
この記事では、銃の撃ち方と構え方の基本をご紹介します。
「撃ち方」と一言で言っても、その方法は多様であり、時代によって流行や廃りがあります。
多くのプロシューターが独自のテクニックを考案していますが、人の体格や体重、手の大きさ、そして使用する銃はそれぞれ異なります。そのため、同じ撃ち方がすべての人に最適とは限りません。
「銃は必ずこう撃たなければならない」という絶対的な答えは存在しません。重要なのは、安全で正確な射撃ができることです。
そこで本記事では、基本に絞り、誰でも取り入れやすいおすすめの撃ち方をご紹介します。
ライフルの撃ち方はこちらの記事で解説しています。
各部名称

- フロントサイト(照星) 銃口側にある照準用の突起で、狙いを定める基準となる。
- リアサイト(照門) 銃後方にある照準器で、照星と合わせて標的を狙う。
- スライド(遊底) 発射時に後退・前進し、薬室への装填や排莢を行う可動部。
- スライドリリース/スライドストップ(遊底止め) スライドを後退位置から解放し、前進させるための操作部。
- トリガーガード(用心金) 引金を囲む枠で、誤って引金に触れないよう保護する。
- トリガー(引金) 発射のために指で引く操作部。
- マガジンキャッチ(弾倉止め) マガジンを銃から取り外すためのボタン。
- フロントストラップ(握把前面) グリップ前面の部分で、握りやすさを補助する。
- バックストラップ(握把後面) グリップ背面の部分で、手のひらに接して安定性を高める。
- フレーム(機関部) 銃の基本構造を成す本体部分で、主要部品を保持する。
- マガジン(弾倉) 弾薬を収め、スライドにより薬室へ送り込む装填具。
操作手順

- マガジンをフレームに挿入する。
- スライドを引き、引ききったら手を離す。(マガジン内の弾薬が薬室に送り込まれる)
- 射撃後、弾が尽きたらマガジンキャッチを押してを空のマガジンを抜き、新しいマガジンを挿入する。
- 新しいマガジンを装填後、スライドリリースを押し下げてスライドを前進させる。
ジャム(装填不良・排莢不良)が発生した場合は、マガジンを抜いて手動でスライドを数回前後させ、薬莢や弾薬を排出させます。
グリップの基本
片手でグリップ
歴史的にハンドガン(拳銃)は片手で撃つことを前提に誕生した火器です。そこで、まずは基本となる片手グリップから解説します。
グリップの位置

可能な限り高い位置でグリップを握りましょう。 親指のつけ根と中指が、フレームの高い位置にしっかり密着していることを確認してください。
この「ハイグリップ(高い位置を握る)」は非常に重要です。
- 命中精度の向上
- 速射性の向上
- 作動不良の防止
これらすべてに直結します。
マズルジャンプと作動不良の抑制

反動は銃身軸上で発生し、発射時には手首を支点として銃口が跳ね上がります。これを「マズルジャンプ」と呼びます。
マズルジャンプを最小限に抑えるには、銃身(力点)から支点までの距離をできるだけ短くする必要があります。つまり、最も高い位置でグリップすることが重要です。
低い位置でグリップすると跳ね上がりが大きくなり、フレームの後退量が増加します。その結果、スライドの後退が相殺され、装填不良(ローディング・ジャム)が発生しやすくなります。
「甘いグリップ」は「リム・リスティング(Limp wristing)」と呼ばれ、作動不良の原因になります。必ずしっかりと握ることが求められます。
指の位置

人差し指はフレームの上に置きます。
トリガーガード内に指を入れるのは射撃するときだけです。
指先をトリガーガードに乗せる方法は安全ではなく、タクティカル・シューティングでは反応が遅れるため推奨されません。
グリップの中心線

銃の中心線が手首を通るように握り、親指で反動を受けないよう注意してください。ズレた状態でグリップすると、命中率が低下するだけでなく、手を痛めたりジャムの原因にもなります。
※両手でグリップする場合は、必ずしも中心線が手首を通る必要はありません。
両手でグリップ

ハンドガンは両手でグリップすることで安定性が増し、命中率も向上します。
ここからは、サポートハンドの使い方を解説します。
サポートハンドとは、利き手の反対側の手です。
右利き射手の左手、左利き射手の右手を「サポートハンド」と呼びます。
基本の手順

