PR

無重力環境で銃を使用するには?

宇宙の画像

皆さんからいただいた、「銃の疑問」に回答します。

宇宙船内やコロニーといった低重力環境や無大気天体での小火器運用について。
従来の小火器では反動により軌道が変化したり初弾以降の命中精度が低下してしまう事から自動火器は無反動化するのが好ましい、という論説を見たのですが、無反動化する為には装薬量を減らして標的への破壊力・貫徹能力を犠牲にする位しか思い付かず戦闘用に適さなくなるのでは、と心配になります。
低・無重力環境で運用可能な小火器や戦闘用宇宙服にどの様なものが有効になるのでしょうか?

無重力環境で銃を使用するには?

装薬量を減らしても、質量のある物体を射出すれば「作用反作用の法則」によって反動が生じます。

銃の反動を説明する画像

銃を無反動化するには、射出方向に加わる力と同じ力を反対方向に加える必要があります。

例えば、無反動砲は弾頭を射出する一方で後方に向かってガスを噴出することで反動を相殺する構造になっています。

しかし、射手が手にする銃から後方に向かって高圧ガスが噴出すれば、射手が危険なため、無反動砲とは異なる方法で解決する必用があるでしょう。

宇宙空間のような無重力環境で銃を発射する方法としては、質量の大きなものに射手や銃を固定して発射する方法が考えられます。

例えば、宇宙船と射手をロープで固定したり、宇宙船と銃を何らかの方法で繋げてしまえば、反動で射手が飛ばされることなく発射可能です。

または、反動のない銃として、レーザーガンを使用するのも良いでしょう。

厳密にはレーザーも反動が生じますが、無視できるほど小さな反動のため、宇宙空間でも射手が飛ばされることなく発射可能です。

ジャイロジェットの画像
ジャイロジェット 画像出典:Wikipedia

また、1960年代に開発された「ジャイロジェット」も無反動の銃のため、無重力空間で使用可能です。

火薬によるガス圧で弾を射出する銃とは異なり、ジャイロジェットはロケット弾を発射する構造の銃のため、弾薬自体が推進力を持ち、無反動で発射されます。

ただし、これら推進力を持つ弾薬は飛翔中に加速するため至近距離では弾速が遅く、高い威力を得るには十分に加速するだけの距離が必要となり、少なくともターゲットまで60フィート(約18メートル)の距離が必要と言われています。

ロケットやレーザーは有効?

宇宙船内や無重力空間で小火器を無反動化して運用する方法にロケット/ミサイル弾やAEK971のBARSといったものが有効である、と聞きますがいかがでしょうか?
また、無反動に近いレーザーは室内を熱し宇宙船内といった室内戦に適さない、とも聞きますが本当なのでしょうか?

推進力を持つロケットは無反動として有効です。

AEK971ライフル画像
AEK971 画像出典:Wikipedia

AEK971のBARS(バランスド・オートマティクス・リコイル・システム)はボルトやボルトキャリアなどの可動部の移動による反動を軽減しますが、弾頭の移動や発射ガスによる反動は軽減しません。

AEK971を無重力空間で発射すれば、通常の銃と同様に反動が生じ、射手は後ろへ飛ばされます。

レーザーによる熱については、どのような構造でエネルギーを生み出し、それを放出するかによります。

数ミリ秒の時間だけ照射するのか、それとも長時間照射し続けるのかなど、条件によっても異なると考えられますが、現存する銃のように殺傷力のあるレーザーを一瞬だけ照射する技術があれば、室内であっても熱による問題は無視できると考えられます。

しかし、SFに登場するコンパクトな対人用レーザーガンは現存しないため、理論上の推測の域を出ません。

無反動砲は無重力空間で撃てる?

過去に質問した無反動小火器についての続きで申し訳ないですが、仮に無反動リボルバーカノンことラインメタルRMK30をパワードスーツも併用して腰だめ撃ちする前提だったとしても、パワードスーツに特段反動を相殺する能力が無ければ無重力環境で反動を無くす事は出来ないのでしょうか?

