
米国で「軍用狙撃銃」はどの程度一般人が所有できるのでしょうか。
日本と異なり、アメリカでは州ごとに法律が異なり、連邦法との組み合わせで複雑な規制が敷かれています。
この記事では、狙撃銃の定義や特徴、連邦法・州法による規制、バックグラウンドチェック、口径や装弾数に関する制限、そして実際に購入する際の手順まで、具体例を交えて分かりやすく解説します。
軍用狙撃銃とは、軍隊で長距離精密射撃に用いられるボルトアクションまたはセミオート式ライフルを指します。
一般的な特徴は以下のとおりです。
狙撃銃の購入は可能
米国では、民間人がセミオート式またはボルトアクション式の精密射撃用ライフルを所有することは、連邦法上おおむね認められています。
これらは軍用狙撃銃と同等の性能を持つ場合がありますが、マシンガン(フルオートやセレクトファイアが可能な火器)やショートバレルライフル(銃身長16インチ未満)、あるいはサプレッサー付きライフルなど、国家火器法(NFA)で規制される分類に該当しない限り所有可能です。
多くの州ではこのような所有を許可していますが、カリフォルニア州、イリノイ州、ニューヨーク州、マサチューセッツ州、ワシントンD.C.など一部地域では禁止または厳しい制限があります。
フルオート火器の民間所有は、1986年以前に登録されたごく少数の例外を除き禁止されています。不法所持は連邦法で最長10年の禁錮刑となる場合があります。
バックグラウンドチェック
米国では銃購入時に購入者の犯罪歴を調べる「バックグラウンドチェック」が義務付けられています。
ガンショーでの州別の傾向は以下の通りです。

連邦法における規制(タイトルII・長さ規制)
フルオート射撃が可能な銃(マシンガンなど)はタイトルII(クラスIII)に分類され、規制されています。
これらのSBR/SBSを所有するには、ATFへの登録申請と200ドルの税金支払いが必要です。
ただし、カリフォルニア州やニューヨーク州などでは州法で所有が禁止されている場合があります。
.50口径規制

カリフォルニア州では2004年以降、.50 BMG弾を使用するライフルは規制され、民間所有できません。
しかし、これは50口径規制であり、類似する口径を規制するものではありません。
.49口径や.51口径は理論上合法であり、例えば.416口径のバレットライフルは州内で所有可能です(マガジンは固定式)。
表向きはテロ防止を目的として制定された法律ですが、現実的に抑止効果はないとみられ、むしろ政治色の濃い規制です。
規制法施行当時、私はカリフォルニア州在住でしたが、知り合いの大口径ライフル専門ディーラーも他州へと引っ越しを余儀なくされるなど、業界に混乱がありました。
装弾数規制とアサルトウェポン
州によっては装弾数やアサルトウェポンの販売・所有を規制しています。
アサルトウェポンとアサルトライフルの違いとは?
米国における「アサルトウェポン」と「アサルトライフル」は、法的な定義と機能において明確な違いがあります。
アサルトライフルは軍事用語であり、中間弾薬を使用するセレクティブファイア(セミオートとフルオートの切り替えが可能)なライフルを指します。このタイプの銃器は、1986年の銃所有者保護法(FOPA)以降、民間人が新規で所有することは厳しく制限されており、事実上入手難易度が高い傾向があります。
一方、アサルトウェポンは、法的な規制のために作られた用語です。これは特定の軍用銃器に外観が似たセミオートライフルやピストル、ショットガンを指します。アサルトウェポンの定義は州によって異なり、ピストルグリップ、調整式ストック、フラッシュサプレッサーなどの特徴が複数備わっているか、大容量マガジンを使用できるかなどが基準となります。これらは見た目が軍用銃器に似ているものの、機能的には一般的なセミオート銃器と同じであり、トリガーを1回引くと1発だけ発射されます。
アサルトウェポンとは、セミオートマチックの銃(ライフル、ピストル、ショットガン)に加え、2つ以上の条件が加わると、その銃はアサルトウェポンと定義されます。
着脱式マガジンを持つセミオートマチック・ライフル
条件(2項目以上でアサルトウェポンに該当):
着脱式マガジンを持つセミオートマチック・ピストル
条件(2項目以上でアサルトウェポンに該当):
セミオートマチック・ショットガン
条件(2項目以上でアサルトウェポンに該当):
アメリカでは連邦法で1994年にアサルトウェポン規制法(AWB)が施行されますが、これは時限立法であったため2004年に失効しました。
しかし、ハワイ州、メリーランド州、マサチューセッツ州、ニューヨーク州では失効前に同様の州法が制定され継続されています。
※カリフォルニア州は1989年から、ニュージャージー州は1990年から、コネチカット州は1993年から法制化されています。
※アメリカの銃規制は、基本的に法律施行後のみに適用されるため、施行前から所有している銃器は法律施行後も所有可能です。(ただし州によって規制内容が異なる)
実例:着脱式マガジンと規制回避
「カリフォルニア州で.416口径のバレットライフルを所有可能」と述べましたが、このライフルは非着脱式マガジンを持つセミオートマチック・ライフルなのでアサルトウェポン規制に抵触しません。
もし、着脱式マガジンのバレットライフルをカリフォルニア州で所持したい場合は、ピストルグリップを排除すれば、「着脱式マガジンを持つセミオートマチック・ライフル+スレデッドバレル」のみなので、前述条件の2項目以上に抵触しません。
カリフォルニア州では、以下のような着脱式マガジンを持つAR15が販売されています。