- まず右手でグリップを握ります。
- 次にサポートハンドの掌低をグリップに密着させ、右手と同様にできるだけフレームの高い位置を握ります。
- 右親指を少し上げ、サポートハンドが密着できるスペースを確保しましょう。
- サポートハンドの人差し指はトリガーガードの下に押し付けます。
サポートハンドの使い方

- 親指はフレームに当てて接地面積を増やすと安定します。
- 親指で強く押しすぎると銃口が右へ動きやすくなるため注意が必要です。
- サポートハンドで右手を包み込みます。必ずしもグリップと平行に揃える必要はありません。
- 小指までしっかり力を入れてグリップします。
トリガーガードの扱い

- 人差し指でトリガーガードを巻き込むようにグリップする方法もあります。
- トリガーガード先端にチェッカリングがある場合は、そこに指を掛ける方法も存在します。
- ただし、指が滑ってトリガーガード内に入ると誤射の危険があるため注意してください。
プロの射手でもグリップ方法は人によって異なり、手の大きさや銃の形状によって適切な方法は変わります。
一般的にはトリガーガードに指を掛けないグリップが主流です。まずはこの通常のグリップから試すことをおすすめします。

ただし、例外としてリボルバーではトリガーガードに指をかけてはいけません。リボルバーはシリンダーの先端から高圧ガスが噴出されるため、トリガーより前方に指が出ないように注意する必要があります。
グリップの強さ
- 発射後にサポートハンドが銃から離れてしまう場合は、握力が不足しています。
- 銃を力いっぱい握ると震えが生じます。そこから少しずつ力を緩め、振動が止まる程度の握力で射撃するのが理想です。
- 弱すぎず強すぎず、適度な握力が重要です。
握力の配分
- 握力は 利き手3:サポートハンド7 の割合が基本です。
- 利き手に力を入れすぎるとトリガー操作に支障が出るため、サポートハンドで強めにグリップします。
- 無理に「7:3」にこだわる必要はなく、「6:4」でも問題ありません。
プロシューターのグリップ例

もうひとつの方法として、両手を同じ力でグリップし、
- 右手を左へ回転させる
- 左手を右へ回転させる
という相互に押し合う形でグリップする方法があります。
これは USPSAチャンピオンのRobert Vogel氏 らが実践しているテクニックです。

この方法は アイソセレス・スタンス専用 のグリップです。ウィーバー・スタンスでは適用が難しいため注意してください。
スタンスについては後述します。
おすすめできないグリップ
カップ&ソーサー・グリップ

「カップ&ソーサー」とは、ティーカップと受け皿に例えられるグリップ方法です。利き手で銃を握り、サポートハンドが下側から支える形になります。「ティー・カッピング」とも呼ばれ、映画やドラマでは定番のスタイルです。
しかし、この方法には欠点があります。発射時の反動によってサポートハンドが銃から離れてしまい、次弾を撃つ際には再び握り直す必要が生じることがあります。そのため、連続射撃が可能な銃には適していません。使用するなら、シングルアクションの銃に限定されるでしょう。

アメリカの警察がリボルバーを採用していた時代には、法執行機関の公式グリップとして広く使われていましたが、時代の変化とともに見直されました。
リスト・グラビング/リスト・ロック

映画『ダーティーハリー』で有名になった「リスト・グラビング(リスト・ロック)」は、利き手の手首をもう一方の手で掴むグリップです。
見た目には力強く見えますが、実際にはマズルジャンプを抑える効果はなく、実用性のない方法とされています。
基本姿勢
基本姿勢の気をつけるべきポイントをご紹介します。
軽く前傾して重心を前へ

重心を前に移動させ、後ろから押されても倒れない程度に前傾姿勢になることで反動に対応します。
これはライフルやショットガンでより重要になる姿勢です。
どの程度の前傾姿勢が必要かは、「射手の体重」や「使用する銃の重さ」によって異なります。
腰の安定

ハンドガンやライフルに限らず、射撃時は腰を少し落とし、ボクシングの構えに近い姿勢を取ると安定します。特にフルオート射撃でも効果的です。
尻を突き出す必要はありません。自然な姿勢を心がけましょう。
体重の配分は 「5:5」または「6:4」 が理想です。片足に過度な体重を掛けると不安定になります。
両膝を軽く曲げることで、安定性が増します。
射撃直後にダッシュする場合も、膝を曲げていればスムーズに動き出せます。
片足立ちでも発射は可能ですが、命中率を高めるには安定した姿勢が不可欠です。
肘と膝は軽く曲げる
肘を伸ばしてロックすると反動を吸収できず、肩を支点として銃と腕が大きく跳ね上がりがちです。
連射する場合は、腕全体の跳ね上がりを最小限に抑え、手首から先だけが跳ね上がるように意識しましょう。これにより、次弾への移行がスムーズになります。
反動が小さい銃を使用する場合は、肘を伸ばしきってロックしても問題ありません。反動が小さいため、腕の跳ね上がりを抑える必要がないからです。
反動を制御できるかどうかは、
- 体重
- 筋力
- 経験
といった要素によって左右されますが、射撃は体格差よりも技術が影響します。
足の向きと位置

