
この記事の要約:
- フラッシュハイダー/マズルブレーキ/コンペンセイターはすべて銃口に装着するデバイスだが、目的が異なり、前者は発射炎の抑制、後二者は反動やマズルジャンプの軽減を目的とする。
- マズルブレーキは後方・斜め後方へガスを逃がすことで反動を軽減し、コンペンセイターは上方向へガスを排出して銃口跳ね上がりを抑える。
- ポーテッドバレルは銃身に穴を開けた構造で、マズルジャンプ抑制に効果がある一方、弾速低下や射手へのガス・破片の吹き返しなどのデメリットもある。
銃口に取り付けられるフラッシュハイダー、マズルブレーキ、コンペンセイター。 名称が似ているため混同されがちですが、実際には目的も構造も効果も異なる専用デバイスです。
本記事では、
- 発射炎を抑える「フラッシュハイダー」
- 反動を抑える「マズルブレーキ」
- マズルジャンプを抑える「コンペンセイター」
それぞれの仕組み・効果・メリット・デメリットを、実例や画像を交えながらわかりやすく解説します。
フラッシュハイダー(フラッシュサプレッサー)

フラッシュハイダーは、日本語では一般に「消炎器」と呼ばれる装置で、制退(リコイル低減)は本来の主目的ではありません(制退を主目的とするのはマズルブレーキです)。
フラッシュハイダーは、銃口から発生するマズルフラッシュ(発射炎)を抑制・拡散し、夜間射撃時の射手の視界を確保したり、敵から射手の位置を特定されにくくすることを目的としています。主にアサルトライフルやマシンガンなどで広く使用されています。

マズルフラッシュは、装薬の燃焼によって生じた高温ガスや未燃焼の装薬が、弾頭が銃口を離れた後に外気と触れて再燃焼することで発生します。長銃身の銃では、弾頭が銃口に到達する前に装薬の大部分が燃焼し終えるため、マズルフラッシュは比較的小さく、場合によってはほとんど視認できないレベルになります。一方、近代の軍用ライフルは取り回しを重視して銃身長が短くなる傾向があり、そのぶんマズルフラッシュが増大しやすいため、フラッシュハイダーの重要性が高まっています。

マズルフラッシュの大きさは、装薬の燃焼速度や配合によっても調整が可能です。一般に、より速燃性の装薬を用いることで、銃身内で燃焼を完結させやすくなり、銃口外での発射炎をある程度抑制できます。例えば、16インチ銃身のM4カービンでは、従来弾より燃焼特性を最適化したM855A1弾薬を使用し、フラッシュハイダーと組み合わせることでマズルフラッシュを効率的に軽減しています。
フラッシュハイダーにはさまざまな形状が存在します。M4/M16で採用されている鳥籠型の「バードケージハイダー」は代表的な形式のひとつです。

また、第二次世界大戦期以降、前方に向かって放射状に広がる「コーン型ハイダー」も広く用いられてきました。コーン型ハイダーも、発射炎を前方へ拡散させることで、特に夜間射撃時の視界確保に効果を発揮します。
マズルブレーキ / リコイルリデューサー / キックリデューサー

マズルブレーキはリコイル(反動)を軽減することを目的とした装置で、日本語では「銃口制退器」と呼ばれます。「リコイルリデューサー」「キックリデューサー」などの名称も使われますが、いずれも同様の機能を持つ装置を指します。

マズルブレーキは、銃口から噴出する高圧ガスを利用し、ガスを弾道に対して直角方向、あるいは斜め後方へ逃がすことで、銃が後方へ押し戻される力(リコイル)を相殺します。主にライフルやショットガンで広く使用されますが、ハンドガン用のマズルブレーキも存在します。

斜め後方へガスを排出するタイプのマズルブレーキは、軍や警察のように隊列で行動する場面では、隣接する隊員に高圧ガスや砂埃を浴びせてしまうため、アサルトライフルでは採用が少ない傾向があります。
なお、フラッシュハイダーの中には、設計によってはマズルブレーキと同様の制退効果を併せ持つタイプも存在します。ただし、フラッシュハイダーの主目的はあくまで発射炎の抑制であり、制退効果は副次的なものにとどまります。
コンペンセイター / ポーテッドバレル
コンペンセイター

コンペンセイターは、日本語ではマズルブレーキと同じく「銃口制退器」と呼ばれることがあります。ただし、厳密にはマズルブレーキとコンペンセイターは目的が異なる別の装置です。
マズルブレーキが銃の後退力(リコイル)を軽減することを主目的とするのに対し、コンペンセイターは銃口の跳ね上がり(マズルジャンプ)を抑えることを目的としています。
コンペンセイターは、発射ガスを上方向へ排出することで銃に下向きの力を与え、マズルジャンプを抑制します。その結果、射撃時の照準復帰が早くなり、速射性が向上します。

