「ポリマーフレームを使用した銃は、金属フレームの銃と比べて何が違う?」
「コストや耐久性の違いとは?」
「性能が良いのはどっち?」
本記事では、「ポリマーフレーム」のメリットとデメリットを詳しく解説します。
フレームとは?
ポリマーフレームの解説の前に、銃における「フレーム」について簡単に説明します。
銃における「フレーム」とは、銃の構造を支える主要部品です。
構造の基盤となり、トリガーやハンマーなどの部品を固定し、多くのモデルは握るためのグリップが備わっています。
セミオートピストルでは、フレーム上部にスライドや銃身が可動するためのレールが配置されています。
リボルバーでは、シリンダー(回転弾倉)が収まるための空間(シリンダーウィンドウ)が用意されています。
材質は主にポリマー製や金属製が利用され、フレームの種類には一体型の「シングルフレーム」の他、パーツがユニット化された「モジュラーフレーム」があります。
ポリマーフレームは、セミオートピストルとリボルバーのどちらにも利用されています。
ポリマーフレームでも、強度が必要な箇所(スライドレールなど)には金属が使用されており、強度を必要としない部分にポリマーが使用されています。
フレームとレシーバーの違い
ピストルやリボルバーといったハンドガン(拳銃)では、フレームが利用されます。
一方、ライフルやショットガンでは「レシーバー」がフレームに相当する部分で、ポリマーレシーバーも利用されます。
(※中折式ライフルでは「フレーム」と呼ばれる場合があります)
ポリマーレシーバーを利用するライフルの例を挙げると、
- H&K G36
- FN SCAR
- Beretta ARX160
- SIG Sauer MCX
・・・などが存在します。
「フレーム」と「レシーバー」は、ほとんど同じ意味で使用されますが、両者は役割が異なっています。
フレームは、銃の外観や全体の構造を支える基盤部分です。
レシーバーは、閉鎖機構など、弾薬の装填、発射、排出などの作動機構が集中する部分です。
フレーム | レシーバー |
---|---|
銃全体の構造を支える基礎部分。 内部メカニズムや外部パーツを固定・保持する骨組み。 ピストルではスライドやバレルを支え、ライフルではストックやバレルを保持。 | 弾薬の装填、発射、排出など、銃の作動機構を担う部分。 ボルトやハンマーなどの発射に必要な部品を収納。 主にライフルやショットガンで重要な役割を果たす。 |
設計上、フレームは強度を必要としない場合が多く、ポリマーを利用しやすい部分です。
しかし、レシーバーは銃の設計によっては一定以上の強度を必要とするため、バッファーシステムを持つAR15など、モデルによっては素材にポリマーよりもアルミの方が適している場合があります。
ポリマーとプラスチックの違い
そもそも、ポリマーとは?
プラスチックとは何が違う?
簡単に説明すると、ポリマーはプラスチックの主要な構成要素であり、プラスチックはポリマーを基にして作られた成形品と言えます。
「ポリマー」は、天然高分子(天然樹脂)と合成高分子(合成樹脂)の両方の概念を含む高分子化合物で、重合体の一種。
一方、「プラスチック」は、ポリマーを主成分とし、様々な添加剤を加えて成形加工された製品を指します。
一般的に銃の素材としては、「ポリマーフレーム」と呼ばれますが、「プラスチックフレーム」と呼ばれることもあります。
ポリマーフレームの特徴
軽量性(重さの比較)
一般的に同サイズのフレームを比較したとき、ポリマーフレームは金属フレームよりも軽量です。
銃の重量はフレーム以外の条件によっても異なりますが、ポリマーフレームの銃は軽量な傾向があります。
モデル | フレーム素材 | 銃の総重量 | 使用弾薬 | 備考 |
---|---|---|---|---|
ワルサー PPK/S | ステンレス | 539 g | .380 ACP | |
S&W CSX | ポリマー | 553 g | 9 mm | |
ワルサー P99 | ポリマー | 630 g | 9 mm | |
S&W M&P | ポリマー | 680 g | 9 mm | フルサイズ |
グロック 17 | ポリマー | 705 g | 9 mm | |
H&K VP9 | ポリマー | 710 g | 9 mm | 欧州バージョン |
マカロフ PM | 炭素鋼 | 730 g | 9×18 mm | |
H&K USP | ポリマー | 771 g | 9 mm | |
ステアー M9-A1 | ポリマー | 787 g | 9 mm | |
CZ 75 P-01 | アルミ合金 | 800 g | 9 mm | |
ベレッタ APX | ポリマー | 822 g | 9 mm | |