- (右利き射手は)右足を半歩後ろに引き、つま先を 45度外側 に開きます。
- 左足のつま先は目標方向へ向けます。
- 体重は両足の「親指の付け根」に均等に配分しましょう。
両足を揃えるよりも、片足を半歩下げることで安定性が増します。これにより、連射時でも反動に対応しやすくなります。
片足を下げたスタンスは、次の動作に移りやすいという利点もあります。射撃後の移動や回避行動にスムーズに移行できます。
このスタンスはハンドガンだけでなく、ライフルやショットガンにも有効です。射撃全般において安定性と機動性を両立できる基本姿勢といえます。
自然な姿勢と視線の位置
射撃姿勢の基本は自然体です。首を傾げず、銃を目線の高さまで持ち上げましょう。
銃のサイトを覗きに行くのではなく、自分の目とターゲットの間にサイトを置くのです。
銃を構える際、頭を斜めに傾ける射手(右利きなら右へ)がいます。しかしこれは不自然な姿勢であり、正しい方法ではありません。
頭を動かさず、銃を目線の先に突き出すようにして構えます。これにより、
- 「ターゲット認識 → 構え → 発砲」までの一連の動作がスムーズになる
- 広い視界を確保できるため、複数ターゲットへの対応が可能になる
この原則はハンドガンだけでなく、ライフルでも同様です。頭を動かすのではなく、銃を目線の先に移動させることが重要です。
スタンスの種類
有名な射撃姿勢に「ウィーバー」や「アイソセレス」があります。
現代では「モディファイド・アイソセレス」や「センター・アクシス系」が主流です。
| スタンス | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| ウィーバー・スタンス | 反動を体で抑えやすい | 体が横向きになり防護面が減る |
| チャップマン・スタンス | 反動制御が安定しやすい | 片腕をロックするため柔軟性が下がる |
| アイソセレス・スタンス | 正面で構えるため視界が広い | 反動を腕で受けやすく疲れやすい |
| モディファイド・アイソセレス | 安定性と素早さのバランスが良い | 姿勢づくりに慣れが必要 |
| センター・アクシス・リロック | 近距離での取り回しが良い | 中距離以降の精度が下がりやすい |
ウィーバー・スタンス(1950年代後半以降)

ウィーバースタンス(Weaver Stance)は、1950年代後半にアメリカのロサンゼルス郡保安官補ジャック・ウィーバー氏が考案した射撃姿勢です。利き手側の足を後ろに、反対側の足を前に置いて斜めに構え、利き手で銃を前方に押し出しながらサポートハンドで後方へ引くように力を加えることで、両手の拮抗的な力によって反動を制御します。
利き手の腕はほぼ伸ばし、サポートハンド側の腕は曲げて下方向に構えるため、マズルジャンプを抑え、照準の復帰を早める効果があります。この姿勢は片手撃ちより安定性が高く、連射時の精度向上に寄与しました。
長らく法執行機関や射撃競技で広く採用されましたが、現在では防弾ベストを正面に向けやすく動きやすいアイソセレススタンスが主流となっています。
チャップマン・スタンス(1960年代以降)

チャップマン・スタンス(Chapman Stance)は、1960年代にアメリカの警察官レイ・チャップマン氏によって考案された射撃姿勢で、安定性と精度を高めるために工夫された両手構えです。
チャップマン・スタンスは、ウィーバースタンスを基盤にした「改良型ウィーバー」とも呼ばれています。射手は肩幅程度に足を開き、利き手側の足をやや前に出して体を斜めに構えます。膝を軽く曲げて体重を均等に分散し、銃を構える際には利き手の腕をほぼ完全に伸ばしてロックし、サポートハンドで銃を支えながら後方へ引くように力を加えます。この拮抗的な力のかけ方によって反動を抑え、照準の安定を維持しやすくなります。
このスタンスの大きな特徴は、利き手の腕を伸ばして「骨格で支える」形を取るため、筋力に頼らず長時間安定した射撃が可能になる点です。サポートハンド側の腕は曲げて支えるため、銃のコントロール性が高まり、素早い照準復帰が実現します。結果として、チャップマン・スタンスは精度を重視する競技射撃や法執行機関で広く採用されました。
現代ではアイソセレススタンスが主流になりつつありますが、チャップマン・スタンスは依然として「安定性と精度を両立する構え」として評価されています。特に長時間の射撃や精密射撃において有効です。
アイソセレス・スタンス(1980年代以降)