RMK30は無反動砲なので、反動を生じさせることなく無重力空間でも発射可能です。

燃焼に必要な酸素は装薬が発生させるため、発射に外部からの酸素も必要ありません。

ですが、空気のない空間では空冷できないため、連続発射には何らかの冷却機能が必要になります。

また、真空環境ではガンオイルが蒸発するため、パーツをスムーズに可動させることが困難になり、作動不良が起きやすくなることが考えられます。

月で銃を撃つのは可能?

無重力環境では無反動砲や反動を発生させないロケット弾、指向性エネルギーを用いる反動を発生させる小火器が好ましい、という話についてですが、逆に月面みたいに僅かに重力が存在する環境では従来の火器でもギリギリ扱えるのでしょうか??

月の重力は地球の6分の1であるため、地球で体重60kgの人は月で10kgになります。

月で銃を撃つのは、地球上で2~3歳の子供が銃を撃つような状態です。

地球上でも体重(銃を含む射手の総重量)が重い方が射撃が安定するように、月面においても安定した射撃に重力は必要な要素です。

しかし、宇宙服などの装備品の重量が重ければ、地球と同等の重力を得て射撃が容易になると考えられます。

反論(?)

月面での小火器運用に関する質問の続きで申し訳ないですが、元々こちらの記事ttps://dic.nicovideo.jp/t/b/a//2791-?from=a_bbslook_4136845にて議論されていた事で、
「当たり前の話だけど低重力環境でも筋力や身体の頑丈さ、スケール(腕や指などの長さ)、知能、慣性質量などが幼児相当になるわけではない。
それに銃の反動で問題になるのは基本的に反動によって銃自体が動くことおよびそれを押さえつけようとするときに手首などにかかる負荷で、これについてはあまり重力は関係しない。
反動で生じる身体全体の回転を押さえつけることについては重力の強さが関係するんだけど、
例えば現代の小銃の反動は数N・s (=コンマ数kgf・s)程度なので身体全体の回転が問題になることはあまりない。
無重力やそれに近い環境で身体が浮いちゃうなら小さい回転でもなかなか止められないこともあるんだろうけど、月面程度の低重力ではそこまで大きな問題にならないんじゃないだろうか
さらに言えば月面のように大気がなかったり、あるいは大気があっても交戦距離が短い環境なら空気抵抗をあまり気にしなくていいから、軽量高速化して威力(運動エネルギー)を保ったまま低反動にすることもたぶんできるはず」、
「低重力では物体の重量は減るけど質量は不変でしょうに。重力の増減で質量が変わる(あるいは作用反作用が質量じゃなくて重量に依存する)なら、無重力空間で宇宙船を飛ばすスラスターはどれだけ低い推力でもいいことになってしまう
だから、月面で大人が銃を撃ったら、重力以外の諸条件が同じなら感じる反動は地球と全く同じになると思うよ
(体重は6分の1だから地面との摩擦はその分減って水平に撃ったら足が滑るし、下向けて撃ったら空を飛べるかもしれないけど)」、
「基本的に反動の大きさで問題になるのは反動によって銃自体が動くことで、それには重力の大きさはあまり関係ないんじゃないのか」
…といった反論を受けましたが、いかが致しましょうか?

私は「月面においても安定した射撃に重力は必要な要素」と回答しました。

そして、この方は「反動で生じる身体全体の回転を押さえつけることについては重力の強さが関係する」や、「体重は6分の1だから地面との摩擦はその分減って水平に撃ったら足が滑るし、下向けて撃ったら空を飛べるかもしれないけど」と述べており、これは「安定した射撃」に影響すると考えられます。

また、「当たり前の話だけど低重力環境でも筋力や身体の頑丈さ、スケール(腕や指などの長さ)、知能、慣性質量などが幼児相当になるわけではない」の部分は、当たり前すぎて「行間を読んでください」としか言いようがありません。

最後までお読みいただきありがとうございます。

もしご質問やご意見がありましたら、お気軽にX(旧ツイッター)Youtubeチャンネルでお知らせください。