SIG Sauer SP2022 | ポリマー | 822 g | 9 mm | |
SIG Sauer M17 | ポリマー | 833 g | 9 mm | SIG P320フルサイズ |
S&W M&P メタル | アルミ合金 | 851 g | 9 mm | |
CZ P-09 | ポリマー | 860 g | 9 mm | |
FN FNX-45 Tactical | ポリマー | 944 g | .45 ACP | |
ベレッタ M9 | アルミ合金 | 944 g | 9 mm | |
SIG Sauer P226 | アルミ合金 | 964 g | 9 mm | |
ブローニングHP | アルミ合金 | 1,000 g | 9 mm | |
コルト M1911A1 | 炭素鋼 | 1,100 g | .45 ACP | |
CZ 75 | 炭素鋼 | 1,120 g | 9 mm | |
デザートイーグル | アルミ合金 | 2,041 g | .50 AE |
銃が軽量になると携帯性が向上し、コンシールドキャリー(隠匿携帯)する人にとって、長時間の携帯が快適になります。
また、軽量なことで操作性が向上し、疲労も軽減されます。
ライフルやショットガンでも、ポリマーを多用する軽量な銃は取り回しやすくなり、長時間銃を支えることも可能になります。
反動とマズルジャンプの大きさ
ポリマーフレームは柔軟性があり、発射時に若干の変形を伴うことで、反動の鋭さを多少軽減する効果があります。
しかし、軽量であることで反動が大きくなり、命中精度や射撃の快適性に影響を及ぼす場合があります。
銃の反動の大きさは、「弾薬(弾頭)によって生じる作用」と「銃の総重量」のバランスで成り立っており、同一の弾薬で比較したとき、銃の総重量が軽いほど反動が大きくなる傾向があります。
ポリマーフレームは金属フレームに比べて軽量なため、反動が増大し、マズルジャンプ(跳ね上がり)が大きくなる傾向にあります。
これにより、連射時の命中精度が低下する可能性があります。
影響 | 説明 |
---|---|
反動吸収 | 軽量なポリマーフレームは発射時に生じる力を相殺する質量が不足し、重い金属フレームに比べて反動を低減しにくい |
マズルジャンプ | ポリマーフレームの軽量性により、特に強力な口径ではマズルジャンプが大きくなる傾向がある |
精度への影響 | マズルジャンプが大きいと、次弾の照準が難しくなり、連射時の精度が低下しやすい (スキルや経験により対処可能) |
マズルジャンプは、グリップの調整やスタンスの変更などの対策を講じることで、ある程度は対応可能です。
また、グロックなどのポリマーフレームピストルは、ボアアクシス(銃身軸)が低く、マズルジャンプを軽減する設計を採用しています。
しかし、各モデルによって「ボアアクシスの高さ」「グリップ角度」「銃の総重量」が異なるため、反動やマズルジャンプの大きさはフレーム素材の違いに関係なく影響の大きさが異なります。
価格を比較
ポリマーフレームは製造コストが安く、材料費と加工費が抑えられるため、製品全体のコストも低くなる「傾向」があります。
これは、ポリマー素材の原料や加工コストが金属に比べて安価であるためです。
性能や耐久性を損なうことなく、より手頃な価格で提供できるというメリットがあります。
項目 | 主なメリット |
---|---|
生産効率 | ポリマー製フレームの射出成形プロセスは大量生産に適しており、金型さえ用意すれば同一の部品を高速・高精度に量産可能 |
材料ロス削減 | 射出成形は、従来の金属加工に比べて材料ロスが少なく、コスト削減につながる |
材料コスト削減 | ポリマー素材は金属に比べて安価であり、原材料コストの削減に寄与 |
製造工程の簡素化 | 射出成形では複数の部品を一体成形できるため、組み立て工程が削減される |
後加工の軽減 | ポリマー製フレームは、金属製に比べて仕上げ加工が容易 |
カスタマイズ性の向上 | 射出成形では、アクセサリーレール、グリップ質感など、デザイン要素の追加が容易 |
しかし、製造コストは「製造国」「人件費」「材料費」「工程数」など、様々な条件によって異なるため、必ずしもポリマーフレーム製銃器が安価とはいえません。
実際にはフレーム価格と銃の本体価格は比例せず、高価なポリマーフレームピストルも存在します。
以下は各モデルのフレーム素材と価格の例です。
モデル | フレーム素材 | 銃の価格の目安 |
---|---|---|
ルガー MAX 9 | ポリマー | 300 ドル |
Bersa TPR9 | アルミ合金 | 460 ドル |
トーラス 92 | アルミ合金 | 496 ドル |
S&W M&Pシールド・マイクロコンパクト | ポリマー | 500 ドル |
