弾頭は装薬の燃焼によって発生した高温高圧のガスに押されて飛びます。
弾薬によってそれぞれパワーが異なり、弾頭の形状や内部構造によってもターゲットに与えるダメージの大きさが異なります。
また、弾頭には様々な種類があり、それぞれ特性が異なるため用途によって使い分けられています。
今回は、弾頭形状の違いとその効果について解説します。
フル・メタル・ジャケット(FMJ)
- 軍用や射撃練習用として広く使用されている弾頭です。
- 鉛のコアを銅のジャケット(被甲)で覆う構造です。
- 日本語では完全被甲弾と呼ばれます。
- 低コストで大量生産できるため、軍用や民間で最も幅広く利用されているタイプであり、最も作動不良が起きにくい信頼性の高いデザインです。
- 貫通力が高く体内での慣性エネルギー消費が小さいため、警察や護身用としてはほとんど使用されません。
- アメリカの警察では1990年代頃を境に使用されなくなりましたが、日本警察では現在も使用されています。
フル・メタル・ジャケッテッド・フラット・ノーズ(FMJFN)
- フル・メタル・ジャケット(FMJ)の先端を平らにした形状。
- 紙のターゲットを撃つと綺麗な丸い穴が空くので、どこに命中したか遠くからでも視認性が良い利点があります。
- 貫通力はFMJに劣ります。
エクスパンディング・フルメタルジャケット(EFMJ)
- 着弾時に拡張するフルメタルジャケット弾です。
- ホローポイント弾は人体など流体に対して拡張する設計であるのに対し、EFMJはターゲットの種類に関係なく拡張しやすいため、流れ弾などの二次被害を軽減します。
- 内部にポリマーを使用しているため弾頭重量が軽量となり、ホローポイント弾より命中精度や貫通力が劣る傾向があります。
ホローポイント(HP)
ホローポイント弾とは、弾頭の先端に穴/凹み(hollow)が備わっている弾薬です。
人体などに着弾すると流体によって穴が拡張され、拡張した弾頭によってターゲットに対し大きなダメージを与えます。
ジャケッテッド・ホロー・ポイント(JHP)
- ホロー・ポイント弾の基本形がジャケッテッド・ホロー・ポイント(JHP)です。
- 日本語では被甲先孔弾と呼ばれます。
- 着弾後に体内で先端が裂けることでターゲットに対して大きなダメージを与えます。
- 弾頭先端に穴が空けられ弾頭が裂けやすくなっていますが、銅のジャケットに包まれているため適度な貫通力を持ち、効率的にストッピング・パワーを引き出します。
- 対人用や狩猟用としてポピュラーな弾頭です。
- 弾頭先端まで銅のジャケットにカバーされているため、オートマチックの銃において装填の際のジャム(装填不良)の確率を低下させます。
- 私の個人的経験上、FMJより命中精度が高い印象があります。どうやら先端の窪みが気流に良い影響があるようです。
セミ・ジャケッテッド・ホロー・ポイント(SJHP)
- JHPと似ており、弾頭先端の鉛が露出し、半分しかジャケットに包まれていない弾頭です。
- 主に護身用(セルフディフェンス)を目的として使用されます。
- 先端だけ鉛が露出しており、側面をジャケットで覆うことで着弾時の拡張を一定レベルに抑えつつ、貫通力を強化した設計です。
- 着弾時の拡張性を低く抑え、JHPよりも貫通力が高い特徴があります。
- ピストルではジャムが多くなりやすいため、リボルバーで利用されます。
- 1970~1980年代のアメリカの警察ではリボルバーの弾薬として定番でした。
レッド・ホロー・ポイント(LHP)
- レッド(鉛)がジャケットで覆われていないホロー・ポイント弾頭です。
- 着弾時に最も裂けるスピードが速く、貫通力の弱い弾頭です。
- ターゲットを貫通させたくない場合に有効です。
- ピストルでは.22LR口径で広く利用されていますが、9mm~.45ACPといった口径ではほとんど利用されていません。
- ピストルで使用するとジャムが多い傾向がありますが、リボルバーとは相性の良い弾頭です。
