旧チェコスロバキアの名銃、Cz52についてご紹介します。
Cz52の背景と歴史
1991年、旧ソ連の崩壊によりソ連のコレクターや戦後の帰還兵が所有していたロシア製火器が大量に流出するようになりました。同時にアメリカにも数多くの火器が流入し、冷戦時代には謎に包まれていた火器も現在では世界中のガン・ショーで売買されています。Cz52もそのうちのひとつで、100~300ドルで米国市場に流通し、安価で人気の高いピストルとなっています。
Cz52は冷戦時代の1950年代初頭に開発され、1952年5月から旧チェコスロバキア軍に採用されたオート・ピストルです。軍は第二次世界大戦時にそれまで使用していたロシア製マカロフ・ピストルのストッピング・パワーを不足と考え、新しいピストルを探していました。そして誕生したのが、ハイパワーな7.62x25mmトカレフ弾を使用するCz52です。旧チェコスロバキア軍制式となったCz52は4年間に約200,000丁がCz「チェコ造兵廠(チェスカ・ゾブロヨフカ:Ceska Zbrojovka)」で製造されました。
1950年代に製造された大量のCz52は1970年代からリビルド(改装・再調整)され、1982年にCz82が軍に採用されるまでの間、現役で採用されていました。Cz82と交代し退役したCz52ピストルは、そのまま倉庫に眠ることとなります。しかし東西冷戦が終了した1990年代初頭、チェコ政府はいわゆるサープラス兵器の売却を決定。放出品としてCz52も売り出されることとなりました。その後、Cz52はアメリカの輸入業者の目にも留まり、彼らは大量にCz52を米国へ輸入したのです。
CZ(チェスカー・ズブロヨフカ)の歴史年表
1919年 | 旧チェコスロバキア共和国のピルゼン(プルゼニ)でCZ社創設。
6.35mm口径のフォックスピストルを製造。 |
1921年 | 旧チェコスロバキア共和国ストラコニツェへ移転。 |
1923年 | 軍へライフル、ピストル、オートバイ、野砲を供給。 |
1924年 | ZB-26 サブマシンガンが開発され、ズブロヨフカブルーノで製造される。 |
1930年 | ソ連軍が7.62x25mm Tokarevを開発し採用。 |
1936年 | ZB-26のパテントが英国エンフィールドへ売却され、ブレンガンが開発される。
旧チェコスロバキア共和国 ウヘルスキー・ブロトへ工場移転。 |
第二次大戦中 | Böhmische Waffen Werkeの社名でドイツ軍へマシンガンを供給。 |
1947年 | 共産化体制の元、国有化される。 |
1952年 | 軍でCZ52採用。 |
1953年 | 今回紹介のCZ52が製造された年。 |
1958年 | CZ58やオートバイを軍に供給。 |
1965年 | 会社更生。VHJズブロヨフカブルーノ(プレシジョンマシンツーリング)となる。 |
1970年代~ |
CZ52が改修される。 |
1975年 | CZ75製造。
(ワルシャワ条約機構下では使用弾薬が異なるため軍用として成功しなかった。) |
1980年 | 今回紹介のCZ52が改修された年。 |
1982年 | CZ82が軍に採用される。 |
1983年 | アグロゼットブルーノ(Agrozet Brno)に社名変更。 |
1988年 | 会社更生。チェスカーズブロヨフカ・ウヘルスキー・ブロトへ社名変更。 |
1991年 | ソ連崩壊。西側諸国へ東側銃器が流通を始める。
旧チェコスロバキア共和国でサープラス兵器売却。 |
1992年 | CZ(チェスカーズブロヨフカ)社として現在に至る。 |
アメリカでの購入
私はガンショー(Gun Show)で怪しいロシア人からCz52を購入しました。ガンショーとは、日本でいえば骨董市や小規模コミケのようなもので、出品者が参加費を支払ってブースを持ち、購入者は入場料を支払って参加します。販売される商品は銃がメインですが、ナイフや書籍、ミリタリー雑貨、トイガンなど、鉄砲好きが好きそうな商材が売買されます。開催頻度は地域差がありますが、私の地元サンフランシスコ周辺を例にすると、毎週必ずどこかで開催されています。
今回のCz52購入の流れは以下の順です。(カリフォルニア州の場合)
- 銃を購入。運転免許書を提示して書類に記入及び拇印。手ぶらで帰宅。
- FBIによるバックグラウンドチェック(犯罪歴照会)
- 販売者の店が遠いので、販売者が私の近所のガンスミスに商品を発送。
- 購入日から十日後、ガンスミスの自宅で銃を受け取る。
ガンスミスに発送する理由は、州法により免許を持つディーラーからしか銃を受け取れないからです。また、カリフォルニア州では十日間のウェイティングピリオドがあり、購入から十日間は受け取れません(例外あり)。全米50州のうち33の州でガンショーでの購入時に登録が必要ですが、その他の州ではコンビニでパンを買う感覚で簡単に購入できます。