グロック 19 Gen 5 | ポリマー | 539 ドル |
スプリングフィールドアーモリー・ヘルキャット | ポリマー | 559 ドル |
グロック 19X Gen 5 | ポリマー | 588 ドル |
CZ 75 B | 炭素鋼 | 609 ドル |
ベレッタ PX4 | ポリマー | 616 ドル |
FN 509 タクティカル | ポリマー | 739 ドル |
ベレッタ 92FS | アルミ合金 | 749 ドル |
スプリングフィールドアーモリー1911 Garrison 9 mm キャリー | 炭素鋼 | 772 ドル |
ベレッタ 92 GTS | アルミ合金 | 800 ドル |
H&K VP9SK | ポリマー | 819 ドル |
SIG Sauer P365 XL | ポリマー | 920 ドル |
ベレッタ M9A4 | アルミ合金 | 1,100 ドル |
SIG Sauer MK25 (P226) | アルミ合金 | 1,100 ドル |
H&K USP | ポリマー | 1,200 ドル |
ブローニングHP | アルミ合金 | 1,250 ドル |
SIG P229 Legion | アルミ合金 | 1,300 ドル |
コルト コンバットコマンダー | 炭素鋼 | 1,300 ドル |
耐腐食性
ポリマーは錆びたり腐食したりしないため、湿気の多い環境や適切な保管条件でない場合でも適しています。
この耐腐食性は、金属製フレームのピストルと比べたとき大きな利点になります。
ポリマー素材は錆や腐食に強く、湿気の多い沿岸地域や熱帯地域などの環境で使用するのに適しています。
その結果、錆を防ぐための頻繁なメンテナンスが不要になり、ユーザーの手間が軽減されます。
とはいえ、ポリマーフレーム自体は錆に強いものの、バレル、スライド、内部機構などの金属部品は腐食の対象となるため、適切なメンテナンスが必要です。
多くのメーカーは耐腐食性の高いステンレス鋼などの部品を使用したり、コーティングを施すことで腐食を防止しています。
耐久性と強度
ポリマー製フレームは、長期的な耐久性に優れ、グロックピストルの中には30万発以上の発射に耐えられたものもあり、金属製の銃と同等の耐久性を示しています。
また、通常の使用条件下では、繰り返しの使用によるひび割れや故障が起きにくいという特長があります。
なかには、「数十年間かけて使用されたグロックのフレームにひび割れが生じた」という事例も存在しますが、一般的な通常使用の範囲では必要十分な耐久性を保持しています。
項目 | メリット |
---|---|
実証された耐久性 | グロック社のピストルの中には、30万発以上の発射に耐えられるものがある 多くの金属製ピストルと同等かそれ以上の耐久性を示している |
設計要因 | ポリマーフレームの耐久性は、設計品質と使用素材に大きく依存 高品質なポリマーフレームは、高応力部分に補強を施すことで強度と耐久性を高めている |
耐摩耗性 | 通常の使用条件下では、ポリマーフレームは金属フレームに比べて、錆びや凹みなどの損傷を受けにくい傾向がある |
柔軟性 | ポリマーフレームの僅かな柔軟性は、ショックを吸収し、他の部品への負荷を軽減する効果がある |
長期性能 | 初期のグロックなど、ポリマー技術の黎明期から登場したピストルの多くが、30年以上の長期使用に耐えている |
環境耐性 | ポリマーフレームは、金属フレームを劣化させる腐食や環境要因に強い特性を持つ |
耐久性の高いポリマーフレームですが、それでも限界があります。
ポリマーフレームは金属フレームよりも融点が低いため、極端な高温に晒されると変形しやすくなります。
(約80度から140度の熱に晒されると、変形などの変質がみられます)
また、特異な例ですが、ポリマーフレームは「ペットによる噛み付き」などの外的要因による損傷を受けやすい場合があり、これは金属フレームではほとんど問題にならないことです。
犬が噛んでポリマーフレームをボロボロにした事例が複数件存在します。
しかし、一般的な使用条件下において、ポリマーフレームピストルは非常に高い耐久性と長期的な性能を発揮することが実証されています。
メンテナンス性
ポリマー製フレームは耐食性が高いため、金属製に比べてメンテナンスコストが低くなる傾向があります。
特徴 | 説明 |
---|---|
耐食性 | ポリマーフレームは金属フレームのように錆びたり腐食したりすることがない 湿気の多い環境でも追加のメンテナンスが不要 |
過酷な環境での耐久性 | ポリマーフレームの耐食性により、湿気の多い環境でも特別な対策なしに使用可能 |
