日本とアメリカの警察組織の違いとは?

日本の警察は中央集権的な構造で、警察庁の指導のもとに各都道府県警察が存在します。銃器の選定も一元的に行われ、全国で同じモデルが採用されることが一般的です。
これに対し、アメリカの法執行機関は連邦、州、地方の各レベルで独立して機能しており、それぞれの機関が独自の判断で拳銃を選定します。
アメリカの法執行機関は、役割に応じて次のように分類されます。
日本では、警察の捜査は検察の指導を受けることが多く、捜査権限が制限されています。一方、アメリカでは各法執行機関が独立して捜査を行い、自らの判断で捜査を進めることが可能です。
この独立性の強い環境が、銃器の選定にも影響を及ぼしています。例えば、日本の警察は全国で統一された拳銃を使用されることが多いですが、アメリカでは同じ都市内でも機関ごとに異なるモデルが採用されることがあります。
イメージとしては、日本の警視庁で「新宿警察署がGlockを採用し、渋谷警察署がH&Kを採用する」といった状況が実際に起きているのがアメリカの法執行機関の特徴です。
銃を選ぶ基準

法執行機関が銃を選定する際には、「信頼性」「耐久性」「操作性」「弾薬の互換性」「訓練との整合性」など、さまざまな要素を総合的に考慮する必要があります。
弾薬を選ぶ基準

法執行機関が弾薬を選ぶ際、様々な基準があります。
「なぜ9mmが選ばれるのか?」という疑問については、以下の記事をご覧ください。
※FBIの弾道試験については、以下の記事で解説しています。
法執行機関で9mm弾が採用されている理由を以下の記事で解説しています。
銃のカスタマイズ

自分が携帯するピストルにサプレッサーとストックを装着したいと思っても、それは一般的に許可されません。
銃のカスタマイズは、安全性と法的責任の観点から規制されています。
多くの場合、カスタマイズには事前の承認が必要とされています。
以下はその一例です。(SWATなどの特殊部隊は例外)
許可 | 禁止 |
---|---|
グリップの調整 | 発射機構の変更 |
照準器の交換 | サプレッサーの装着 |
その他、基本的な操作性に関わる改造 | その他、基本性能に影響を与える改造 |
メンテナンスとコスト
維持費用は重要な検討事項です。
定期的な部品交換や修理にかかるコストは、限られた予算内での運用に大きく影響します。
そのため、選定される銃は耐久性が高く、メンテナンスが容易で維持費が低く抑えられるモデルが好まれます。
弾薬に関しては、一般的に.40S&W弾や.45ACP弾は高価なため、より経済的で安価な9mm弾が好まれる傾向があります。
メンテナンスに関しては、一部の法執行機関ではアーマラーサービス(Armorer services)を受けることができます。アーマラーとは、専属のガンスミス(銃器整備士)で、銃の維持管理を行います。各機関でアーマラーを雇用していることがありますが、アーマラーが在籍しない法執行機関では、外部の認定ガンスミスにメンテナンスを依頼する場合もあります。
アーマラー(銃器整備士)の主な仕事は以下の通りです。
サポート体制
銃の選定では、メーカーのサポート体制が長期運用の重要な要素となります。
具体的には、「技術サポート」「迅速な修理対応」「部品の安定供給」に加え、「定期的な訓練指導」や「最新技術情報の提供」が求められます。
警察が採用する銃は数十年にわたって使用されることも珍しくありません。
そのため、「メーカーの財務安定性」「事業継続性」「長期間にわたる部品供給の確実性」が不可欠です。
また、社会情勢の変化や新たな脅威に対応できるよう、継続的な性能改善や技術開発能力も、信頼性と実用性を重視する警察の銃器選定における重要な基準となっています。
FBIのSWATおよびHRT(人質救出チーム)が、1998年にカスタム仕様の高精度な1911ピストルを採用した際、開発段階でメーカーの体制に問題が生じたことがありました。
FBIとの契約を獲得したレス・ベア社(Les Baer)は、既存のフレームに各種カスタムパーツを追加し、レス・ベアSRP(スウィフト・レスポンス・ピストル)を開発。これはパラ・オーディナンス P14-45のフレームを使用した装弾数14発のダブルスタック・ピストルでした。
