ショットガンはどれぐらいの威力があるのでしょうか?
スラグ弾が人に命中するとどうなるのでしょうか?
今回はショットガンとスラグ弾のパワーについて解説します。
スラグ弾を使用するショットガン
ショットガン(散弾銃)は、「散弾」や「スラグ弾」を発射可能です。
ショットガンには、以下の2種類があります。
- ライフリングのないスムースボアの銃身(滑腔銃身)が備わっているモデル
- ライフリングのある銃身(ライフルドバレル)が備わっているモデル
スムースボアは鉄パイプのような筒状で内側がつるつるしていますが、ライフルドバレルは内側に溝があります。
スラグ弾は、このどちらの銃身でも使用可能で、それぞれ使用されるスラグ弾の種類が異なります(※後述します)。
ライフリングとは、銃身内に施された溝です。弾丸が溝に食い込むことで弾丸を回転させ、飛翔中の直進性を高めます。
スラグ弾とは?
スラグ弾(スラッグ弾 / slug)とは、ショットガン(散弾銃)から発射される単体の弾丸です。
散弾は複数個の粒状の弾丸を放射状に散らすようにして発射しますが、スラグ弾は1発だけが発射されます。
スラグ弾はライフルの弾をイメージすると分かりやすいかもしれません。
実際、スラグ弾はライフルに近い使われ方をします。
スラグ弾は大型の獲物を狩猟する場合など、通常の散弾よりもストッピングパワー(対象を無力化する力)が必要な状況で使用されます。
鉛、銅、またはその他の材料で作られた単体で、質量の重い弾丸のため、非常に大きな運動エネルギーを持ち、強力な破壊力を持つといえるでしょう。
スラグ弾の種類
スラグ弾には、次の2種類があります。
- ライフルドスラグ:滑腔銃身(ライフリングのない散弾銃の銃身)用に設計されている
- サボットスラグ(サボスラグ):ライフリング付き銃身を持つショットガン用に設計されている
ライフルドスラグは滑腔銃身用、サボスラグはライフリング銃身用に設計されていると覚えておくと良いでしょう。
ライフルドスラッグ(ライフルドスラグ)
ライフルドスラグには様々な種類があり、固形や中空の構造を持ちます。
ライフリングの無いスムースボア(滑腔銃身)で使用することを前提に設計されており、ライフリングが備わった銃身で使用すると銃身内を傷つける可能性があります。
ライフルドスラグの外見的特徴は、外側を囲む一連の溝。
この溝は銃身内のライフリングに似ていますが、ライフリングで得られるような直進性を高める効果はありません。
ショットガンには散弾の拡散度合いを調整するための筒状の「チョーク(Choke)」と呼ばれる「絞り」が利用されます。
ライフルドスラグの溝によってチョーク通過時にスラグが圧縮されることで、チョーク付きの銃でも安全に発射できるという、安全上の理由から溝が存在します。
チョークには様々なサイズがあるため、チョークを安全に通過するためにはライフルドスラグの溝が必要といえるでしょう。
一般的に利用されているライフルドスラグには、「ブレネキ」と「フォスター」というタイプが存在します。
ブレネキとフォスターは、いずれもライフリングの無いスムースボア(滑腔銃身)で利用されます。
ブレネキ・スラグ
ブレネキは、ドイツ人銃器弾薬設計者のヴィルヘルム・ブレネキ (Wilhelm Brenneke 1865–1951) が1898年に開発しました。
日本では「ブレネキ」「ブレニキー」「ブレネッキ」などの呼称がありますが、この記事ではブレネキと呼称します。
ブレネキは弾の周囲に出っ張りの「リブ」がある鉛の塊弾です。
後部には、発射後も底部に付いたままになるプラスチック、フェルト、またはセルロース繊維ワッドが付属。
ワッドは「ガスシール」として機能し、銃身内でガスが弾を追い越さないように、無駄なくガス圧を利用することを目的としています。
周囲に設けられたリブは、あらゆるチョークを通過するように設計されており、柔らかいためチョークに接触すると潰れてチョークを守ります。
フォスター・スラグ
フォスターは、1931年にアメリカ人のカール・M・フォスター(Karl M. Foster)が開発し、1947年に特許が取得されました。