クリーニング頻度の低減 | 定期的なクリーニングが必要であるものの、ポリマーフレームは金属フレームほど頻繁なクリーニングは不要 |
コスト面での優位性 | ポリマーフレームのメンテナンス負担の軽さは、金属フレームピストルに比べてコスト面での優位性につながる |
ポリマーフレーム自体はほとんどメンテナンス不要でも、バレルやスライドなどの金属部品はメンテナンスが必要です。
全体としてポリマーフレームピストルのメンテナンスコストは、耐食性と過酷な環境での耐久性の高さから、金属フレームに比べて低くなる傾向にあります。
ポリマーフレームの歴史
かつてピストルは金属と木で作られていましたが、現在ではポリマー(プラスチック)も一般的です。
歴史的には、ポリマーフレームのピストルが初めて導入されたとき、「プラスチック」という素材自体が軽視されがちでした。
ポリマーは「銃の素材として耐久性が劣り、信頼性が低い」と考えられていたのです。
しかし、技術の進歩もあり、強度的にも問題無い、軽量で実用的なポリマーフレーム・ピストルが誕生しています。
西暦 | ポリマーフレームの歴史 |
---|---|
1907年 | ベークライト(フェノール樹脂)が発明される |
1929年 | ワルサーPPピストルのグリップパネルにトロリット(Trolit / フェノール樹脂)が使用される |
1938年 | ドイツのワルサーP38ピストルやMP38サブマシンガンにベークライトが使用される |
1959年 | レミントンがデュポンと共同でNylon 66ライフルを開発 |
1963年 | ロシアでポリマーフレームのマカロフピストル(TKB-023)が開発されるが、軍には採用されなかった |
1968年 | ロシアでベークライト製AKMライフル用マガジンが開発され軍に採用される |
1970年 | ドイツで量産品として初のポリマーフレームピストル「Heckler & Koch VP70(Volkspistole)」が開発 しかし、トリガーの性能や市場の反応が悪く、商業的には成功しなかった |
1974~1978年 | オーストリアのステアー社がポリマーストックのステアーAUGライフルを開発 1977年にオーストリア軍が「StG 77」として採用 |
1982年 | オーストリアの技術者ガストン・グロックがグロック17ピストルを開発 1983年までにオーストリア軍に30,000丁を供給した |
1986年 | グロック社が米国市場に参入 当初は「プラスチックの銃」が金属探知機で探知されない可能性があるという懸念があった |
1988年 | 香港アクション映画「タイガー刑事(原題:特警屠龍)」にグロック17が初登場 映画でポリマーフレームピストルの露出が増え始める |
1993年 | ロシアのIZHMEKH(イジェフスク機械工場)がポリマーフレームを使用した中折式リボルバーのMP-412 REXを発表 |
1994年 | 中国でポリマーフレーム内にスチールフレームが備わったQSZ-92ピストル(92式手枪)が開発される |
1999年 | S&W社とワルサー社のコラボによりポリマーフレームピストルのSW99を発表 |
1999年 | クロアチアでHS2000ピストルが開発され、後に米国ではスプリングフィールドアーモリーXDシリーズとして商業的に成功 |
2005年 | S&W社がM&Pシールドピストルを開発し、民間市場や法執行機関で普及 |
2009年 | スタームルガー社がポリマーフレームリボルバーのRuger LCRを発表 |
2014年 | SIG社がP320を開発し、モジュラー設計のポリマーフレームピストルが登場 |
2017年 | 米軍が「SIG Sauer P320 MHS」をベースとしたポリマーフレームのピストルを「M17」として制式採用 |
2023年 | SIG社のP320やP365に金属グリップモジュールが追加され、金属フレームの利点が再評価される |
現在 | ポリマーフレームピストルは市場を席巻しており、グロックは米国の法執行機関契約の60%以上を占める ほぼすべての主要なハンドガンメーカーがポリマーフレームモデルを提供 |
ポリマーフレームピストルの発展は、1907年のベークライト発明から始まりました。
1938年にはワルサーP38や1968年のAKMマガジンが採用。
1982年にはグロック17が登場し、1986年には米国市場に進出して一般に受け入れられました。
1990年代以降、多様なメーカーが参入し、S&W社のM&Pシールドなどが普及。
現在ではポリマーフレームピストルが市場の主流となり、グロックが法執行機関契約の60%以上を占めています。
このように、技術革新と市場ニーズに応じた進化が続いています。
代表的なポリマーフレームのピストル
