
ダムダム弾とホローポイント弾は、どんな違いがあるのでしょうか?
この記事では、これらの弾薬の違い、禁止された理由、そしてそれが戦争に与えた影響を解説します。
この記事では以下のことが学べます。
この記事を読むことで、ダムダム弾とホローポイント弾の構造や用途の違い、ダムダム弾が禁止された背景、他の弾薬との比較が理解できます。
ホローポイント弾とは?

ホローポイント弾とは、弾頭の先端に穴/凹み(hollow)が備わっている弾薬です。
「先端(ポイント)」に「凹み(ホロー)」があることから、「ホローポイント」と呼ばれます。

- ホローポイント・キャビティー(先孔): 弾頭先端の空洞部分で、命中時に拡張し威力を高める構造。
- ジャケット(被甲): 弾頭を覆う金属製の外装で、精度や貫通力を向上させる役割を持つ。
- コア(弾芯): 弾頭の内部にある主要な金属部分で、貫通やダメージを与える中核部分。
- パウダー(装薬): 弾薬内部に充填された火薬で、燃焼して弾頭を推進する役割を果たす。
- ケース(薬莢): 装薬や弾頭を収納し、発射時にガス圧を保持する金属またはプラスチック製の容器。
- プライマー(雷管): 火薬を着火するための小型爆発装置で、発射の引き金となる重要部品。
ホローポイント弾は、人体など、ソフトターゲットに着弾すると流体によって穴が拡張します。
拡張した弾頭によって運動エネルギーが消費され、ターゲットに大きなダメージを与える仕組みです。
鉄板などの硬い物体に着弾した場合も、弾頭はある程度拡張しますが、この場合は意図された大きさに拡張せず、ホローポイント弾はあくまで人や動物に対して最大の効果が得られるよう設計されています。
ホローポイント弾は警察などの法執行機関の他、狩猟(小~中型の獲物)にも使用されています。
ダムダム弾とホローポイント弾の違いとは?

「ダムダム弾」とは、着弾時に弾頭直径が大きく拡張する設計の弾頭(拡張弾/Expanding bullet)を意味する俗称です。
着弾時に拡張する弾薬には、先端に凹みがある「ホローポイント弾」の他、先端に鉛が露出した「ソフトポイント弾」などが存在し、これらはダムダム弾の一種です。
ソフトポイント弾は先端の柔らかい鉛が着弾時に大きく変形、拡張することでターゲットに大きなダメージを与える設計です。

- ソフトポイント:コアが露出し、拡張性と貫通力のバランスを重視した設計。
- ジャケット(被甲): 弾頭を覆う金属製の外装で、精度や貫通力を向上させる役割を持つ。
- コア(弾芯): 弾頭の内部にある主要な金属部分で、貫通やダメージを与える中核部分。
- パウダー(装薬): 弾薬内部に充填された火薬で、燃焼して弾頭を推進する役割を果たす。
- ケース(薬莢): 装薬や弾頭を収納し、発射時にガス圧を保持する金属またはプラスチック製の容器。
- プライマー(雷管): 火薬を着火するための小型爆発装置で、発射の引き金となる重要部品。
弾頭全体を「ジャケット(被甲)」で被ったものは「フルメタルジャケット(FMJ)」と呼ばれ、フルメタルジャケット弾はダムダム弾ではありません。

- ジャケット(被甲): 弾頭を覆う金属製の外装で、精度や貫通力を向上させる役割を持つ。
- コア(弾芯): 弾頭の内部にある主要な金属部分で、貫通やダメージを与える中核部分。
- パウダー(装薬): 弾薬内部に充填された火薬で、燃焼して弾頭を推進する役割を果たす。
- ケース(薬莢): 装薬や弾頭を収納し、発射時にガス圧を保持する金属またはプラスチック製の容器。
- プライマー(雷管): 火薬を着火するための小型爆発装置で、発射の引き金となる重要部品。
なかには「EFMJ」と呼ばれる着弾時に拡張するフルメタルジャケット弾も存在しますが、こうした特殊な弾薬は一般的にダムダム弾とは呼ばれていません。
「先端に穴がある」「先端に鉛が露出している」「先端に切込が入っている」・・・といった加工が施されている弾薬が俗称として「ダムダム弾」と呼ばれています。
ダムダム弾の由来と歴史
インドのカルカッタ近く(現在の西ベンガル州)にダムダム(Dum Dum)という街があり、19世紀にイギリス軍が管理していた「ダムダム兵器工廠」が存在しました。
ここで製造されたソフトポイント弾頭の.303ブリティッシュ弾(Mark 2 スペシャル)は「ダムダム弾」と呼ばれ、これが由来となっています。
ダムダム弾という名称はあくまで俗称であり、拡張弾のすべてがダムダム兵器工廠で作られたわけではありません。拡張弾は古くから存在しており、19世紀半ばには既に狩猟用として使用されていました。