アイソセレススタンス(Isosceles Stance)は、両腕を前方に伸ばして銃を構えた際に、上から見た姿勢が二等辺三角形に見えることから名付けられた射撃姿勢です。
このスタンスは、1980年代にブライアン・イーノス氏やロブ・リースサム氏といった競技射撃のトップ選手がIPSC競技会で使用し、広く知られるようになりました。射手は足を肩幅程度に開き、体を正面に向けて両腕をほぼまっすぐ前方に伸ばし、両手で銃を保持します。利き手の指が銃を握り、サポートハンドがその上から包み込むように支えるため、左右対称の安定した構えになります。肘は完全にロックせず、わずかに曲げることで反動を吸収しやすくなります。
アイソセレススタンスの利点は、シンプルで習得しやすいことにあります。初心者にとって理解しやすい基本姿勢であり、反動を全身で受け止めるため照準の復帰が早く、複数のターゲットを素早く切り替える際にも有効です。また、体を正面に向けるため、防弾ベストを着用する法執行官にとっては防御面でも合理的とされました。
一方で、ウィーバースタンスのように体を斜めに構える姿勢に比べると、横方向の安定性に欠けると指摘されることもあります。しかし、現代の競技射撃やタクティカルトレーニングでは、アイソセレススタンスが「標準的な構え」として広く採用されています。
| 項目 | アイソセレス | ウィーバー |
|---|---|---|
| 体の向き | ターゲットに正対 | 斜めに構える |
| 足の位置 | 肩幅で同じ位置か軽い前後差 | 利き足が後ろ、反対足が前 |
| 腕とグリップ | 両腕を対称に伸ばす | 利き腕で押し、反対腕で引く |
| 主な用途 | ハンドガン、競技 | ハンドガン、防御向け |
| 強み | 動きやすく自然 | 露出が少なく安定 |
| 弱み | 防護なしだと露出が大きい | 回旋しにくい、習得に時間 |
アイソセレススタンスは「スクエアオフスタンス(squared off stance)」とも呼ばれます。これは体の正面をターゲットに向けて構えるという意味です。肩と足を正面に向け、腕を伸ばして銃を構えることで、射撃時の安定性と素早い動きを実現します。特に、スクエアオフスタンスはライフル射撃でよく使用される用語です。

ドラマ「24」のジャック・バウアーは右腕を伸ばして左肘を大きく曲げるウィーバー・スタンスで撃つことが多いようです。
アイソセレススタンスとよく比較されますが、実際に撃ち合いとなったとき、人間は強いストレス状況下で自然に両腕を突き出して射撃する傾向が強いため、アイソセレスの方が実戦的と言われます。
モディファイド・アイソセレス(1980年代後半以降)

モディファイド・アイソセレス(Modified Isosceles Stance)は、従来のアイソセレススタンスを基盤にしながら、より自然で柔軟な姿勢を取り入れた現代的な射撃姿勢です。
このスタンスは、1980年代以降に競技射撃や法執行機関の訓練で広く普及したアイソセレススタンスを改良したもので、射手が両腕を前方に伸ばして銃を保持する点は同じですが、従来のように完全に直立して硬直した姿勢ではなく、膝を軽く曲げ、上半身をやや前傾させることで反動を全身で吸収しやすくしています。足の位置も肩幅よりやや広く取り、体重を足の前方にやや多くかけることで安定性を高めます。利き手とサポートハンドは左右対称に銃を保持しますが、肘は完全にロックせず、わずかに曲げることで柔軟性を持たせています。
この姿勢の利点は、従来のアイソセレススタンスよりも自然な体の動きに適応できることです。硬直した姿勢では長時間の射撃や動的な状況で疲労が蓄積しやすいのに対し、モディファイド・アイソセレスは筋肉と骨格のバランスを活かし、より持続的で快適な射撃を可能にします。また、防弾ベストを着用する法執行官にとっては、体を正面に向けたまま安定した射撃ができるため、防御面でも合理的とされています。さらに、競技射撃においては複数ターゲットへの素早い照準切り替えや反動からの復帰が容易になるため、スピードと精度の両立に優れています。
現代の射撃訓練では、モディファイド・アイソセレスが「標準的な構え」として広く採用されており、初心者から熟練者まで幅広く推奨されています。特に、従来のアイソセレススタンスが持つシンプルさを維持しつつ、より実戦的で人間工学的に自然な姿勢を提供する点で高く評価されています。