しかし、製造コスト削減を目的とした仕様変更の結果、耐久性や精度に影響が出ました。採用されたマガジンの不具合が頻発し、給弾が不安定になるなど、実戦に耐えない状態となってしまいました。
さらに、主要な設計や試作を担当していた技術者マット・ギッシュ氏(Matt Gish)が独立し、自らの工房を立ち上げたことで、レス・ベア側のサポート体制が大きく低下しました。その結果、予定されていた250丁の契約に対して、わずか75丁しか納品できず、契約自体が打ち切られる事態に至りました。
FBIは仕様を全面的に見直し、シングルスタックマガジンを採用する新たなピストルの入札を実施。最終的に契約を獲得したのはスプリングフィールドアーモリー社(Springfield Armory)で、同社は「年間500丁の大量生産」「長期にわたる部品供給」「保証体制」を確立していました。
しかし、スプリングフィールドでも大量生産時の品質の均一性に問題が生じ、納品後に調整や修正が必要となりました。このため、レス・ベアSRPの調整を行っていた技術者のスティーブ・ナストフ氏(Steve Nastoff)が再び修正作業に投入される状況となりました。
このように、法執行機関が銃を選定する際、単に高性能な設計や製品そのものだけでなく、サポート体制や生産能力が必須とされます。
メーカーの財務基盤、技術、部品供給能力が十分でなければ、どんなに高性能な銃でも運用に支障が出る場合があります。
標準化された銃を使用する理由
法執行機関において、職務に使用する銃のモデルを決めておく必要があります。
例えば、警察官が発砲し裁判になった場合、「なぜその銃を使ったのか?」「その銃は適切だったのか?」と問われることがあります。
これに対して、「容疑者を確実に仕留めるためにデザートイーグルを選びました。」と返答すると、「必要以上の武器を使用した」として、過剰防衛を疑われます。
または、「この銃のほうが好きだから使いました。」と返答すると、「公務としての適切な判断ではなく、個人の好みで選んだ」と受け取られ、裁判が不利になります。
訴えられたときに警察官を守るには、責任の所在が「警察官」ではなく「法執行機関」にある必要があります。そのため、どの銃を所持して良いかをあらかじめ決めておかなければなりません。
また、事件現場や裁判では誰がどの銃を使用したかを整理し、証拠として残す必要があります。
標準化された銃を使用すれば使用弾薬や性能が決まっているため、調査や裁判での証拠として扱いやすくなります。
法執行機関では支給される銃以外に、警察官の好みの銃に変更することも可能な場合がありますが、その場合も各機関が決めた「許可銃リスト」のなかから選ぶルールが採用されています。
警察署(各法執行機関)によっては、個人所有の銃の使用を認めているケースもありますが、多くは以下のような条件を満たす必要があります:
- 事前の承認取得
- 機関が決めた規定に適合した口径とモデル
- 機関によって認可されたメーカーの製品であること
- 適切に使用できることを確認するための資格試験への合格
例えば、「我々の警察署では9mmまたは.40S&Wの口径で、次のリストに含まれるモデルであれば携帯を許可します」といったことが行われています。
まとめ
用語集
用語 | 解説 |
---|---|
ショートリコイル | 銃の発射時に、銃身とスライドが短い距離を同時に後退し、その後に銃身が停止してスライドだけが後退を続ける作動方式。 反動を利用して次弾の装填を行う構造。 |
ストライカー方式 | ハンマーを使わず、内部のバネで圧縮されたストライカー(撃針)を解放して撃発する方式。 部品が少なくシンプルな構造で、軽量化や小型化が容易な設計。 |
ロックドブリーチ | 発射時の高圧ガスに耐えるため、スライドと銃身を一時的にロックし、圧力低下後にロックを解除する機構。 これにより強力な弾薬に対応可能。 |
ボアアクシス (銃身軸) | 銃身の中心線のこと。 ボアアクシスが低いほど、反動制御が容易になり、速射性が向上する。 |
ティルトバレル | 銃身が上下に傾くことで、反動を吸収し、作動する機構。 |
ローテイティングバレル | 銃身が回転することで、反動を吸収し、作動する機構。 |