一般的には競技用ハンドガン(ピストルやリボルバー)で多く使用されますが、サブマシンガンやライフルに装着される例もあります。
コンペンセイターは本来リコイル軽減を目的とした装置ではありませんが、設計によってはマズルジャンプ抑制と同時にリコイル軽減効果を併せ持つタイプも存在します。近年では、マズルブレーキとコンペンセイターの機能を兼ね備えた「ハイブリッド型」デバイスも一般的です。
ポーテッドバレル

ポーテッドバレルは、銃身上部にガスポート(排気孔)を設け、発射ガスを上方向へ逃がすことでマズルジャンプを抑制する仕組みを持つ装置で、コンペンセイターの一種と位置づけられます。
コンペンセイターやポーテッドバレルはマズルジャンプ抑制に非常に効果的ですが、その反面、発射時のマズルフラッシュが射手の視界を遮ったり、弾頭の削りカスや高圧ガスが上方向へ吹き返されるため、射手に向かって飛散しやすくなります。そのため、銃を顔に近い位置(胸撃ち・腰撃ち)で構える射撃方法は推奨されません。
上の動画は、発射ガスの流れを比較したイメージ図であり、示されている数値はあくまで目安です。実際のガス流量や効果は、ポートの形状・角度・大きさ・弾薬の種類などによって大きく変わります。
一般に、前方へ排出されるガスが少ないほど、後退力(リコイル)は軽減される傾向があります。これは、ガスを上方向へ逃がすことで銃に下向きの力が働き、マズルジャンプが抑制されるためです。
また、「マグナポート」や「カッツコンペンセイター」と呼ばれるものも、いずれもコンペンセイターの一種です。
- マグナポート(Mag-na-port)は、マグナポート社が開発した放電加工によるポート加工技術の商標です。
- カッツコンペンセイター(Katz Compensator)は、米海兵隊のリチャード・マルコム・カッツによって考案されたコンペンセイターで、目的や効果は一般的なコンペンセイターと同様です。
ポーテッドバレルによる効果と弾速の変化
以下のグラフは、ピストル(グロック19)をレストマシンに固定した状態で発射し、ポーテッドバレルと通常の銃身を使用した場合のマズルジャンプ量を比較した結果を示しています。

アメリカの銃器専門誌「Gun Digest」によるこのテストでは、フェデラル115グレインFMJ、ウィンチェスター NATO 124グレインFMJ、ウィンチェスター147グレインBEBの3種類の弾薬が使用されました。
10フィート(約3m)離れたクロノグラフ(弾速計測器)に向けて各10発ずつ発射し、その平均値を比較したところ、ポーテッドバレルを使用した場合には平均31%のマズルジャンプ軽減効果が確認されました。
また、ポーテッドバレルでは発射ガスの一部が上方向へ逃げるため、弾頭を押すガス圧が低下し、結果として弾速が減少します。Gun Digest誌のテストでは、53〜78 fps(約16〜24 m/s)の弾速低下が見られました。
| 弾薬メーカー | 弾頭重量 | 弾頭 | マズルジャンプ | 弾速 |
|---|---|---|---|---|
| フェデラル | 115 gr | FMJ | -32% | -78 fps |
| ウィンチェスター | 124 gr | FMJ | -30% | -55 fps |
| ウィンチェスター | 147 gr | BEB | -30% | -53 fps |
一方、グロック社が行ったテスト(使用弾薬は非公開)では、通常のグロック19の初速が1150 fps、ポーテッドバレルを備えたグロック19Cでは1120 fpsとなり、約30 fps(約9 m/s)の減速が確認されています。
弾速の低下量やマズルジャンプ軽減効果は、使用する弾薬の種類、ガスポートの数、ガスポートの大きさ・角度などによって大きく変化します。
マズルデバイスの区別

フラッシュハイダー、マズルブレーキ、コンペンセイターは、それぞれ異なる目的から誕生した装置ですが、近年ではこれらの機能を複合的に備えた形状のものも多く、外観だけでは区別が難しい場合があります。
代表例として、M4、M16A2、ステアーAUGなどで使用されているフラッシュハイダーが挙げられます。これらのフラッシュハイダーは、マズルフラッシュの抑制を主目的としながら、反動の軽減やマズルジャンプの抑制といった副次的効果も併せ持っています。
さらに、下方向へのガス排出を行わない設計により、射撃時に砂埃を巻き上げにくいという利点もあります。これは、地面に近い姿勢で射撃する軍用ライフルにとって重要な要素です。
このように、複数の効果を同時に狙った「ハイブリッド型」フラッシュハイダーは近年一般化しており、各メーカーが独自の設計を追求することで、現在も進化を続けています。