ソフト・ポイント(SP)
- 弾の先端が銅で覆われておらず、鉛が露出している弾頭です。
セミ・ジャケッテッド・ソフト・ポイント(SJSP)
- ソフト・ポイントの基本形。
- 先端だけ鉛が露出し、その他は銅で覆われています。
- いずれも適度なストッピング・パワーを持ちながら、着弾と同時に先端が丸く潰れ(マッシュルーミングする)始め、ホロー・ポイントより貫通力があります。
- 対人用や大口径の狩猟用として広く使用されます。
- 鉛が露出しているためチャンバー(薬室)に送られる過程で滑りが悪く、オート・ピストルに適していません。
- リボルバーに適した弾頭です。
ホロー・ソフト・ポイント(HSP)
- .44マグナムや.30カービンなどで使用される古い設計の弾頭であり、次第に市場から消えつつあります。
- 構造はセミ・ジャケッテッド・ホロー・ポイント(SJHP)と似ていますが、先端の穴の大きさが小さい特徴があり、一般的なホローポイント弾よりも貫通力を高めています。
- ソフト・ポイントの弾頭先端に穴をあけ、ホロー・ポイントの効果を狙ったソフト・ポイントとホロー・ポイントの中間的存在です。
- ライフルよりハンドガンで多く利用されます。
- 人体に対する効果はJHPの方が効率的です。
セミ・ジャケッテッド・フラット・ポイント(SJFP)
- ソフト・ポイントの先端が平らになっているバージョンです。
レッド・ラウンド・ノーズ(LRN)
- レッド(鉛)のラウンドノーズ(丸い先端)の弾頭です。.22LRなど小口径ピストルやリボルバーで幅広く利用される弾頭で、最も安価で命中精度が高いのが特徴です。
- 弾頭は鉛オンリーなので柔らかく、大量に撃ちつづけると銃身内の油分が消え、ライフリングの溝に鉛が固着(レッディング)することがあり、クリーニングに手間がかかる厄介さがあります。
ワッドカッター(WC)
- 弾頭の先端が平らになっている、紙のターゲットを撃つための弾です。
- 紙に命中すると丸くキレイに切り取られたような穴が空きます。
- 長い距離では命中精度が悪いため、近距離専用です。
- 主にリボルバーで多く利用されます。
- ワッドカッターはジャケットに覆われていない鉛オンリーの弾頭が多数派を占める傾向があります。
セミ・ワッドカッター(SWC)
- フラット・ポイントに近い形状の弾頭です。
- ワッドカッターはオート・ピストルに不向きですが、セミ・ワッドカッターであればピストルにも使用可能です。(ただし信頼性は他の弾頭形状より劣ります)
ダブル・エンデッド・ワッドカッター(DEWC)
- 円柱状で先端や底など前後の区別がないため、個人で弾を製造する場合も間違えにくく製造しやすい弾です。
ベヴェルド・ベース・ワッドカッター(BBWC)
- セミ・ワッドカッターやワッドカッターで底の部分に傾斜があり、気流を整えて命中精度を高めています。この効果はライフル弾のボートテイルに似ています。
ホロー・ベース・ワッドカッター(HBWC)
- エアガン歴が古い人は「つづみ弾」と言えばピンとくるかもしれません。弾頭の底の部分に空洞があり、ガス圧が底に加わることで周囲に広がって銃身の側壁に押し付けられ密閉性が高まり、弾速が向上します。
- 高圧ガスで裂けてしまうためパワーのあるカートリッジには使用できません。
アーマー・ピアシング(AP)
- 弾頭内部にスチールなど硬い芯を含んだ弾頭で、日本語では徹甲弾と呼ばれます。
- 着弾時の弾頭の変形が少ないため、高い貫通力を持ちます。
- 貫通できる鋼板の厚みは着弾時の弾頭エネルギー量によりますが、7.62x39mmではおおむね5mm、.50BMGで25mm程度を貫通できます。
着弾後の弾頭
弾頭はほとんどが二重構造で、内部のコア(弾芯)と、外皮のジャケット(被甲)で構成されています。
