
この記事の要約
- AR-15の80%ロアレシーバーは未完成部品で、法律上は銃として扱われないが加工すれば完成銃になる。
- 2021年ATF規則と2025年最高裁判決により、容易に完成可能なキットや部品は銃として再分類され、シリアル番号刻印や身元確認が義務化された。
- 州ごとに規制が異なり、カリフォルニアやニューヨークなどでは厳しく管理される一方、規制が緩い州も存在する。
AR-15の「80%ロアレシーバー」とは何でしょうか?
外見は完成品に見えるのに、法律上はまだ銃ではないという独特の立ち位置にあり、初めて触れる方ほど疑問が多くなる部分です。
実際に、「どこまで加工すれば銃になるのか」「個人が自分用に作っても問題ないのか」「なぜメーカーが強制捜査を受けたのか」など、気になる点は数多くあります。アメリカでは合法とされる場面がある一方で、州によっては厳しく規制されているため、背景を知らないと誤解しやすいテーマです。
この記事では、80%ロアレシーバーの基礎から法的な扱い、加工方法、州ごとの規制までを順番に整理して解説します。
80%ロアレシーバーとは何か?

80%ロアレシーバーとは、銃の主要部品であるレシーバーの未完成品(8割完成品)を指します。
ピンホールやスロットがまだ加工されていないため、銃として機能することができません。法律上もこの段階では銃として分類されず、容易に完成品へと変換できる状態であってはならないとされています。

そしてこちらは、80%アームズ社が販売した「0%ロアレシーバー」です。価格は28.99ドル(約4,500円)。ただのアルミの塊なので、個人でここから完成させるには大変な作業量となりそうです。
現在の連邦規制では、80%ロアは銃として明確に識別できる製造段階に達していない部品と認識されています。そのため、完成用のジグや部品、説明書が付属していない状態で販売される場合には銃として規制されず、シリアルナンバーの刻印や身元確認、登録といった義務は課されません。
ATF(アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局)が2021年に制定した規則(2021R-05F)では「フレームまたはレシーバー」の定義が拡張され、部分的に完成しているものや非機能的なフレームであっても、容易に完成可能な設計であれば銃として扱うことができるとされました。
そして2025年、最高裁判所はBondi v. VanDerStok事件においてこの規則を支持し、完成を容易にするキットやジグ、部品が付属する場合には銃として規制され、販売前にシリアルナンバーの刻印や身元確認が必要であることを確認しました。
Bondi v. VanDerStok事件は、2025年にアメリカ最高裁判所で下された判決で、ATF(アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局)が2021年に定めた「銃」の定義拡張規則を支持しました。この規則は、未完成のレシーバーや部品キット、いわゆる「ゴーストガン」キットを銃として扱うものです。複数のメーカーが「ATFは権限を超えている」として異議を唱えましたが、最高裁は7対2でATFの規則は合法と判断しました。これによって下級審の規則無効判断は覆され、連邦政府がゴーストガンの流通を規制する権限が強化されました。
ゴーストガン(Ghost guns)とは、シリアルナンバーがなく追跡できない銃の総称で、部品やキット、3Dプリントで自作可能です。購入時に身元確認が不要な場合が多く、法規制の抜け穴となっています。主に以下の特徴があります。
- シリアル番号なし → 捜査で追跡不可
- 部品キットや3Dプリントで簡易組立可能
- 購入時に犯罪歴調査不要
- 法的にはグレーだが、規制強化が進行中
個人が製造しても合法なのか?
2025年現在のアメリカ連邦法では、銃の所持を禁じられていない個人であれば、自宅で自分用の銃を製作することが依然として認められています。
販売や譲渡を目的としない限り、免許を取得する必要はなく、製作した銃にシリアルナンバーを刻印したり登録したりする義務も連邦レベルでは課されていません。つまり、営利目的で製造や再販を行わない限り、個人が自分用に銃を作ることは合法とされています。
ただし、金属探知機で検知できない完全プラスチック製の銃など「不可探知銃」を製造することは銃規制法によって禁止されています。また、フルオート火器やサプレッサー、破壊的兵器(DD)といった特定の規制対象品を製造する場合には、連邦の特別な許可とNFA(National Firearms Act)への適合が必要です。
注意すべき点として、州ごとに独自の法律が存在し、カリフォルニア州やニュージャージー州、デラウェア州などでは自作銃の製造を禁止したり、シリアルナンバーの刻印や身元確認を義務付けたりするなど、連邦法よりも厳しい規制を設けています。
州によっては完全に禁止されている場合もあるため、実際に製作を試みる前には必ず州法や地域の規制の確認が必要です。
NFA(全米火器法 / National Firearms Act)は1934年に制定された連邦法で、特に危険性が高い、あるいは犯罪に利用されやすいとされた特定の銃器や装置の製造・譲渡・所持を規制しています。対象となるのは、機関銃、ショートバレルライフル(SBR)、ショートバレルショットガン(SBS)、サプレッサー(消音器)、爆発物などの破壊的装置(DD)、そして「その他の武器(AOW)」と呼ばれる隠し持ちやすい特殊な銃器です。
この法律では、NFA対象銃器の所有者は連邦政府への登録が義務付けられ、製造や譲渡には課税が行われます。合法的に所有・譲渡するためには、詳細な身元調査を受け、承認を得たうえで「タックススタンプ」と呼ばれる税証紙を購入する必要があります。制定当初は禁酒法時代の暴力犯罪を抑制する目的で導入され、現在も連邦レベルでの銃規制の基盤となっています。
違反した場合、未登録のNFA銃器を所持するなどの行為は重い罰則の対象となり、罰金や懲役刑が科される可能性があります。サプレッサーやショートバレルライフルなどは規制手続きを経れば民間人でも合法的に所有できますが、フルオートの機関銃などの所持にはより厳しい手続きが必要です。
80%ロアレシーバーを完成させる方法