筆者はウィーバーとモディファイド・アイソセレス・スタンスの中間を好みます。これは映画『コラテラル』でヴィンセント(トム・クルーズ)が採用していた撃ち方に近い方法です。
- 体は目標に対して正面を向ける。
- 利き手側を伸ばし、サポートハンド側の肘は軽く曲げる。
- 利き手側の肘はロックさせず、反動を受けた際に自然に曲がるようにする。
この構えにより、反動を柔軟に吸収しつつ安定した射撃が可能になります。
『コラテラル』では、元SAS隊員の Mick Gould氏 がテクニカルアドバイザーとして参加し、リアルで迫力あるガンアクションを演出しました。劇中の撃ち方は、実戦的かつ洗練されたスタイルとして高く評価されています。
撃ち方には人それぞれ好みがあります。最終的には、自分の体格や経験に合った「良い結果を出せるスタイル」を選択することが重要です。
センター・アクシス・リロック(1995年以降)

センター・アクシス・リロック(Center Axis Relock / CAR)は、近接戦闘に特化した射撃システムであり、銃の保持と操作を従来のスタンスとは異なる方法で行うことによって、反動制御や保持を強化する技法です。
このシステムは、イギリス出身の法執行官であり射撃インストラクターであったポール・キャッスル氏によって考案されました。彼は従来のウィーバーやアイソセレスといったスタンスが現実の近接戦闘において十分に適応できないと考え、より実用的で柔軟な方法を模索。CARでは射手が体をやや斜めに構え、銃を胸の近くに保持することで、狭い空間でも素早く照準を合わせることができます。両手を近い位置で組み合わせるため、銃を奪われにくく、また反動を効率的に吸収できる点が特徴です。
このシステムには複数のポジションがあり、胸の前で銃を保持する「ハイ(High)」、やや前方に突き出す「コンバットハイ(Combat High)」、肘を曲げてサイトを覗く「エクステンデッド(Extended)」、腕を完全に伸ばす「アポジー(Apogee)」などが存在します。状況に応じてこれらを使い分けることで、近距離から中距離まで柔軟に対応することが可能です。特に屋内戦闘や車内のような狭い環境で有効とされ、法執行機関や軍の一部で採用されました。

CARは映画『ジョン・ウィック』シリーズで主人公が使用したことで一般にも広く知られるようになり、射撃コミュニティで注目を集めました。また、アニメ『リコリス・リコイル』に登場したことでも知られています。実際には賛否両論があり、従来のスタンスに比べて特殊な技法であるため、訓練を受けていない人には不自然に見えることもあります。しかし、近接戦闘における素早い照準という点では高い評価を受けており、射撃理論の一つとされています。
サイトと照準方法
ハンドガンの照準方法は非常に重要な基礎です。
両目を開いて(右利きの場合は)右目でサイトを確認し、フロントサイトの頂上をターゲットに合わせて撃ちます。

両目を開けて狙ったとき、この図のように見えたらあなたの利き目は右目です。
反対に、銃の右側面が見える場合は左目が利き目です。
右利きの射手は右目で射撃するのが基本です。
もし右利きで利き目が左目の場合は、顔を少し右へ向けると良いでしょう。
顔が斜め右前方を向くと銃と左目が身体の中心軸上に位置するため、反動を受けても銃をコントロールしやすくなります。
利き目に関係なく慣れないうちは図のように銃が二重に見えますが、経験を積むと自然と1丁の銃しか見えなくなります。
「気にならなくなる」といった方が良いかもしれませんが、人間の脳は不思議と順応します。
フロントサイトに集中する

フロントサイトとリアサイトの高さを水平にし、フロントサイトがリアサイトの中央に位置するようにして狙います。
しかし、実際にはこの図のように見えません。
目の焦点はサイトとターゲットのどちらかに合わせる必要があります。

静止ターゲットを正確に狙うには、目の焦点をフロントサイトに合わせます。
フロントサイトに焦点が合うと、ターゲットとリアサイトがボケて見えますが問題ありません。
しっかりとサイトを見ながら射撃することで命中率が向上します。
ライフルのスコープも同様に、レティクル(照準の十字線)にフォーカスして狙います。
近距離でスピードを重視する場合