Cz52は以前からサンフランシスコ周辺のガンショーで手にとるなど気になる存在ではありました。価格が安いのも魅力ですが、余計なモノが付いていないスマートな概観が美しいと感じます。スライドにシリアル・ナンバー以外の刻印が全くないのも、現代のピストルに見慣れていると新鮮です。誕生から半世紀も経過しているのにどこかスタイリッシュで、そういった点で1911の美しさに通じるものがあるかもしれません。
ある日のガンショーにて、サンフランシスコのガンショーで顔見知りとなっているロシア系ディーラーが出店しており、例によってマカロフ、トカレフ、Cz52などを陳列していました。これからの投資対象としてのコレクターズ・アイテムとしては、安価なCz52より価格が高騰傾向にあるトカレフ・ピストルを購入した方が良いでしょうし、この時、ディーラーも商品のトカレフ(ポーランド製)を顧客に勧めていましたが、スタイルの良さではCz52が勝ると感じたので購入に至りました。
付属品
銃と一緒に革製ホルスター、予備マガジン1本、クリーニング・ロッド1本が付属しました。マニュアル等は一切無し。付属のクリーニングロッドとホルスターは写真を撮るだけで、一切使用しません。ホルスターには予備マガジン専用ポケットがあり、そこにクリーニングロッドも収納される構造です。
画像に写っている本は、Cz52が表紙を飾った月刊GUN誌2004年3月号です。分かりやすくリポートされていますが、私にとってはD.R.Morse著「Cz52 Pistol Manual」という小冊子も重宝しました。書店で見かけることはまずありませんが、ガンショーやオンラインなどで入手できます。Cz52の分解方法等についてしっかり解説されているので、数少ないCz52の資料の中でも興味深いですね。
もちろん、月刊GUN誌2004年3月号のCz52特集は素晴らしい内容なので、興味があればバックナンバーの一読をオススメします。
Cz52とVz52
Cz52はVz52とも呼ばれます。VzとはVzorの略称であり、Vzorはチェコ語で”モデル”を意味します。英語風に言えばVz52は「モデル52ピストル」を表すため、どちらも同じ銃の名前であり、どちらで呼んでも間違いではありません。
Cz52は全弾撃ち終えると自動的にホールドオープンします。しかし、スライドリリースレバーには指を掛けられるようなチェッカリングがありません。撃ち終えたらマガジンを抜いてスライドを引くとスライドが閉鎖されます。
マガジンを抜いてスライドを手動でホールドオープンさせたい場合は、スライドリリースレバーを指で押し上げながらスライドを引く必要があります。スライドリリースレバーはグリップ内のスプリングにより下向きのテンションが掛かっています。
私が通っていた射撃場では銃をホールドオープンさせないとターゲットの張替えを許可しないルールがあるので、押し上げづらいスライドリリースレバーは少し面倒な存在です。
エジェクションポートは少し小さめ。ジャムの処理で薬莢を排出し辛いと感じたことが多々ありました。
排莢スピードがかなり速く、薬莢は斜め右後ろ45度へ5メートル近くビュンビュン飛びます。後ろに立っていた見物人に何度か焼けた薬莢を命中させました。ベレッタ92FSやキンバー1911では1~2メートル飛ぶ程度なので、流石トカレフ弾といったところです。
マニュアル・セイフティは回転式で、フレーム左側グリップ上方に位置します。押し下げてオフ(画像の状態)、押し上げるとオン、さらにスライド方向へ押し上げるとハンマーがデコックされます。「デコック」とは、トリガーを引かずに安全にハンマーをレストポジションへ戻すことです。ハンマーはバチンと落ちますがファイアリングピンには触れず撃発しません。
内蔵式安全装置にファイアリング・ピン・ブロックを装備しており、シアーの故障でハンマーが落ちてもファイアリング・ピンが前進しないため暴発しない構造です。しかし、古い銃なので過度の信頼は禁物でしょう。トリガーが引かれるとファイアリング・ピン・ブロック・セイフティは解除されるのですが、詳しい構造は【後編】で触れたいと思います。
見た目は大きいが厚みは薄い
初めてCz52を見た感想は、「想像より意外と大きい」でした。以前から写真で見たそのスタイルから、ワルサーPPKやSIG P230のようなイメージがあったからです。コンパクトではなくフルサイズであり、ベレッタ92FSと比較しても全長は92FSより約5mm短い程度。しかしながら、スッキリとした外観からも厚みが薄く感じられます。
実際に92FS、1911(キンバー・カスタムII)、Cz52を計測してみました。スライドの厚みは92FSが28mm、1911が23mm。それに対し、Cz52は先端部分で23mm、中央より後ろよりの厚いところで24mm強でした。
しかし、Cz52のスライド断面は台形であるため、上に行くほど薄くなります。そのため、1911よりも銃本体の厚みが薄く感じられます。
また、この形状のためスライドを掴みやすく、おまけにセレーションも深く大きめにデザインされているため手に食い込み、簡単にスライドを引けます。この三丁の中では「スライドの引きやすさ」は1911>Cz52>92FSでしょう。この結果は92FSファンの私には正直「ぐぬぬ・・・」です。
では、グリップの厚みはどうだろうか?