80%ロアレシーバーを完成させるには、このようなジグ(冶具)を使用するのが一般的です。
ジグは様々なメーカーから販売されており、価格もピンキリですが、高くても1万円以内でフルセットが購入できる価格設定です。80%ロアレシーバーも60ドル程度で購入できることから、少しの作業で意外と安価にAR-15を完成できます。

このように80%ロアレシーバーをジグの内側にセットし、ジグ側面に空いた穴に同じ大きさのドリルの刃を入れるだけです。ハンマーが入る穴は容積が大きいので、何度も穴を開けたあとでバリを削って仕上げます。
ジグによってはドリル刃にストッパーを付けるためのパーツもあり、適切な深さまでドリルを通すことができます。説明書通りに作業すれば、初心者でも難しくありません。
現在でもアメリカでは「80%ロアレシーバー」を購入することは可能ですが、いくつか重要な条件があります。
2025年時点の連邦法では、完全に未加工の状態で販売され、完成用のジグやキットが付属していない80%ロアであれば、シリアルナンバーや身元確認なしで販売することが認められています。しかし、部品やジグが同梱されていて容易に完成できる状態のものは銃として規制され、販売前にシリアルナンバーが必要となり、購入者はFFL(連邦火器販売免許)を持つディーラーを通じて身元確認を受けなければなりません。
州ごとの法律は大きく異なります。例えばカリフォルニア州では、80%ロアであってもシリアルナンバーの刻印や身元確認が義務付けられています。一方でアリゾナ州のように規制が緩やかな州では、FFLを介さずに直接販売が認められている場合もあります。
過去から現在までの法規制の変化
2016年当時、AR-15の「80%ロアレシーバー」は未完成部品として販売されており、ATFの定義上は銃として扱われていませんでした。そのため、購入者はシリアルナンバーの刻印や身元確認を受ける必要がなく、FFL(連邦火器販売免許)を介さずに合法的に入手することが可能でした。個人が自分用に加工して完成させることも認められており、販売目的でない限り連邦規制の対象外とされていたのです。
しかし、2025年現在では状況は大きく変化しました。いわゆる「ゴーストガン」の拡散を抑制するため、ATFは規制の定義を拡張し、80%ロアレシーバーやフレームキットを銃として再分類しました。これにより、製造業者は組立キット同梱販売時にシリアルナンバーを刻印する義務を負い、購入者は必ず身元確認を受け、FFLディーラーを通じて取引を行わなければならなくなりました(80%ロアのみの場合は不要)。
さらに「レシーバー」の定義そのものが広がり、未完成であっても容易に完成可能な部品は銃と同等に規制されるようになっています。ポリマー80フレームや組立キットも対象となり、最高裁判所はこれらの規制を支持しました。
以下の分類表は連邦法を対象とし、州法は各州で異なります。
| 項目 | 2016年 | 2025年 |
|---|---|---|
| 連邦法上定義 | 銃ではない未完成部品 | 銃ではない未完成部品。 キット同梱時は銃として分類。 |
| シリアルナンバー | 不要 | 80%ロアのみの場合は不要。 キット販売は必須。 |
| 犯罪歴調査 | 不要 | 同上 |
| 個人製造 | 個人使用なら自由。 身元情報不要。 | 同左 |
| 規制範囲 | ロアレシーバーのみ。 定義も限定的。 | 上下レシーバーやキット全体、ほぼ完成に近い部品も対象 |
一部の企業は旧来のルールの下で販売を継続できる仮差止命令を得ています。しかし、連邦レベルの基本的な枠組みとしては、ほとんどのキットや完成に近い80%レシーバーは銃として扱われ、FFLを通じた正規の取引が必要とされています。
メーカーが強制捜査を受けた事例(2014年)
80%ロアレシーバーは合法ですが、これを製造するメーカーの1つであるEPアーモリー社は、「購入者のバックグラウンドチェック(犯罪歴照会)無しで違法に銃を販売した」として、2014年にATFによる強制捜査を受けました。