ポリマーフレームが採用されているピストルの一部を紹介します。
H&K VP70
VP70は、ヘッケラー&コッホ社(Heckler & Koch)が1970年に発表した、9x19mm弾を使用するポリマーフレームのピストルです。
トリガーはダブルアクションオンリーの設計で、18発装填可能なマガジンが備わっています。
「VP」は「国民ピストル(Volkspistole)」を意味し、初の実用的なポリマーフレームを使用する銃として知られています。(後のグロック 17よりも12年早く登場)
18発装填可能なダブルスタック・ダブルフィードのマガジンを備えており、これは当時としては非常に多い装弾数です。
また、ストックを取り付けることができ、軍用モデルではこのストックを使って3点バースト射撃が可能です。
さらに、従来のハンマー式ではなく、バネで動作するストライカーシステムを採用しており、トリガーの引きが重めなのも特徴の一つです。
軍用の「M」モデルは3点バースト機能を持ち、民間向けの「Z」モデルではその機能が省かれています。
また、Zモデルではストックを取り付けることができない設計になっており、安全装置も異なります。
イタリア向けに販売されたVP70Zは、当時9x19mm弾の使用が制限されていたため、9x21mm弾を採用したものが少量生産されましたが、こちらもバースト機能は搭載されていません。
私は軍用モデルであるVP70Mを実射した経験があるのですが、バースト時の毎分2,200発という、恐ろしく高速な発射速度が印象的でした。
H&K MP5サブマシンガンを3点バーストで発射した際、銃声は「バララン!」というイメージですが、VP70Mは「バラン!(3発発射完了)」といったイメージで、3発の発射で1発分の発射のような反動があります。
トリガーが重く、お世辞にも「引きやすい良いトリガー」とは言えませんが、近距離で使用する目的では十分の集弾性能でしょう。
Glock 17
オーストリアの銃器メーカー、Glock(グロック)社。その名を世界に知らしめたのは、ポリマーフレームを採用したショートリコイル方式のストライカー式ピストルです。
1982年、画期的な設計のグロック 17がオーストリア軍と警察に採用されたことで、その信頼性と安全性が高く評価されました。
興味深いことに、創業者のガストン・グロックは銃器設計の経験がありませんでした。
しかし、合成樹脂に関する専門知識を活かし、革新的なピストルを生み出すことに成功します。
さらに、金属部品への耐腐食処理技術の導入により、銃の耐久性も大幅に向上させました。
その後、米軍の一部部隊の他、ノルウェーやスウェーデンなど北欧諸国でも採用され、NATOの厳しい耐久基準をも上回る性能が高く評価されています。
現在、グロック社の製品は48か国以上の軍や警察、セキュリティ機関で使用されています。
民間市場でも、射撃競技や自衛用として広く普及しています。
グロック 17は今や、NATO標準装備として広く使用されています。2013年にはイギリス軍が長年使用してきたブローニングハイパワーの後継としてグロック 17 Gen 4を選定。2020年にはフランス軍もグロック 17 Gen 5を採用するなど、その人気は衰えることを知りません。
グロック社の製品が世界中で愛用される理由は、その耐久性、使いやすさ、そして優れたコストパフォーマンスにあります。
SIG Sauer P320
シグ・ザウエル社(SIG Sauer)のアメリカ支社が誇るセミオートピストル、P320。
前身のP250をベースに開発され、大きな特徴はモジュラーフレームシステムの採用にあります。
これは米軍における正式採用銃選定時にグロックがP320に勝てなかった一因になりました。
P320はフレーム、スライド、バレル、グリップを簡単に交換できるため、コンパクトサイズからフルサイズまで多様な構成に変更可能です。用途に応じて、同じ銃をさまざまな形態で使用できます。
また、Fire Control Unit(FCU)が銃の「心臓部」として扱われ、異なるサイズのフレームに移動させることで、銃全体の交換なしに新しいバリエーションとしてカスタマイズが可能です。
- 2014年:9mmバージョンが北米市場デビュー
- 2015年:.45 ACPモデル発表
- 2017年:アメリカ陸軍が改良モデルを採用
- フルサイズ版:M17
- コンパクト版:M18
P320は、優れた設計と機能性を兼ね備えています。
特徴 | 説明 |
---|---|
モジュラー設計 | ファイアコントロールユニットを中心に構築され、容易にカスタマイズ可能 |
口径バリエーション | 9mm、.357 SIG、.40 S&W、.45 ACP、10mm Autoに対応 |