92FSはダブルカラム(複列弾倉)であるため、35mmとどうしても厚い。そして、1911は32mm。対してCz52は最も厚いところで29mmでした。1911と比較してたった3mmの違いですが、この差は大きいでしょう。グリップしてみると違いが良く分かります。しかし、フレームの厚みを計測すると1911は19mmに対してCz52が18mmでした。1911がキャリーに適した薄型グリップを身に付ければ、Cz52の厚みに迫ることができます。
フロントサイトとリアサイト
フロント・サイトは固定式のフィクスド・ブレード・タイプ。リアサイトは左右に調整可能。フロント・サイト幅が1.5mmしかないので、見やすいとはいえません。フロントサイトの薄さはゆっくり単発で撃つターゲットシューティングには適していますが、連射には不利です。しかし、スライド上部が薄くなっているのでサイト無しでも当たりを付けやすく、23メートル以内であれば人間サイズのターゲットに命中させるのは難しくありません。
マズル
7.62mm口径のマズル。マズルクラウンの角度は少し浅めに感じられます。スライドとフレームの噛み合わせに比べてバレルとスライドはタイトに仕上げており、これはCz52の高い命中精度に影響していると思われます。
刻印
Cz52には至るところに刻印が確認できます。スライドは上面にシリアルナンバーがあり、内側に3個所。フレームに6個所。バレルに1個所確認できました。見落としがあるかもしれませんが、探せばまだ隠れたところに見つかるかもしれません。
また、文字とは見えない意味不明な刻印もあり、さらには同じCz52でも個体によってスライド上面にポンチで打刻したような痕があったりします。これを解読していくのは考古学者にでもなった気分ですが、いずれ結果が分かり次第このページで加筆したいと思います。
- スライドトップにシリアルナンバー。V xxxxx (横に見えるポンチマークは実射テストなど、何らかのテストが実施された証明だと思われますが、製造時ではなく改修時に付けられたという説もあります。スライドトップのポンチ跡は謎で、個体によって数や場所が異なることから、「試射した弾数説」「試射時着弾場所説」「製造時品質管理用説」など様々な噂があります。)
- フレーム右側トリガーの上に改修年(VOZ 80とあるので、1980年にリビルドされたのが分かります。VOZは軍内の改修を行った部署の頭文字だと言われています。また、個体によってはVOPと表記されています。)
- フレーム右側テイクダウンラッチの上に製造年(53とあるので、これは1953年製造なのが分かります。左には交差した剣のマークがあり、これは1919年から現在まで使用されるチェコ軍のシンボルです。)
- トリガーガードの根元にZの文字。(テストを行った「zbrojovka ズブロヨフカ(造兵廠)」の頭文字ではないかと思われますが、詳細不明です。)
- フレーム左側にシリアルナンバー。V xxxxx rid (ridは軍用品を意味し、民間用には「ČZS (eské zbrojovka strakonice / チェコ・ストラコニツェ造兵廠)」と刻印があるようです。)
- チャンバー右側にシリアルナンバー。V xxxxx (シリアルナンバーの上に○の中にTの文字があり、これは軍用仕様を確認するテストが行われた証明です。一説にはデコッキング・システムの確認終了を意味するともいわれますが、詳細不明です。)
この他、スライド右側には米国輸入時に打刻されたCZ52 7.62 TOK CZECH C.A.I. GEORGIA VT.の刻印があります。左から順番に、銃の名前CZ52、口径7.62mmトカレフ弾、製造国チェコ、輸入者(センチュリー・アームズ・インターナショナル社)、輸入者の住所(バーモント州ジョージア)を表しています。米国では1968年から輸入する銃にこうした情報の打刻を義務付けています。
使用弾薬: 7.62x25mm トカレフ弾
Cz52には7.62x25mmトカレフ弾を使用するモデルと、9mmルガー弾を使用するモデルが存在しますが、今回紹介のモデルは7.62x25mmモデルです。
7.62x25mmトカレフ弾と良く似た弾に「7.63x25mmマウザー(.30マウザー)」がありますが、一応、7.62mm口径のバレルで7.63x25mmマウザーを撃つことは可能です。ただし、この二つを比較すると平均プレッシャーはトカレフの方が高いので要注意です。7.62x25mmトカレフを使用する銃に7.63x25mmマウザーは使用できますが、その逆は避けるのが無難でしょう。可能であっても無意味に銃に負荷を掛けることは銃の寿命を縮めます。