弾頭の材質は様々あり、蒼鉛(ビスマス)、プラスチック、スチール、真鍮、銅、亜鉛、アルミ、タングステン、ウラン、磁器などを組み合わせて使用しますが、ほとんどの場合、鉛か鉛の表面に銅を覆っており、これは非常に柔らかく、人や物に命中すると変形します。(鉛が広く利用される理由は、コストが安い、比重が重い、加工しやすいといった利点があるためです。)
目標の貫通を目的とした徹甲弾(AP弾/アーマーピアシング弾)では硬い金属の芯を含んでいますが、それ以外の弾は着弾時に激しく変形したりバラバラになるのが一般的です。画像下段左から二番目の弾はキノコ状に丸く潰れていますが、この現象をマッシュルーミングと呼び、着弾時に分裂することなく効率よくマッシュルーミングすることが殺傷力を高めるために有効とされています。アメリカでは多くの州でマッシュルーミングしない弾をハンティングで使用することを禁止しており、これは獲物を手負いの状態で放置せずに確実に仕留めるためです。
画像左下の変形が激しい弾はホローポイント弾です。人体(流体)への着弾と同時に先端が裂けて広がり、傷口を大きくする特徴があります。いわば体内で急ブレーキを掛けて運動エネルギーを消費することでダメージを与えます。弾頭が開くタイミングは製品の設計により異なり、着弾直後に裂けるものもあれば、体内を進みながら徐々に裂けるものなど様々です。
ホローポイント弾は流体といった柔らかい物に命中すると弾頭が開くのに対し、ガラスや木版、住宅の壁に使用される石膏ボードなど、硬い物に命中すると先端が潰れたり、先端の穴が詰まることで弾頭の展開が阻害される傾向があります。これにより弾頭はFMJ弾頭のように貫通力が強くなるため、貫通弾が思わぬ二次被害を生じさせる可能性があります。
例えば、警官が犯人が運転する車を正面からフロントガラス越しに撃ったとします。ホローポイント弾はフロントガラスを貫通後、犯人の胴体に命中し、本来であれば体内で停弾するところを、先端が詰まった弾頭は原型を留めたまま胴体を貫通、さらにシートを貫通して後部座席に達することもあります。(どの程度貫通するかは弾の重量や速度、侵入角度、骨やシートの金属フレームに命中するか否かなど、条件によって異なります。)
画像上段中央の変形が少ない弾はフルメタルジャケット(FMJ)弾で、製造コストが安く軍や民間のスポーツ目的で多く消費される標準的な弾です。金属やコンクリートなど硬い物に命中すれば画像下段中央の弾のように変形しますが、人体や土など柔らかい物に命中すると原形をとどめやすい弾です。また、先端が尖っているためマガジン(弾倉)からチャンバー(薬室)への装填時の移動がスムーズであることから、相対的にジャム(装填不良)のリスクが少ないという利点があります。
弾頭の底面
左から、9mmPara薬莢、.45ACPキャストブレット(鉛100%)、.45ACP TMJ/CMJ、.45ACP FMJ
ジャケットで覆われているFMJも底面(ベース)はコアの鉛が露出していますが、底面もすべてジャケットで覆っている弾頭はトータル・メタル・ジャケット(TMJ)、またはコンプリート・メタル・ジャケット(CMJ)と呼ばれます。本来、底面がジャケットに覆われているか否かは射撃性能や命中精度に影響を及ぼしませんが、鉛は融点が低いので発射時の高温高圧により底面の鉛が溶け、空気中に微量の鉛が拡散されるため、健康問題の点から屋内射撃場によっては使用弾頭をTMJ/CMJに限るところもあります。
また、TMJ/CMJの利点として、溶けた鉛で銃身内部が汚れるのを防ぐといわれますが、これは微量であり、銃身内部の汚れの主な原因はパウダー(装薬)やプライマー(雷管)の種類や質にあります。
底面の鉛が露出している弾頭では、発射時の圧力でパウダーが弾頭底面に押し付けられ、パウダーの粒の痕が底面に残ることがあります。これを分析すればパウダーの種類や銃の種類を特定しやすいので、犯罪捜査では判断材料のひとつとなります。
最後までお読みいただきありがとうございます。
もしご質問やご意見がありましたら、お気軽にX(旧ツイッター)やYoutubeチャンネルでお知らせください。