズに馴染めるという理由があったようです。
しかし、法執行機関によってはトレーニングが不十分な状況もあり、誰もがピストルの扱い方に長けているわけではありません。
「射撃時以外ではトリガーガード内に指を入れない」と教育しても、実際にそれを実践していないことも多く、その結果、誤射事故が多数発生しています。
こういった事故を防ぐ目的もあり、多くの法執行機関でマニュアルセイフティが備わっているピストルを採用しています。
誤射事故が起こりやすい状況の例としては、以下があります。
射撃時以外の状況での誤射が多くあり、マニュアルセイフティはそういった事故をある程度予防する効果があります。
しかし、当然ながらマニュアルセイフティですべて解決することはなく、最終的には使用者の意識や教育が重要になります。
高い性能

携帯性の高さ
M1911は全体的に大きく重量もありますが、スリムなデザインのためコンパクトモデルでは携帯しやすい利点があります。(それでも、最新のポリマーフレーム・ピストルと比較すると重い)
また、カスタムパーツや改良された派生モデルが豊富に存在し、時代の変化に適応しながら進化を続けています。

私はアメリカでキンバー社の1911ピストルを愛用していました。トリガープルのキレが良く、.45ACPの大きな反動でも高い命中精度を持ちます。現代の水準では、実用面において最新の9mm口径ピストルに軍配が上がりますが、やはり「撃って楽しい」のは、1911ピストルです。
「1911ピストルをホルスターから抜いて射撃する際、セイフティを解除する時間的余裕はあるのか?」と質問を受けることがあります。
セイフティ解除はホルスターから銃が抜かれて銃口がターゲットに向く流れの中で行われるため、セイフティ解除に追加の時間は必要ありません。
もし追加の時間が必要なのであれば、それはトレーニング不足か、セイフティのデザイン上の問題なのか、別の不具合が問題なのか、問題点を把握して改善が必要です。
1911の場合、ホルスターの銃に手を掛けグリップした時点で親指がサムセイフティに掛かり、マズルがホルスターから抜けて前方方向へ角度が付いた時点でセイフティ解除されるのが理想です。その理由は、射線上に自分の身体がないことと、ターゲットの距離が近い場合は腰の位置で撃つ必要があるためです。(射撃競技では、シューターによっては銃を前へ突き出す寸前に解除することもあります)
その後、セイフティに掛けた親指はそのままセイフティの上に掛けたまま撃つか、または滑らせてセイフティの下に置くかは個人の好みによります。アメリカの法執行機関が発行するトレーニングマニュアルの多くには、サムセイフティに親指を掛ける撃ち方を推奨していることが多いのですが、これはジェフ・クーパーの影響かもしれません。
.45口径神話の背景
アメリカでの.45口径の歴史

.45口径はアメリカの歴史において「親しみ」があります。
西部開拓時代には、.45コルト弾(別名.45ロングコルト)が1872年にコルトシングルアクションアーミーリボルバーのために開発されました。
アメリカ陸軍は1873~1892年に.45コルトを採用し、19年間制式な軍用ハンドガンカートリッジとして使用された歴史があります。
1892年に.38ロングコルトに置き換えられましたが、.45コルトは、インディアン戦争、米西戦争、米比戦争などの様々な紛争で使用されました。
そして、20世紀初頭からは.45口径の.45ACP弾がアメリカ軍や法執行機関で広く使用されてきました。
.45ACP弾を使用する1911ピストルは1911年から1985年まで、アメリカ軍のサイドアームとして採用され、アメリカの歴史に深く関わってきました。
.45ACPの性能と実際