鹿猟で使用するために個人的にスラグ弾を自作し、近所に配っていたのが始まりといわれています。
フォスタースラグは、後部が空洞になっており、「前方が重く、後方が軽い」という重量バランスで設計されました。
これにより空中での姿勢が安定し、高い命中精度が得られます。
また、後部が空洞になっている構造により、ガス圧によってスラグ弾の側壁が外側に向かって押し付けられてガスシールとして機能するため、ガス圧を無駄なく利用できるメリットがあります。
サボットスラッグ(サボスラグ)
サボスラグ(サボットスラッグ)は、一見すると非常に大きなライフル弾に似ています。
「サボ(Sabot / サボット)」とは、フランスで発明された弾頭を保持するためのアダプターです。
※Sabotの読み方は、フランス語では「サブー」、イギリス英語では「サボー」、アメリカ英語では「セイボー」に近い発音です。
サボはショットガン以外にも戦車砲やライフルに使用され、次の役割があります。
- より小さな口径の弾を、高速で発射できるようにする
- ガス圧を受け、弾の加速を助ける
- 飛行中の弾を安定させ、銃身へのダメージを防ぐ
サボスラグは、弾がプラスチックのカップ(サボ)に包まれているため、サボがライフリングに食い込んで回転します。
銃口を離れると空気抵抗によってサボが分離され、弾だけが飛翔。
ライフリングによる強い回転によって弾が回転し、ジャイロ効果を利用して空中での姿勢が安定し、直進性を高めます。
つまり、サボスラグは通常のスラグ弾よりも高い命中率を実現します。
また、現代のサボスラグの多くは先端が尖った形状をしており、空気抵抗を抑えて遠距離射撃が可能。
通常のスラグ弾では50~100メートル先を狙うところ、サボスラグでは200メートル先の目標を狙うことも可能です。
しかし、100メートル以内の射撃において価格が高いサボスラグを使用するメリットはありません。
サボスラグは「フラットな弾道」と「遠距離における運動エネルギーの保持」に効果を発揮しますが、近距離ではこのメリットが活かせません。
銃身とスラグのまとめ
- 滑腔銃身(スムーズボア)
- 滑腔銃身は内部が滑らかな銃身で、ライフリングがない
- ライフルドスラグ弾を使用するのに適している
- ライフルドスラグ弾は銃身内を通過する際に少しだけ回転するが、この回転は精度に影響しない
- ライフルドスラグ弾は「フォスタースラッグ」とも呼ばれ、発明者の名前に由来する
- ライフル銃身(ライフルドバレル)
- ライフル銃身は内部にライフリング(ねじ状の溝)がある
- サボスラグ弾を使用するのに適している
- サボスラグ弾は銃身内のライフリングに合わせて回転し、安定した飛翔が可能
- サボスラッグ弾の多くは銅製ジャケットを持ち、空気抵抗を軽減するため先端が尖っている
ライフル弾とスラグ弾の違い
命中率が低い
スラグ弾はライフル弾より命中率が低いといえます。
近距離においては実用上の差は軽微ですが、スラグ弾は弾速が遅く、空気抵抗による減速でドロップ(落下量)が大きいため、距離が離れるほど命中が困難です。
近距離でのストッピングパワーが強い
スラグ弾は、ストッピングパワー(対象を無力化する力)に優れます。
12番ゲージショットガンのスラグ弾は、AR-15ライフルの2倍以上のマズルエナジーを持たせることも可能です。
これは大きなアドバンテージといえるでしょう。
ライフル弾と比較して空気抵抗が大きいため、距離が離れると大きく減速しますが、近距離では拳銃弾と同等の弾速を維持します。
口径が大きく、拳銃弾と比較すると圧倒的な質量を持つスラグ弾は、対人用として非常に強力です。
飛距離が短い
スラグ弾はライフル弾よりも飛距離が短くなります。
スラグ弾は400メートル程度しか飛べませんが、ライフル弾の.308winでは7 kmも飛びます。
もし人がいる場所に弾が落下すると死傷する恐れがあり、ライフル弾は注意が必要といえるでしょう。
この飛距離の違いにより、アメリカの一部地域では鹿猟にショットガンの使用が義務付けられています。
スラグ弾の威力