ダムダム弾(Mark 2 スペシャル)は、1896年にダムダム兵器工廠の監督者であるイギリス軍将校ネビル・バーティ・クレイ(Neville Bertie-Clay)によって設計されました。
当時の軍用ライフル弾は、弾頭をジャケットで覆うフルメタルジャケット弾が主流でしたが、ダムダム弾では弾頭の先端部分のジャケットを取り除き、鉛のコアを露出させたソフトポイント弾頭が採用されました。これにより、着弾時に弾頭が大きく変形・拡張し、人体に対して大きなダメージを与える設計となっています。
当時、フルメタルジャケット弾による被弾後も生存する事例があり、イギリス軍はストッピングパワーの高い弾薬を求めていました。
しかし、初期のダムダム弾は弾頭の底(ベース)がジャケットで覆われていなかったため、一部のロットで発射時に鉛のコアとジャケットが分離し、銃身内にジャケットが残るトラブルが報告されました。
この問題を解決するため、弾頭の底をジャケットで覆い、さらに弾頭の先端に穴を開けたホローポイント弾(Mark 3、Mark 4、Mark 5)がイギリス本国で開発・製造されました。
しかし、これらの弾薬はダムダム兵器工廠で製造されていなかったにもかかわらず、「ダムダム弾」と呼ばれるようになり、その後「着弾時に拡張する弾頭=ダムダム弾」という認識が広まりました。

1914 年末から 1918 年の間のある時点で発行された。
メッセージには「悪名高きダムダム弾。ドイツの敵はそのような手段を使う!」と書かれている。
画像出典:Liersch & Co., Gustav, Berlin, Public domain, via Wikimedia Commons
そして1898年、ドイツがイギリスに対して「ダムダム弾は非人道的である」と異議を申し立て、1899年のハーグ条約において使用が禁止されることとなります。
その後イギリス軍は使用弾頭をフルメタルジャケットに変更し、「ダムダム弾」の在庫は射撃練習用として消費されました。
ダムダム弾の歴史年表
年代 | 出来事 |
---|---|
19世紀中期 | エクスプレスライフルが開発され、最初のホローポイント弾が登場。 高速度の黒色火薬弾薬として使用された。 |
1870年代 | ホローポイント弾が狩猟用に普及し、薄い皮膚の動物に効果的であることが認識される。 |
1896年 | インド・カルカッタのダムダム兵器廠でキャプテン・ネヴィル・バーティー・クレイが新型の拡張弾を開発。 「ダムダム弾」の名が生まれる。 |
1897年 | イギリス軍が.303ブリティッシュ弾のMark 4、Mark 5のホローポイント弾を開発。 オムドゥルマンの戦いで使用される。 |
1898年 | ドイツが拡張弾の使用に抗議し、「過剰な傷害を引き起こす」として戦時国際法違反を主張。 |
1899年 | ハーグ条約により、戦争での拡張弾の使用が禁止される(第3宣言)。 |
1941年 | ドイツ軍がジトーミルでソ連軍捕虜を対象に拡張弾の人体実験を行う。 |
2010年 | カンパラでのローマ規程改正により、非国際的武力紛争での拡張弾の使用が戦争犯罪とされる。 |
映画「リーサルウェポン3」で以下のやりとりがありました。
私は「ダムダム弾」と聞くと、このシーンを思い出します。
医者: ちゃんと処置しますからね。すぐに退院できますよ。大したことはありません。
レオ: いや、それは良くないと思う。焦らないほうがいい。
リッグス: そうだな。レオ、おとなしくしてたほうがいい。
マータフ: ダムダム弾の傷は深刻になり得るぞ。
医者: ダムダム弾の傷って?
リッグス: 知らないのか? ある男がダムダム弾で親指を吹き飛ばされてな……
ショックで二日後に死んだんだ。レオ: 二日後に死んだ? ダムダム弾で?
医者: 一晩は入院してもらいます。
(中略)
レオ: ……リッグス?
リッグス: なんだ?
レオ: これってダムダム弾の傷に見えるか?
リッグス: 撃たれた時の音はそんな感じだったな。
レオ: クソッ……。
https://movies.fandom.com/wiki/Lethal_Weapon_3/Transcript
腕の銃創による死亡率は、胸部、頭部、腹部などの重要な部位への銃創と比べると比較的低いです。
ただし、次の点に注意が必要とされています。
実際、イラク戦争の帰還兵が銃創からの感染症により半年後に死亡した事例もあるため馬鹿にできません。
被弾した場合、出血に注目されますが、感染症やそれに伴う合併症にも注意が必要でしょう。
ホローポイント弾は戦争で禁止されている?