.45ACP弾の標準的な弾頭重量は230グレインで、銃口初速はM1911A1で約830fps(253m/s)です。
マズルフラッシュや銃声は比較的小さく、リコイルはやや大きい程度ですが、高いストッピングパワー(対象を無力化する能力)があります。
主な弾薬はFMJ弾、HP弾、+P弾などがあり、現在はアメリカのスポーツシューティングや法執行機関などで使用されています。
アメリカ軍ではM1911A1が1985年にベレッタM9に置き換えられたものの、2022年までは一部の部隊(MARSOC/USMC)で.45ACP弾を使用する1911ピストルが採用されていました。
.45ACP弾の特性と実用性
歴史的背景
.45ACPは1904年にジョン・ブローニングによって開発され、M1911ピストルの採用とともにアメリカ軍の制式採用弾となりました。
モロ紛争※において.38ロングコルト弾のストッピングパワー不足が問題視されたことから、より強力な弾薬として誕生した背景があります。
モロ紛争は、スペインとアメリカによるモロ族との戦争に起源があります。1898年の米西戦争後、アメリカはフィリピンを領有し、アメリカ軍はモロ族と戦いました。アメリカはスルー王国と条約を結び、モロ族の中立を確保しましたが、これは実際にはアメリカ軍の戦争が終わるまでの時間稼ぎでした。
アメリカの侵攻は1904年に始まり、ジョロのバグサック山やブッダジョの戦いなどで激しい抵抗が続きました。最終的には、アメリカ軍はモロ人に対する大規模な虐殺を行い、1915年にアメリカはスルー王国にカーペンター条約を強制しました。その後もモロ族による反乱は続き、第二次世界大戦中の日本占領下でも、モロ人は日本軍に対する反乱を行いました。
性能
.45ACPは、強力なストッピングパワーがあると信じられてきた背景があります。
ストッピングパワーとは、対象を無力化する力です。
一般的に185~230グレインの重い弾頭が使用され、着弾時に大きなエネルギーを伝達するため、護身用としてや、法執行機関で信頼されました。
また、口径が大きいため、「穴が大きい=出血が多い=ストッピングパワーがある」という考えをもつユーザーが多いのも事実です。
.45ACPが他の拳銃弾と比較してストッピングパワーに優れるという点については議論がありますが、信頼を持つ人が多いのは間違いないでしょう。
ストッピングパワーの議論については、以下の記事で詳しく解説しています。
信頼性が高い

1911ピストルは、信頼性と耐久性で定評があり、これは.45ACP人気に影響しています。
私自身もアメリカで.45口径の1911ピストルを所持していたため、その信頼性の高さは身をもって感じています。
もちろん、大量生産品であるため一部不良品も存在しますが、元となる設計は優秀です。
正しく管理していればジャム(装填不良・排莢不良)は無く、多少グリップが甘くても確実に作動します。
.45ACPは反動が大きいため、反動を利用して作動するセミオートピストルとの相性が良いといえるでしょう。
精度とコントロール
大きなサイズにもかかわらず、.45 ACP弾は精度とコントロール性で知られています。
1911ピストルの場合、スライド式のシングルアクショントリガーを利用していることもあり、一貫して短いトリガープルとシャープな切れ味が高い命中率に貢献しています。
9mmピストルなどと比較すると反動が大きいのがデメリットですが、反動に慣れた経験豊富な射手は問題なくコントロール可能です。
射撃競技におけるメリット

.45ACPは、USPSA(United States Practical Shooting Association)やIDPA(International Defensive Pistol Association)などの射撃競技でも人気があります。
USPSAのシングルスタック部門では、「メジャー」スコアリングシステムを適用するために、パワーファクター165以上を必要とします。
射撃競技における「パワーファクター (PF)」 とは、反動が大きい弾薬を優遇するために使用されるランキングシステムで、反動が大きく弾頭重量が重い.45ACPは「メジャーパワーファクター」の追加ポイントを得られます。
このシステムでは、「Aゾーン」外に命中した場合に追加ポイントが与えられます。
例えば、「B」や「C」のゾーンに命中した場合、メジャーパワーファクターでは4ポイント、マイナーパワーファクターでは3ポイントが与えられます。
また、「Dゾーン」に命中した場合、メジャーパワーファクターでは2ポイント、マイナーパワーファクターでは1ポイントが与えられます。
ただし、「メジャー」を使用する場合、標準の8連マガジンのみが許可されており、「マイナー」は最大10連マガジンを使用することができます。
.45ACPを使用することに「装弾数が少ない」「反動が大きいため次弾発射までに時間を要する」などのデメリットもありますが、上手く利用すれば高得点を得られます。
一方、IDPAにおいては、カスタム防衛ピストル部門があり、こちらは45ACP口径の銃にメジャーパワーファクターを必要としており、この部門では1911ピストルのカスタムが認められ、最大8連マガジンが使用可能です。
サプレッサー使用時の減音効果が高い

サプレッサーを使用しても、超音速の弾薬を使用するとソニックブームの大音響により減音効果が十分に得られません。
しかし、.45ACPのほとんどは亜音速であるため、サプレッサー(消音器)に最適です。
.45ACPは低速でありながらマズルエナジーが大きいため、これが最近の人気の高まりにつながっています。
メリットとデメリット

