皆さんからいただいた、「銃の疑問」に回答します。
ショットシェルについての質問です。ショットシェルにはワッズと呼ばれるプラスチック製の部品がありますが、もしワッズがない場合、散弾は発射時にすぐに拡散してしまうのでしょうか? また、ワッズがないショットシェルは存在するのでしょうか?
ワッズがないショットシェルは存在する?
ワッド(ワッズ / wad / wads)がない場合の散弾の拡散については、相対的な比較によって異なります。
ワッドの種類によっては、ショットパターン(散弾の拡散)をコントロールすることで、広く拡散したり、反対に狭く集中させる構造になっています。
そのため、ワッドを使用しない場合に、「拡散させるワッド」と比較すれば「拡散しない」と言えますし、「拡散させないワッド」と比較すれば「拡散する」と言えます。
ワッドを使用しないワッドレス・ショットシェルは存在しますが、それらの製品も「ワッド」と呼ばないだけで、ワッドの代替品を使用しています。
そういった意味で、厳密には「ワッドを使用しないショットシェルは存在しない」とも言えます。
現在広く利用されているプラスチック製ワッドは1964年にレミントン社によって開発された製品で、それ以前の時代では紙製カードやフェルトなどが一般的に利用されており、なかには「蜂の巣」がワッドとして利用されていたこともあります。
ワッドはショットシェルにとって必要な部品で、ワッドを使用しないことは、ショットパターン以外に重要な問題があります。
「ワッドは何のために存在するのか」を考えてみると、ワッドが必要である理由がわかりやすいでしょう。
ワッド(ワッズ)とは?
ワッド(Wad)は、主に以下の目的で使用されます。
- 装弾と装薬の分離
- 散弾の変形防止
- 拡散のコントロール
- ガスシーリング
- 銃身の保護(特に鉄製散弾使用時)
- 反動軽減
特に重要なのは、装薬と装弾(散弾やスラグ)を分ける「仕切り」としての役割です。
ショットシェルの製造工程では、ケース(薬莢)内に装薬を装填し、その上にワッドを入れ、ワッドの上から装弾(散弾やスラグ)を装填しています。
仮にワッドを使用せずに装薬の上に散弾を装填すると、散弾は球形のため隙間が生じ、散弾の隙間に装薬が混ざります。
散弾と装薬が混ざった状態は、一部の散弾と装薬の前後配置が入れ替わる状態になるため、弾速低下、銃身損傷、燃焼効率低下などの原因になります。
また、装薬の燃焼温度は約1800度になり、散弾に使用される鉛の融点は327度のため、ワッドが無ければ燃焼によって散弾が溶けて変形します。(ワッドを使用してもガス圧による衝撃の吸収が不十分な場合に散弾が変形する場合があります)
散弾が変形すると飛距離が伸びずショットパターン(散弾の拡散)が安定しない他、銃身やチョーク(絞り)を損傷する原因になります。
また、1990年代には、アメリカで鉛害防止としてカモ猟用に鉄製の散弾(スチールショット)が義務付けられるようになり、銃身を保護するためのカップ型ワッドも利用されるようになっています。
このようにワッドは命中精度向上や反動軽減の役割がある以外にも、銃身や散弾の変形を守る緩衝材として機能しています。
ワッド(またはその代わりになるもの)はマズルローダー(前装式銃)の時代から利用されており、ショットガンのパフォーマンスを引き出すために欠かせません。
ワッドレスと環境問題
ワッドはプラスチック製が多く見られます。
ワッドは散弾と共に発射されるため、狩猟用として環境汚染が懸念されています。
そのため従来のプラスチック製ワッドを使用しない、代替案が考えられています。
コンセプトのひとつとして、ウッドチップを利用する案があります。
粒上に加工した木材をワッドの代わりに装填する構造です。
しかし、これには難点があり、装薬と混ざりやすかったり、個体差によって性能が安定しないなどの問題があります。
現在市販されているワッドレス・ショットシェルには、ポリワッド社による「グリーンライト」と呼ばれる製品が存在します。
グリーンライトは粉末状のポリマーパウダーをワッドとして充填する構造で、一応「ワッドレス」です。
しかし、パウダーの上に直接散弾を装填すると混ざってしまうため、紙の仕切りであるペーパーカップで散弾を保持しています。
ポリワッドによる特許情報を見ると、内部の様子がよくわかります。
発射時には燃焼ガスが散弾を追い越す「ガス漏れ」を防止し、シール材としても機能します。
しかし、ポリワッド社は開店休業状態で、実際の流通量は少ないようです。
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