スラグ弾には、「フォスター」「ブリニキー(ブレネッキ)」「サボ」といった種類が存在しており、いずれのスラグ弾も散弾より飛距離が長く(散弾の1.3~3倍以上)、高い殺傷力を有しています。
主な使用銃 | 弾の種類 | 初速 (フィート/秒) | マズルエナジー (フィートポンド) |
---|---|---|---|
ショットガン | スラグ(フォスター) Remington RR12SRS | 1200 | 1397 |
ショットガン | スラグ(ブレネキ) Brenneke 211 55 57 | 1246 | 1511 |
ショットガン | スラグ(サボ) Winchester XRS12 | 1350 | 1821 |
ピストル | 9mmPara | 1250 | 383 |
リボルバー | .44マグナム | 1180 | 741 |
ライフル | 5.56x45mm NATO | 3240 | 1280 |
それぞれの弾薬を比較すると、スラグ弾はライフル弾並みのマズルエナジーを持っていることが分かります。
スラグ弾は他の小火器より弾頭直径が大きく重いため、より強力なストッピングパワーを持っています。スラグ弾であれば、コンクリートブロックやレンガの壁を破壊することも可能です。
スラグ弾によるダメージは他の小火器より大きくなり、近距離で人体に命中すると致命傷となる確率が非常に高いといえます。
命中箇所等条件によりダメージの大きさは異なりますが、胴体に命中すると、骨は粉砕骨折され、臓器は致命的なダメージを受けます。弾は貫通することもあれば体内に残る場合もあります。
頭部へ命中すると、文字通り頭を吹き飛ばすことが可能です。
顔面に命中すると弾は貫通、脳はほとんど排出され、原形をとどめない状態となり、多くのケースで生存が難しいといえます。
過去の珍しい事例では、自殺を試みて12ゲージショットガンでスラグ弾を使用して顎を撃ち抜き、顎、口、鼻、眼球をすべて失ったものの、脳の損傷を逃れたために一週間以上生存した事例があります。
しかし、ほとんどは即死となることが多いでしょう。
カヅキオオツカ (著)銃器使用マニュアルには、銃創を確認できる遺体の写真が多数掲載されていますので参考になると思います。
(グロ画像が苦手な方にはお勧めしません)
ハーフライフルは威力が強い?
日本には「ハーフライフル」という、日本特有の奇妙な銃身が存在します。
これは、銃身の半分にライフリングが備わっているものを指します。
ライフリングは弾の直進性を高めるために存在しますが、銃身の半分だけライフリングが備わっている状態と、銃身の全体にライフリングが備わっている状態では、命中率の差は生じません。
弾速も大きく変化することはないため、実用上は意味の無い加工といえます。
メディアでは「ハーフライフルは威力が強い」と報道されることがありますが、スムースボアと比較して威力が強いといった事実はありません。
そもそも、なぜハーフライフルという特殊なルールを作ったのか?
日本の銃刀法では、ライフルを所持するには猟銃を10年以上所持していることが要件となっています。
しかし、海外のライフルドスラグのショットガンは日本の法律上「ライフル銃」とみなされます。
そのため、日本に輸入する際に、銃身のライフリングの半分以下を削ることで、「ライフル銃」ではなく「ライフル銃及び散弾銃以外の猟銃」のカテゴリーに入るようにした結果、ハーフライフルが誕生しました。
2023年5月、長野県で警察官2人を含む4人が殺害された事件でハーフライフルが使用されたことを受けて、2024年3月、政府は銃規制強化を盛り込んだ銃刀法の改正案を閣議決定しました。
猟銃を所持する際に10年間はハーフライフル銃を許可しないとしましたが、エゾシカやヒグマの駆除に使われている事情に配慮して特例が設けられており、若手ハンターがハーフライフルを所持できる結果となっています。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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