このようにピストルグリップを排除してアサルトウェポン規制を回避するモデルがあります。

こちらはニューヨーク州対応モデルですが、グリップはストックの一部であり、独立したピストルグリップではありません。
一見するとフラッシュサプレッサー/フラッシュハイダーが装着されているように見えるモデルがありますが、これは「マズルブレーキ」なので「フラッシュサプレッサー」ではありません。
法律上この定義が曖昧で、フラッシュサプレッサーとしての効果を持っていても「マズルブレーキ」として販売されているものは合法となっています。ただし、ATFが違法と判断すれば違法となることもあります。
以下は州ごとの規制状況の例です。
州・地域 | 状況 |
---|---|
テキサス州 | 連邦法準拠で特別な規制なし |
カリフォルニア州 | .50 BMG規制、SBR/SBS規制、アサルトウェポン規制あり |
ニューヨーク州 | アサルトウェポン登録制、NFA規制、マガジン容量制限あり |
フロリダ州 | 連邦法のみ適用、州独自の禁止規制なし |
マサチューセッツ州 | アサルトウェポン禁止、州法独自規制あり |
ワシントンD.C. | 狙撃銃を含む多くのライフルが禁止対象 |
ライフル購入手順
アメリカでライフルを購入する際の一般的な手順を整理すると以下の通りです。
連邦法で定められた手続きに加え、州ごとの独自規制もあるため、購入前に必ず確認が必要です。
- 購入資格の確認
- 連邦法および州法に基づき購入可能か確認します。
- 犯罪歴(重罪)や精神疾患の有無など、法的に所持が禁止される条件に該当しないことを確認します。
- 販売店やオンライン小売店の選定
- 店頭購入の場合は、連邦ライセンスを持つディーラー(FFL)を選択します。
- オンライン購入の場合は、購入先を決定し、地元のFFLでの受け取り手続きを行います。
- ライフルの選定
- メーカー・モデルを決定し、マガジン容量や銃の種類など、州の規制に適合しているか確認します。
- 身分証の提示
- 公的な写真付き身分証(運転免許証など)を提示します。
- 州によっては居住証明や追加の許可証が必要な場合があります。
- ATFフォーム4473の記入
- 連邦銃器取引記録(Form 4473)に必要事項を記入します。
- すべてのFFLからの購入で必須です。
- バックグラウンドチェック(NICS)
- ディーラーがあなたの情報をNICS(全国即時犯罪歴照会システム)に送信します。
- 結果は「承認」「保留」「拒否」のいずれかで、保留の場合は数日以内に購入可能となります。
- 州独自の要件確認
- 州によっては追加の書類提出、購入許可証、ウェイティングピリオド(待機期間)などが必要です。
- 支払いの完了
- バックグラウンドチェックが承認された後、銃本体および必要な手数料を支払います。
- ライフルの受け取り
- 支払いとバックグラウンドチェック通過後、待機期間がない場合は自宅に持ち帰ることができます。
- 安全な保管と輸送
- 銃はロック可能なケースで保管し、輸送時も州・地元の法律に従います。
- Bureau of Alcohol, Tobacco, Firearms and Explosives (ATF): Gun Control Act, National Firearms Act
- Giffords Law Center: Machine Guns & .50 Caliber Weapons
- California Penal Code §30530
- New York Penal Law §§265.00, 265.02
- ATF Form 4473, NICS 審査関連資料
- Barrett.net: .50 BMG規制情報
- Governing.com: US Gun Laws Overview