10メートル以下といった近距離でサイトを見る必要はありません。
近距離かつスピードが重視される場合は、ターゲットに目の焦点を合わせて狙います。
命中率とスピードのバランスは、状況によって臨機応変に対応します。
距離と照準の関係
一般的にハンドガンのサイトは 25メートル、または 25ヤード(約22.86メートル) の距離で命中するように調整されています。
9mmルガー(115グレイン)の場合
- 50ヤード(約45.72メートル)までは、弾がほぼ水平に飛ぶと考えて問題ありません。
- 50ヤードを超えると弾道が下がり始めるため、100ヤード(約91.44メートル)を狙う際は 約15cm上へ照準を修正 すると良いでしょう。
.45ACP(230グレイン)の場合
- 50ヤードでは 約5cm上へ修正。
- 100ヤードでは 約40cm上へ修正。
弾道の落下量は弾薬の種類や弾頭重量によって異なります。射撃距離が伸びるほど補正が必要になるため、使用する弾薬に応じて狙点を調整することが重要です。
トリガーの引き方
指の腹でトリガーを引く

トリガーは 指の腹で引く のが基本です。
- 指先で引くと銃口が左へ寄り、狙点より左に命中しやすくなります。
- 関節で引くと銃口が右へ寄り、狙点より右に命中しやすくなります。
ダブルアクショントリガーは移動距離が長く、トリガープルも重いため、関節で引いた方が良い結果を得られる場合もあります。
おすすめは、
- 指の腹の中央
- 指の腹の関節寄り
この位置で引くと安定した射撃につながります。
トリガーは回転式であっても、真っ直ぐ後ろへ引く ことを意識しましょう。イメージとしては「ボタンを押す」感覚です。
銃の上にコインを載せ、落とさないようにトリガーを引いて空撃ちする練習は効果的です。トリガー操作の安定性を確認できます。
もし指の腹でトリガーを引けない場合は、その銃が手の大きさに合っていない可能性があります。グリップを調整するか、別の銃を選ぶことを検討しましょう。
命中精度を上げるコツ
拳銃射撃を体験すると、「なぜ狙ったところに命中しないのか?」と疑問に思うことがあります。
その原因のひとつは、射手が考える発射のタイミングと実際の発射にズレがあるためです。このズレを修正するには、トリガーの仕組みを理解する必要があります。
トリガー操作の三段階
初心者はトリガー操作を「引く」「戻す」の二段階だと考えがちですが、実際には以下の三段階で構成されています。
- 引く(遊びの部分)
- 引き始めは軽く、抵抗が少ない。
- 引く(ウォール)
- ある程度引いたところで抵抗が強くなり、この部分を「ウォール(壁)」と呼びます。
- さらに引き続けると撃発し、弾が発射されます。
- 戻す(リセット)
- 発射後、トリガーを戻すと「リセット位置」で次弾に備えられます。
トリガーを引いたときに、「どの位置でウォールに当たるか」、「どこまで引くと撃発するか」というトリガーの位置を体で覚えます。
これにより「撃発のタイミング」と「サイトがターゲットに合うタイミング」を一致させやすくなり、高い命中率を得られます。
速射時の流れ
連続射撃では、最初の「遊びの部分」をスキップし、以下の流れを繰り返します。
- トリガーをウォールまで素早く引く
- 銃を静止させたまま慎重に引き切り、初弾を発射
- トリガーをリセット位置まで戻す
- 再びウォールを引き、次弾を発射
次弾以降は「遊びの部分」を引かないように注意してください。
この操作は一朝一夕では身につきません。
反復トレーニングを重ねることで、自然に正しいトリガーコントロールができるようになります。
命中しない原因と改善
ターゲットの中心を狙っても、着弾点が下方や上方に集中することがあります。
原因として、以下の3点を確認してください。
グリップの圧力差

両手でグリップすると、銃には前方から後方へ、後方から前方へ圧力が掛かります。
- 狙点より下方に着弾 → 後方から前方への圧力不足。
- 利き手でバックストラップ(グリップ後面)への圧力を強めましょう。
- 狙点より上方に着弾 → 前方から後方への圧力不足。
- サポートハンドでフロントストラップ(グリップ前面)への圧力を強め、銃が前後から固定されているか確認してください。
フリンチング(Flinching)