両利き対応 | アンビスライドリリースレバーと左右変更可能なマガジンリリース |
撃発方式 | ストライカー方式 |
安全装置 | 外部安全装置なし(携帯用として設計) |
サイズバリエーション | フルサイズ、キャリー、コンパクト、サブコンパクトなど |
軍事採用 | 2017年に米軍の新しいサービスピストルとして選択(M17/M18) |
カスタマイズ性 | グリップ、スライド、バレルの交換が容易 |
性能評価 | 精度、信頼性、操作性が高く評価されている |
考慮点 | 他の競合モデルと比べてやや幅広で、ボアアクシスが高い |
P320は一時期、「ドロップセイフティ」の不具合問題で注目を集めました。特定の角度で落下すると誤射の可能性があったのです。
しかし、メーカーは迅速に対応し、改良を重ねて安全性を向上させました。
カナダの特殊部隊での一時使用中止事例も、調査の結果、ホルスターとの適合性が原因と判明。
P320自体には問題がないことが確認され、再び使用可能となりました。
SIG Sauer P320は革新的な設計と継続的な改良により、高い信頼性と機能性を兼ね備えたピストルとして、世界中の軍隊や法執行機関から高い評価を得ています。
モデル | メーカー | 登場年 | 口径 | 装弾数 | 重量 | 特徴 |
---|---|---|---|---|---|---|
H&K VP70 | ヘッケラー&コッホ | 1970年 | 9mm | 18発 | 820g | 世界初の成功したポリマーフレーム 3点バースト機能 |
グロック 17 | グロック | 1982年 | 9mm | 17発 | 710g | セーフ・アクションシステム 高い信頼性 |
シグ・ザウエル P320 | シグ・ザウエル | 2014年 | 9mmなど他多数 | 17発 | 833g | モジュール式デザイン カスタマイズ可能 |
H&K P2000
H&K P2000は、ドイツの銃器メーカー、ヘッケラー&コッホ(H&K)が開発したコンパクトなセミオートピストルです。
- 様々な手の大きさに対応する交換可能なグリップパネルが付属
- 複数の発射方式(DA/SA、DAOなど)に対応
- 9mm、.40 S&W、.357 SIGなど複数の口径バリエーションを展開
- 警察や特殊部隊での使用を念頭に置いた設計
S&W M&P
S&W M&Pは、アメリカの銃器メーカー、スミス&ウェッソンが開発したポリマーフレームのセミオートピストルシリーズです。
- モジュラー設計で、様々なサイズと口径を展開
- 人間工学に基づいたグリップデザイン
- 多くの法執行機関で採用されている高い信頼性
- 民間市場でも人気が高く、射撃競技でも使用されている
スプリングフィールド XD
スプリングフィールド XD(Springfield XD)は、アメリカのスプリングフィールド・アーモリー社が製造する、クロアチアのHS Produkt社設計のセミオートピストルです。
- グリップセーフティとトリガーセーフティを組み合わせた独自の安全機構
- 様々なサイズと口径のバリエーションを展開
- 競争力のある価格設定と高い信頼性で人気
グロック 17 | H&K P2000 | S&W M&P | スプリングフィールド XD | |
---|---|---|---|---|
メーカー | グロック | ヘッケラー&コッホ | スミス&ウェッソン | スプリングフィールド |
口径 | 9mm | 9mm | 9mm | 9mm |
銃身長 | 114.3 mm | 91.44 mm | 107.95 mm | 101.6 mm |
全長 | 185.42 mm | 177.8 mm | 190.5 mm | 177.8 mm |
マガジン容量 | 17 | 13 | 17 | 16 |
重量 | 703.07 g | 680.39 g | 680.39 g | 708.74 g |
幅 | 30.48 mm | 34.04 mm | 30.48 mm | 28.58 mm |
サイト | フロント:ホワイトドット リア:ホワイトアウトライン | フロント:ホワイトドット リア:デュアルドット | フロント:ホワイトドット リア:デュアルドット | フロント:ホワイトドット リア:デュアルドット |
表面処理 | テニファー | ニトロカーボライズド | メロナイト | ブルニトン |
価格 | 599ドル | 887ドル | 624ドル | 536ドル |
集弾 | 76.2 mm | 73.15 mm | 63.5 mm | 66.8 mm |
弾速(fps) | 1,156 | 1,099 | 1,120 | 1,145 |
ポリマーフレームのよくある疑問
ポリマーフレームの銃はX線に映らない?