ストライカーファイア | 撃針を内蔵したスライドが後退することでコッキングされ、トリガーを引くことで撃針が解放される撃発機構。 |
DA/SAトリガー | ダブルアクションとシングルアクションを切り替えられるトリガー。 ダブルアクションは、トリガーを引くことでハンマーがコックされ、発射される。 シングルアクションは、ハンマーがコックされた状態でトリガーを引くことで発射される。 |
DAOトリガー | ダブルアクションオンリーのトリガー。 常にダブルアクションで発射されるため、誤射のリスクが低い。 |
DAKトリガー | Double Action Kellermanの略。 ダブルアクションオンリーのトリガーの一種で、トリガープルが軽く、滑らかなのが特徴。 |
LEMトリガー | Law Enforcement Modificationの略。 H&K社が開発した独自のトリガーシステム。ダブルアクションとシングルアクションの利点を兼ね備えている。 |
グリップセイフティ | グリップを握り込まないとトリガーが引けない安全装置。 |
スライドストップ | 弾倉が空になった際にスライドを後退位置で保持する機構。 |
デコッキングレバー | コックされたハンマーを安全に解除するレバー。 |
セレーション | スライドなどにある滑り止めの溝。 |
マズルジャンプ | 発射時の反動で銃口が跳ね上がる現象。 |
.40S&W弾 | 10mmオート弾をベースに開発された、比較的新しい弾薬。 9mmパラベラム弾よりもストッピングパワーが高い。 |
.45ACP弾 | アメリカ軍が制式採用していた弾薬。 ストッピングパワーが高いことで知られる。 |
9mmパラベラム弾 | 世界中で広く使用されている弾薬。 反動が少なく、コントロールしやすい。 |
.357SIG弾 | .40S&W弾の薬莢を絞って9mm弾頭を装着した弾薬。 9mm弾よりも高威力。 |
10mmオート弾 | 強力なストッピングパワーを持つ弾薬。 反動も大きい。 |
5.7x28mm弾 | FNハースタル社が開発した弾薬。 小型軽量で、貫通力に優れる。 |
ストッピングパワー (制止力) | 弾丸が目標に命中した際に、目標の動きを止める能力。 |
アーマーピアシング弾 (徹甲弾) | 防弾チョッキなどを貫通する能力を持つ弾薬。 |
サプレッサー | 発射音を低減させる装置。 |
スレッドバレル (ネジ切りバレル) | サプレッサーなどのアクセサリーを取り付けるためのネジが切られた銃身。 |
ポーテッドバレル (ポート付きバレル) | 銃身に穴を開けることで、反動を低減させる銃身。 |
MOS (モジュラーオプティックシステム) | ドットサイトなどの光学照準器を取り付けるためのシステム。 |
ユニバーサルGlockレール | Glock社が開発した、アクセサリーを取り付けるためのレール。 |
ピカティニーレール | 各種アクセサリーを装着するためのレール。 |
ドットサイト | 光の点を目標に重ねて照準する照準器。 |
トリチウムサイト | トリチウムという放射性物質を利用した自己発光型の照準器。 |
グリップ | 銃を保持するための部分。 |
フレーム | 銃の主要な部品を保持する構造体。 |
スライド | 銃の上部にある、前後動する部品。 |
バレル(銃身) | 弾丸を発射する筒状の部品。 |
マガジン(弾倉) | 弾薬を保持し、銃に供給する部品。 |
ホルスター | 銃を携帯するためのケース。 |
コンシールドキャリー (隠匿携行) | 銃を隠して携帯すること。 |
法執行機関 | 警察、保安官事務所、連邦捜査局(FBI)など、法を執行する機関の総称。 |
SWAT | 特殊火器戦術部隊。 |
FBI | 連邦捜査局。 |
ATF | アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局。 |
DEA | 麻薬取締局。 |
USSOCOM | アメリカ特殊作戦軍。 |
US Border Patrol | アメリカ国境警備隊。 |
ICE | アメリカ合衆国移民・関税執行局。 |
シークレットサービス | アメリカ合衆国大統領警護隊。 |