ドイツで誕生した7.63x25mmマウザーは1896年に開発され、7.62x25mmトカレフはマウザー弾を参考に1930年にロシアで開発された弾薬です。一説にはドイツ軍の銃をロシア軍が鹵獲した際に自国のトカレフ弾を使用するために互換性を持たせたともいわれますが、いずれにせよこれらの弾薬を使用する銃は今となっては時代が古いので、強度不足を念頭に扱い方には慎重であるべきでしょう。
ロシア製や中国製はスチールケースが多く、ロシア製トカレフ弾にはスチールコアを使用されることが多いのですが、これら(P-41やPtsなど)は貫通力が高く米国ではアーマーピアシング弾として扱われるため、輸入禁止となっています。そのため米国で流通するトカレフ弾は鉛のコアが使用されています。
以下にトカレフ弾とその他の弾薬を比較しました。エナジーを見るといかに強力な弾薬であるかが分かり、軽量弾であってもスピードがあれば高い殺傷力を保持します。トカレフ弾(鉛のコア)をストップさせるには、レベルIIIA以上のソフトボディーアーマーか、ライフルプレートが必要です。
7.62x25mm トカレフ弾(FMJ)とその他の弾(FMJ)の比較
弾薬 | メーカー | 弾頭重量 gr | 初速 fps | エナジー ft-lbf |
7.62x25mm トカレフ | Winchester | 85 | 1645 | 511 |
7.62x25mm トカレフ | S&B | 85 | 1647 | 512 |
7.62x25mm トカレフ | Prvi Partizan | 85 | 1720 | 558 |
7.63x25mm マウザー | Fiocchi | 88 | 1425 | 390 |
7.63x25mm マウザー | Prvi Partizan | 88 | 1509 | 427 |
7.65x21mm ルガー | Winchester | 93 | 1280 | 338 |
7.65x21mm ルガー | Fiocchi | 93 | 1200 | 300 |
7.62x38mmR ナガン | Prvi Partizan | 98 | 738 | 118 |
9mm ルガー | Federal | 115 | 1180 | 356 |
9mm ルガー | CCI | 124 | 1090 | 327 |
9mm マカロフ | Wolf | 95 | 1017 | 218 |
9mm マカロフ | Geco | 95 | 1015 | 212 |
5.7x28mm SS197SR | FN | 40 | 2034 | 256 |
.40S&W | PMC | 165 | 985 | 355 |
.45ACP | Winchester | 230 | 875 | 356 |
.357 SIG | Remington | 125 | 1350 | 506 |
.357 マグナム | Geco | 158 | 1295 | 593 |
弾の価格
旧ユーゴスラビア製7.62x25mmトカレフ弾。サープラス品であるにも関わらず精度はまずまずで、お試しで280発購入しましたがすべて確実に撃発しました。銃の汚れも意外と少なく、某ロシア製や某イスラエル製の弾より良い印象です。1箱70発入を13.69ドルで購入しましたが、輸入品なので価格は時期によって大きく変動します。10ドルのときもあれば、最近では25ドル以上というのも確認できます。
パッケージの表記はセルビア語で、意味は以下の通りです。
- 70 ком = 70 ball = 70発
- метака = 弾
- TT = Тульский Токарев 「トゥーラ(ツーラ)造兵廠」
- пиштољ и аутомат = オートマチック・ピストル
- серија 106/55 = シリーズ 106/55
- Барут НЦ (03) = 火薬 NC (03)
こちらはウィンチェスター製。弾頭重量85グレインのフルメタルジャケットが50発入りで25ドル程度。品質管理されたファクトリーロードなので割高ですが、入手しやすくトラブルがないので安心です。このクラスの弾だと不良率は平均2%程度です。
現在米国内で流通する7.62x25mmトカレフ弾の相場は、一発30~60セント。9mmルガーが20~30セント、.45ACPが30~50セントぐらいなので、コストの高いトカレフ弾はあまり数を撃ちたいとは思えません。
因みに.357マグナムは30~60セント、7.62x39mmは20~90セント、.308winは75セント~2ドル程度です。フルオートでバリバリ撃つなら安い弾でOKですが、精度を求めるとマッチブレット、ストッピングパワーを求めるとホローポイントなどを選択することになるので、一発当たりのコストが何倍にも異なります。
次回、珍しいローラーロック構造と分解方法について解説する、
「Cz52オートマチックピストル【後編】」へ続きます。
最後までお読みいただきありがとうございます。
もしご質問やご意見がありましたら、お気軽にX(旧ツイッター)やYoutubeチャンネルでお知らせください。