射撃時に発生する反動(リコイル)の大きさを計算する計算機です。
反動を数値化することにより、異なる銃の反動を比較しやすくなります。
今回は銃の反動と反動計算機の使い方について解説します。
反動(リコイル)とは?
反動とは、力が働くとき、その反対方向に働く力です。
銃の発射原理は、装薬(火薬)の燃焼により発生するガスを利用し、高圧ガスにより弾頭を銃身内で加速させて銃口から発射しています。
ニュートン力学の「作用反作用の法則」により、弾頭を前進させる力が発生すると同時に、銃を後退させる力が発生します。
このとき、銃と弾頭には大きな質量差があるため、弾頭は高速移動する一方、銃本体は相対的に遅い速度で後退します。
この銃を後退させる力が反動です。
反動は銃身の位置で発生しており、銃のグリップは銃身より低い位置にあるため、発射時には銃口が跳ね上がる「マズルジャンプ」が起こります。
反動速度(リコイルベロシティー)
反動によって銃が後退するとき、使用弾薬や銃の重量のバランスにより銃の後退速度が異なります。
後退速度が速いと射手は反動を強く感じ、反対に後退速度が遅いと射手は反動を軽く感じます。
仮に反動を生じる運動エネルギーが大きくても、相対的に銃が重いことで後退速度が低下すると、反動が軽く感じられます。
そのため、反動速度は射手が知覚する反動の大きさを表す指標になります。
リコイルエナジー(反動エネルギー)
マズルエナジーとは、銃口から発射される弾頭が持つ運動エネルギーです。
リコイルエナジーとは、後退する銃に生じる運動エネルギーです。
後ろから支えられていない状態の銃に生じる反動はフリーリコイル(自由反動)と呼ばれます。
マズルエナジーやリコイルエナジーの単位はフィートポンド(ft-lbf)、またはジュール(J)が使用されます。
リコイルエナジーは反動を生じさせるエネルギーの大きさを表しますが、リコイルエナジーの大きさと反動の大きさは比例しません。
射手が知覚する反動の大きさは、リコイルエナジーの大きさと銃の重量との差(バランス)によって異なります。
また実際の反動の感じ方は、銃の作動方式、銃のデザイン、リコイルパッドの有無、グリップデザインの違い、射手の身長体重、射撃経験の有無など、様々な条件によって異なります。
反動計算機は異なる銃の大まかな反動の比較が可能ですが、詳細な反動を割り出すものではありません。
反動の比較例
反動計算機を使用して実際に反動を比較してみます。
M4カービン VS AK-47
例として、5.56x45mm弾を使用するM4カービンと、7.62x39mm弾を使用するAK-47を比較すると、以下の結果になります。
M4カービン 5.56x45mm (ヤードポンド) | AK-47 7.62x39mm (ヤードポンド) | M4カービン 5.56x45mm (メートル) | AK-47 7.62x39mm (メートル) | |
---|---|---|---|---|
弾頭重量 | 62 gr | 123 gr | 4 g | 8 g |
銃口初速 | 2985 fps | 2334 fps | 910 m/s | 711 m/s |
装薬重量 | 25.9 gr | 24.5 gr | 1.68 g | 1.59 g |
装薬速度 | 5200 fps | 5200 fps | 1585 m/s | 1585 m/s |
銃の重量 | 6.4 lbs | 7.62 lbs | 2.9 kg | 3.47 kg |
反動速度 | 7.14 fps | 7.77 fps | 2.17 m/s | 2.37 m/s |
リコイルエナジー | 5.07 ft-lbf | 7.15 ft-lbf | 6.85 J | 9.71 J |
マズルエナジー | 1226.98 ft-lbf | 1488.20 ft-lbf | 1656.20 J | 2022.08 J |
M4カービンとAK-47を比較すると、反動速度には約9%の差があり、リコイルエナジーは約41%の差があります。
7.62x39mm弾が生じるエネルギーは5.56mm弾よりも明らかに大きい。しかし、AK-47はM4カービンよりも本体重量が重いため、慣性により反動が軽減され、射手が感じる反動の差はそれほど大きくないことが推測できます。
私はM4カービン(民間フルオートモデル)とAK-47の射撃経験がありますが、確かにAK-47の方が若干大きな反動を感じられるものの、特段「大きな差」とは言い難い違いです。
.357マグナム VS .44マグナム
ベレッタ92FS(9mm)、コルトパイソン(.357マグナム)、S&W M29(.44マグナム)を比較すると、以下の様になります。
ベレッタ92FS 9mm | コルトパイソン 4インチ .357マグナム | S&W M29 4インチ .44マグナム | |