射撃時の反動を予測して無意識に体が反応することを「フリンチング」と呼びます。発射の瞬間に銃を前へ突き出すことで銃口が下がり、着弾点が下方に移動します。
対策例
- リボルバーでランダムに3~4発を装填し、発射か空撃ちか分からない状態で射撃を繰り返す。
- 空撃ち時に銃口が下がれば、自分のフリンチングを認識できます。
- .357マグナムリボルバーで、.38スペシャル弾と.357マグナム弾を混ぜて発射する。
- 反動の変化に慣れることで「反動への耐性」を鍛えられます。
- 精神面では「自分は銃を発射する機械だ」と思い込み、反動を気にせずトリガーを引く反復運動に集中することも有効です。
これらは筆者が実際に試して効果を確認できた方法です。
リコイルスプリングの強さ(セミオートピストルの場合)

リコイルスプリングはスライドを前進させるためのバネです。
リコイルスプリングが強すぎると、スライドが勢いよく前進し、慣性で銃口が下がり次弾以降の着弾点が下方に移動しやすくなります。
対策例
- 反発力の弱いリコイルスプリングに交換する。
- ただし、弱すぎるとマズルジャンプが大きくなったり、装填不良の原因になるため、銃に合った適正な強さを探る必要があります。
正しくできているか確認する方法
空撃ちで確認

トリガープルやグリップが正しくできているか確認する方法を紹介します。
これは、強く・速くトリガーを引くことで、銃の挙動を観察し、グリップや姿勢の欠点を明らかにします。
リコイルのない空撃ち状態(ドライファイア)で行うため、純粋に「自分の操作」が銃の動きにどう影響しているかを確認できます。
手順
- 照準点を設定
- 小さな目立つマークをターゲットに貼り、そこに視線を固定する。
- フロントサイト(またはドットサイトのレティクル)は「その上に重ねる」だけで、視線は常にターゲットに集中。
- トリガーを強く叩く
- 普段の「丁寧なトリガープル」ではなく、わざと荒く・強く引く。
- これは「実戦状況」で急激にトリガーを引く場面を想定した訓練でもあります。
- ドットの動きを観察
- ドットがターゲット上で「わずかに揺れる」程度なら良好。
- ドットが大きく逸れる場合は、身体のどこかで余計な力が加わっている証拠です。
よくある問題と原因
- ドットが左下に流れる(右利きの場合) → 射撃手の「利き手の圧力変化」が原因。トリガーを強く引く際に握り方が変わっている。
- ドットが上に跳ねる → 「肩や腕で押し込む動作」や「手首の構造変化」が原因。無意識に銃を抑え込もうとしている。
- ドットが右に流れる(右利きの場合) → 「サポートハンドの圧力変化」が原因。サポートハンドが押しすぎている。
修正のポイント
- グリップの一貫性を維持
- トリガーを強く引いても、グリップの圧力や手首の角度を変えない。
- 肩や腕の余計な緊張を排除
- 力みすぎると銃に影響が伝わる。リラックスしつつ安定させる。
- 視線を固定
- ドットを「追いかける」のではなく、ターゲットの一点に集中し、ドットの動きを「認識」する。
目を閉じて確認
これは正しくグリップできているかを確認する方法のひとつです。
- 目を閉じてターゲットに向かって銃を構える。
- 目を開けたとき、サイトがどこにあるか確認。
- サイトがずれている場合は、グリップを修正。
これを繰り返します。
リロード(マガジン交換)
スピードアップのコツ
リロードの際は、右手の中指・薬指・小指をグリップの前面に添え、親指で確実にマガジンキャッチを押してください。人差し指はトリガーガード内に入れず、必ずフレームの上に置きます。
腰のベルトに予備マガジンを固定している場合は、サポートハンドの掌をマガジンボトムに押し付けるようにしてしっかり握り、人差し指をマガジンの前面に添えます。マガジンが短い場合は、弾頭に人差し指を置くと良いでしょう。これにより、目視せずともマガジンの向きを認識でき、確実に銃へ挿入することが可能になります。

タクティカルシューティングでは、銃を顎の高さまで持ち上げてリロードし、視線を下げずに周囲の状況を確認しながら行います。その際、銃の位置は身体から遠すぎず近すぎず、スムーズにマガジンを挿入できる位置を身体で覚えることが重要です。
銃が身体から離れすぎるとマガジン挿入が困難になるだけでなく、時間のロスにもつながります。逆に近すぎると、マガジンが衣服に引っ掛かりやすくなったり、挿入後にスライドを操作しづらくなるほか、再び腕を突き出して射撃体勢を取るまでに時間を要します。
このような無駄な動きを排除することが、マガジン交換のスピードアップにつながります。
スライドストップは使うべきか