映画「ダイハード2」で、こんな台詞がありました。
That punk pulled a Glock 7 on me. You know what that is? It’s a porcelain gun made in Germany that doesn’t show up on your airport X-ray machines here, and it costs more than you make in a month.
あのチンピラはグロック7を俺に突きつけた。あれが何なのか知ってるか?ドイツ製の磁器製の銃で、ここの空港のX線検査装置では検出されない。値段はお前の1か月の収入より高いぞ。
この台詞は「誤り」が多いことで有名です。
アメリカの連邦法では「X線検査装置に映らない銃器の主要な部品」が違法のため、ポリマーフレーム製造時には硫酸バリウム等を加えて形状が映るように製造されています。
(1)It shall be unlawful for any person to manufacture, import, sell, ship, deliver, possess, transfer, or receive any firearm—
(A)that, after removal of grips, stocks, and magazines, is not as detectable as the Security Exemplar, by walk-through metal detectors calibrated and operated to detect the Security Exemplar; or
(B)any major component of which, when subjected to inspection by the types of x-ray machines commonly used at airports, does not generate an image that accurately depicts the shape of the component. Barium sulfate or other compounds may be used in the fabrication of the component.(1) いかなる人物も、以下の条件に該当する銃器を製造、輸入、販売、発送、配達、所持、譲渡、または受領してはならない:
https://www.law.cornell.edu/uscode/text/18/922
(A) グリップ、ストック、およびマガジンを取り外した後、検出用エグザンプラー(Security Exemplar)と同等の検出性を持たない銃器を、適切に校正され、操作されているウォークスルー金属探知機で検出できない場合。
(B) 空港で一般的に使用されているタイプのX線装置による検査を受けた際に、その主要部品が正確に形状を描写する画像を生成しない場合。部品の製造には、硫酸バリウムまたは他の化合物を使用することができる。
しかし、3Dプリンターで個人製造された樹脂製の銃が、空港の保安検査場で発見された事例が複数存在しています。
現在ではX線検査装置と金属探知機の併用により、樹脂製の銃でも形状を映し出すことが可能で、探知可能となっています。
ポリマーフレームは美しくない?
美的感覚は個人差がありますが、ポリマーフレームの銃は金属製フレームの銃に比べて「美しくない」と感じるユーザーが一定数存在します。
軽量で「プラスチック」のような外観から、「玩具っぽい」「安っぽい」という印象を与えることがあります。
魅力 | 背景 |
---|---|
伝統 | 金属フレームのピストルは長い歴史があり、伝統や歴史背景のある銃に魅力を感じるユーザーが多い |
素材の印象 | プラスチックの外観は、耐久性が高いにもかかわらず、プレミア感や頑丈さに欠けるように感じられやすい |
職人技 | 高級モデルの金属フレームピストルは、精緻な機械加工と仕上げが視覚的に魅力的に感じられやすい |
重厚感 | ポリマーフレームは「金属フレームの重厚感に劣る」と受け取られやすい |
カスタマイズ性 | ポリマーフレームとは異なり、金属フレームは多種多様な表面処理、エングレービング、パーツ交換などのオプションが豊富 |
産業デザイン | ポリマーフレームは機能性を重視した実用的なデザインが多く、美的対象として捉えるユーザーには訴求力が低い |
ポリマーフレームと金属フレームの選択は、個人の嗜好、用途、重量、メンテナンス、デザインに対する優先順位によって決まるのが一般的です。
よくある質問と回答
- Qポリマー製の銃は、従来のスチールやアルミ合金に比べて強度や耐久性で不利なのではないでしょうか?
- A
ポリマーフレームの銃でも実用上問題のない強度と耐久性を持つ製品が多いです。長期的にはポリマーも劣化しますが、金属フレームも腐食する可能性があります。どちらも環境やメンテナンスによって劣化の度合いが異なります。
- Qポリマーは成形が優れているため、コストダウンにつながるのでしょうか?