---|---|---|---|
弾頭重量 | 115 gr | 158 gr | 240 gr |
銃口初速 | 1112 fps | 1340 fps | 1442 fps |
装薬重量 | 6.1 gr | 10.7 gr | 23.3 gr |
装薬速度 | 5600 fps | 5600 fps | 5600 fps |
銃の重量 | 2.08 lbs | 2.625 lbs | 2.74 lbs |
反動速度 | 11.13 fps | 14.78 fps | 24.85 fps |
リコイルエナジー | 4.00 ft-lbf | 8.92 ft-lbf | 26.29 ft-lbf |
マズルエナジー | 315.84 ft-lbf | 630.12 ft-lbf | 1108.40 ft-lbf |
コルトパイソンとS&W M29は銃の重量が比較的近いですが、.44マグナムは弾頭重量が重く装薬量が多いこともあり、圧倒的な反動の大きさです。
反動速度を比較すると、コルトパイソンはベレッタ92FSより32%増、S&W M29はコルトパイソンより68%増となっています。
ライフルのAK-47と比較すると、マズルエナジーはライフルの方が大きいですが、反動はコルトパイソンやS&W M29の方が強いことがわかります。
今回の比較はあくまで一例であり、弾頭重量や装薬の条件が異なれば結果も異なる数値になりますが、どのような差があるのかといった大まかなイメージは掴めるのではないでしょうか。
反動計算機の使い方
反動計算機には以下のそれぞれの数値を入力してください。
弾頭重量
弾頭重量はグレイン(gr)またはグラム(g)を使用します。
1グレインは0.0647989グラムです。
使用する装薬や銃の重量が同等のとき、弾頭重量を増加させると反動が大きくなる傾向があります。
銃口初速(MV / マズルベロシティー)
銃口初速は銃口付近で計測された弾速です。
単位はフィート毎秒(fps)(ft/s)、またはメートル毎秒(m/s)を使用します。
装薬重量(無煙火薬)
装薬重量は、弾薬に装填された装薬(火薬)の重量です。
単位はグレイン(gr)、またはグラム(g)を使用します。
使用される弾頭重量や装薬重量は目的によって様々ですが、以下は装薬重量の一例です。
弾薬 | 弾頭重量 (グレイン) | 銃口初速 (fps) | 装薬の種類 | 装薬重量 (グレイン) |
---|---|---|---|---|
.380ACP | 115 gr | 726 fps | Power Pistol | 2.7 gr |
9mmルガー | 115 gr | 1112 fps | Power Pistol | 6.1 gr |
.357SIG | 115 gr | 1385 fps | AA #7 | 11.6 gr |
.40S&W | 200 gr | 850 fps | Power Pistol | 5.3 gr |
10mm Auto | 180 gr | 1038 fps | 3N37 | 7.6 gr |
.45ACP | 230 gr | 753 fps | Unique | 6.0 gr |
.45コルト | 250 gr | 762 fps | Titegroup | 5.7 gr |
.38スペシャル | 158 gr | 726 fps | HS-6 | 6.0 gr |
.357マグナム | 158 gr | 1340 fps | AA #7 | 10.7 gr |
.44マグナム | 240 gr | 1442 fps | H110 | 23.3 gr |
5.56x45mm NATO | 70 gr | 2784 fps | A-2230 | 22.5 gr |
6.5mmクリードモア | 130 gr | 2693 fps | RL15 | 37 gr |
7.62x39mm | 123 gr | 2334 fps | H4198 | 24.5 gr |
7.62x51mm NATO | 165 gr | 2428 fps | Norma 202 | 40.5 gr |
.338ラプアマグナム | 250 gr | 2834 fps | N560 | 83 gr |
.50BMG | 750 gr | 2765 fps | V24N41 | 218 gr |
12ゲージ 00バック | 536 gr | 1205 fps | W572 | 23.3 gr |
装薬重量(黒色火薬)
通常、無煙火薬(スモークレスパウダー)では重量で計測され、黒色火薬(ブラックパウダー)では体積を計測するのが一般的です。
ですが、使用する黒色火薬の種類から体積と重さをあらかじめ知っている場合は重さで換算し計測可能です。