1899年のハーグ条約にて「ダムダム弾の禁止に関するハーグ宣言」に署名した国はダムダム弾の使用が禁止されました。
1899年7月29日に署名され、1900年9月4日に発効。
3つの条約と3つの宣言から成ります。

しかし、現在のアメリカ陸軍は一部ホローポイント弾を採用しており、M17ピストルで使用されています。
これには主に2つの理由があります。
ひとつは、アメリカはハーグ条約のダムダム弾禁止宣言には署名していません。
もうひとつの理由は、仮に4条に署名していたとしても、この宣言は締約国の間でのみ成立するからです。
人体内で容易に膨張または平坦化する弾丸の使用に関する宣言 1899年7月29日
以下に署名した者、すなわち国際平和会議において代表権を持つ各国の全権委員は、それぞれ自国政府から正式にその権限を与えられた者であり、1868年11月29日(12月11日)のサンクトペテルブルク宣言に表された理念に基づき、次のように宣言します。
締約国は、人体内で容易に膨張または平坦化する弾丸、すなわち核心を完全に覆わず、または切り込みが施された硬い外皮を持つ弾丸の使用を自制することに合意します。
本宣言は、締約国間で戦争が発生した場合にのみ拘束力を持つものとします。
締約国間で戦争が発生した場合、戦闘の一方が非締約国によって参加される時点で、本宣言の拘束力は失われます。
本宣言は、できるだけ早く批准されなければなりません。
批准はハーグにて保管されます。
各批准が受理されると、批准証明書を作成し、その写しは外交経路を通じてすべての締約国に送付されます。
署名していない国々は、本宣言に参加することができます。この目的のために、彼らは書面によりオランダ政府に参加の意思を通知し、オランダ政府がその通知を他のすべての締約国に伝えることによって参加を表明しなければなりません。
いずれかの高等締約国が本宣言を撤回する場合、その撤回は、オランダ政府への書面通知から1年後に効力を生じ、直ちにオランダ政府が他のすべての締約国に伝達します。
この撤回は、通知を行った国にのみ影響を与えます。
これを証として、全権委員は本宣言に署名し、その署名に印章を押しました。
本書は、1899年7月29日にハーグで作成され、1通のみがオランダ政府のアーカイブに保管され、その写しは外交経路を通じて締約国に送付されます。
[署名]
https://avalon.law.yale.edu/19th_century/dec99-03.asp
つまり、これは締約国の間で成立する宣言のため、仮に署名していたとしても締約国以外のテロリスト、ゲリラ、海賊といった不法戦闘員(※)に対してホローポイント弾を使用することは国際法上合法と解釈することもできます。
国際法上、敵対行為に直接参加するためには戦闘員資格の条件を満たしている必要がある。戦闘員資格のない者が敵対行為に直接参加し、その結果敵の権力内に陥った場合、「不法戦闘員」(unlawful combatant)もしくは「敵性戦闘員」(enemy combatant)と呼ばれる。武力紛争法においては、あらゆる人は必ず戦闘員か文民かのいずれかに属するのであり、戦闘員資格がない以上は、不法戦闘員は文民である。
文民であるにもかかわらず敵対行為に直接参加したことは犯罪であり、抑留国はその点につき刑事責任を追及することができる。ただし、不法戦闘員が敵の権力内に陥った場合はジュネーブ諸条約共通3条が適用され、人道的に処遇しなければならない。
https://ja.wikipedia.org/wiki/戦闘員#不法戦闘員
アメリカがハーグ条約「ダムダム弾禁止宣言」に署名しなかった理由
赤十字国際委員会(ICRC)による国際慣習法の研究では、「現在、あらゆる武力紛争において拡張弾(Expanding bullet)の使用が禁止されている」とされています。
しかし、アメリカは「軍事上の必要性がある場合、拡張弾の使用は合法である」と主張しています。
アメリカ軍の新制式ホローポイント弾

2017年、アメリカ軍はホローポイント弾を含む新たな9mm弾を制式採用しました。
第75レンジャー連隊などの特殊部隊や憲兵部隊では、以前から147グレインのジャケッテッド・ホローポイント弾の使用が認められていました。
M1153およびXM1196は、新制式ピストルM17/M18とともに採用された新しい9mm弾であり、これらは軍全体で標準的なサイドアームとして導入されています。
まとめ
ダムダム弾とホローポイント弾の基本
ダムダム弾の歴史と禁止の経緯
ダムダム弾と他の弾薬の比較
ハーグ条約とジュネーブ条約が混同されることがありますが、ダムダム弾規制はハーグ条約による規制です。
ハーグ条約は「戦闘の方法」について規制しており、ジュネーブ条約は「捕虜や非戦闘員などの保護」を目的とした規制です。
「ダムダム弾(ホローポイント弾)は戦争で禁止されている」と語られることが多いですが、それは一定の条件下のみに該当します。条約に署名した正規軍を除き、実際の紛争地では戦闘にホローポイント弾も使用されている実情があります。
しかし、軍用としてのホローポイント弾にはデメリットがあり、製造コストが高いことや、他国と協力する世界情勢において、条約に署名した国とそうでない国が同じ弾薬を共有できないのは問題となる場合があります。
そのため、ホローポイント弾を使用しても国際法上問題のないアメリカも、大規模にホローポイント弾を使用しない現状があります。