.45ACPのメリット・デメリット
.45ACPのメリット・デメリットは以下の通りです。
メリット
デメリット
最新のピストルと1911ピストルの比較

現代のピストルと1911ピストルは、設計、機能性、用途において大きく異なります。
現代の代表的なピストルとして「SIG P320」を例に、1911ピストルと比較してみます。
項目 | SIG P320 | 1911 |
---|---|---|
タイプ | セミオートマチックピストル | セミオートマチックピストル |
国 | アメリカ合衆国 ドイツ スイス | アメリカ合衆国 |
設計者 | ショーン・トナー マイケル・W・メイヤー | ジョン・ブローニング |
設計年 | 2014年 | 1911年(モデル1911) 1924年(モデル1911A1) |
製造元 | SIG Sauer Inc. | コルト S&W キンバー スプリングフィールドアーモリー ノリンコなど多数 |
製造年 | 2014年~現在 | 1911年~現在 |
重量 | 833g(29.4 oz) | 1,100g(39 oz) |
全長 | 203mm(8.0インチ) | 216mm(8.5インチ) |
銃身長 | 120mm(4.7インチ) | 127mm(5.03インチ) (ガバメントモデル) |
口径 | 9×19mmパラベラム .357 SIG .40 S&W 10mmオート .45 ACP | .45 ACP |
アクション | ショートリコイル SIG Sauerシステム | ショートリコイル |
銃口初速 | 1,200 ft/s(365 m/s) | 830 ft/s(253 m/s) |
有効射程 | 25m | 50m |
装弾数 | 10発マガジン(.45 ACP) 14発マガジン(.357 SIG、.40 S&W) 17発、21発または32発マガジン (9×19mmパラベラム) | 7発、8発、9発、10発 または12発 |
サイト | 固定式アイアンサイト (フロント:ブレード、リア:ノッチ) オプションのトリチウムナイトインサート RXモデルのリフレックスサイト RXおよびTacopsモデルのハイサイト | 固定式アイアンサイト (フロント:ブレード、リア:ノッチ) |
SIG P320は現代的なモジュラーデザインを採用しており、ポリマーフレームと取り外し可能なファイアコントロール・ユニット(FCU)が特徴です。軽量で、トリガーの引きやすさが一貫しており、9mm弾で15〜17発の装弾数があります。
一方、1911はクラシックなスチールフレーム構造で、シングルアクション、回転式ハンマーを利用した設計です。精度が高く、軽いトリガープルが特徴で、.45ACP弾を7〜8発装填可能な装弾数となっています。
安全機能において、SIG P320はインターナルセイフティを備え、ドロップセイフティ機能もありますが、外部のマニュアルセイフティは多くの市販モデルにはありません。(マニュアルセイフティの有無はモデルによって選択可能)
1911はグリップセイフティやマニュアル・サムセイフティを備え、より多くの外部安全装置があります。
SIG P320は多様なカスタマイズが可能で、近代的なアクセサリにも対応していますが、1911は広範なアフターマーケットのカスタマイズオプションがあるものの、現代的なアクセサリには制限があります。
総合的に見ると、両者の選択は、使用目的や個人の好みによります。
SIG P320は現代的でハイキャパシティーの装弾数を持ち、メンテナンスが簡単でユーザーフレンドリーな設計です。
一方、1911は優れたトリガーと精度、クラシックな魅力で高い人気を誇ります。
比較項目 | SIG P320 | 1911 |
---|---|---|
設計と構造 | モジュール設計 ポリマーフレーム 独立ファイアコントロールユニット ストライカー式作動方式 一貫したトリガープル 軽量 | オールメタル構造 スチールフレームとスライド シングルアクションハンマー式 比較的重い |
トリガー | ストライカー式 軽く短いトリガープル 一貫したトリガープル | シングルアクショントリガー シャープで軽いトリガープル |
安全機能 | ストライカーセイフティロックレバー ディスコネクター ドロップセイフティ セカンダリーシアノッチ | グリップセイフティ マニュアルサムセイフティ ハーフコックノッチ |
装弾数と口径 | 15~17発(9mm) 他の口径にも対応 | 7~8発(.45ACP) 他の口径にも対応 |
カスタマイズ性 | モジュール設計 グリップや口径の変更が容易 | アフターマーケットパーツが豊富 最新アクセサリーに制限あり |
エルゴノミクス | モダンデザイン 軽量 携帯性に優れる 自然な照準が可能 | クラシックなグリップ角度 スリムなプロファイル |
総合的には、以下のメリットとデメリットがあります。
1911ピストルのメリット・デメリット

1911ピストルのメリット
1911ピストルのデメリット
SIG P320のメリット・デメリット

SIG P320のメリット
SIG P320のデメリット
まとめ

1911ピストルとは?
1911ピストルの人気が続く理由
.45ACPの特性と「.45口径神話」
1911ピストルのメリット・デメリット
近代ピストルとの比較
1911ピストルと現代のピストルのどちらを選ぶかは、使用目的や個人の好みによります。
1911は歴史的価値、精密射撃の精度、美しいデザインを求めるユーザーに適しています。
一方で、最新のピストルは実用性、装弾数、メンテナンス性を重視する人に最適です。
以下の記事では.45ACP弾について詳しく解説しています。