以下は黒色火薬(3F/Pyrodex代替黒色火薬)の装薬重量の一例です。
リボルバーの口径 | 弾頭直径 (インチ) | 弾頭形状 | 装薬重量 (最小値) | 装薬重量 (最大値) |
---|---|---|---|---|
.31レミントン | .315 | 球 | 7 gr | 12 gr |
.31レミントン | .315 | 尖頭 | 6 gr | 11 gr |
.36コルト | .380 | 球 | 16 gr | 25 gr |
.36コルト | .380 | 尖頭 | 12 gr | 15 gr |
.44コルト .44レミントン | .454 | 球 | 22 gr | 30 gr |
.44コルト .44レミントン | .454 | 尖頭 | 19 gr | 25 gr |
.44コルトウォーカー .44ドラグーン | .454 | 球 | 25 gr | 40 gr |
.44コルトウォーカー .44ドラグーン | .454 | 尖頭 | 20 gr | 35 gr |
装薬速度
軽量とはいえ装薬にも質量があり、発射時に弾頭よりも速く移動するため反動に影響します。
ハンドガンやショットガンで使用される速燃性装薬は速度が速く、ライフルで使用される遅燃性装薬は速度が遅くなります。
しかし、異なる銃の反動を比較する場合において、装薬速度を厳密に考慮する必用はありません。
一律に5,000 fps(1524 m/s)と仮定して計算しても問題ないでしょう。
以下は平均的な装薬速度の例です。
装薬 | 装薬速度 fps | 装薬速度 m/s |
---|---|---|
ハンドガン用無煙火薬 ショットガン用無煙火薬 | 5600 | 1707 |
ライフル用無煙火薬 | 5200 | 1585 |
大口径ライフル用無煙火薬 | 4700 | 1433 |
黒色火薬 | 2250 | 685.8 |
銃の重量
銃の重量はポンド(lbs)、またはキログラム(kg)で入力します。
1ポンドは0.453592 kgです。
同一の弾薬を使用したとき、銃の重量が重いほど反動は軽く感じられます。
逆に軽量な銃でマグナム弾などの強力な弾薬を使用すると強い反動で手を傷める原因にもなります。
反動を算出する計算式
反動を計算する計算式は様々存在しますが、そのなかでも最も広く一般的に利用されている計算式をご紹介します。
私が作製した反動計算機も、この計算式を利用しています。
ヤードポンド法での計算方法
反動速度 (fps) = (弾頭重量 x 銃口初速) + (装薬重量 x 装薬速度) ÷ 銃の重量 x 7000
弾頭重量115グレイン、銃口初速1112 fps、装薬重量6.1グレイン、装薬速度5600 fpsの9mmルガー弾を重さ2.08ポンドのベレッタ92FSピストルから発射した場合の反動速度を求めると以下のようになります。
反動速度 = (115 x 1112) + (6.1 x 5600) ÷ 2.08 x 7000
= 11.12912087912088
= 11.13 fps
リコイルエナジー (ft-lbf) = 銃の重量 x 反動速度の二乗 ÷ 2 x 32.1739
先ほど算出した反動速度11.13 fpsを元に、リコイルエナジーを求めると以下のようになります。
リコイルエナジー = 2.08 x 11.13 x 11.13 ÷ 2 x 32.1739
= 257.663952 ÷ 64.3478
= 4.004238715231912
= 4 ft-lbf
メートル法での計算方法
反動速度 (m/s) = (弾頭重量 x 銃口初速) + (装薬重量 x 装薬速度) ÷ 銃の重量 x 1000
弾頭重量7.45グラム、銃口初速339 m/s、装薬重量0.4グラム、装薬速度1707 m/sの9mmルガー弾を重さ0.945 kgのベレッタ92FSピストルから発射した場合の反動速度を求めると以下のようになります。
反動速度 = (7.45 x 339) + (0.4 x 1707) ÷ 0.945 x 1000
= 3,208.35 ÷ 945
= 3.395079365079365
= 3.40 m/s
リコイルエナジー (J) = 0.5 x 銃の重量 x 反動速度の二乗
先ほど算出した反動速度3.40 m/sを元にリコイルエナジーを求めると以下のようになります。
リコイルエナジー = 0.5 x 0.945 x 3.4 x 3.4
= 5.4621 J
※ここでは分かりやすくするために反動速度3.40 m/sで計算していますが、反動計算機は3.395079365079365を元に算出するため回答結果は5.45 Jになります。
最後までお読みいただきありがとうございます。
もしご質問やご意見がありましたら、お気軽にX(旧ツイッター)やYoutubeチャンネルでお知らせください。