ご質問を頂きました。
現在の主流になったグロックタイプのストライカー撃発のピストルについてなのですが、基本的にはどれもグロック同様の変則DAOだと思っていました。
しかし、M&PやXDは内部メカ的にSAと聞いたのですが、本当でしょうか?
AFPB付きのSAオートということならば、M&P等はある意味コルト1911に似たようなものという事なのでしょうか?
トリガーフィンガーのコントロールをしっかりすれば暴発はないはずと分かってはいても、マニュアルのサムセイフティ無しのモデルもあるM&PやXDが、実はSAオンリーのオートだというのはなんだか怖い気もするのですが…
M&PやXDはシングルアクション(SA)に分類されます。
しかし、コルト1911ピストルのようなSAとは少し異なります。
この記事では、「ストライカー方式とは何か?」「シングルアクションとダブルアクションの違い」「ストライカー方式のピストルがそのどちらに属しているのか」を解説します。
ストライカー方式とは?
上の図はベレッタ92FSピストルの内部を表しています。
92FSはハンマー方式を採用するピストルで、トリガーを引いてハンマーが落ちるとファイアリングピン(撃針)を打撃し、この打撃力はファイアリングピンを介して弾薬の底に配置されたプライマー(雷管)を打撃することで発射されます。
一方、ストライカー方式の銃にハンマーはありません。
バネの反発力によってストライカー(撃針)を前進させ、直接プライマーを打撃して発射する構造です。
シングルアクションとダブルアクションとは?
そもそも「シングルアクションとダブルアクションの違いは何か?」・・・という問題について確認したいと思います。
シングルアクション(SA)とは、トリガーを1回引くと1つの動作(アクション)が可能なものを指します。
そしてダブルアクション(DA)とは、トリガーを1回引くと2つの動作が可能なものを指します。
つまり、ハンマーがコックされているとき(起きているとき)、トリガーを引くとハンマーが落ちて撃発するのがシングルアクションです。
一方、トリガーを引くとハンマーが連動して起き上がり、そのままトリガーを引き続けるとハンマーが落ちて撃発するのがダブルアクションです。
ダブルアクションはトリガーを引く動作でハンマーをコックしつつ、ハンマーを解放するという2つの動作が可能です。
従来のシングルアクショントリガーの構造
図はコルト1911ピストルのシアーとハンマーを表しています。
ハンマースプリングの力によって回転しようとするハンマーを、シアーがストッパーとなって阻止しています。
トリガーを引き、シアー下部が押されるとハンマーを解放し、撃発に至ります。
このとき、シアーはハンマーの回転を少しだけ押し返しながら解放しています。
もし、この「押し返し」が大きく、レスト状態にあるハンマーをコックし解放するだけの移動量があれば「ダブルアクション」と言えますが、ここではコックされたハンマーが解放されるだけなので「シングルアクション」に分類されます。
シングルアクションはトリガー操作でハンマーをフルコックすることができません。
次に、これを踏まえて「S&W M&P」や「XD」を比較してみたいと思います。
S&W M&Pの仕組み
S&W M&Pはシングルアクションのストライカー方式ピストルです。
トリガーにはトリガーバー(図緑)が繋がっており、トリガーを引くとトリガーバーも同時に後退します。
そしてトリガーバーがシーソーの様な動きをするシアー(図オレンジ)の先を持ち上げると、シアーの後部が落ちてストライカー(図ピンク)を解放し撃発に至ります。
トリガーを引いた状態。
シアーの回転によりストライカーが前進しています。
先ほど「コルト1911ではハンマーを少し押し返す」と説明しましたが、M&Pはさらに長い距離を押し返しながらストライカーを解放します。
この「長い押し返し距離」がM&P特有の「粘りのあるトリガープル」を生んでいるといえます。
1911ピストルのように一瞬でハンマーを解放しないため、従来の回転式ハンマーを持つシングルアクショントリガーとは異なる、「シングルアクションとダブルアクションの中間的なトリガープル」の感覚を感じられます。(悪く言えば従来のシングルアクションより切れ味が悪い)
しかし一方で、「解放に至るまでの距離が長い」ということで、落下など外部の衝撃により解放してしまう暴発事故のリスクが低減されるという利点があります。
スプリングフィールドアーモリーXDの仕組み
続いてスプリングフィールドアーモリー社のXDピストルの構造です。
XDピストルは、シングルアクションのストライカー方式ピストルです。
S&W M&Pとよく似ているストライカー方式ピストルですが、XDではトリガーを引くとトリガーバーが前進します。
トリガーバーの前進によりシアーを引っ張るとストライカーが解放される構造です。
トリガーを引いてストライカーが解放された時の様子。
シアーが回転しているのが確認できます。