スライドがホールドオープンの状態でマガジンを抜き、新しいマガジンを銃に叩き込んだら、スライドストップを下げてスライドを前進させるか、あるいはスライドを手で引いて前進させます。通常はどちらの方法でも問題ありません。
ただし、タクティカルシューティングでは「スライドストップを操作するか」「スライドを手で引くか」について議論がよく行われます。スライドストップを操作する方がスピードは速いですが、ストレス状況下では操作しづらい場合があり、スライドを手で引いた方が確実だと考えられています。そのため、手で引くクセをつけた方が良いという意見もあります。

一方で、筆者は個人的にスライドストップを利用する派であり、プロシューターもスライドストップを多用しています。スライドを手で引いた場合、誤ってスライドから手を離すのが遅れると、スライド前進時に手が抵抗となり、前進速度が遅くなることで装填不良につながる可能性があります。
結論として、どちらの方法が良いかは射手の考え方や状況次第です。自分に合った方法を選び、確実に操作できるように練習しておくことが重要です。
射撃で最も大切なこと

銃を扱う際に最も大切なことは安全です。常に銃口の位置に意識を集中させ、銃口は必ず安全な方向へ向けてください。
また、トリガーを引く指は撃つ瞬間までトリガーガードの中に入れてはいけません。これは誤射防止のための基本的なルールです。
銃口の方向に意識を向けることは、安全の確保だけでなく、目視せずとも銃口の位置を三次元的にイメージできるようになるため、弾道のイメージがしやすくなり、命中精度の向上にも役立ちます。
理論的にはエアガンでも同じですので、エアガンを使用して練習するのも効果的です。
グリップ関連
- ハイグリップ(High Grip) 銃をできるだけ高い位置で握る方法。命中精度・速射性・作動不良防止に直結する重要な握り方。
- リム・リスティング(Limp Wristing) グリップが甘く、手首が柔らかすぎることで作動不良を起こす現象。
- カップ&ソーサー・グリップ(Cup & Saucer Grip) 利き手で銃を握り、もう一方の手で下から支える方法。映画でよく見られるが、反動に弱く非推奨。
- リスト・グラビング/リスト・ロック(Wrist Grabbing / Wrist Lock) 利き手の手首をもう一方の手で掴む方法。見た目は力強いが実用性は低い。
射撃姿勢(スタンス)
- ウィーバー・スタンス(Weaver Stance) 1950年代に考案。利き手で銃を押し出し、補助手で引く拮抗力で反動を制御する斜め構え。
- チャップマン・スタンス(Chapman Stance) ウィーバーを改良した姿勢。利き手の腕を伸ばして骨格で支えるため、長時間安定した射撃が可能。
- アイソセレス・スタンス(Isosceles Stance) 両腕を前方に伸ばし、二等辺三角形の形になる構え。シンプルで初心者向け。現代の主流。
- モディファイド・アイソセレス(Modified Isosceles) アイソセレスを改良し、膝を軽く曲げ前傾姿勢を取り入れた自然で柔軟な構え。
- センター・アクシス・リロック(Center Axis Relock / CAR) 近接戦闘用の構え。銃を胸の近くに保持し、狭い空間で素早く照準できる。映画『ジョン・ウィック』で有名。
照準・トリガー関連
- フロントサイト(Front Sight) 銃の前方にある照準器。ここに焦点を合わせるのが基本。
- リアサイト(Rear Sight) 銃後方の照準器。フロントサイトと水平に合わせて狙う。
- ウォール(Wall) トリガーを引いた際に抵抗が強くなる位置。ここを意識して撃発タイミングを合わせる。
- リセット(Reset) 発射後にトリガーを戻した際、次弾発射に備えられる位置。
- フリンチング(Flinching) 反動を予測して体が無意識に反応し、銃口が下がる現象。命中率低下の原因。
その他技術用語
- マズルジャンプ(Muzzle Jump) 発射時に銃口が跳ね上がる現象。グリップ位置で抑制可能。
- リコイルスプリング(Recoil Spring) セミオートピストルの反動を吸収するバネ。強すぎると銃口が下がり、弱すぎると作動不良を起こす。
- スライドストップ(Slide Stop) 弾切れ時にスライドを後退位置で固定する部品。リロード時に操作してスライドを前進させる。