- A
一般的にポリマーフレームの方が製造コストは低いです。しかし、素材や製造工程によっては、金属フレームよりも高コストになる場合もあります。
- Qポリマーフレームの銃が増えている理由は何ですか?
- A
ポリマーフレームの銃が増えているのは、「軽量さ」が主な理由です。軽い銃は日常的に携帯しやすく、装弾数を増やしても負担が少ないため、火力が増大する傾向があります。
- Qポリマーフレームと書かれていますが、スライドもポリマー製なのでしょうか?
- A
「100%ポリマー」のスライドは存在しません。例えば、グロック44はポリマースライドですが、スライドとフレームを繋ぐレール部分はスチールです。また、FNファイブセブンはスチールスライドの上からポリマーで覆っている構造です。
ポリマーフレームの将来
ポリマーフレーム銃は軽量で製造コストが低く、携帯性に優れるため、広く普及しています。
グロックを始めとするポリマーフレームピストルは、耐久性と実用性においても高い評価を受けています。
しかし、ポリマーの経年劣化による「強度低下」や「フレームの割れ」などの問題も報告されています。
再注目される金属フレーム
近年、金属フレームの銃が再び注目を集めています。
金属フレームはポリマーに比べて重量があり、重心が銃の下部側にあることで射撃時の安定性と精度が向上するため、特に精度を重視するユーザーにとって魅力的です。
ポリマーフレームの銃は「軽量な下部(フレーム)」と「可動する重い上部(銃身やスライド)」の重量バランスになりやすいため、マズルジャンプが大きくなりやすいデメリットがあります。
また、SIG社のP320やP365のようなモジュラー式ピストルの普及により、メタルグリップモジュールの使用が増え、ユーザーが自身のニーズに合わせて銃をカスタマイズしやすくなっています。
金属フレームはアクセサリの取り付けにも優れており、フラッシュライトやレーザーサイトなどを、よりしっかりと確実に固定できる点でも利便性が高いといえるでしょう。
ハイブリッドの普及
未来予測は困難であるものの、考えられる今後の展開として、「ハイブリッド構造の普及」があります。
金属とポリマーを組み合わせたハイブリッド構造の設計が増える可能性があり、これにより、ポリマーの軽量性と金属の耐久性を両立させた銃が広く普及するかもしれません。
また、「モジュラー化のさらなる発展」が考えられます。
SIGのFCU(Fire Control Unit)のようなモジュラー化が進み、ユーザーがより自由にパーツを交換できる設計が増えるでしょう。
これにより、ユーザーは自分好みの銃を組み上げることが可能で、カスタマイズの選択肢が増えます。
その他の可能性としては、「新素材の導入」があります。
ポリマーの弱点である経年劣化を克服するために、新しい合成素材やナノテクノロジーを利用した高性能ポリマーが開発される可能性があります。
そして、各環境に適応するための設計が進み、特に湿度や温度変化に強い素材や構造が開発され、極限環境でも安定して使用可能な銃が増えるかもしれません。
まとめ
特徴 | ポリマーフレーム | 金属フレーム |
---|---|---|
重量 | 軽量で携帯に便利、疲労が少ない | 重いがリコイル吸収に優れる |
耐久性 | 高い耐久性があり、過酷な使用にも耐える | 非常に耐久性が高く、長寿命 |
リコイル管理 | 若干の柔軟性があり、反動吸収に寄与 | 追加重量により反動が減少 |
コスト | 製造コストが低く、手頃な価格で提供しやすい | 高品質のスチール製は高価 |
カスタマイズ | カスタマイズの選択肢が限られるが、 交換可能なグリップモジュールがある場合も | カスタムグリップや仕上げなど、 豊富なカスタマイズオプション |
美観 | 現代的な外観 | クラシックな外観と感触 |
メンテナンス | 腐食に対する耐性があり、メンテナンスが容易 | モデルによっては定期的なオイルメンテナンスが必要 |
ポリマーフレームとメタルフレームのピストルには、それぞれ特有の利点と欠点があります。
ポリマーフレームは軽量で携帯に便利であり、耐久性も高く、メンテナンスが少なくて済みますが、カスタマイズの選択肢が限られます。
金属フレームは重く、リコイル吸収に優れ、カスタマイズが豊富でクラシックな外観を持ちますが、メンテナンスが必要で高価な傾向があります。
どちらのフレームも信頼性が高く、個人の好みや用途に応じて選択されるのが一般的です。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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