EPアーモリー社の違法とされた80%レシーバーには、トリガーやハンマーが入る場所に材質が異なる色違いの樹脂が充填されており、この部分を削るだけで簡単に完成させられる構造でした。
そして、一度完成したレシーバーに樹脂を充填して「穴埋め」する製造工程が問題視されました。
ATFは、「一度完成した銃は常に銃 (once a gun always a gun)」と考えているため、製造工程で完成した銃は後で再加工しても銃であるとし、この製品は、「80%ロアレシーバーではなく、法律上の銃である」と判断されたのです。
州ごとの規制一覧
2025年時点で「80%ロアレシーバー」に対して規制や禁止措置が設けられている州を整理します。
- カリフォルニア州
- ニューヨーク州
- ニュージャージー州
- ニューメキシコ州
- コロラド州
- コネチカット州
- デラウェア州
- ハワイ州
- イリノイ州
- メリーランド州
- マサチューセッツ州
- ネバダ州
- オレゴン州
- ロードアイランド州
- バーモント州
- ワシントン州
- コロンビア特別区(ワシントンD.C.)
これらの州では、所持・製造・譲渡に関してシリアルナンバーの刻印や登録、犯罪歴調査の義務付け、あるいは全面的な禁止が行われています。
特にカリフォルニア州やニューヨーク州は最も厳しい規制を敷いており、未完成レシーバーであっても州司法局の管理下でシリアルナンバーが必要とされています。
まとめ
AR-15の「80%ロアレシーバー」は、トリガーやハンマーを収める部分が未加工のため、法律上はまだ銃として認められない部品です。購入者が残りの加工を施すことで完成品となり、アメリカでは一部の州を除き、個人が自分用に製造することは合法とされています。
未完成のまま販売される80%ロアレシーバーは銃として扱われず、シリアルナンバーの刻印や身元確認も不要です。しかし、完成用のキットやジグとセットで販売され、容易に銃へ仕上げられる状態であれば、法律上は銃として規制されます。その場合、シリアルナンバーの刻印やバックグラウンドチェック(犯罪歴調査)が義務付けられ、2025年の最高裁判決でもこの解釈が支持されました。
他人のために製造したり、譲渡・販売を行うことは違法であり、FFL(連邦火器ライセンス)の取得やシリアルナンバーの刻印が必要です。過去には、完成品を再加工したものを「80%レシーバー」として販売し、ATFから違法と判断されたメーカーも存在しました。現在、連邦法では依然として合法ですが、カリフォルニア州やニューヨーク州など一部の州では規制が強化されており、今後さらに法改正が進む可能性があります。
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