シアーの回転軸の位置とシアー形状に注目すると、S&W M&Pと同様に、XDも従来のシングルアクションよりも長い距離でストライカーを押し下げている構造なのが分かります。
グロックの仕組み
続いてグロックの構造です。
グロックはS&W M&PやXDピストルとは異なり、非常に長い「押し返し」の距離があります。
グロックはシングルアクション(SA)でもダブルアクション(DA)でもない、「セイフアクション」と呼ばれるトリガーシステムを採用しています。
スライドを引くとストライカーが後退し、「コックされた状態」となりますが、これは「フルコック」ではなく「ハーフコック」といえる状態で、ストライカーが解放に至るには後退量が足りていません。
この状態からトリガーを引くと、トリガーバーが後退し、トリガーバーの後端に繋がるシアーが直接ストライカーを後退させます。
トリガーバーがストライカーを押しながら後退すると、やがてコネクターと呼ばれるパーツの傾斜に衝突し、トリガーバーが下降します。
そしてトリガーバーが下降するとストライカーが解放されるという構造です。
グロックはシングルアクション(SA)ではない
シングルアクションは、トリガー操作によってストライカーやハンマーを解放する機能しかありません。
しかし、グロックはトリガーを引くとあらかじめ半分後退した状態にあるストライカーを少し後退させ、解放を行います。
これは従来のシングルアクションと異なり、トリガー操作で「ストライカーの後退」と「解放」2つの動作をしています。
そのため、従来のシングルアクションの定義とは異なるトリガーを持ちます。
グロックはダブルアクション(DA)ではない
ダブルアクションはトリガー操作によってストライカーやハンマーを後退させ、さらに引き続けるとそれらを解放し撃発に至る構造です。
これだけに注目するとグロックはダブルアクションのように見えますが、従来のダブルアクションとは異なります。
従来のダブルアクショントリガーは、トリガーを引くだけで2回以上プライマー(雷管)を打撃できる「マルチストライク機能」を有しています。
つまり、ダブルアクショントリガーはトリガー操作のみで「バチン!バチン!」と空撃ち(ドライファイア)を行うことができます。
しかし、グロックはスライドを引かなければトリガーを引いてもストライカーを後退させることができません。
このような構造であることから、グロックは従来のシングルアクションやダブルアクションのどちらでもないといえます。
グロックのように、スライドを引くとストライカーやハンマーが「半分コックされた状態」になる機構は、「プリセット・ストライカー」や「プリセット・ハンマー」と呼ばれます。
そして、グロック社はこのトリガーメカを「セイフアクション」と呼称し、シングルアクションやダブルアクションとは区別しています。
解釈の違い
アメリカではグロックについて「シングルアクション説」「ダブルアクション説」「どちらでもない説」など、様々な解釈があります。
ATF(アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局)は、グロックをダブルアクションと法的に解釈しているようです。
私の個人的意見としては、スライド操作によって完了するダブルアクショントリガーは、トリガー操作のみで完了するダブルアクションとは異なるため、ダブルアクションではないと解釈しています。
この答はグロック社が呼称する「セイフアクション」が正解であり、二択問題として「シングルアクションとダブルアクションのどちらが近いか」と問われたら、シングルアクション寄りの構造であると認識しています。
H&K VP70の仕組み
これはH&K社のVP70ピストルです。
VP70はダブルアクションオンリー(DAO)のストライカー方式ピストルです。
スライドを引いてもストライカーはコックされず、トリガー操作のみでストライカーを後退させる構造です。
ストロークの長いスライド式のトリガーを引き、最後まで引き切るとシアーがストライカーを解放し撃発に至ります。
まとめ
この記事では、シングルアクションとダブルアクションの違いと、ストライカー方式のピストルの例としてS&W M&P、XD、グロック、VP70の撃発構造を確認しました。
- M&Pはシングルアクション
- XDはシングルアクション
- グロックはセイフアクション
- VP70はダブルアクションオンリー
このようなトリガーメカの違いが理解できたと思います。
「ストライカー方式はシングルアクション」と誤解されることがありますが、必ずしもそうではありません。
モデルによっては、トリガーの動きだけでストライカーをフルコック状態にしたり、フルコック後に解放することができないものもあります。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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